「空飛ぶバイク」「ドローン」などの事業を手掛ける、エアーモビリティスタートアップ「A.L.I.Technologies」。2021年、地上から浮上して走行するモビリティ『XTURISMO(エックストゥーリスモ)』のリリースを予定する。彼らは「空」にどういった可能性を見るのか。代表取締役社長 片野大輔さんにお話を伺った。
A.L.I.Technologies(エーエルアイ テクノロジーズ)について
2016年9月、東大発ドローンスタートアップとして設立された。2019年8月、週刊東洋経済「すごいベンチャー100」に選出。2019年11月には、ドローン系スタートアップ最大規模となる23.1億円の資金調達に成功した。「ドローン」「エアーモビリティ」に加え、「演算力シェアリング」事業を中核事業として展開する。
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2019年10月~11月、130万人を超える来場者が集まった「東京モーターショー2019」。自動車メーカーによる次世代コンセプトカーなどが出展され、にぎわいを見せる中、その一画に設置されたスタートアップ企業のブースに数多くの来場者や報道陣が詰め掛けた。
スタートアップの名は「A.L.I.Technologies」。彼らが発表したのが、"空飛ぶバイク"『XTURISMO』だ。
『XTURISMO』
地上から浮いて走行するホバーバイク。ドローンと同様にプロペラが生み出す浮力で浮上し、各種センサーにより姿勢制御と高度調整が行なわれる。実機が初披露された「東京モーターショー2019」では、国内外のおよそ70媒体に取り上げられ、SNS上でも大きな話題となった。
"遠い未来の乗り物"のように見えるかもしれないが、すでに同社では量産化までのロードマップを発表。2021年内の出荷を計画する。
「まずは私有地を中心とした、レジャー・エンターテイメントでの使われ方を想定しています。社会的な認知を広げ、社会実装につなげていく」
こう語ってくれたのが、A.L.I.Technologiesの代表取締役社長 片野大輔さんだ。公道での走行に向け、すでに国家との協議も進む。
「公道ナンバーを取得し、自動車やバイクと同様に公道を走れるよう環境整備を進めていく。2023年、ここが一つの目標となります」
政府も2019年6月、「成長戦略実行計画」において、「空飛ぶクルマの実現に向け、2023年からの事業開始を目標に制度整備を推進」との方針を示した。空飛ぶバイクが公道を走るのはそう遠くない未来だ。
「『XTURISMO』は、水の上や砂漠、岩場など、道路のない場所での移動を容易にする。例えば、直線的な移動が可能になり、移動時間は大幅に短縮される。また道路が遮断された被災地に、水・食料などの物資や医療従事者を届けるなど、救援活動での活用も考えられます。「空のエリア」を開放し、道路を中心とした移動の概念を変えていく」
彼らが目指すのは、クルマやバイク、ドローンをはじめとしたUAV(無人小型飛行体)が自由に空を飛び交う「エアーモビリティ社会」だーー。
片野大輔│A.L.I.Technologies代表取締役社長
東京大学工学部卒業。ドリームインキュべータ、ボストン・コンサルティング・グループで戦略コンサルタントとして従事した後、アジア最大級の独立系プロフェッショナルファーム「YCP Japan (現 YCP SOLIDIANCE)」の代表取締役に就任。2018年7月、代表取締役COOとしてA.L.I.Technologiesに参画。2019年3月に代表取締役社長に就任。
「エアーモビリティ社会」実現を目指すA.L.I.Technologiesは、ドローンの領域においても独自のポジションを築いているといっていい。片野さんはその特徴について、こう解説する。
「私たちは機体・ソフトウェア開発、さらには操縦士の提供まで一気通貫でドローンによるソリューションを提供しています。クライアントの課題に合わせ、オーダーメイドでプロダクトを開発し、導入している企業は日本でもほとんど存在しません」
同社ではドローンを活用したクライアントの課題解決を担う、コンサルティングチームも組織する。コンサルティングファーム出身のメンバーが多く在籍するのも特徴だ。
「ただ機体やソフトウェアを販売するのではなく、その先の課題解決まで導いていけるのが私たちの強みだと捉えています。例えば、どういった業務がドローンで効率化できるのか、どのような業務フローに落とし込んでいくのか。イチからお客様と一緒に考えていくケースも多くあります」
特に同社は、大手インフラ系企業とのプロジェクトを数多く手掛けている。一つ実例として挙げてくれたのが、三菱重工グループとの火力発電所における点検の自動化プロジェクトだ。
「火力発電所の中にあるボイラーは定期的に停めて点検する必要があります。これまで毎回足場を組み、目視で行なってきたこの点検業務を、ドローンによって代替しました。発電所を止めている間は、基本的には電気を産んでくれない。ドローンで点検にかかる時間を短縮し、生産性向上につなげています」
ドローンによる効率化は発電所における売り上げにも直結する。
「例えば、大きな火力発電所で言えば、発電機1機で非常に多くの電気をつくることができます。止まっている時間を何日か短くできるだけで、金額規模としてもかなりのインパクトになる」
2020年、コロナ禍によりあらゆる業界のビジネスが変化を遂げる中、ドローンの領域においても新たな動きが見られるという。
「今、多くの企業がドローンによる業務自動化の取り組みを本格化させ始めました。非対面化の流れが進む中、社会的な価値観としても、人が担っていた業務をドローンに代替することで安心感を得られるケースも多くなっているように思います」
今後ドローンはどういった広がり方を見せるのか。その展望についてはこう語る。
「あと5年以内に、ドローンはインフラと呼べるほど、社会に浸透していくと考えています。例えば、インフラ点検で当たり前に使われ、物流においても一部置き換わってくるはずです」
ドローンは関連する産業が非常に多い領域だ。市場規模としても大きなポテンシャルを秘めているといえる。
「例えば、発電所の点検だけでも兆円単位の市場規模があり、測量でも確実にマーケットが広がっている。多様な産業を置き換えていけるようになれば、ドローンの市場は非常に大きなものになっていくと思います」
写真はホバーバイクの試作モックアップ
続けて、片野さんが語ってくれたのが、彼らが描く「未来」について。そこには「空のエリアを誰もが有効活用できる世界」の実現へ、新たな社会インフラをつくる、という構想がある。
「今はまだ「空」には道がありません。安心・安全に走れる道がなければ、いくらエアーモビリティが普及しても大きな社会実装は進んでいかない。例えば、誰がどの機体をどこでどう飛ばしているのか。飛行機の航空管制システムのような仕組みも必要になっていくはずです。こうした「空のインフラ」をつくるための技術・運用整備を、私たちが先導していきたいと考えています」
そして取材最後に伺えたのが、片野さんにとっての「仕事」とは。
「誰もが夢に思い描いていた世界を、実現できる手段といえるかもしれません。とくに今、「空のエリア」は本格的に開かれ始めているタイミング。その最前線で社会に新しい価値を届けていけるのは、すごくおもしろいことですよね」
A.L.I.Technologies HP:https://ali.jp/