「英会話ができるようになりたい」「プログラミングの知識を得たい」「資格を取得したい」…様々な場面で必要とされる"記憶"。もし仮に覚えたい情報を苦もなく、確実に覚えられることができれば、人間の「学習」に革命が起こるかもしれないーー。こうした壮大なチャレンジを行なうのが、モノグサだ。彼らが提供するのは、AIによって、知識習得・記憶定着を可能とするプラットフォーム『Monoxer(モノグサ)』。2020年10月、シリーズAラウンドで総額4.4億円を資金調達、事業拡大にさらなるアクセルを踏む。彼らの抱く野望とは?
「1ヶ月後に英単語を1000個記憶したい。Monoxerなら、誰でもそれを実現することができます」
こう語ってくれたのが、モノグサ代表取締役CEOの竹内 孝太朗さんだ。その仕組みについて、竹内さんはこう続ける。
「これまで記憶できたか、できていないかを明確に計測する手段がありませんでした。Monoxerではその英単語を次回どのくらいの確率で正解できるか、AIによって予測する。予測値が一定の基準を超えたときに「覚えた」と認定します。こうした個々の記憶データに応じて問題が自動的に生成され、学習者はただ解いていくだけで、設定した期間に記憶が定着した状態にすることができます」
さらにMonoxerの特徴と言えるのが、覚えるべき情報(回答例)をデータとしてインポートすると、答えを導くための問題を自動生成する、という点だ。
「例えば「appleーりんご」「grapeーぶどう」のように覚えさせたい情報をExcelなどにまとめ、インポートする。そうすれば、択一式の誤答を含めて、機械が問題を自動生成します。解答を入力できるものであれば、英単語だけでなく、どんなものにも応用が可能です」
教育現場で言えば、国語・算数・理科・社会はもちろん、音声認識機能も搭載し、英語のスピーキングにも対応。加えて、企業の社員研修や資格試験など、社会人教育にも活用が広がっている。
「これほど多様な領域に、「記憶」というアプローチを取れるサービスは世界でも他にないと考えています」
画期的な「学習サービス」の一つにも思えるが、彼らの視線はさらにその先に向けられる。
「世界でMonoxerを「記憶」のプラットフォームにしたい」
一体どういったことなのか。そこには壮大ともいえる野望があったーー。
Monoxer
AIによって、知識習得・記憶定着を可能とするプラットフォーム。特に自主学習で多くの時間を費やす、記憶定着におけるアウトプット支援を手がける。学習塾や語学学校、事業会社の社員研修での活用が進む。2020年8月には、旺文社と連携し、『英単語ターゲット1900』などの参考書をベースとした教材を、Monoxerで配信開始するなどの動きもある。
竹内 孝太朗 | モノグサ代表取締役 CEO
名古屋大学卒業後、リクルートに入社。「スタディサプリ」における高校向け営業組織の立ち上げ、学習到達度測定テストやオンラインコーチングサービス開発などに携わる。2016年、高校の同級生であるGoogle出身のソフトウェアエンジニア・畔柳 圭佑さんとともにモノグサを共同創業した。
2018年5月リリースから約2年。すでに学習塾や語学学校など、2500を超える教室で導入されるMonoxer。教育現場の「学習」に、新たなスタンダードをつくりつつあるといっていいだろう。
「Monoxerでは、英語の単語や文法、漢字、数学の公式など、生徒一人一人が何をどれだけ覚えたか、先生方がリアルタイムに把握し、管理できる。記憶定着の領域にコミットできるようになったのは、大きな変化だと捉えています」
事実、Monoxerは誰が何を何回解いているか、どれくらい解けるようになったか、記憶の進捗を確認できる管理者機能を搭載。生徒それぞれの状況に応じて、先生がチャットで働きかけるなど、サポートを行なうことも可能だという。
「これまで「記憶させること」は非常に難しいテーマでした。というのも、記憶には明確な尺度がなかったからです。例えば、ダイエットでも、体重計なしで適切にコーチングするのは困難ですよね。Monoxerは記憶の領域に、体重計兼ランニングマシンを持ち込んだ感覚がある。そう言った意味でMonoxerは、「学習内容を定着させたい」事業者の必須ツールに近いと言えるかもしれません」
さらにこう続ける。
「いま英会話で言えば、「毎日やり続ければ3ヶ月後にこうなれます」と、相当程度コミットできるようになりました。そもそも、記憶することが苦しい大きな要因が、何をいつまでにどれだけやればいいのか、ステップが見えないことにあります。Monoxerはそれを劇的に変えられる。当たり前に覚えたいことを覚えられる世界ができれば、人の可能性はさらに広がっていくはずです」
「Monoxerを全人類に届けたい。そのために、2022年までには、本格的なグローバル進出を計画しています」
何かを記憶する、これは教育における万国共通の重要テーマの一つだ。加えてMonoxerのような記憶をテーマにしたサービスは世界でも珍しく、どの国でも展開の可能性があると竹内さんは語る。
「例えば日本同様の受験マーケットがある国であれば、日本でのモデルそのまま入り込む余地があると考えています。また幼児教育においては、アルファベットやひらがななど言語は違っても、書けるようになるためのプロセスはどの国でもほとんど変わらない。Monoxerは非常にグローバル展開しやすいモデルだと捉えています」
すでにMonoxerではグローバル共通のプロダクトとして英語に対応。さらにその他の言語の登録を可能とし、世界での展開に向けた準備が進められている。
続けて伺えたのが、その先に見る、彼らの構想について。竹内さんより語られたのが、「記憶のプラットフォーマーになる」という壮大とも言えるビジョンだ。
「誰もがMonoxerを使う世界になれば、私たちは誰が何を覚えているか、覚えたいか、知っているプレイヤーになる。Googleが「誰が何を知りたいか」を抑えることで、これだけのビジネスを成立させているように、記憶を足がかりにして周辺領域にサービス展開もできると考えています」
想定されるビジネスについて、一例を伺えた。
「Googleで言う、リスティング広告のような仕組みは当然考えられるところ。さらにいま英語の習熟度を測る際にTOEICが使われていますが、その人の記憶が閲覧できれば、より正確に判断ができますよね。同様に、世の中にあるテストや資格試験は、全てMonoxerでサポートできるのではないかと考えています。また教育ローンなどは、欧米で非常に大きな市場があるのですが、Monoxerの情報を使えば、これまで経済状況を理由に、進学を断念した人たちを支援できるかもしれない。プラットフォームになった先に、いくらでもサービスの可能性は考えられます」
さらにこう続ける。
「「知る」ことと同様に、「覚える」ことも人類が間違いなく行なっている営みです。それにも関わらず、世界的に見ても、「覚える」分野においてはGoogleのような支配的なプレイヤーが出ていません。だからこそ、非常に多くのビジネスチャンスを秘めた領域だと考えています」
「記憶」をテーマに、前例にないビジネスモデルを構築しようとする彼ら。最後に伺えたのは、同社の事業に対する竹内さん自身の想いについて。
「全人類にMonoxerを届けることを諦めない。これはモノグサのバリューの一つです。日本ではなく、世界全体、人類にとって本当に価値のあることをしたい。青臭いと思われるかもしれません。ただ揺るぎない信念として、挑み続けていきたいと思っています。新しく迎えるメンバーにも、ぜひこの壮大なチャレンジを楽しんでもらいたいですね」