東大生3人で起業、今、成長に期待を集めるスタートアップがGraciaだ。わずか2年で80名規模へ。シリーズBラウンドで5億円を調達。彼らが狙うのは、ギフトに特化したECサイトNo.1。その挑戦に迫った。
※記事内の情報は、2019年12月掲載当時のものとなります。
テクノロジーを駆使して、ギフトECの頂点へ。
2017年に設立したスタートアップ・Graciaが見据えるのは、約10兆円規模のギフト市場だ(*)。彼らが運営するギフトEC『TANP』は、これまでになかった「ギフトを贈る体験」に勝機を見出す。
サイトからギフトを選択するだけで、ラッピングから、メッセージカード、名入れ、生花の同梱までを可能とする。しかも、最短翌日には届くというから驚きだ。
「実は、ギフトに特化したECサイトってブルーオーシャンなんです」
こう語ってくれたのが、代表取締役COO 中内 怜さんだ。
代表取締役COO 中内怜(22)
1997年生まれ。東京大学在学中、インターンとして働いた株式会社Candle最年少で営業統括に。数ヶ月で売上を数倍にした。2017年6月、同級生の斎藤(CEO)、林(CTO)と共にGraciaを創業。現在は、主にマーケティング、ロジスティクス、CSなどダイレクトにお客様と接点を持つ部署を統括している。
「『TANP』が生まれたのは、CEOである斎藤が父親に誕生日プレゼントを贈ろうとしたとき、良いサイトに巡り会えなかったことがきっかけなんです。無数にある商品の中から何を選べばいいのか、どこに行ったらいいのかも分からない。そのとき、たくさんの商品からシーンに合わせたギフトをおすすめしてくれるサービスがあればいいのに、と着想を得たと聞いています」
こうして立ち上がった『TANP』はわずか2年で急拡大。若者に人気のルームウェアブランドや、ボディケアアイテムを扱うブランドなど、有名ブランドの商品を数多く取り扱う。
彼らの独自性、そしてビジネスとしての勝機とは?
マーチャンダイザーたちが月500件ペースで新しいアイテムを調達する『TANP』。ギフト数は、カラーバリエーションを含め5000~6000点にものぼり、業界トップクラス(自社調べ)。
「さらなるEC化の波が、2020年以降やってきます」
中内さんは、こう話す。
「僕たちが起業した2017年、ギフトに特化したECプレーヤーで目立った存在はまだありませんでした。タイミングとしても“今”だと。結果的に、この2年間で『TANP』は急成長し、かなり存在感は示してきたのではないかと思っています。10兆円とも言われるギフト市場、数パーセントでも押さえることができれば、さらに世の中に大きな影響を与えることができるはずです」
ギフトEC市場を先行することで得たものは、メーカーの抱える“負”を解消することでいち早く彼らを味方につけたことだった。
「これまでメーカー様は、ギフト用にも使ってほしいと思って商品をつくったとしても、ギフトとして世に届けることは難しかったんです」
いったいどういうことだろう?
「量販店や大手ECサイトは、基本的に大勢の人のニーズに応える造りになっています。そのため、実際に商品が店頭に並べられたときには、単に“新商品”として訴求されてしまうことも多い。メーカー様が本来お客様に持ってほしいイメージを作り上げるのは難しい側面がありました」
ただ、メーカーが自社ECに注力すれば解決するのではないか。そこには、やりたくてもできない事情があるのだとか。
「オフラインでのみ販売を行なっているメーカー様には、そもそもECのノウハウがありません。また、WEB販売を行なっていたとしても、商品発送や倉庫管理を外部に委託しているケースがほとんど。何種類もあるオプションへの対応や、シーンによって異なるお客様のご要望に応えることは難しいんです。ましてや、即日発送・翌日到着を実現することは不可能に近いと思います」
『TANP』は、「ギフトとしても認知をとりたい」というメーカーの希望に応えたのだ。
初めは困難の連続だったと言う中内さん。「今でこそメッセージカードは印刷ですけど、当初は僕たちが手書きで代筆していました。オプションで生花を付けていただくことも多く、毎日のように近所の花屋さんに通っていました」手探りでギフト加工を進めるうちに、成果はみるみる数字に跳ね返ってきた。「以前、資金調達をした際に名入れ機を購入したのですが、その直後に注文が殺到するタイミングがありました。今思えばひとつ成長の壁を突破した瞬間だったと思います」と振り返る。
メーカーが『TANP』に信頼を寄せる理由は、単にギフトとしても認知をとれるだけではない。メーカーにとって命ともいえる“ブランド”にも寄り添っているからだ。
「競争の激しい大手ECで商品を売ることにも、リスクがあるんです。たとえば”大量生産”だったり、”安売りされている”というイメージがつく可能性がある。そのため、ブランドや価格の毀損を懸念されるメーカー様も多いんです。ギフトをもらった方としても、もらったものがどこでも手に入る・安売りされている商品だったと知ったら、少し悲しい気持ちになりますよね」
売り上げだけではなくギフトとしての認知が取れること、ブランドや価格を毀損せず売り出せる場所であること。この2つを大切にすることで、『TANP』はメーカーサイド、顧客、いずれにもメリットがある仕組みを作り上げた。
メーカーの商品ブランドを傷つけず、いかにいいギフト体験を提供できるか。ここを追求する彼らは、受注から発送までの作業全てを社内で完結できる体制を構築している。その姿勢は、泥臭く、愚直だ。
「『TANP』のお客様が使う画面はもちろんのこと、その裏側でスタッフが操作する受注管理画面も、フルスクラッチで開発しているんです。受注管理画面は、関わるスタッフ全員がデータ分析や商品ページの改善をしやすい仕様になっている。受注から名入れ作業等のオプション対応、発送対応をスムーズに最短で進めるための機能も実装しています。ほかにも、自社倉庫からの発送業務も、食品など一部の商品を除き、基本的には社内のスタッフが担当します」
そして、中内さんはこう続ける。
「ここまでやり込むとお金も技術も必要となるので、一般的には誰もやりたがらないんです。でもお客様の体験をより良いものにするには、面倒で複雑な部分にこそコストをかけるべき。そう信じて、毎日細かな改善を重ねています。そしてどんなに表面を真似されたとしても、自社で地道に築いてきた組織、商品、ロジスティクスというアセットは奪われにくいと思っています」
代表取締役の2人は22歳、23歳。取締役CTOは24歳。約80名いるスタッフのほとんどが20代前半。その若さによるトレンドへの感度の高さやキャッチアップのスピードも強みだ。「ありがたいことに応援してくれる方々も多いです。僕たちより圧倒的に経験のある経営者の皆さま、そして同じようにこれから成長しようとしているメーカー様からは『同じ船に乗りましょう!』なんて言っていただけることもあります。期待に応えたいですね」
ギフトECプラットフォームNo.1を狙う。その言葉の裏にある想いとは。
「青臭いですが、人を楽しませ、喜ばせることが好きなんです。『TANP』は今、皆さんが思っている以上に“本気のシチュエーション”でも使っていただいています。プロポーズ、結婚記念日、バレンタインやホワイトデーの告白…最近特に印象に残っているのが『100歳おめでとう』の誕生日ケーキの発注をいただいたこと。失敗できない節目にも選ばれるサービスになってきたのは、なんかこう、すごくいいなって」
「ギフトを贈る行為を通して気持ちを伝え合う文化を、もっと根付かせたいんです。僕も経験があるのですが、誰かの誕生日があってもお店まで遠いとか、時間がないとかで贈るタイミングを逃してしまったことって多分ありますよね。でも、機会を逃さなければ、誰かに喜んでもらうことができる。Graciaでは<ギフトの質 × ギフトの回数 = 幸せの総量>と定義しているんですが、贈る回数もまだまだ増やせると思っています。気持ちを伝えられる機会が増えたら、素敵ですよね」
そして最後に、中内さんの仕事観をきくことができた。
「人が喜んでくれることが、生きがいなんです。それを達成できるのが今の仕事であり、『TANP』。優秀なメンバーと1つの目的に向かっていける、そして人を幸せできる。僕にとって最高にエキサイティングな場所です」
(*)ギフト市場に関する調査を実施(2018年) | 矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2042