掲載日:2025/02/06更新日:2025/02/06
2024年1月――文部科学省の採択を受け、立ち上がった「変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC/エイメック)」。世界トップレベル研究拠点を目指す、東北大学 × 海洋研究開発機構(JAMSTEC/ジャムステック)による新たな研究拠点だ。一体どのような研究所なのか。また、働くことで得られる経験、やりがいとは――。「特任事務職」公募にあたり、副研究推進企画部長の岡山 裕一さんに話を聞くことができた。
※「特任事務職」は海洋研究開発機構(JAMSTEC)での採用となり、変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)勤務となります。また、JAMSTECでは別職種の求人も公開しており、あわせてご確認ください。
変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)について
東北大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)による、新たなWPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)拠点。海洋物理学、生態学、数理・データ科学を融合したアプローチにより、海洋環境の変化に対する生態系の応答・適応メカニズム解明と予測を目的とする。WPIにおいて「大学」と「研究機関」のダブルホスト制は初となる試み。
WPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)について
世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、2007年度(平成19年度)より文部科学省が開始した事業。科学技術の力で世界をリードすべく、政府が集中的な支援を行ない、世界中から第一線の研究者、優秀な人材が集まる開かれた研究拠点形成を目指す。このプログラムでは、研究拠点に「世界最高レベルの研究水準」「融合領域の創出」「国際的な研究環境の実現」「研究組織の改革」の4つの要件を求めており、これらの目標を達成するために大学学長、学長経験者、ノーベル賞受賞者、産業界、そして著名外国人有識者を含む世界トップレベル研究拠点プログラム委員会が、採択時の審査及び毎年度のフォローアップ(進捗状況の評価)を行なう。さらに2020年(令和2年)12月に新たなミッションが策定され、従来の4つのミッションを高度化と共に、高等教育と連動した若手研究者の人材育成、拠点形成11年目以降の持続可能性の確保など「次代を先導する価値創造」を新たに加えられた。
(参照)https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/toplevel/
東北大学 × JAMSTECの融合で生まれる「新たな海洋研究」の可能性
まず、今回の勤務先となる「変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)」とはどういった研究所なのか。今回の募集の背景とあわせて聞くことができた。
最大のポイントは、東北大学とJAMSTECによる「融合研究」を行なう新たな研究拠点である、ということです。東北大学が有する教育現場としてのフィールド・基礎研究領域の強みと、JAMSTECが持つ応用技術・豊富なファシリティを掛け合わせ、海洋研究領域における技術の融合、相乗効果を期待するものとなっています。WPIにおいてこれまでも多くの共同研究はありましたが、全く異なる機関がダブルホストとなり、独立した一つの組織として立ち上げるのは、前例のない試みです。これまでの研究組織はどうしても「縦割り」となる傾向がありましたが、その垣根を取り払い、これまでにない研究成果の創出を目指します。
2025年1月より、設立2年目を迎えたのですが、大学と研究機関の文化の違いを乗り越えつつ、多様なバックグラウンドを持つ研究者が集まり、活発な議論・研究を実施してきました。また、同時に各種制度の設計・運用など調整を図ってきたところでもあります。今後、世界トップレベルの研究成果を出すための人材採用をより強化していくフェーズへ。多様な人材からなる強固な組織を構築していくために、今回の公募に至りました。
変動海洋エコシステム高等研究所における研究概要について
近年の気候や海洋環境の急激な変化により、海洋生態系が大きな影響を受ける可能性が示唆されており、その応答・適応メカニズムの解明と予測が変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC:エイメック)における主な研究テーマとなります。わかりやすい例としては、よく報道などで「サンマの漁獲量が減った」など目にしますが、サンマがいなくなったわけではなく、海域の温度変化により移動したものと考えられています。他にも熱帯域の海水温度の上昇により、サンゴと共生する褐虫藻が耐えられなくなり、サンゴ本体が死んで真っ白になってしまうといったことも。生態系の構造が急激に転換する現象を「レジームシフト」と呼びますが、この現象がいつ、どのような条件で起こるのか、単に温度だけが原因なのか、それとも他の原因があるのか、さまざまな角度から調査を実施しています。特に⾰新的な観測技術により得られる「観測ビッグデータ」と数値モデルによる高い時空間解像度の「現象把握と再現」、そして海洋環境の変化と生物多様性の変化との関係など、分野の壁を超えた「融合研究」によるアプローチが大きな特徴となります。
(副研究推進企画部長 岡山 裕一)
前例がない。だからこそ価値のある経験ができる
続いて聞けたのが、担当業務の概要と期待する役割について。
東北大学と共に予算執行、制度設計、人事制度の運用、国際的な調整業務、広報業務、そして研究支援業務など、全般的に担当いただければと考えています。東北大学側にも担当者がいるのですが、JAMSTEC側では専任の担当者が足りていないのが現状です。当然、前例のない「融合研究」となるため、さまざまな障壁もあります。いかに新しいルールや仕組みを構築していけるか。ぜひ試行錯誤しながらの企画立案・実行に期待しています。新たなチャレンジの連続ですし、それらは必ずや自身の経験の引き出しになると思います。ゼロから作り上げたもの、立ち上げたものが、10年、20年と使われ続けていくこともあるでしょう。前例を生み出し、長期的な貢献を果たしていく。ぜひそういったやりがいも感じていただければと思います。
また、世界トップレベルの研究者が集う環境で働いていくことになります。これは私自身の体験談になりますが、時にはノーベル賞学者の方とお話しさせていただく機会もありました。そういった貴重な経験の蓄積は、一度きりの人生において掛け替えのない財産となるものです。日々の実務上ではなかなか感じにくいことかもしれませんが、研究会議への参加、セミナーやシンポジウムの企画立案・実行などに携わることで、世界トップレベル研究拠点として何を目指していくのか。どこをゴールに見据えて活動していくのか。海洋や水産などの課題に研究という領域からアプローチしていく、その意義も感じられるはずです。
やりがいの一方で事前に知っておくべき厳しさについて「待っているだけでは仕事は進みません。いかに主体的に関わり、動いていけるか。ここは大きなポイントです。」と話す岡山さん。「私自身、さまざまな“立ち上げ”を経験してきましたが、言ってしまえば何でも屋さんですよね(笑)人事も、総務も、広報も、施設整備も、何でもやる。誰も拾わないボールをいかに拾えるか。ぜひ、それらを苦としない考え方を持つ方と働くことができればと思います。裏を返せば、こういう人間でありたい。こんなことをやってみたい、という意思さえあれば、自由にチャレンジができる環境でもあります。特に今回のポジションは有期雇用契約(特任事務職)となります。限られた期間のなか、いかに未知の領域の研究に携わり、どういった価値を感じられるか。「こんなことも経験できるのか」とポジティブに捉えられる方、海洋・地球科学の発展、社会への発信に貢献したい思いをお持ちであれば、非常にエキサイティングな環境だと思います。」
JAMSTECの持続的な成長のために、できることをやっていく
そして取材後半に聞けたのは、岡山さんが掲げる目標について。
これまでさまざまな経験をさせてもらいましたが、今回の立ち上げ、そして研究支援は、今までにないチャレンジです。そして、私のキャリアにおける最後の仕事になるかもしれません。だからこそ、ここで得たノウハウなど、未来のJAMSTECのために残していければと考えています。また、外部資金を得られる補助期間は「10年間」と定められていますが、組織としては残していくことが期待されています。その存続、未来のためにどのような種まきができるか。10年という期間は長いようで短い。だからこそ今から貢献できること、やり遂げられることを考え抜き、実行していければと思います。
もともと、なぜ、JAMSTECに入社をしたのか。そう振り返ってみると、シンプルにこの会社が好きで入社をしました。やめずに30年続けることができたわけですから、ある種の帰属意識と言ってもいいかも知れませんが、その思いは今も変わっていないのだと思います。最先端の研究成果を間近に見ながら、どうすれば良い研究のための環境がつくれるか。どうすれば研究者が過ごしやすくなるか。そして、いかにJAMSTECが持続的に成長していけるか。そのために何をすべきか。与えられた環境のなかで、自分にやれることを全力でやっていく。ここに尽きますね。その結果、自身の存在意義を高め、会社の成果にもつながっていく。今回のプロジェクトでも東北大学とJAMSTECの化学反応が起き、良い研究成果が生まれることを願い、強い意思を持って取り組んでいければと思います。