INTERVIEW
文部科学省|2026年度 経験者採用(総合職/一般職 中途採用)
学校の先生、会社員を経て、文部科学省の職員に――制度・仕組みを「つくる側」から挑む教育現場の課題解決
掲載日:2025/09/26更新日:2025/09/26
教育、科学技術・学術、スポーツ、文化の振興を通じ、「未来を切り拓く人づくり」を推進する文部科学省(以下、文科省)。2026年度 経験者採用(総合職/一般職 中途採用)にあたり、同省にて初等中等教育局教育課程課専門官として働く遠藤 成彬さん(2024年4月入省)を取材した。もともと中学校の先生、IT企業・コンサルティング企業での勤務経験を持つ遠藤さん。なぜ、次なるキャリアに文科省を選んだのだろう。そこには「制度・仕組み面から教員の働き方改善につなげ、良い教育環境の提供につなげたい」という思いがあった――。
教員・会社員として働いた「社会人経験」を活かして文科省へ
新卒にて公立中学校の先生として働いた経験を持つ遠藤さん。なぜ、文科省への入省を決めたのか。まずはその経緯から話を聞くことができた。
新卒で先生となり、公立中学校で働いていたのですが、そこで強く感じたのが「先生の働き方」の課題でした。当時はクラス担任に加え、部活動の主顧問などをしていたこともあり、時間的・精神的な余裕が全くない状態に。私自身、「いつまでこういった働き方ができるのか」といった不安を抱えており、校長先生などにも相談し、先生を辞めて地元である鹿児島に戻ることにしました。そこから鹿児島の民間企業(IT企業)へと転職しました。
今改めて先生として働いていた頃を振り返ると、しっかりと時間をとって授業準備ができたときは子供たち一人ひとりに向き合うことができましたし、良い授業ができているという手応えもありました。ただ、多くの場合は授業の準備に十分な時間が取れず、結果として子供たちを意図通りに動かそうとして全く創造性も面白みもない授業になってしまったり、生徒との関係もうまくいかなくなったり、という悪循環に陥ってしまっていたと感じます。自分だけでできる努力や工夫だけでは、どうしても時間が足りなかった。この経験から、先生の働き方を個人の問題だけではなく、構造的な課題として捉え、制度面から変えていけないか。現場で働く先生方の声を聞き、何かしらの仕組みに反映させていくことができないか。こういった総合的な教育環境の整備に取り組みたいと考え、文科省を志望しました。
先生を経験後、IT企業・コンサルティング企業でも働いてきたという。当時の経験も文科省への志望動機につながったと振り返る。
先生を辞めた後、文科省へと入省するまでの約10年間は、民間企業でシステムエンジニア、営業、コンサルタントとして働いてきました。この10年間の間には、例えば、国や自治体とのプロジェクト、それこそ公立学校に導入するシステムの設計等を行うプロジェクトなども経験しました。そういった仕事もやりがいは大きかったですが、やはり請け負う側としては、決められた目的やそれに基づく構想を踏まえて、現場にどう実装していくかを考えることが主な役割となります。通常、民間企業の立場であれば、利益がより出る金額で受注をし、決められた仕様の中で業務をこなしていきます。
ただ、私自身が学校現場にいたことがあるからこそ、「これをそのまま現場に導入すると負担がかなり大きくなるだろうな。ただ、仕様は満たさなければならないし、どうしようか。」と葛藤を抱えることもありました。せっかく税金を使って事業を行うならば、そういった行政と現場との温度差、ギャップを埋めてより政策的に意味のあるものにしていきたい。現場の負担も考慮しつつ、どのような運用ができるかも含めてしっかりと考えたい。そうした思いの中で、次第に国家公務員という立場で政策の企画立案に携わり、最大限現場に還元していく仕事をしてみたいと考えるようになったことも、文科省への入省を考えるきっかけとなりました。
遠藤成彬|文部科学省 初等中等教育局教育課程課専門官
新卒にて先生(中学校担任や部活動の主顧問)を経験後、IT企業にて民間向けシステムエンジニア、営業として勤務。その後、自治体向け教育コンサル、自治体向けシステム営業(防災関係)を経て、2024年4月に文科省入省。文科省における選考について「非常に面接を重視している印象を受けました。」と話をしてくれた遠藤さん。「そのため面接では自分の考え、活かせる経験、スキルをしっかりと伝えられるように準備しました。実際、教育現場の視点、システム設計の知見などは文科省での仕事でも活かせていると感じます。」
5年後、10年後、さらにその先の「教育」のために
こうして2024年4月に文科省に入省した遠藤さん。入省後、特に印象に残っている仕事についてこう振り返る。
入省後まもなく「大臣官房文教施設企画・防災部施設助成課」に配属となり、そこで取り組んだ公立学校施設の補助は非常に印象に残っています。具体的には「空調設備整備臨時特例交付金(*)」の創設に関わる業務等を担当しました。この交付金はわかりやすく言うと「公立学校の体育館にエアコンを新たに設置する際に国として補助を出す」というものです。公立学校の体育館は「地域の避難所」としての機能も持つため、防災の観点からも非常に重要なテーマとなっていました。
体育館に空調を設置することは、避難所としての機能強化になることはもちろんですが、例えば子供たちの熱中症対策にもなります。「夏場に空調がない体育館での全校集会、授業が困難になってきている」という話を聞くことも多かったですし、私自身がバドミントン部の顧問だった経験もあり、いかに空調のない体育館が過酷な環境かというのは肌で感じてもいました。そういった中、偶然ではありますが、同補助の創設に携わることができて嬉しかったですし、大きなやりがいにもなりました。
空調設備整備臨時特例交付金…避難所となる公立学校の体育館等への空調設備設置を加速させるための文部科学省の補助金。2024年度から2033年度までの10年間、学校が避難所として指定されていることなどを要件に、工事費の2分の1を補助(上限7,000万円)。
(参考)https://www.mext.go.jp/content/20250115-mxt_sisetujo-000010164_001.pdf
続いて、現在の担当業務と、文科省で働く魅力について聞くことができた。
現在は「教育課程課」に所属しております。課全体の大きなミッションとしては、次期学習指導要領に向けた検討や議論などを行っています。その中でも私は、課全体の連絡調整、国会対応や、金融経済教育をはじめとした各教科に閉じない教科横断的な教育の一部などを担当しています。
学習指導要領はこれまで約10年に1度改訂しており、検討自体も数年間かけて行われる非常に重要な仕事です。今まさにその大枠の議論が行われているところですが、今後は各教科の議論も進められる予定であり、令和8年度中に答申を得る予定です。今後の教育の方向性や教育内容に関わる、非常に責任の重い仕事だと感じています。
私自身は今の課に4月に異動してきましたが、率直に、個人の仕事としてまだ「教育現場を大きく変えた」と自信を持って言える状況にはないです。ただ、教育委員会や学校に対して様々な文書等を出すことはかなり増えました。そうした中で、小さなことではありますが、例えば通知・事務連絡などの文書で不必要な文言は削ったり、できるだけ構成をわかりやすくしたり、Q&Aを丁寧に記載したり、といった現場目線で少しでも情報が一目で把握しやすいものにすることなどは心掛けています。些細なことでも、自分の経験等を踏まえて、現場のためになると思ったことはやりたいですし、それがひいては子供たちのためにもなると信じています。この職場(文科省)の魅力は何よりも、「日本の教育を良くしていきたい」という大きな思いをどれだけ熱く語っても、誰も笑ったりせずに真剣に議論できる環境であるということです。当たり前のことかもしれませんが、こういった環境だからこそ、私自身は今、全く迷いなく働けています。
やりがいの一方で「厳しさ」について「あくまでも私が入省後に感じた点ですが、瞬発力が求められる対応がある、仕事が深夜に及ぶこともあるということは、ミスマッチしないためにも事前に知っておいてもいい部分だと思います。」と話をしてくれた遠藤さん。「極端に言えば、”30分以内に対応しなければならない”という突発的な業務もあります。自分だけで対応できるものは少なく、多くの場合は省内の関係者への確認や依頼が必要となります。そうした急を要する場面でも周囲の方と円滑に進めていくためには、民間企業的な言い方で言うところの「社内営業」的な面がかなり重要だと考えています。そうした意味では、外部の人に対して説明するいわゆる「社外営業」的な面も含めて、今の仕事は民間企業でいうところの「営業職」に近い部分がある仕事だなと感じています。また、複層的なタスク管理、大量の日本語の文書読解や作成なども慣れるまで苦労するかもしれません。いずれにしても、自分のそれまでのやり方に固執せず、かつ自分の色を出しながらどうアジャストしていけるか。謙虚な姿勢で、情熱を持って業務を推進していけるか。いかにチーム全体で成果を追求する視点を持てるか。経験者採用という面では、そういった意識や姿勢が求められる職場だと思います。」
自分が「正しい」と思うことを信じ、行動していきたい
そして遠藤さん自身が「仕事を通じて実現したいこと」とは――。
入省の動機とも重なるのですが、私自身が実現したいのは、先生方が精神的にも肉体的にもゆとりを持った状態で子供たちと触れ合える環境を日本全国すみずみまで実現すること、そのために十分な余白を生み出すこと、これに尽きます。先生方の多忙な働き方には様々な要因が複雑に絡み合っており、それらを解きほぐすのは簡単な仕事ではありません。だからこそ、これほどやりがいのある仕事はないとも思います。自分一人の力は限られていますが、その中で何ができるのかを日々考え、自分がこれまで働く中で蓄積してきた知見や経験等を生かして、小さなことでも信じて積み重ねていきたいです。私自身『マイ・インターン』という映画に出てくる「You're never wrong to do the right thing.(正しいと思ったことは迷わずやれ)」という言葉が好きで大切にしているのですが、いろいろな価値観がある中で、自分が正しいと思うことを信じ抜き、行動していきたい。これからもそう在りたいです。
また、今後、文科省で働く中で「先生の働き方」という課題に対して直接関係する政策に携わり続けられるわけではないと思います。ただ、どのような業務に携わるにせよ自分が大切にする「軸」を持ち、広い視野で具体的な課題解決に向け、柔軟に対応していければと考えています。また、これは余談ですが、私には今年2歳になる子供がいます。この子も現在携わっている次期学習指導要領をベースに学ぶことになると思います。そう考えると、当たり前ですが国家公務員の仕事は、常に日々の生活と地続きにありますし、目の前の業務に向き合い、どんなに小さいことでも積み上げていくことが、未来の社会につながっていくものなのだと思います。何のために自分が働いているのか、ということを常に忘れずに、これからも矜持を持って仕事に取り組んでいければと思いますし、そうしたみなさんと一緒に働けることを心より願っています。