掲載日:2025/10/09更新日:2025/10/09
情報通信、行政制度、地方自治、消防など「国民の生活インフラ」を支える総務省。同省での総合職募集(課長補佐級・係長級)にあたり、他の中央省庁職員、新聞記者、ITベンチャー勤務を経て、2019年に入省した下山 祐治さん(総務省 情報流通行政局 参事官室 参事官補佐)を取材した。そのキャリア選択の背景には「国という立場から、情報通信・デジタルに関する課題解決に向き合っていきたい」という思いがあった――。
情報通信・デジタルの課題と向き合い、発展的な社会につながる支援を
国家公務員1種試験(法律職)に合格後、新卒にて農林水産省に入省し、大手新聞社に転職して記者を経験。その後、法律関連のITベンチャー企業での勤務経験を持つ下山さん。さまざまな領域での経験を経て、なぜ、総務省を次なるキャリアとして選んだのだろう。その経緯から話を聞いた。
新聞社やITベンチャーでは情報をコアに扱う、経済記者・Web編集者として働いていました。特に経済取材の経験が長く、日々起きる経済事象を迅速・正確に、あるいはあえて時間をかけて深く掘り下げる取材活動を行ない、世の中に訴えていく。そういった仕事に強く価値を感じていましたし、やりがいもありました。一方で、近年ではフェイクニュースの問題なども取り沙汰されていますが、どのように情報を正しく伝えていくか。どのように活用していくか。社会全体において情報通信・デジタル全般における課題は少なくありません。新しい制度や仕組み、ルールをつくり、普及につなげ、情報通信・デジタルに関する課題と向き合っていきたい。そういった思いから「政策を立案する側」への関心が強くなっていきました。
ちょうどそのタイミングで見つけたのが総務省におけるキャリア採用、総合職募集の求人でした。どのようなキャリアを積んでいくか悩んでいた時期でもあったのですが、個人的な価値観としても大きなやりがいを感じるのは、社会性や公益性のある仕事。さらに、総務省であれば情報通信・デジタルの領域で課題と向き合い、より発展的な社会につなげていけるよう、主体的に支援していくことができる。そう考え、入省を決めました。
当時の総務省の選考において「キャリア採用でもありますので、新卒とは異なり、非常に現実的な話をした記憶があります。」と振り返ってくれた下山さん。「別の省庁勤務から始まり民間企業を2社経験したことで発揮できるバリュー、改めて行政の世界で活かせる視点、情報通信を扱う魅力、やりがいなどについて、さまざまな話をしました。一方的な面接ではなく、互いに仕事や組織にフィットするか、フラットに判断していく場でもありました。」
当事者・組織の代表として、最前線に立つ責任と醍醐味
こうして総務省に入省した下山さん。現在の担当業務・役割について聞いた。
参事官という幹部を補佐していく「参事官補佐」の役割を担っています。具体的な担当業務の一つとしては、XRなどの没入型技術の利活用促進に向けた環境整備の検討に携わっています。同技術は、インターネットを通じ、没入感のある体験が得られる仮想空間(メタバース)にアクセスしていくものとして用いられています。イメージしやすいエンターテインメント以外にも、たとえば、教育・研修、医療・福祉、製造・建築、小売・不動産など、さらにどういった分野で、どういった活用が可能か。また、仮想空間での技能の継承や社会的な交流が、どう社会課題の解決に貢献していくか。そういった議論や検討などに携わっています。
また、関係省庁との調整が多いのも特徴です。わかりやすい例ですと、2025年12月には「スマホ新法(※)」が全面施行されますが、同法を所管する公正取引委員会との調整などにも携わっています。さまざまな変更点が加えられる上で、できるだけ混乱が無いように周知・対応をしていくために今まさに議論・検討を進めているところです。
(※)スマホ新法(スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)…2025年12月に全面施行される「スマホ新法」は、モバイルOS・アプリストア・検索・ブラウザなどを「特定ソフトウェア」として定義し、有力事業者を「指定事業者」として規制対象とするもの。これら事業者には他社への不当な差別禁止や、機能開放、決済システムの選択肢提供義務などを課し、公正な競争を促進する狙いがある。違反には是正命令や課徴金の規定も設けられている。
(参考)公正取引委員会 『スマホソフトウェア競争促進法の全面施行に向けた公正取引委員会における取組の状況』 https://www.meti.go.jp/policy/kyoso_seisaku/20250625_smartphone-software.pdf
総務省入省後、多様な業務を経験してきた下山さん。仕事のやりがいについてこう話をしてくれた。
組織を代表し、政策や日本としての取り組みについて意見を述べる機会があり、そういった場面では重要な役割を果たす実感とやりがいがあります。たとえば、つい先日も来日したOECDの事務局職員と通訳を介さずに、英語にて1時間ほど打合せを行ないました。プレッシャーはありますが、社会への還元につながる取り組み、話し合いの当事者になることができます。
また、2023年から2年間は外務省に出向し、インドネシアの日本大使館で経済外交を担う外交官として働きました。インドネシアは、さまざまな国と友好関係を結ぼうとしている、世界からも注目される成長著しい国です。そのような状況の中で、日本としてどのように関係性を築いていくかが重要になります。じつはインドネシアも日本と同様に、火山噴火、地震、津波といった災害に見舞われる国なのですが、日本企業及びインドネシア通信デジタル省と協力して現地に「災害情報を迅速に提供していく仕組み」の普及にも取り組み、印象に残っています。
総務省入省後、下山さんが担当してきた業務・配属部署について
【2019年8月~2020年3月】総合通信基盤局電気通信事業部ブロードバンド整備推進室 課長補佐
総合通信基盤局にて、ブロードバンドの全国整備を推進する業務に従事。NTTなどの通信事業者と連携し、国の補助などを活用した整備計画の策定・実行支援を担当。
【2020年4月~2021年6月】情報流通行政局地域放送推進室 課長補佐
情報流通行政局にて、放送分野におけるケーブルテレビ事業者の放送設備の強靭化支援を担当。地域放送を担う事業者に対し、事業継続・発展のための支援策を企画・実施。
【2021年6月~2022年6月】自治行政局国際室 参事官補佐
自治行政局にて、自治体の国際交流(姉妹都市交流など)の推進を担当。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ウクライナ避難民の受け入れに関する国と自治体間の調整に関する業務について内閣官房と連携し従事。
【2022年6月~2023年6月】国際戦略局国際展開課 課長補佐
国際戦略局にて、日本の情報通信技術(ICT)の海外展開戦略を策定する部署に所属。主に5G移動通信システム、海底ケーブル、データセンターなどの技術・システムを対象とし、海外への普及・展開に向けた政策立案に従事。
【2023年6月~2025年6月】外務省出向(在インドネシア日本大使館 一等書記官)
外務省へ出向。在インドネシア日本国大使館にて、外交官として2年間勤務。主に経済外交を担当。
【2025年7月~】情報流通行政局参事官室 参事官補佐
現在に至る。
やりがいの一方で「厳しさ」について「中途入省した職員はまだまだ少数派ではあります。ですので、人脈の構築、過去の経緯のキャッチアップの難易度が高く、粘り強く向き合う姿勢が求められます。」と話をしてくれた下山さん。「一方で、中途入省だからこそ発揮できる付加価値もあるはずです。私の場合、民間時代から「国からの情報発信は伝わりづらい」と感じていたこともあり、その改善に前職までの経験を活かしていきたいと考えています。そういった自分ならではの価値発揮を意識していくことも、中途で働く職員にとって大切だと思います。中途採用に挑戦される方は、ミスマッチとならないよう、採用側が、中途採用者のこれまでのキャリアや得意分野を生かすつもりがあるのか冷静に見極めることが重要だと思います。」
社会を広く意識し、向き合っていく
そして下山さんが「仕事を通じて実現していきたいこと」とは――。
総務省の職員としてさまざまな経験を積んできましたが、それでもまだまだ経験したことのない分野ばかりです。所管する領域が多岐にわたる、これも総務省の特徴ですので、さらに今後も経験の幅を広げていきたいです。そして管理職として組織、そして社会に貢献する役割を果たしつつ、「付加価値」として培ってきた経験を活かせる場面を追求できればと思います。また、私自身は「中途採用のロールモデル」の一人だという自覚もあります。ですので、これから中途で入省される方々にも「こういう人もいる」とポジティブな前例となる働きをしていきたいです。
最後に下山さんにとっての「仕事」とは一体どういったものなのか。その価値観について聞いた。
これまでどの仕事においても、多様な角度から「社会と向き合う」という意味で共通しており、その点で一貫していたように思います。あらためて、これまでに携わってきたどの仕事も社会において重要だと感じていますし、そこに貴賤はなく、関わり方に違いがあるだけだと考えています。同時に、さまざまな経験をしてきたからこそ、私自身にとっては「社会を広く意識した仕事」がやりがいを感じる上で欠かせないものだと再認識しました。そして、仕事には辛い部分や負荷も伴いますが、だからこそ成長できると考えています。ですので、仕事を「社会を広く意識していくこと」と「自分を成長させてくれる重要な要素」として捉え、これからも真摯に向き合っていければと思います。