掲載日:2025/10/30更新日:2025/10/30
求人掲載中
厚生労働省(以下、厚労省)による経験者採用/総合職募集が実施される。同募集にあたり、製薬会社勤務を経て、2025年4月に入省した太江 俊輔さん(厚労省 医政局 総務課 課長補佐 ※取材当時)を取材した。なぜ、彼は転職を考え、厚労省への入省を決めたのか。そのキャリア選択の裏側には「現場視点を活かした制度づくりで、国民の健康に貢献したい」という思いがあった――。
製薬会社勤務・出向経験を経て厚労省へ
6年制の薬学部を卒業後、製薬会社に新卒入社した太江さん。まずは、前職での仕事内容や、厚労省への入省経緯について伺った。
もともと前職は製薬会社にて製剤関連の研究職を経て、経営企画職として働いていました。その根底にあったのは「医療に関わり、多くの人たちの健康に貢献したい」という思いでした。
じつはその製薬会社で働きつつ、2020年1月からの3年間、厚労省へ出向を経験しています。当時、厚労省への出向は社内初となる取り組み。私自身、国での仕事に対して純粋な興味があり、「これはチャンスだ」と自ら手を挙げました。
出向した3年間で主に携わっていたのは、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようにする「マイナ保険証」の制度設計・普及促進など。さまざまな関係者との調整を図り、多くの人を巻き込みながら物事を前に進めていく。現場を知った上で国として制度をつくっていく。そこに大きなやりがいがありましたし、大変ながらも楽しかった経験が、その後のキャリアを考える大きなきっかけになりました。
出向を終えた後は、経営企画部での業務、さらにドイツへの赴任など海外事業を担当しましたが、そこでも社内的に前例のなかった日本で販売している製品の「海外への輸出」という挑戦ができました。大使館にも足を運び、何度も現地の方や取引先との価格交渉を含めた調整を重ねていく。全てが手探りでしたが、最終的には輸出を実現することができました。じつはそれらと並行して「過去の経緯を知るメンバー」として3ヶ月間限定ではありましたが、厚労省の業務支援にも携わっていました。確かに業務量は少なくありませんでしたが、厚労省から頼りにされることは素直に嬉しかったですね。
これらの経験を通じ、より強くなっていったのが「行政側で働きたい」という思い。国での仕事はスケールが大きく、行うべき施策、事業に対し、予算が確保できますし、制度そのものを作ったり時代に合った形へ変えたりすることができます。実際に携わった「マイナ保険証」に関しても、令和元年度に医療分野におけるICT化を支援するための新たな基金が創設され1000億円を超える規模の支援を行うなど、その規模に圧倒されました。また、民間企業でも働いたことがあるからこそ感じたのが、国がせっかく良い制度をつくっても、それが現場に十分に伝わっていないもどかしさ、課題です。それらに「現場視点」を持ってチャレンジしたい、課題解決に貢献したいと考え、経験者採用選考により、厚労省への入省を決めました。
厚労省での経験者採用、選考過程で印象に残っていることについて「面接での議論が非常に盛り上がったことが印象に残っています。」と話す太江さん。「私自身、健康寿命をどう伸ばすか?というテーマに関心があり、お話したところ、どういったデータを見ていくか、どう変えていきたいのか、と深く質問いただきました。面接というよりまさにディスカッション。関心のある分野について、深い知識を持つ方々と議論できるのは、「志を共にする仲間がいる」と感じられ、こういった人たちと共に働いていきたいと改めて強く感じた瞬間でもありました。」
課題解決に向き合い、直接的に動かせるやりがいがある
こうして2025年4月に厚労省に入省し、現在、医政局の総務課に所属している太江さん。その仕事内容とやりがいとは。
まず医政局ですが、「医療法」をはじめとする法令を所管し、日本の医療提供体制の基盤を担っています(*)。その中でも私が所属する総務課は、医政局全体の予算、人事、文書管理、情報システム管理、広報といった業務を担います。同時に担う重要な役割が、保健医療に関する基本的な政策の企画・立案・推進です。また、医政局全体の所掌事務に関する総合調整、法令や制度の総括・調整、法令案の審査なども担当していきます。
特に出向時代と違うのは、医政局は取り扱う領域、所管が非常に広いということです。これほど多くのステークホルダーとやり取りしていくことは初めてでもあり、これまでの経験を活かしつつも、新たな学びが多い部署でもあります。
(*)医政局は、主として「医療法」をはじめとする医療提供体制に関する法令を所管し、日本の医療制度の基盤整備を担う。局内は、総務課をはじめ、医師法等に基づき医療従事者の資格・免許制度や医療倫理などを担当する医事課、地域医療構想の推進、病床機能報告制度、在宅医療の推進などを担当する地域医療計画課、そして医療機関の経営改善支援や医療法人制度などを担当する医療経営支援課などで構成される。このように医政局は医療機関の整備、医療従事者の確保・育成、地域医療計画、医療安全など、日本の医療提供体制の根幹を幅広く扱う。厚労省には他にも医療保険や医薬品、感染症対策などを所管する部局があり、医療に関する業務全体は省全体で分担されている。
仕事のやりがいとしては、国として取り組むべき社会の課題に対し、一つひとつ直接的に解決に向けて取り組めることです。多くのステークホルダーから、さまざまないわゆる「宿題」をもらい、チームで議論しながらそれに対する「答え」を提示していく。それらをクリアしていくことが、確実に社会の課題解決につながっていく。私自身、常にミッションを背負い、課題に対して解決策を考えていくことにモチベーションを感じるタイプでもあり、このプロセスそのものがやりがいになっています。
太江さんの担当業務概要・一例について
■医療法改正への対応
「2025年4月、配属時はまさに通常国会での医療法改正の審議が目前に迫っており、その対応を行いました。現在は継続審議となっており、法改正に関する議員からの問い合わせ対応などを行っています。いかに的確に対応していくかが重要で、改正の趣旨、今後の医療のビジョンについて深く理解しておく必要を痛感しました。たとえば、2040年に向けて、人口減少が進む中での病院のあり方も大きなテーマです。そういった中、いかに病院の集約・再編やDXによる業務効率化を進めていくか、シミュレーションや検討を進めているところです。一つ事例として、愛媛県にある病院を視察したのですが、看護師がナースステーションに常駐せず、担当エリア制を導入、一人一台のiPhoneで情報を共有し、移動時間を削減し業務を効率化していく取り組みなどについて知ることができました。こうした先進的な現場に、国としてどのような支援をしていくべきか。現状の知識を踏まえた上で現場へ赴く、そして企画の礎となる気づきを得ていく重要性を改めて認識しました。さらに、総務課は「どこの課にも当てはまらない案件」を引き受けるため、海外からの視察団への対応も担当しています。先日も海外の医療関係者と意見交換を行う機会がありました。彼らから「日本の医療制度は素晴らしい」と評価される一方で「デジタル活用はまだまだ遅れている」という意見もいただきました。日本の医療が医師の高い技術に依存している側面を感じましたし、医師の働き方改革を進める上でも、こうした現状を変えていく必要があると考えています。」
■税制改正要望
「日本医師会や病院団体などから寄せられる要望も含め、法人税などの医療機関に関する税制優遇措置の新規・継続・拡充に関する要望の取りまとめなどを担当しています。各省庁は財務省や総務省といった税務当局に対し、優遇措置の必要性、病院経営における現状や課題について説明し、理解を求め、要望していく立場となります。民間企業における損益計算とは異なる「税」の知見が得られる機会になっています。」
■「上手な医療のかかり方」の推進
「「上手な医療のかかり方」は、厚労省が推進している国民向け医療リテラシー向上のための取り組みで、正式には「上手な医療のかかり方プロジェクト」として2018年にスタートしました。医師の働き方改革の一環として、国民にかかりつけ医を持つことを促す取り組みと言えます。たとえば、救急車を呼ぶか迷った時の相談ダイヤル「#7119」や、子どもの急な病気に関する相談ダイヤル「#8000」の周知、かかりつけ医を検索できるサイト運営などもチームで手掛けています。国民全体にとって有益な施策を、いかに多くの人に知ってもらうかを重要なテーマとして取り組んでいるところです。」

やりがいの一方で、事前に知っておくといい厳しさとして「その場での的確な回答、説明者としての責任が求められるプレッシャーは大きいですね。議員や関係団体への説明では、私の発言一つが「医政局の見解、場合によっては厚労省の見解」として記録に残るため、常に緊張感があります。」と話す太江さん。「同時に、突発的な事態に即答できず「宿題」として持ち帰ってしまうと、仕事が溜まる悪循環に陥ってしまいます。また、やはり民間と違い、国は関係団体が非常に多く、それぞれの意見調整に悩むことも少なくありません。さまざまな立場や時間軸で動く案件を調整していく。だからこそ、全てを抱え込まず、その時々で自分がベストだと考える答えを出し、上司の了解を得て進めていく必要があります。そういった中でも、数年後、数十年後、将来の担当者たちが「当時のこの人たちが考えたことは素晴らしかった」「あの時の判断は正しかった」と思ってもらえるようなベストアンサーを目指し、仕事に取り組んでいます。」
健康寿命の延伸による「幸福度」向上に貢献を
取材の後半では、太江さんが「仕事を通じて実現したいこと」について伺った。
仕事を通じて実現していきたいのは、改めてですが、国民の健康に貢献していくことです。特に個人的には「健康寿命の延伸」というテーマに関心があり、取り組んでいきたいと思っています。過去からのデータを見ても、いわゆる「平均寿命」は長期的に延伸傾向にありますが、どれだけ長く健康でいられるかという「健康寿命」がより大切なものになると考えています。ただ、「健康」に対する概念は人それぞれですし、身体的なものだけではなく、精神的な充足感、社会とのつながりといった幸福度も重要な要素となります。つまり「医療」の問題だけでなく、「生活全体の質」を総合的に見ていく。そういったことを踏まえても、厚労省が所管するさまざまな分野に携わり、多くの人の幸福度向上、そして社会全体の活性化や持続可能な発展に貢献していきたいです。
「健康寿命の延伸」への関心、その背景には自身の経験・体験があるという。
生活の質を維持するためには、「健康」は何よりも大切なものですよね。私自身、仕事はもちろん、スポーツをしたり、観戦したりすることが「生きがい」になっていて。そういった楽しみが健康を損なうことで奪われたら、人生が楽しいものではなくなってしまいます。また、祖母を亡くしているのですが、認知症が進み、施設で最期を迎えました。その晩年は本当に楽しかったのだろうか、健康だったのだろうか、と。私自身ができるだけ長く元気なままで寿命を迎えたいし、多くの人が迎えられるようにもしたい。それが原点にある思いなのかもしれません。
最後に太江さんにとっての「仕事」とは一体どういったものか。その価値観について聞くことができた。
誤解を恐れずに言えば、仕事は「人生を最大限に楽しむための一つの要素」だと思っています。その「楽しむ」は一つひとつ目標を立て、着実にクリアし、さらに先へと進むことを指します。正直、目標がない環境にいると性格的に怠けてしまうため(笑)むしろ楽しめないのかもしれません。たとえば、厚労省であと30年間働くとして、逆算した時に、出向や異動含めてどれくらいの部署で働くことができるか。じつは自分なりに目標を持っていたりもします。そこで得た知識や経験を積み重ね、自分をどれだけ成長させていけるか。そしてキャリアを重ねつつ、先の「健康寿命の延伸」という大きな目標に向かっていきたいです。厚労省はとてもありがたいことに出向や異動も多いですし、常に新しい環境、新しい目標に挑戦できます。こういった環境を最大限楽しみながら、まずは一つひとつの業務における目標の達成をしっかりと目指していきたいと思います。