中国最大級の育児動画メディア『Babily(ベイビリー)』を運営するOnedot。現在、中国上海で50名、日本では5名の従業員が働いている。日本で新規事業を仕掛けるべく、6人目を採用する。その狙いとは?
もともと、ユニ・チャームとボストン・コンサルティング・グループのジョイントベンチャーとして設立された『Onedot』。
2020年5月には、外部から10億円超の資金調達を行ない、ユニ・チャームからカーブアウト。より独立性の高いスタートアップとして新たなスタートを切った。
「3年ほど事業を行ない、もう一踏み、二踏みして、非連続に成長できる道筋が見えてきた。それに対して勝負したい。そのための成長資金を獲得するために、今回外部からの資金調達を行ないました。様々な企業・投資家にサポーターになっていただき、より独立性の高いスタートアップとして、さらに事業を加速していく」
こう語ってくれたのが、同社代表取締役CEOの鳥巣 知得(とす ちとく)さんだ。
同社が手掛けるのが、ショート動画サービス『Babily』。中国最大級の育児動画メディアとして、ソーシャルメディアやミニプログラムにて、子育てや家族生活に役立つ様々なコンテンツやツールを提供。さらに事業で培った知見を活かし、日本企業に対する中国市場でのデジタル事業立ち上げや戦略構築、マーケティング支援を開始した。
「いまコロナ禍によって、インバウンド需要がなくなっている。こうした状況下において、デジタルマーケティングによる中国市場開拓のニーズが高まっています。実際に現地で事業を手掛ける私たちだからこそできるソリューションを提供していく」
こうした中、同社は日本拠点における採用強化を進める。その募集の背景について伺った。
Babily
2017年2月にリリース。育児ノウハウ、離乳食のレシピ、マタニティヨガの方法、絵本や幼児教育の紹介など、1分のショート動画で配信する。中国最大のSNS「Weibo(ウェイボー)」など、40以上の動画プラットフォームで展開。「Weibo(ウェイボー)」において、「2018年最も飛躍した動画メディア」「2018年ベビー・マタニティ領域で最も影響力のある機構10社」に選出された。
鳥巣 知得 | 代表取締役CEO
東京大学卒業。在学中の起業を経て、2006年ナップスタージャパンに入社。2010年、ボストン・コンサルティンググループへ。インターネット領域の新規事業立ち上げ、グローバル戦略に携わる。2016年、BCGデジタルベンチャーズに移籍。プロジェクトリーダーとして、ユニ・チャームとの共同プロジェクトでOnedot立ち上げに携わる。その後、BCGデジタルベンチャーズを退職し、Onedot 代表取締役CEOに就任。
2017年2月のサービスリリースから3年ほどで、ユーザー数が1500万を突破した『Babily』。今や中国の育児動画メディアにおいて最大手の一角に数えられる。拡大の背景について、鳥巣さんに伺った。
「中国マーケットの中でも、半歩先に仕掛けられた。まずここが大きいと捉えています。というのも、当時は他のバーティカルでスマホ特化のショート動画サービスが出始めた頃。市場が盛り上がるタイミングで、いち早く取り組めたことがユーザーの獲得につながったと考えています」
さらに、こう補足する。
「日本発の企業として、日本の情報やクリエイティブを参考にできたことも他社との差別化につながりました。特に日本の育児ノウハウや技術は、アジアの中でも高いレベルにある。安心や信頼性のある情報・クリエイティブが、中国ユーザーから受け入れられた要因だと捉えています」
『Babily』で培った中国マーケットにおけるデジタル戦略構築、ソーシャルメディアマーケティング、EC運営などのノウハウを日本企業向けに提供していくーーこうしてデジタルマーケティング支援事業を開始したOnedot。
同社ならではの強みについて、鳥巣さんはこう解説してくれた。
「中国のインターネット社会は、ソーシャルメディアも EC プラットホームも全てが他のグローバルと違う。専門的な知見を持っているチームがないと、うまく支援はできません。こうした中で、私たちはショート動画という中国でも新しい領域で、実際に事業を行ない成長させてきた。試行錯誤しながら培ってきた経験やノウハウ、プラットフォーマーとの関係があります。それを元に日本企業が勝つための戦略を考え、必要なツールを提案できる。これは私たちにしかない強みだと捉えています」
さらにこう続ける。
「今後、日本企業が中国で事業を展開するにあたり、物販でモノを売るだけではなく、さらにサービス化していくと考えています。実際に、サブスクリプションサービスをはじめ、コンテンツを売る動きも出てきました。ここは既存のECモールでは対応できません。例えば、ミニプログラム(※)など、変化の激しい中国のトレンドを抑え、仕掛けていく必要もある。こうした部分でも、自社サービスで試している強みを活かし、効果的なソリューションとして提供することができます」
(※)Wechat上で走るアプリ。2017年に正式リリースされ、2年ほどの間にユーザーを数億人にまで拡大した。コロナ禍において中国政府が健康状態の証明に活用し、一般的なサービスに。開発時にも、 iOS やAndroid とは異なった仕様となる。
特にコロナ禍を契機に、中国市場に向けた日本企業のマーケティング需要は伸びているという。
「コロナ禍で、日本へのインバウンドがなくなってしまった。とはいえ、日本のものを買いたい中国の消費者が一定数いますし、当然中国に対して日本のものを売りたい企業様もこれまで通りいる。そうした中で、越境ECをはじめとしたデジタルマーケティングの取り組みも活発化しています」
今、新たに日本企業における海外進出の仕組みがつくられているといっていい。
「日本のあらゆるビジネスがグローバル化されてきましたが、十分にデジタル化が進んでこなかった。そのため、インバウンドでの購入が増える一方で、帰国後のリピート購入につなげられていませんでした。デジタルマーケティングによってデジタル購買を発生し、リピートにつなげていく。越境ECをはじめ、そのプロセスをつくり、加速していきたいと考えています」
こうした中、同社で進められるのが、日本拠点における採用強化だ。
「日本拠点では、主に日本の企業様との協業、事業開発を担っていく。企業様のニーズをすくい上げ、中国拠点とも連携しながら、デジタル事業の立ち上げや戦略構築、マーケティング支援に取り組んでいきます」
特に同社の特徴として、グローバルな仲間たちと密にコミュニケーションを取る環境が挙げられる。
「中国拠点で行なうミーティングには、日本拠点で働くメンバーにもオンラインで参加してもらっています。そこで現地のトレンドなどをキャッチアップしてもらいます」
そして取材最後に伺えたのが、育児領域、また中国で事業を行なうことへの、鳥巣さん自身の想いについて。
「子供や家族は、人類共通の人生で大事なテーマの一つ。幸せにも直結する部分だと考えています。また中国と日本は経済的にも密接ですし、政治的にもある意味複雑さを持った背景がある。そうした意味で、事業を通じて国際平和に貢献することもできるのではないかと思っています。私自身のストレートな思いとして、まずは中国の事業で子どもや家族を幸せにすることで、平和で楽しい世の中を作っていきたい。その先に、世界のより多くの人の幸せをつくりだしていければと考えています」