INTERVIEW
外務省 経験者採用(総合職相当・専門職相当)

首脳会談の通訳も担当。外資証券会社から「外務省」へ―ビジネスで培った知識を世界の課題解決に活かす選択

掲載日:2024/07/22NEW更新日:2024/07/22
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外務省の経験者採用試験(総合職相当・専門職相当)にあたり特別インタビューをお届け。今回お話を伺ったのは、現在、中東アフリカ局中東第二課にて、課長補佐(総務班長、経済班長)として活躍する小幡奈々江さん(肩書きは取材当時)。もともと外資証券会社勤務を経て同省に入省した彼女。そこには「ビジネスで培った知識を、世界の課題解決に少しでも活かしていきたい」という思いがあった――。※「総合職相当」は、8月8日より掲載予定となります。

ビジネスで培った知識を、課題解決に活かす選択

もともと外資証券会社にて債券の営業、債券ストラテジストとして働いていた小幡さん。なぜ彼女は民間から外務省への転職を決めたのか。そこには「培った知識を政策立案や世界の課題解決に活かしたい」という思いがあったという――。

前職は、外資証券会社にて債券の営業を経て、債券ストラテジストとして働いていました。特に国債や金利デリバティブ商品を取り扱っていたのですが、諸外国の政治経済、財政・金融政策、地政学的リスク等、あらゆる世界情勢をハイスピードで毎日追いかけていく仕事でもありました。マーケットの動向、今後の見通し等、視点や情報を提供し、お客様の投資ニーズに沿った取引へと結びつけていくことがミッションでした。職場の上司や同僚達に恵まれ、やりがいもあって非常に充実していました。ただ、やはり民間企業である以上、そういったリサーチや分析業務の目的はお客様、そして企業の利益ですよね。それだけではなく「ビジネスで培った知識を用いて、日本の政策立案、そして世界の課題解決に携わっていきたい」と思うようになり、転職を考えました。

転職を考えるなか、なぜ「外務省」という選択だったのか。そこには海外で過ごしてきた子供時代の経験が大きかったと振り返る。

私自身、父が海外赴任していた関係で、18歳まで海外で過ごしてきています。特に11歳から15歳までを過ごしたフィリピン・マニラでの経験が今に大きく影響しているように思います。近所には貧困の子供たちが暮らしており、さまざまな場所ではテロや紛争が起こっている。それまで住んでいた日本やアメリカとは全く違う環境がそこにはあり、自ずと国際的な課題に関心を抱くようになっていきました。通っていたインターナショナルスクールでは「模擬国連*」に参加したのですが、今振り返るとまさに外交官を志す一歩だったのかもしれません。

(*)模擬国連…参加者が各国の大使として国連や国際会議を模擬する活動。1923年にハーバード大学で始まり、会議ごとに人権や軍縮、経済、環境、紛争等の国際問題が議題として設定される。参加者は担当国の政策や歴史を調べ、自国の政策を作成。会議では自国の立場から議論や交渉を行ない、国際政治の仕組みや国際問題の複雑さを理解することを目指す。パブリックスピーキング、交渉力、論理思考力が向上する教育プログラムとして高く評価されている。

(参考)『模擬国連について』グローバル・クラスルーム日本協会
https://jcgc-mun.org/%e6%a8%a1%e6%93%ac%e5%9b%bd%e9%80%a3%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/

その時は確か「核軍縮・不拡散」と「子供兵士」の問題が議題だったと記憶しています。学生たち自身が割り振られた国の外交官を演じて、国連の会議を模擬して交渉に参加するのですが、世界という視点、自国の利益を守る視点を踏まえながら、問題解決のための政策立案、交渉、決議採択を行ないました。世界平和を求めつつ、それぞれの国益をいかに守っていくか。さまざまな国の学生たちと真剣に向き合えたことで「世界の問題は自分たちで解決していける。私もそこに携わっていきたい。」と気付くきっかけになり、今に至る原点になったと思います。

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小幡 奈々江さん|外務省 中東アフリカ局 中東アフリカ局中東第二課 課長補佐/通訳担当官(英語)(肩書は取材当時)

父親の海外赴任に同行し、幼少期は米国カリフォルニア州ロサンゼルス及びフィリピン・マニラで過ごす。日本に帰国後、東京大学法学部公法コースに進学。模擬国連(駒場研究会設立、国連主催世界大会/Global Model UN 日本代表派遣団員)  でも活動。東京大学公共政策大学院・コロンビア大学国際公共政策大学院(ダブルディグリー・プログラム)卒業後、モルガンスタンレーMUFG証券に入社。同社の債券営業(グローバルマクロ商品)、債券ストラテジストを経験。同社在籍中にはCSR・ボランティア等の活動にも従事。2018年4月、外務省に入省。中東アフリカ局中東第一課(主査)、経済局政策課(主査)、北米局日米安全保障条約課兼日米地位協定室(主査)を経て、2021年5月より中東アフリカ局中東第二課(課長補佐)へ。2022年10月から通訳担当官(英語)を兼任し、現在に至る(肩書は取材当時)。

誰も直面したことのない危機と対峙し、未来を切り拓く

こうして外務省に入省した小幡さん。2021年5月より中東アフリカ局中東第二課(課長補佐)として活躍する(肩書は取材当時)。現在の業務概要とやりがいについて伺うことができた。

現在在籍している中東第二課ではアフガニスタン、イラク、イラン及び湾岸諸国に関する業務を担当していますが、まず、イラン班長として、イラン情勢の分析、日本とイランの間での幅広い分野での二国間関係の強化等に従事しました。さらにG7や国連安保理等ではイランを巡る諸課題への対応も取り組んできたことの一つです。

日本はもともとイランと伝統的友好関係を有しつつ、米国との同盟関係、欧州諸国とも良好な関係を有しています。そうした中、いかに日本独自の外交上の役割を果たし、さまざまな課題に対処していくか。とても難しいけれども、非常にやり甲斐のある業務に携わることができたと感じています。

変化の激しい世界情勢。まさにその舞台裏に立ち会う場面も少なくない。「誰も直面したことがない危機に対峙していく仕事でもある」と小幡さんは語る。

もう一つ、非常に印象に残っているのが、現在のイスラエル・パレスチナ情勢を受けた対応等の業務です。イスラム組織ハマスが突如、イスラエルへの攻撃を開始した2023年10月7日、まさにその翌日から上川外務大臣が東南アジアを訪問しており、そこに通訳として同行をしていました。急遽さまざまな国の外務大臣より、電話会談の要請があり、刻一刻と変化する情勢の中、臨機応変に対応していく等も経験をすることができました。

改めて外務省での仕事で感じるのは、日本の国益を守る、その最前線を経験できるということです。誰も直面したことのない危機に対し、日本としていかに対応していくか。その判断に幾度となく立ち会い、携わっていきます。日本は原油の9割以上を中東地域から輸入しており、その地域の情勢が悪化すれば、日本経済への大きな影響は避けられません。例えば、2023年11月よりイエメンの武装勢力のホーシー派による船舶攻撃等の事案が頻発していますが、誰もが予想できなかった事態が今まさに起こっていると言えます。他国とも協力し、こういった課題に向き合い、解決の糸口を見つけていく。もちろん複雑であり、困難を極めますが、だからこそ向き合うべき仕事だと捉えています。

もちろん自身が重要な交渉や調整を担うことも。特に小幡さん自身が印象に残っている仕事として、2019年6月開催の「G20大阪サミット」があるという(当時、経済局政策課 主査)。

入省後1年ほどして、日本が議長国となったG20大阪サミットが開催され、その準備に携わったのですが、今でも忘れられない仕事の一つとなっていますね。G7・G20の首脳宣言を交渉する「シェルパ・チーム」に配属され、私は財務トラック、テロ、移民・難民、ジェンダー、観光、農業等の分野を担当しました。特に財務トラックは、前職でフォローしていた内容も含まれており、知識を活かしつつ、首脳宣言の調整等学ぶことも多かったです。

また、ジェンダー分野でいえば、サミット当日にG20各国首脳、国際機関や関連組織等の代表の出席を得て、女性のエンパワーメントに関する首脳特別イベントを開催したのですが、その内容や総理スピーチ等の準備にも携わりました。

G20大阪サミットを成功裏に開催する、その大きな目標を日本政府全体で、チームと一丸となって達成でき、掛け替えのない経験になりました。

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業務上の役割として、中東アフリカ局中東第二課で「総務班長・経済班長」を務める小幡さん(肩書は取材当時)。「課全体の業務をマネージしつつ、EPA(*)交渉等の担当も務めています。仕事の魅力で言うと、ペルシャ語圏、アラビア語圏をはじめ、さまざまな地域や言語・分野のプロフェッショナルと日々仕事ができることですね。日本と文化等が異なる国々との関係強化に係る調整は時に困難を伴いますが、携わった仕事が軌道に乗る、要人往来が成功裏に終わる等した時の達成感は非常に大きいです。」

(*)EPA:貿易の自由化に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含む、幅広い経済関係の強化を目的とする協定

求められるのは「人間力」と「志」

外務省で働く職員にはどういった能力や資質が求められるのか。特に「総合職相当」について伺うことができた。

特に「総合職相当」で求められる能力でいえば、抽象的ですが「人間力」は重要だと思います。というのも、参加する協議・外交交渉において、正しい情報を伝えていくことはもちろん、伝え方・知識・教養等を含めた総合的なコミュニケーションスキル、もっと言えば「人間」が試される場でもあります。どういった価値観、考え方か。どういった人生を歩んで来た人物か。相手国のみなさんも同じ人間ですので、どういった会話ができるか。いかに心を開いていただけるか、非常に大切なポイントです。例えば、映画、スポーツ等、何でもいいのですが、得意なもの、好きなこと、趣味を持っている職員は、諸外国の外交官と共通の話題を見つけるのが上手だったりもしますね。民間出身者もいますし、個性豊かで面白い職員が多いのも外務省の特徴のように思います。そういった意味で言うと、私自身は趣味が少ない人間なので(笑)より幅を広げていくといった部分はこれからの課題ですね。

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もう一つ、言わずもがなかもしれませんが、国際的な視点、そしてパブリックマインドがあり、日本を良くしたい、世界を良くしたいという思いは重要です。外務省での仕事のイメージでいうと、どうしても、外交官として行なう国際交渉や在外公館勤務が中心のように思われがちです。ですが、行政官としての調整・国会関連対応等、地道に丁寧に行なう業務も少なくありません。また、たまたま配属となった部署と相性が合わないこともあるでしょう。ただ、外務省が所管する分野は非常に幅が広い。北米局などの地域局、経済局、国際協力局、領事局、国際法局…さまざま局と仕事があります。一つの部署だけで「外務省の仕事が合わない」と判断をしてしまうのはもったいないですよね。2~3年で異動や出向がありますし、巡り巡って「あの時の経験が今いきている」となるケースも。ぜひ長い期間でのキャリアを見据え、仕事と向き合っていく視点を持っていただくといいのかなと思います。

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上川外務大臣とジャーベル・アラブ首長国連邦(UAE)産業・先端技術大臣兼日本担当特使との会談での通訳を行なう小幡さん(画像右)。岸田総理の首脳会談の英語通訳も担当。「政府高官、外務政務官、外務副大臣、国会議員等の通訳として経験を積み、つい先日は岸田総理の首脳会談でも通訳を担当しました。さまざまな国や地域の方とのやり取りを通じて学ぶ機会や感銘を受ける機会も多いです。」

身近な課題解決の延長から日本、そして世界を良い方向へ

そして取材の最後に伺えたのが、小幡さんご自身の仕事観について。彼女にとっての「仕事」とは一体どういったものなのだろう。

仕事は、生きていくためにしていくものだと思うのですが、だからこそ、やりがいと意義を見出せるもの、没頭できるものにしていきたいですね。そして外交官として、人としても成長をさせてもらえるものだとも思っています。

もちろん日本、そして世界の課題に向き合っていく仕事でもあるのですが、私自身でいえば、じつはあまり壮大には捉えていないのかもしれません。自分の身近にいる人たちの生活はどうすれば良くなるのか。その延長線として、今に至っているようにも思います。当然、世界中の人たちが、より平和で、繁栄し、幸せに暮らしていけることが理想です。ですが、フィリピンで過ごした子供時代に目の当たりにした現実は理想からは遠いものでした。だからといって諦めるのではなく、少しでも状況を改善できる何かをしていきたい。外務省での仕事を通じ、多少でも諸外国の関係性が良くなれば、国際協力がプラスに働けば、その一歩に近づけるかもしれない。その主体者の一人でありたいなと思っています。それも私一人では決してできないことです。ただ、外務省、そして日本政府としてなら何かできるかもしれない。そこにこそ希望を見出し、これからも仕事と向き合っていければと思います。

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