INTERVIEW
つくば市|ファンドレイジング推進監

つくば市で、持続可能な「新しい資金調達」を形に。2022年度「ファンドレイジング推進監」公募がスタート

毎年人口を増やし、全国的にも注目される茨城県つくば市。先端技術を駆使したサービスの社会実装を進める「つくばスーパーサイエンスシティ構想」などを推進する。そんなつくば市において今回実施されるのが「ファンドレイジング推進監」の公募だ。ふるさと納税やクラウドファンディングなど、新たな資金調達の形が生まれるなか「持続可能な資金調達」の仕組みづくり・推進を担う。一体どのような役割が期待されるのか。つくば市の特徴、課題、展望と共に五十嵐 立青市長に話を聞いた――。

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子育て世代も注目。人口増える「つくば市」

全国のなかでも、毎年人口を増やすなど注目を集める「茨城県つくば市」。転入・転出数値で見ても2021年は「4643人」の転入超過に。いわゆる一般市*において全国1位と「暮らしやすいまち」として人気ぶりが伺える。

*政令指定都市・中核市を除いた市

「横浜市、さいたま市など政令指定都市を含む、全体で見ても7位。この結果に対し、報道などでも“随分と健闘している”と注目いただきました。詳細な分析はこれからですが、コロナの影響で都市に対する考え方が変化する中、選ばれるまちになっている。そのことは率直にうれしく思っています」

こう答えてくれたのが、つくば市の五十嵐 立青(いがらし たつお)市長だ。つくば市がこれだけの人気を集める理由はどこにあるのだろう。

「つくばエクスプレス開業以来、駅周辺を中心に子育て世代が増加しており、“子育てしやすいまち”という一定の認知はいただいているかと思います。テレワークが定着するなか、都内へのアクセスも良く、評価された部分も。特に嬉しかったお声として、実際につくば市に引っ越しをしてきた方から「市としてコロナへの素早く、きめ細かい対応を見て移住を決めた」とおっしゃっていただいたこと。日々大変な状況のなか、がんばってくれている職員のおかげだと感謝しています。同時に、恵まれた自然、住環境、教育環境、アクセスの良い広域交通網など、様々な魅力がつくば市にはあります。子育て世代や意欲・アイデアのある人・企業などがどんどん集まっていただきたいですし、そのための環境整備をさらに進めていければと思います」

このようなつくば市において、2022年度「ファンドレイジング推進監」公募が実施される。同ポジションを公募する背景とは。市としての特徴、課題、展望と併せて五十嵐市長に聞いた。

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1978年生まれ。筑波大学国際総合学類、ロンドン大学UCL公共政策研究所修士課程、筑波大学大学院人文社会科学研究科修了、博士(国際政治経済学)。つくば市議を経て、2016年よりつくば市長に。「いがらしコーチングオフィス」代表として経営層にコーチングプログラムを提供。地域では障害のあるスタッフが働く農場を設立 (現在は代表退任)。マニフェスト大賞において2017年首長部門優秀賞受賞、2020年優秀マニフェスト推進賞受賞。

科学の街、つくば市の「スーパーサイエンスシティ構想」

はじめに聞いたのが、つくば市の特徴について。とくに「科学の街・国際戦略総合特区」として知られ、先端技術を活用した取り組みも活発だ。

「筑波研究学園都市があるつくば市では、最先端の科学技術を皆様の生活に活かし、それらを国内はもちろん世界にも発信していくことが使命だと考えています。その一環として、大学・研究機関、企業等と連携し、先端技術を活用したサービスの社会実装を進める「つくばスーパーサイエンスシティ構想」の実現を目指しています。この構想により、地域が抱える様々な社会課題の解決や市民生活の向上につながっていくことを期待しています」

実際にはどのような取り組みが進んでいるのか。具体的な例についても聞くことができた。

「例えば、インターネット投票における実証実験もその一つです。なぜ、これだけスマホやパソコンが普及しているのに、インターネットで投票ができるようにならないのか。そう感じる方も多いのではないでしょうか。そこでつくば市では、2021年、市内の学校において生徒会役員選挙に使ってみたところ、全国的に大変な反響がありました。若い世代は簡単に使いこなしていましたし、政治との距離を縮める意味でも非常にユニークな取り組みでした。インターネット投票に関しては、すでに技術的には可能だと示すことができた。一方で、公職選挙法の規定で現在は正式な選挙では実施できません。スーパーサイエンスシティ構想が国に認められれば規制緩和で実現にも近づけると考えています」

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最先端技術やアイデアを活用した製品・サービスの社会実装も活発に行なうつくば市。実用化に向けたサポート「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」も取り組みの一つだ。例えば、医療相談アプリLEBER(株式会社リーバー)は、同事業を経て実用化された。LEBERは、24時間・365日いつでもどこでも医師への相談・健康観察ができるアプリ。コロナ下初期に、同アプリを市立の全小中学校に導入。児童生徒の体温・体調管理をアプリ内に追加するなど、健康観察に役立てた。保護者の9割以上が活用しており、それまでアナログで行なっていた学校での健康観察の手間を減らすことに成功した。現在では、全国の学校で使われている。その他にも外国人患者が、医療機関側は症状を日本語で伝えられるデジタル問診「多言語対応デジタル問診票(Ambii株式会社)」も支援事業によって実用化されたものの一つ。言葉や文化による誤解を減らし、適切な診察が行われることに貢献している(※現在14ヶ国対応語)。

中心だけでなく、周辺地区にも活気を

住みやすいまち、そして、先端技術を特徴とし、注目を集めるつくば市だが、当然、課題もある。

「課題はたくさんあります。構造的な問題にフォーカスしてお伝えすると、もともとつくば市は、6町村の合併により誕生した市です。広い市域、生活圏の違いから、市全体の一体感が生まれにくい状況がありました。周辺市街地や、開発から年数が経過した住宅団地などでは、住民の高齢化、価値観の変化などにより、住民同士の関係性が薄くなり、地域のつながりが弱くなってきています。周辺地区でいえば、子育て、仕事などに課題を感じ、結果として中心地区へ若い世代が引越しが進む状況も。短期的には、まず周辺地区で現在起きている課題を直接的に解決する取り組みを始めています。そして、中長期的には、その人の流れを逆にしていく必要があります。ヒト・モノ・カネを中心地区に吸い寄せる「求心力」でなく、周辺市街地へ「遠心力」を働かせていく。周辺市街地での自主的な取り組みを、市が伴走する事業も進めているところ。同時に、土地の規制緩和なども行なうことで、周辺地区内で移住しやすい制度変更も進めています。そして、生業を持ち、地域の中で暮らしていく人を増やすために、食やアートなどの作り手も増やしていきたい。つくばでは自分の手仕事で暮らしていくスタイルを「クラフトライフ」と名付け、周辺地区でそのような活動をしたい人たちをサポートしており、このあたりも引き続き行なっていく予定です」

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既に行なっている取り組みの一つに「地区相談センター」がある。「例えば、地区相談センターという行政のあらゆることを相談できる拠点を作り、地域の細かい課題に対応できる仕組みを整えています。ちなみに各地の役場が合併して廃止をされた場所を再活用しています。相談内容としては、道路の修復、ゴミ処理方法の改善、空き家対策など様々です。また、より深刻な介護の悩みなども寄せられています。そういったご相談に対し、決してたらい回しにせず、職員が内部の調整を行なっていく。できることはすぐやり、できないことについてはその理由とともにちゃんと返事をする。ここを徹底しています」と語る五十嵐市長。

新たな資金調達の形を取り入れ、持続させていく

続いて聞いたのが、今回公募する「ファンドレイジング推進監」の役割とやりがいについて。期待されるのは「持続可能な資金調達」の仕組みづくり・推進だ。

「今回募集するファンドレイジング推進監は、「持続可能な資金調達」に特化した、比較的自由度の高い役職です。急速に広がっている「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)」や「ガバメントクラウドファンディング」などを活用し、市民や企業などからの寄附を想いや願いとして受け取り、それに応える事業で具体的な形にして返す。こういったことを含め、新しい資金調達の仕組みをつくり、推進いただければと考えています。また、管理職としての裁量権をもちながら、自ら積極的に行動し、新たなシステムを生み出すことができます。ここは非常に大きなやりがいとなるはずです」

そしてもう一つ、「ファンドレイジング推進監」に期待されるのが、共感を広げていく動きだ。

「既に社会的企業やNPO法人では、ファンドレイザーの存在は一般的です。その役割は、寄附を集めるだけでなく、組織が取り組む社会問題を幅広く発信し、共感を広げる重要な役割を担います。 今回募集する「ファンドレイジング推進監」も、寄附など新たな資金調達を定着させるだけに留まらず、その過程で自治体の地域課題や魅力を、様々な企業、機関、メンバーと連携して発信していくことにも大いに期待しています」

こういった公募プロジェクトも含め、つくば市役所組織も大きな変革の時を迎えているという。

「社会で次々に生まれてくる課題に立ち向かうためには、市役所も変わり続けることが大切です。従来の枠にとらわれない新しい仕組みを作る必要があります。そのためにも職員一人ひとりが、より主体的に職務に取り組む「主体性」、新しいものに挑戦する「革新性」、誰一人取り残さない「包摂性」を意識していく。ぜひ今回入庁される方にも期待したい部分ですね。当然、考えているだけでは変わらないので、私も各階層の職員と対話の機会を積極的に持つようにしています。直近、職員100人以上と話をし、組織のあり方について率直な意見を聞いたところです。市が目指すヴィジョンを改めて共有し、心理的安全性を高めていく。そうすることで、常に自由な意見を言うことができる、風通しの良い組織を目指しています」

理想とする社会へ。その歩みを一歩ずつ

そして最後に聞いたのが、五十嵐市長自身の仕事観について。

「私にとって仕事とは“理想とする社会に向かって一歩ずつ進むこと”だと捉えています。私は「誰一人取り残さない」包摂的な社会を目指し、市として数多くの施策を行なっています。ファンドレイジングと関連する部分では、あくまでも一例ですが、こどもの貧困の連鎖を断ち切ることを目的とした「つくばこどもの青い羽根基金」を作りました。多くのみなさんからこの基金にご寄付をいただき、事業を行なうことで、少しずつですが、居場所が見つかる子どもたちも増えてきました。こういった一つひとつがより良い社会につながっていく。そのための歩みこそ仕事だと考えています」

ただ、まだまだ理想の途上だと五十嵐市長は語る。

「筑波研究学園都市があるつくば市には、科学技術で市民を幸せにし、そのモデルを世界に向けて発信していく使命があると考えています。私は、“つくばを見れば、世界の未来の姿を見ることができる”、そういったまちを目指して「世界のあしたが見えるまち」というヴィジョンを掲げています。世界の目標であるSDGsの理念のもと、市民や議会、地域の事業者や関係機関と力を合わせ、前例にとらわれない柔軟な発想をもって「世界のあしたが見えるまち」をともに創っていきたい。本気でそう考えていますし、そこに加わってくれる仲間を心からお待ちしています」

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