掲載日:2024/04/04更新日:2024/05/27
2024年4月、兵庫県による複業含む「民間人材」公募がスタートした。DX推進、広報力強化、県民相談支援、地域ブランド力向上など、多岐にわたる分野で知見を有する民間人材を募る。同公募にあたり、兵庫県庁にて働く山下善史さんにお話を伺った。山下さん自身、公募経由で2023年7月に入庁し、兵庫県のデジタル化推進員(複業)として働く民間出身者だ。なぜ、彼は入庁を決めたのか。どのような仕事に取り組んでいるのか。兵庫県での「働きがい」と共に伺った――。
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兵庫県 令和6年度 民間人材 公募プロジェクト|全6職種・計12名
多様化・複雑化する行政課題に的確に対応するため、行政職員の見識だけでは専門性が不足する分野に民間人材を積極的に登用し、組織の多様化を図っている兵庫県。令和5年度には、県としては初の大規模民間人材公募プロジェクトを実施。ジョブ型・複業人材の形態で、全10職種・計17名を採用した。令和6年度も引き続き、DXの推進、広報力の強化、県民相談支援、地域ブランド力の向上、多様な人材確保のため、全6職種・計12名を募集する。「躍動する兵庫」の実現に向けて、課題解決に取り組んでいく。
「自治体で働く」という新たな選択
まずは応募のきっかけから伺ってもよろしいでしょうか。
さまざまなキャリアを模索するなかで「違ったアプローチで働いてみたい」と考えたことがきっかけでした。年齢やキャリアを重ねるなかで「一つの領域を深く突き詰める」というよりも、改めて「多岐にわたる領域を見てみたい」と。そういったタイミングで偶然見つけたのが、兵庫県における民間人材募集でした。
また、純粋に「兵庫県庁で働ける」という求人自体が非常に珍しく、新鮮でもありましたね。求人を見ながら、これまでに携わってきたDX推進領域で知見や経験が活かせそうだと感じましたし、兵庫県に住んでいる「ご縁」を感じたこともあり、応募をしました。
もう一つ、兵庫県として初の取り組みでしたし、求人上には「キャリアの財産になる」と書かれており、「確かに他では得られない機会だ」「得られるものがあればいいな」と考えました。民間として外から見ていると「なぜ、行政サービスはこういった仕組みになっているのか」と感じる場面もありますよね。その内側を知ることにも興味がありました。
選考過程・面接において印象に残っている内容があれば教えてください。
面接では、県庁職員の方と業務上の具体的な課題についてお話をしたと記憶しています。「兵庫県庁」というと大きな組織のイメージがあったのですが、伺ってみると現場に近い改善も必要であると伺うことができて。私自身、中小企業向けに経営支援をする会社に勤めていたこともあり、いわゆる“スモールな組織の課題解決”であれば、得意としてきたところ。「それであれば貢献できることがありそうだ」と感じ、入庁を決めました。
デジタル化推進員 山下善史
1996年3月、兵庫県立大学工学部機械工学科卒業。その後、電気・電子・半導体関連メーカーに就職。技術開発部門にて品質保証業務として、製品検査、試作品の検証業務、不良品対策を担当した。1999年3月に、医療系コンサルティングファームに転職。2023年5月まで、中期経営計画策定支援・遂行支援、ISO9001取得・運用支援、顧客管理システム構築等を担当したほか、製薬企業のプロモーション支援、調査レポート等の営業、RPA活用・VBA等の簡易プログラムによる改善(2008年4月以降は、製薬企業の販促支援を兼任)等に従事。 2023年7月、兵庫県 デジタル化推進員として採用され、現在に至る。
「現場」に伴走し、課題解決を支援していく
具体的な働き方と業務内容について伺ってもよろしいでしょうか。
現在は週1日、テレワークを取り入れつつ、県庁の仕事に携わっています。主に担っているのは業務ヒアリング・BPR提案・各種ツール導入支援などです。たとえば、kintoneなどのノーコードツール、RPAツール、Power QueryやVBAの利用方法など「現場で使えるもの」を中心にご紹介・レクチャーを行っています。
県庁内では「所属ヒアリング」と呼ばれているのですが、私たちデジタル化推進員がそれぞれの課を担当し、そこで働く職員のみなさんから「業務における困りごと」や「ICTを活用して目指す状態」などをヒアリングし、ツール導入後の運用まで支援しています。もう一つ、問い合わせフォームを常に開放しており、そこで寄せられた内容への応答・アドバイスも「デジタル化相談」と呼ばれる業務の一部です。
特にやりがいに感じることがあれば教えてください。
特に過去の経験・知見が活き、お役に立てた時は「よかった」と思いますし、やりがいがありますね。今まさに兵庫県庁は「働き方改革」の一貫として、4割出勤を目指して、県庁舎の整備をすすめているところ。ICTを活用した業務プロセス改革を推進しています。いかにテレワークやペーパーレス化を進めていくか。その過程のなかでご紹介したツールやアドバイスが活かされる場面も多いです。また、応募動機にもつながりますが、行政や自治体の運営についても知ることができる環境です。たとえば、年間予算、議会の仕組み、業務の進め方、PDCAの回し方など、新たな知見が得られていますし、いい経験になっていると思います。
先日開催された、兵庫県庁内における1年間のDX推進・デジタル化の活動報告・表彰の様子。「ボトムアップでさまざまな取り組みや活動が進んできたところ。私たちのような推進員が関わることで一定促進された部分もあり、それが成果につながるのは嬉しいですね。」と山下さん。
なぜ、自治体で働くのか。大事なのは目的意識
続いて、入庁後にミスマッチしないためにも「事前に知っておくといい厳しさ」があれば教えてください。
「厳しさ」というよりも「難しさ」に近いかもしれませんが、やはり週1日勤務ですので、どうしても関わり方は間接的なものになります。ボトムアップに関われている点では確かですが、大きな変化、県庁全体における横断的なDX推進でいえば、これからの課題になっていくと私自身は考えています。あまり個人的な成果を短期的な視点で追うのではなく、長期的に捉え、向き合っていく部分も必要だと考えています。また、当然、個人のキャリアとしても「兵庫県庁での複業において、どのような経験・知見を得たいか」という部分は、より具体的であるほうがミスマッチはしないでしょう。民間から携わる場合は特に「なぜ、自治体で働くのか」といった目的意識を持つ。ここは非常に重要な部分になるはずです。
2023年、兵庫県において「初となる大規模な民間人材募集」にて採用、その一期生として働く山下さん。「当然、初の試みなので県庁全体で手探りといった部分はあります。同時にこちら側から提案していけば、相談にも乗っていただけるすごくいい組織。行政で働けること自体が、非常に貴重な機会ですし、いい経験をさせていただいていると思います。」
人生を楽しむためにも、仕事を大切に
最後に、山下さんにとっての「仕事」とは、どういったものか伺わせてください。
あまり大層なことは言えないのですが、人生のうちの多くの時間を使うのが「仕事」ですよね。ですので、「仕事」は人生を楽しむ一つの手段でもあると思っています。兵庫県庁での仕事でいえば、今まで知らなかった行政の仕組みを知り、私も学びながら関わることで、新しい経験を積むことができています。この経験が次の仕事やキャリアにつながり、楽しみが増えていけばいいなと思っています。
私自身、仕事において、何らかの課題に対して「こんなやり方があったのか」と解決策を見つけ、示していくことに楽しみを感じるタイプでもあります。ものをつくったり、解決策を想像したりし、多くの人が「できないだろう」と思っているようなことを解決したい。なので、課題は難しければ難しいほど楽しいのは確かです。
ただ、それが誰の役にも立たないようなものだったら、単なる自己満足になってしまう。せっかく仕事をするのであれば、誰かに貢献できることをしていきたい。民間企業で培ってきた経験やスキルのなかで「当たり前」と思っているようなものでも、県庁内では重宝されることも多くあります。そのような価値を提供しつつ、さまざまなスキルや経験も含めて自分の「財産」にし、またどこかで還元していく。そういった良い循環をつくっていければと思います。