顔、虹彩、指紋、静脈…生体認証で未来を拓くELEMENTS。「あらゆる金融犯罪を根絶していく。そして、あらゆるモノ・サービスが自分にフィットする究極のパーソナライゼーションを目指す」こう語ってくれたのが、代表取締役の久田 康弘さん。彼ら独自のテクノロジーで切り拓く"生体認証"の可能性、そして未来とは――。
「生体認証」で上場へ。ELEMENTS社、躍進に見るセキュリティ対策ニーズ
「生体認証によって金融犯罪は解決できる」こう語ってくれたのがELEMENTS社のCEO久田 康弘さん。いかにそれらを実現していくのか。まずは主力サービスとなる生体認証事業について伺うことができた。
我々の生体認証事業は、大手をはじめとする約160社と契約し、月100万回の認証を行なっています。国内ではトップシェア(*)を誇っています。
なぜ、これほど引き合いをいただいているのかと言えば、顔、虹彩、指紋、静脈などから個人を特定していく生体認証は、金融犯罪を解決に導く1つの打ち手となりうるためです。
たとえば、銀行まわりやネットショッピングはもちろん、コンビニやカフェに行くときなど、日常生活のあらゆるシーンに生体認証を組み込んでいく。そうすることで、万が一財布を盗まれても、本人が同意しない限りにおいては不正利用ができない状態を実現できると考えています。
これまで、個人の特定方法は、カードを保有し、ID・パスワードなど外的なものに依存してきました。この方法は、IT・パスワードが流出してしまうと、本人でなくとも金銭の授受、なりすましでの購入などができてしまうことが課題でした。
そこで、自分だけの要素である生体情報を入れた認証方法を広めていく。ここがイノベーションとして注目されています。
生体認証による“個人特定”の可能性は、さらに「究極のパーソナライゼーション」につながっていくと久田さんは語る。
日常のあらゆるシーンで個人を識別できる世界になれば、自然とこれまでより多くのデータ取得が可能になります。我々はそれらのデータから、その人の体型、体調、行動などの特徴を解析し、特徴に合わせた日常生活をパーソナライゼーション・レコメンデーションをするための元となるデータに変えていく。これによって、個人に最適化したモノを、最適化した量だけ配置することができるようになると考えています。
現状、日本のアパレル業界では29億着作られたうち15億着が未着廃棄され、コンビニでは1店舗あたり1日あたり10~15キロもの廃棄が出ている。「用意されているだけで売れていない」ということが世の中には溢れているわけです。我々はパーソナライズすることで、大量生産・大量廃棄の問題を解決し、「選択肢はありつつも持続可能な世界」を目指したいと考えています。
パーソナライズされた世界では、たとえば服を購入する際には、個人を識別後、求める丈感・サイズ・色味の服が店舗のどこにあるかが瞬時に判断・提示され、自分の体型を再現した3Dアバターで丈やサイズを確認し試着せずとも購入できる。食の領域では、レシート・QR決済アプリで取得する利用者の購買データから、栄養素や味覚の情報を解析し、利用者個人に向けて最適な商品・価格をレコメンドされる。利用者の健康診断の結果など医療情報と組み合わせることで、不足した栄養素を補うサプリメントを提案され食生活を変えていくこともできる。つまり、好きなものを食べながらも、より健康的に生活できるようになります。
さらに、マンションやオフィスなどでは、人の位置情報に合わせた空調・IoT家電等の個別制御も可能になります。行動に合わせたエネルギー管理をダイナミックに行なうことで、エネルギーの効率性を高めていく。公共財として活用していければ、在・不在の状況は再配達問題も解決できると思いますし、あらゆる「エネルギーの無駄」を解消できるはずです。
久田さんは「偶発的な出会い」と「最適化」がセットになると未来を予測する。「私としては、偶然の出会いを誘発するのは、SNSや店舗など“メディア”の役割だと考えています。出会ったものの中でも「私にはこれは着られない/食べられない」ものはありますよね。そこに対して、我々はテクノロジーでチューニングしていく。つまり、嗜好で広がったものに対して、自分にアジャストしていくことで、より選択肢を広げるというのが私が理想とする最適化です。私個人の印象ですが、現状は、メディアによる偶然の出会いの創出、テクノロジーによるチューニングの両方が中途半端で、選択肢が狭い世界だと思うんです。たとえば失敗したくないから毎日同じ定食屋に行ってしまったり、同じ商品ばかり買い続けてしまう。この原因は、自分の好きなもの、大事にしていることが、言語化・可視化・データ化・抽象化できていないから。逆にこれさえできれば、失敗が減り、新たな商品・サービスを試すことができる。豊かになると思うんです」
AI時代にこそ、僕らの技術は輝く
そしてAIが当たり前になった近未来、同社の「認証」技術は欠かせないものへ。
ChatGPTのおかげで大規模学習されたモデルを使って生成することが世の中のトレンドとなりました。これは追い風だと感じています。
商談時に企業様にデータ共有の許諾をいただく上でも各段に理解を得やすくなりました。さらに言えば、最近ではデータを保有するほうがセキュリティ対策のための人材コスト・漏洩リスクも高まるため、「自社でデータを持たなくてもいい」というスタンスをとる企業様も珍しくなくなってきています。各社が競い合うように、膨大な費用を投じて自社専用AIを開発するのは既に過去のものになりつつある。大規模学習モデルによる精度の高いデータ基盤を、コストを抑えて提供していける我々のようなソリューションが評価されてきていると感じています。
ただ、現状に満足はしていません。それこそ今後は、AIと人間の識別をしなければならないといったことも十分に起こりうる。まさにAIとの戦いの時代になると思います。
実際、TikTokやYouTubeを見ていると、パッと見ただけではAIとは見抜けないほどに生成レベルが高まっていますよね。我々はAI生成技術も持っているので、あえて人間らしい行動をつくり、さらにそれを見抜くAIをつくるなどして日進月歩で開発を進めています。立ち止まることはできない。常に進化させていかなければならないという危機感は常にありますね。
人間の解析は、非常に複雑な領域です。イメージしてほしいのですが、10人からAさんを特定するのは容易ですが、100万人からAさんを特定しようと思うと、なかには似た特性を持つ人も混ざってくるのでより多くのデータをもとに解析していく必要がある。つまり、データが広がることで認証精度は高まる。膨大なデータを蓄積し、大規模なデータ学習を行なえるプレーヤーが覇権を獲っていくと言えます。
その点、我々はすでに膨大なデータ基盤があります。世の中でまだオンラインでの本人確認などが注目されていなかった2018年から事業を開始し、クライアント様からデータ学習のために活用させていただく許諾を得ているため、「業界・企業をまたいだ膨大なデータの利活用」をできる状態を実現しています。
たとえば、A銀行で不正を働いた人間がいた場合、従来であれば基本的にはA銀行内部で情報が止まってしまうため他行に行けば再び不正ができてしまう状況でした。我々は、企業をまたいだデータの利活用をできるようにしているので、こうした不正をくい止めることができます。
なくてはならない&替えの利かないサービスを
グロース市場に上場し、さらに社会的に影響力を高めているELEMENTS。今後実現したいこと、そこに向けて取り組むべきことについてこう語る。
我々は、自分たちの開発する認証手段が普及し、日常生活の当たり前になる世界を実現していきたいと考えています。究極、認証するときにELEMENTSのサービスを使っていることは意識されなくていい。まるで空気のように存在を意識されない。けど、なくてはならない。替えの利かない、広くあまねく社会に広がっていくインフラサービスをつくろうとしています。
そこに向けてクリアしていくべきことで言えば、まずは、生活のあらゆるシーンに生体認証のフローが組み込まれるように、様々な業界に導入していくことを1つ1つやり抜く。これに尽きると思います。
我々は東証グロースに上場はしましたが、サービスとしてはこれから普及していくフェーズ。まだ全然世の中を変えられてはいません。生体認証回数はようやく毎月100万件を超えましたが、我々の計算では日常生活に生きてる日本人だけでも1億回~10億回の認証回数があると想定していて。1つ1つやり抜くだけです。
我々の事業の社会的意義に関心があり、新しい当たり前をつくっていこうという想いに共感いただける方には、非常に面白みを感じてもらえる環境だと思います。
最後に、代表の久田さん自身が働くうえで大事にしている「未来志向」について。
「10年後に何が当たり前になっていてほしいか?」を、よく考えます。今の延長線上というよりは、未来に起点を置いてそれを実現していくイメージです。会社のメンバーと飲み会に行っても「あのSF映画見た?あれは、このプロダクトでこうしたら実現できるのでは?」みたいな話を延々としていることが多くて(笑)1つ1つ、今ある自社プロダクトに置き換えながら考える。ときには、完全に情報を遮断して自分だけで「こうなったら一番便利だよな…」と妄想しながら、人間としての欲望や理想を突き詰めていく。SF映画など外部からのインプットと熟考を繰り返しながら、これからもワクワクするようなサービスを生み出していきたいですね。
(*)ITR「ITR Market View:アイデンティティ・アクセス管理/個人認証型セキュリティ市場2023」eKYC市場:ベンダー別売上金額シェア(2019年度~2022年度予測)