INTERVIEW
神戸市|イノベーション専門官/コミュニティ運営担当

神戸市発「スタートアップ支援」を、仕組みづくりから。イノベーション専門官たちの活躍

掲載日:2022/03/03更新日:2022/04/04

様々なスタートアップ支援・起業家支援を展開する「神戸市」。2022年度 イノベーション専門官/コミュニティ運営担当公募にあたり、特別インタビューをお届けする。お話を伺ったのは、昨年度の同公募にて入庁した織田尭さん。関西大学×TSUTAYA「スタートアップカフェ大阪」コーディネーター、探究的習い事スクール「T-KIDSシェアスクール梅田 KANDAI Me RISE」スクール長を経て、神戸市のイノベーション専門官へ。そこにあったのは「自分らしさを表現できる人たちを増やしたい」という思いだった。

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神戸市を「チャレンジできるまち」へ

今、神戸市によるスタートアップ支援事業が、注目を集めている。

2020年7月、京都・大阪とともに「グローバル拠点都市」に選定。スタートアップ・エコシステムの形成に挑戦してきた。2022年現在、さまざまなプログラムが推進されている。関連事業の一部だけ見ても、

・官民連携の地域・行政課題解決プロジェクト「Urban Innovation KOBE」の実施(2018)
・学生起業家育成プログラム「Founders!」の実施(2018)
・官民連携ファンド「ひょうご神戸スタートアップファンド」の立ち上げ(2021)
・ 国連機関UNOPSと連携した「SDGs CHALLENGE」の実施(2021)
・ビジネススクエア『ANCHOR KOBE』の開設(2021)
・オーダーメイド型起業家支援「グローバル・メンターシップ・プログラム」の実施(2021)
・エンジニア創出事業の実施(2021)
※( )内は開始年

と、多様だ。これらの各プロジェクトを推進するのが、神戸市 新産業課に所属するイノベーション専門官たちだ。現在、新産業課には13名在籍しており、その半数以上が現在募集しているイノベーション専門官を含む外部人材で構成される。

今回お話を伺ったのが、2021年7月に入庁した織田尭さん。アーティスト活動、スタートアップ支援、キッズスクールのスクール長…と、異色な経歴の持ち主。

そんな彼は、なぜ、神戸市で働く選択をしたのか。そこには「自分らしさを表現できる人たちを増やしたい」という熱き思いがあった――。

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2022年3月には、第4回目となる神戸市発の学生起業家育成プログラム「Founders!」が開催される。著名な起業家、学生が議論をぶつけるリアルの「場」であり、参加者同士の交流も図られる。関西に少なかった起業における「学びの場」と「切磋琢磨できる場」を提供。実践を通し、成功へのプロセスを学ぶことができるため、起業を目指す熱量の高い学生が集う。

持続していく「仕組み」をつくりたい

もともと起業家支援、そして教育事業に携わってきた織田さん。そもそもなぜ、神戸市 イノベーション専門官の公募へと応募したのだろうか。

「前職はすごく楽しく、転職は考えていなかったのですが、普段から様々な可能性にアンテナを張るようにしていて。その中で、AMBIの記事から、イノベーション専門官の公募を知り、やりたいことにピッタリだと思い応募を決めました。」

当時の面接についても印象的だったと振り返る。

「面接官である新産業課のメンバーと、やりたいことや思い、神戸の未来について話をしていたら、つい楽しくてあっという間に時間が過ぎていました。その中で特に興味を持ったのが、神戸市がスタートアップ・エコシステムの構築を目指しており、エコシステム構築のために、持続的かつ自走できるような仕組み作りに挑戦しているということ。また、神戸には海や山といった豊かな自然、歴史、数多くの大学がたくさんあり、何よりも住む人たちに神戸への愛がある。大阪と比べてもコンパクトだからこそ、できることがたくさんある。そういった部分でも可能性をすごく秘めていると感じました。」

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織田尭/2021年7月入庁(新産業課・イノベーション専門官)台湾生まれ、オランダ育ち。新卒で入社した化学メーカーを退社した後、クラウドファンディングを活用し、妻とオーストラリアでの路上絵画販売旅を半年間実施し、アーティスト(画家)として活動。帰国後、表現者集団「みんな表現者」を立ち上げ、全国でパフォーマンスやイベントを実施。2017年より起業相談支援施設「スタートアップカフェ大阪」コーディネーターとして、年間440名の相談に乗り、起業マインド醸成を目的としたイベントを多数企画。大阪府のベンチャー企業と関西の8大学を結ぶ、O-VENTプロジェクトにも従事。2019年3月より社内で立ち上げた「T-KIDSシェアスクール 梅田 KANDAI Me RISE校」スクール長として、幼児~小学生に探究的な学びやアート教育を届けるべく、数十種類の習い事を集めた習い事シェアスクールのスクール長を務める。2021年7月に神戸市に入庁、学生、エンジニア、企業の中堅社員などのコミュニティ形成や、官民連携の行政・地域課題解決プロジェクト「Urban Innovation KOBE」などを行う。

市の課題解決に、先端テクノロジーの活用も

もともと、シリコンバレーのベンチャーキャピタル『500 Startups』(現在は500 Globalに名称変更)と連携した起業家支援プログラムから、その支援をスタートさせた神戸市。なぜ、この領域に力を入れるのだろうか。

「神戸市が本格的にスタートップの育成・支援に力を入れ始めたのは2016年ですが、その背景には、オープンイノベーションを積極的に進めて新たな事業を生み出し、にぎわいと活力のある街であり続けるため、また、次代を担う若者に選ばれる魅力的な都市を目指すため、という神戸市の大きな目標があります。」

入庁から半年足らずではあるが、織田さん自身、企業と市の課題を解決する「Urban Innovation KOBE」、そして学生向け起業支援「Founders!」「STARTUP AFRICA ONLINE」など、数多くのプロジェクトを担当している。

「たとえば、「Urban Innovation KOBE」は、神戸市役所内で募集した課題を解決してくれる企業を公募し、行政とスタートアップが協働して、課題解決に向けた実証実験に取り組むプロジェクトです。ユニークな実証例でいえば、防災についての意識を高めるため、火事や水害をリアルに体験できるVRを開発し、実証期間終了後に本格導入され、現在も地域の防災訓練等で活用されているといった事例があります。また、多くの地域住民の方々に小中学校の体育館を利用してもらえるよう、スマートロックを活用して夜間解放を行う実証事例など、テクノロジーを活用したものも多いですね。」

これらは実証後の本格導入を目指し、さらに全国への自治体に対する横展開を目指していく。

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「この部署に関しては、日ごろから変化の激しいスタートアップの方々と接することが多いため、幅広い考え方を取り入れるメンバーが多く、柔軟性の高い組織だと感じます。」と織田さん(左から2番目)。前職時代、2年間ほど神戸市とのプロジェクトに携わったことがあったという。「過去の仕事でも、その仕事が好きな、熱量の高いメンバーと一緒に仕事をすると、すごく楽しかったのですが、今回神戸市に入庁して働いてみると、その熱量の高さが想像以上だったことに加え、僕の主観ですが、皆さんすごく仕事ができる方ばかり。そういった皆さんと仕事ができているので、いい意味で予想外でしたが、ミスマッチは一切なかったですね。」

スタートアップを志す学生たちに「学びの場」を

そしてもう一つ、織田さんが主導しているのが、「STARTUP AFRICA ONLINE」「Founders!」などの学生向け起業支援だ。入庁から半年でいくつもの企画を実施した。

「個人的にもすごくうれしかったのが、これら学生向け起業支援に関しては、大枠の部分は決まっていましたが、自由な部分が非常に多く、構成や予算の使い方も裁量多く任せてもらえたことですね。」

一方で、学生起業は必ずしも成功確率が高いとは言えないだろう。その目的、狙いについても伺うことができた。

「この取り組みに関しては、直接的に起業家を増やすことはそこまで想定していません。神戸市は様々な学校があり、学生がとても多い地域でもありますが、学生の皆さんがそれぞれの挑戦や実践をしながら社会と接点を持ち、学び、成長する機会が増えることで、コロナ渦でもかけがえのない学生生活を送れる人が増えると思っています。ビジネスや起業について学び、実践したり、実際に起業家に会ったり、事業を推し進めるための仕掛けを、神戸市内外問わず色んな組織と連携して、後押ししていく土壌を作れたらと思っています。その結果、そのまま起業するにせよ、就職するにせよ、学生たちにとってはプラスですし、そういった学生時代を神戸で過ごすことで、長い目で見た際にまた神戸市にとってメリットもあると感じています。」

学生を対象としたプログラムを実施することには、長期視点でのメリットもあると織田さんは語る。

「たとえば、一度、東京や大阪で就職しても、何かのきっかけで神戸愛を持って帰ってきてくれるかもしれません。その時、また神戸で起業をしたり、イノベーションを起こしてくれる可能性も充分にあります。実際に今も、いずれ神戸のために働きたい、と思ってくれる人が多いと感じます。これもまた、神戸市の強みになると考えています。」

民間時代よりもプロジェクトは進めやすい。ただし…

続いて気になるのが、行政ならではの仕事の進め方、そして難しさについて。織田さんは笑顔でこう答えてくれた。

「よく“物事が進むスピードが遅いのではないか?” “お固い組織では?”と聞かれることが多いのですが、全然そんなことはなくて。その固定観念はぜひ払拭したいですね。本当にやりにくさを感じたことはありません。」

その理由について織田さんは「新産業課で働く半分以上が民間企業の出身者。受け入れに慣れている部分はあると思う」と補足してくれた。

「特にありがたいと思うのが、民間出身の方と、行政でずっと働いてきた方、それぞれとチームが組めることですね。民間の視点、公共サービスの視点、それぞれいただけるので、しっかり議論した上で腹落ちして進められている気がします。」

また、自身が感じる“民間との違い”についても伺うことができた。

「民間と大きく違うのは、お金にならないことにも積極的に取り組むことができ、それを多様な方々にサービスとして届けられるところだと思います。市民の税金を、市民の声をもとに、市民のために使う。と同時に、前例がないことも多いため、仮説を持ちながら柔軟性をもって実行と改善を繰り返す、そのプロセスもまた難しさを感じながらとても楽しむことができています。そういったプロセスを踏む中でも、「ここが課題だ」「この人たちに届けるべきだ」という意思をもって実行する必要があり、そういう意思を組みながら事業を設計できる環境もありがたいと感じています。とはいえ、私も任期付きですし、一人だけが熱量を注ぐモデルだと、組織変更や移動などがあった際に持続しないため、自走化・構造化された仕組みにする必要もあり、そこもまた、難しくもあり楽しくもある部分です。自分自身過去の仕事の経験からもこういった「構造」「仕組み」を作りたい思いが強かったため、本当にありがたい環境だと感じています。入庁1ヶ月目は正直焦りもありましたが、今では、「この3年をどう有効活用して、何をしよう?」をずっと考えています。」

そして現在、とくに感じているやりがいとは。

「自治体の立場の強みの一つとして、ニュートラルに大企業、スタートアップ、大学など様々な組織・団体と連携ができる点が挙げられます。自分の組織の利益のみを考えるより、街全体の視点に立って物事を考えられるため、土壌や仕組みを作る上では、行政という立場の方が進めやすいと感じます。」

もうひとつ、民間出身ならではの視点をプロジェクトに持ち込むことができるのも醍醐味のひとつだという。

「2022年2月に「ひょうご神戸スタートアップ・エコシステムコンソーシアム」の中でチャレンジャー交流会というイベントをチームで企画しました。当初、「コンソーシアム」と聞くと、固いイメージがあったのですが、コンパクトな街である神戸だからこそ、顔の見える関係を重視したく、あえてフランクな空気感を醸成し、企業担当者と学生が交流しやすくなるように企画しました。そうすることで非常に高い満足度を得ることができ、大企業とスタートアップや学生起業家の間でも、そのイベント後も協働に向けたやりとりも続くなどの効果も見られました。当然、こういった取り組みも、まずは仮説的に「やってみる」からなのですが、回数を重ねながら改善をし、また、たとえスグに結果が出なかったとしても数年後に何らかの縁につながるなど、芽が出たりすることもあるとも思っています。ただ、自分の任期が終わってから花が開くものもあるかも、とも思います。(笑)」

神戸市としても、スタートアップ支援は力を入れている事業領域の1つ。そこに携わることで得られることも大きいと織田さんは語る。

「市として、スタートアップ支援は主要施策として力を入れている部分。その分、いろいろなことを試すことができます。公金を使うため、当然制約もありますが、ドラスティックな挑戦や仕組み作りを求められていて、それらを少人数のチームで担当させてもらえるのは、とても大きな経験になっています。特に神戸に愛を持っている人だったら、自分の街を変えられる可能性を感じながら仕事ができるため、本当に楽しくてしょうがないと思います。」

「やりたい」を表現できる人を増やす、最強の伴走者に

そして取材の最後に伺えたのが、織田さん自身の仕事観について。彼にとっての仕事とはどういったものなのだろう。

「あくまで私個人の価値観ですが、今の自分にとっての仕事とは、“社会に価値を還元する真剣な遊び”であるといいなと思っています。もともと新卒入社した会社は、残業もほとんどなく、経営も安定しており、すごくホワイトな素敵な企業でした。ただ、私自身のスタイルとは合わず、雰囲気や仕事内容などでミスマッチを感じていました。その際、人と話したり会ったりすることが好きな私自身の個性を発揮できる場ではなかったことが一番大きなミスマッチの原因だったと感じています。そこから「自分の個性に会った表現」を求め、その後、海外を旅したり、アーティストとして活動をしたりする中で、全ての人がその人らしく、個性が発揮できる社会を目指すようになり、自分自身も常にそうでありたいと考えるようになりました。社会の役に立ちながら、お金がもらえて、自分も楽しい。世界全員が、ある意味、自分を表現できるアーティストになれる。そういった人たちを一人でも多く増やしたいですね。」

織田さんは、今、何のために働くのか。その原動力とは――。

「私はありがたいことに、今、すごく自分が幸せだと思うことができています。もうこれ以上の幸せを得る必要は無いとすら思います。(笑)これは、私自身が自分の個性に合った働き方(表現)をさせてもらっている、という要因が一番大きいと感じています。そして、おこがましいですが、このありがたい状況を一人でも多くの人に届けたいと思っており、ここが今の自分自身の原動力です。もっとひとり一人が、自分らしく自分を表現できる社会へ。そのために、内から出る想いを、起業というスタイルで表現をしている方々の後押しができる土壌を全力で作っていきたいと考えています。」

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