幾度となく取りざたられてきた「商社不要論」や逆境を、自らの知恵と事業のモデルチェンジによって、乗り越えてきた総合商社。コロナ禍によって社会が大きな変化を遂げるこの時代に、どのような一手を仕掛けていくのか。一つの鍵となる「デジタル」をキーワードに見ていきたい。
そもそも総合商社は「ラーメンからロケットまで」と例えられるように、そのビジネスは多岐にわたる。
全体像を捉える上で大きく分類すると、主な事業として挙げられるのが「トレーディング」と「事業投資」だ。ここでこの2つについて、簡単に紹介したい。
■トレーディング
原料・製品・販売などのサプライチェーンにおける各フェーズで、商材の売り手と買い手を仲介するビジネスモデル。仲介手数料が主な利益となる。原油や液化天然ガス(LNG)などの資源、穀物、アパレルなど扱う商材は多岐に及ぶ。マーケティング機能や保険の提供など、商社を仲介したからこその付加価値を併せて提供する。
■事業投資
目をつけた企業に「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源を投資し、リターンを得るビジネス。特に代表的な事例が、コンビニの経営だ。例えば、三菱商事はローソン、伊藤忠はファミリーマートを子会社とし、経営に参画。もう一つ、セブンイレブンにおいても三井物産が出資しており、協力関係にある。
特にいま各社で、伝統的なトレーディングから事業投資への注力姿勢が見て取れる。つまり成長が期待される領域は投資対象となり、今後さらなる産業に手を広げていくことも予想されるところだ。あらゆる業界でDXがキーワードとなるなか、総合商社としても当然注力すべき領域だといえるだろう。
総合商社のデジタル領域における動向として、デジタル技術活用を推進する新たな部署・役職新設の動きがある。
例えば丸紅でいえば、2017年4月に部署の枠を超え、AIやIoT活用推進を目的に「IoT・ビッグデータ戦略室」を新設。三菱商事でも2019年4月、デジタル技術を活用した事業開発を手掛ける「デジタル戦略部」を設置した。さらに伊藤忠、住友商事、三井物産においても、最高デジタル責任者となる「CDO(Chief Digital Officer)」など、新たなポジションも生まれている。
同時にデジタル領域における投資・参入の動きも活発だ。
2020年9月には、伊藤忠が医療マーケティング事業展開「フェーズワン」と資本業務提携を発表。医療・ヘルスケア業界向けDX支援事業へと参入した。
さらにコロナ禍で市場が拡大する「ネット動画配信」市場では、三井物産が中国の大手ライブ動画配信プラットフォーム『Douyu』と合弁会社『DouYu Japan』を設立するなどの動きもある。
またトレーディング分野においても、三菱商事がNTTデータらが仕掛ける貿易コンソーシアムに参加するなど、レガシーな貿易におけるDX化を本格化させる。コロナ禍によって、サプライチェーンにおける新たな課題が噴出するなか、今後さらなる取り組みも行われていくといえるだろう。
大きな変革の時代だからこそ、あらゆる産業における次なるビジネスを切り拓いていく。総合商社には、いまだからこそ得られる、チャレンジングなフィールドもあるといえそうだ。