目まぐるしく変化する金融を取り巻く環境。生活の利便は高まり、ビジネスの効率化も進む。一方で懸念されるのが、市場変動や金融機関・金融システムにおけるセキュリティ等のリスク拡大だ。そういったなか、金融庁 総合政策局 リスク分析総括課では、市場リスク分析を始め、「3職種」を公募する。約260名が在籍する同課の役割、求める人材・資質、そこで得られるキャリアとは。リスク分析総括課長 石村幸三さんにお話を伺った。
【金融庁 総合政策局 リスク分析総括課|3職種 求人概要について】
・金融機関の市場リスク等管理態勢に係るモニタリング業務を担当する職員
・金融機関のマネーローンダリング・テロ資金供与対策に関する法令等遵守態勢等のモニタリング業務を担当する職員
・金融機関のサイバーセキュリティ管理態勢等のモニタリング業務を担当する職員
※いずれも課長補佐クラス
※既に応募受付は終了しました。
今回の募集について伺う前に、日本を取り巻く金融の状況から伺ってもよろしいでしょうか。
まずはじめに、多くの方が実感していることだと思いますが、あらゆる面での変化が、よりダイナミックになってきています。金融界でも同じように、20年~30年単位で起こってきた変化が、ここ数年で一気に起こっている、といった状況だと考えています。
その背景の一つに挙げられるのが、コロナ禍によって進んだデジタル化です。生活様式の変化はもちろん、ビジネスも大きく変化しました。
身近なところ言えば、自宅で過ごす時間が増え、ネットショップを通じた商取引が活発化しています。QRコード決済などキャッシュレスも浸透。新たな金融サービスが出現し、利便性は向上しています。
一方で、金融庁は国民の「お金」に関する安心安全を担保しなければならない。そのために目配りをしなければならないリスクも多様化しています。
たとえば、記憶に新しいところで、2018年に、いわゆる暗号通貨取引所から、サイバー攻撃によって暗号資産が盗み出される事件がありました。2020年には、電子決済に用いられる銀行口座より不正に預金が移される事件も発生しています。
利便性が高まる一方で事故、事件も多発している。こういった問題に対し、迅速な対応が求められるようになりました。
さらにいえば、海外投資等も容易になりましたが、諸外国、特にアメリカの市場動向は、日本の株式市場に大きく影響する。その他、マネーローンダリング、テロ資金供与リスク管理など、諸外国と連携した金融犯罪の横断的なモニタリングも重要テーマとなっています。
こういった高度化、複雑化したリスクに対峙していく。そのために金融機関、金融システムが抱えるリスクの調査・分析・検査を専門的に担うのが、今回公募を行う「リスク分析総括課」です。
金融庁 総合政策局 リスク分析総括課長 石村幸三さん
さらに詳しく、リスク分析総括課について教えていただいてもよろしいでしょうか。
リスク分析総括課は、2018年に設置された課です。じつは、テレビドラマ『半沢直樹』に登場した「金融証券検査官」を統括する部署が母体となっています。
ただ、ドラマの「強引に銀行に立ち入って検査を行う」というイメージとは現状、異なる部分のほうが多いと思います。
とくに「リスク分析総括課」となってからは、金融の専門性を有する組織へ。金融界全体を俯瞰した上でリスク分析を横断的に実施しています。必ずしも検査に入らずとも、金融機関と対話し、アドバイスを通じた対策・改善に繋げていく。その一連のプロセスを私たちは「モニタリング」と呼びます。
モニタリングの担当者は、単なる分析だけではなく、金融機関に課題を共有しながら、直接対話をします。その上で金融機関自身に改善を促していくのが役割です。
現在、何名ほどが在籍しているのでしょうか?
在籍しているのは260名ほど。霞ヶ関の中でも規模の大きな課と言えます。
市場リスク・有価証券運用等のリスクを見極める市場リスクチーム、IT・サイバーセキュリティを担う専門チーム、金融犯罪等を食い止める対策チームなど、いくつかのチームがあり、横断的にモニタリングしていきます。ちなみに、約4割が民間での実務経験を持つメンバーです。
どういった前職経験を持つ方がいるのでしょうか?
メガバンクを中心とする銀行での実務経験を持つ方、監査業務等に携わっていた方、会計士、弁護士など士業の経験を持つ方など多様です。サイバーセキュリティ分野であれば、ITベンダー・通信会社で経験を積んだ方などもいます。いずれも最前線で活躍されてきた方が、チームに加わっています。
金融庁は銀行、保険、証券など全業態をモニタリングできる「一元監督当局」。業態横断的なチーム編成は、諸外国ではあまり見られない形態だという。カテゴリー別のチームに加え、突発的な重要事案には起動チームも設置され、柔軟に対応。金融機関・システムの重要課題に挑む。
もし、より具体的に求める経験、資質があれば教えてください。
当然、各分野における専門的な知識、業務経験を持つことが望ましいです。また、求める資質としては「cool head but warm heart」と表現することが多いです。
日本のために、これからの金融のために、といった情熱はぜひ持っていただきたい。同時に、さまざまな利害が交錯する中、真に国民のためとなるか。最善の政策の実施につながっていくものか。冷静な判断力が必要とされます。その両面を持ち合わせた方にぜひ来ていただければと考えています。
なお、先ほどお伝えしたように「分析」のみを担当するわけではありません。金融機関と対話し、状況を理解した上で、いかに改善に繋げられるか。説き伏せるのではなく、納得をしてもらう。その責任は非常に重いです。
私たちには法に基づく権限がありますが、それらを押し付けたところで、金融機関としては「金融庁に言われたことをなぞるだけ」となってしまう。改善を行うのは、あくまでも金融機関自身です。知識、経験に裏付けされた説明で、相手に「なるほど」と腹落ちをしてもらう力が求められます。
さまざまなところで「金融庁は、処分庁ではなく、育成庁に」とまさに言われていること。杓子定規に当てはめ、頭ごなしに「やりなさい」では何も変わらない。当事者が創意工夫し、改善していける形を模索する。金融機関自身が未来に向かって持続的に努力ができる、そういった「未来志向」の仕事が今、求められていると思います。
「金融庁全体における制度改正、金融システムのデザインのための情報提供も、リスク分析総括課の重要な役割」と語る石村さん。
リスク分析総括課で働く上で得られる「働きがい」があれば、教えてください。
今、まさしくダイナミックに変化している金融界、その未来を共にデザインしていくことができます。変化が激しい今、このタイミングで入庁することで、これからの金融界の根幹、いわゆる設計部分に携わっていくことが可能です。金融を、そして社会を、よい方向へと変える。その貢献をダイレクトに実感できることは、何にも代え難い働きがいとなります。
加えて、金融界はもちろん、関係省庁、海外当局など、さまざまな関係者と調整し、職務を果たしていく経験が得られます。金融が、世界がどのように動いているのか、垣間見ることができるでしょう。もし、民間に戻ることがあったとしても、そこで得たネットワーク、人脈は人生の糧となり、将来のキャリアにとっても非常に有益なものとなるはずです。
最後に、石村さんご自身が仕事において大切にしていることがあれば教えてください。
公務員としての仕事は、国民の役に立っていく、この一点に尽きます。そのために今の仕事に就いたと言っても過言ではありません。
ですから、金融機関、関係省庁、自部署など、目の前の相手を見るのではなく、その先の社会、世の中で困っている方々の役に立っていく。そこに思いを馳せてこそ、初めて公務員としての仕事は務まると思っています。
対峙していく金融機関に「わかりました」と言わせることが目的では決してありません。世の中が良くなるか、国民の役に立っているか、常に問い続けることが、私たち、公務員の仕事のあり方だと思っています。