INTERVIEW
さかなファーム|代表取締役社長 原 和也

水産資源の危機を救え!陸上養殖プラットフォームで世界へ、水産スタートアップの挑戦

掲載日:2022/03/11更新日:2023/04/07
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地球規模での水産資源の課題に挑むスタートアップが、さかなファームだ。2025年までに、日本国内で「養殖のプラットフォーム」を構築し、成功事例を武器に、海外へ挑むーー。さかなファームの「養殖プラットフォーム構想」とは?代表取締役社長の原和也さんに伺った。

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水産資源の枯渇、食料問題、地方創生…さかなファームが解決する課題

「世界の水産資源の3分の1が獲りすぎの状態にある」*

そう警告され、限りある資源を使いつくさないよう、何を選んで食べるか。そのモラルが問われる時代へ。

そういった世界的な水産資源の危機的状況、大幅にオーバーする天然資源供給の課題に挑む日本発ベンチャーが「さかなファーム」だ。

*国連食糧農業機関(FAO)参照

「海を休ませる」をキーワードに、2020年に設立。魚をつくる、商品を企画する、売る、この一連のサプライチェーン全領域でソリューションを提供していく。

彼らが構築するのは、養殖プラットフォームだ。

「最新技術やデータを駆使した生産管理、市場ニーズにもとづく商品企画、養殖魚ならでは魅力を発信するブランド戦略まで、全方位的にコンサルティングしていく。これが、我々が考える養殖プラットフォームです。既に、地方自治体からの依頼も多く、水産業の復興、観光資源の創出などに向けて動き始めています。国内での成功事例を積み重ね、2025年を目途に、養殖プラットフォームをグローバルへ展開していくことを見据えて動いています」

さかなファームが描く、「陸上養殖プラットフォーム構想」その全容とビジョン、代表の原和也さんの志を伺った。

さかなファーム06

原和也
コンサルファームを経て、2020年にさかなファームを創業。現在、CEOとCTOを兼任する。

プロを巻き込み、陸上養殖のプラットフォームをつくる

陸上養殖のプラットフォームとはどういうものか、教えてください。

簡単に言えば、魚を育てたい、商品を企画したい、売りたい、など、魚に関するどんな悩みにも応えていけるプラットフォームです。

とはいえ、養殖は専門的な知識も要する部分も大きいため、自社だけで全てできるとは思っていません。様々な魚のプロと連携しながら進めていきます。

既に、プラットフォームに必要なそれぞれの要素のプロトタイプはできており、「これなら価値が出せそうだ」というところまでは見えてきた。現在、プラットフォームに必要なコンポーネント(部品)を埋めていくイメージで、構築している最中です。

たとえば、養殖の生産性をいかに高めていくかでいえば、大学などの研究機関と手を組み、知見を借りながら一緒に考えていきます。陸上養殖の設備を作っていく上では、国内の大手製造会社と連携しています。

また、我々は売れる魚を狙ってつくっていくために、最初から「美味しさのゴール」を先に決めるようにしています。その味を決めるうえでは、味のプロである、有名レストランのシェフと連携します。一流シェフの方々に、魚を生産する段階から食べてもらい、「ここは改善した方がいい」といった風に試行錯誤していくんです。

このように、全てのレイヤーに網をはり、各領域のプロを巻き込んでいく。そのため、自然と各レイヤーから、データやノウハウが集まってくる環境になっています。

そのため、まずは当社にご一報いただければ、悩みに応じてそれぞれの領域の適切な人とつなぎ、協力しながら応えていく。たとえば、ソフトウェアのところはさかなファームが担当し、ポンプはA社が担当する、といった座組みをつくっていきます。

さかなファーム04

強みを持つ起業や人と提携して、養殖プラットフォームを構築していく。とくに、スターシェフネットワークには、ミシュランで星を獲得している一流シェフをはじめ22名以上が名を連ねる。「シェフはシェフの立場として、いい魚がどんどん手に入りにくくなり、価格も高騰している危機感を肌身で感じていらっしゃいます。こうした状況を、養殖を通じて変えていけるのであればと、我々の活動に共感し活動してくださっています」と原さん。

養殖で、地方の失われた観光資源も蘇らせる

どういった顧客からどのようなニーズが寄せられるのでしょうか?

顧客としては、自治体からベンチャーから大企業までさまざまです。

たとえば、大手企業から「新規事業として養殖事業を立ち上げたい」とお声がけいただき、いちから事業立ち上げご一緒することもあります。養殖のスタートアップから、「つくった魚をどう売っていくか相談に乗ってほしい」とご依頼いただくこともあります。

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左上は、関西電力と陸上養殖でつくった「幸えび」。左下は、サクラマスの養殖を手掛ける宮崎大学発ベンチャーSmolt社と共同開発した、金色のイクラを用いた「つきみいくら」。さかなファームは、販促・ブランディングに携わっている。右上は、さかなファームの自社ブランド「CRAFT FISH」と、中華料理人菰田欣也シェフと共同でプロデュースした究極のオイスターソース。

また、自治体に関していえば、どこも共通して、昔と比べて魚がとれなくなったという課題を抱えています。とくに港町の場合、水産業が基幹産業であるケースも多い。こうなると、必然的に養殖という選択肢が濃厚になってきます。

現在、問合せが殺到している状況です。実はまだ一度も、弊社側から営業をかけたことはないくらい、ニーズは多い状況です。

そこまで依頼が殺到しているのは、なぜなのでしょうか?

1つは、水産業はまだまだ現場の方々の経験と勘でまわっている部分が多く、ブラックボックスだからです。

ほかの産業と比べても、テクノロジーの導入、融合、活用が遅れていることもあり、よく探せば実は優れた技術者や会社はいるものの、ほとんど情報が公になっていない。

結果、自治体や企業の方々が「養殖をやってみたい」と思っても、どう始めたらいいのか、そもそも誰に相談したらいいかもわからない。そのため、「養殖」などのキーワードで検索して当社に辿り着き、問合せをいただくことが多いです。

もう1つは、我々は養殖業界の中で唯一といってもいい、魚をつくり、商品を企画し、販売するところまで寄りそうことができる存在だからです。

これまでも、「魚をつくる」という領域においては、いくつかプレーヤーが存在していました。たとえば、IoTで魚の状況をセンサリングするほか、育てるまでのフローを見える化することで生産を効率化していく、などのサービスです。

ただ、どんなに魚がつくれたとしても、それが売れて生産者が儲かっていかなければ、水産業は伸びていかないですよね。持続可能なサイクルをつくっていくためには、「つくる」にフォーカスしたサービスももちろん必要ですが、サプライチェーンで言えばより下流の「売る」ところまで含めて寄えるプレーヤーが不可欠。ここを手掛けているプレーヤーは多くなかった。そこで我々がやっていこうと思ったんです。

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静岡県の西伊豆町で、アワビの陸上養殖をゼロから立ち上げるプロジェクトが進行中。静岡県の西伊豆町とは、伊豆半島の中の西側に位置した港町。伊東、熱海などと比べアクセスが良くないことから、観光客が減少。町をあげて「地方創生」に取り組んでいる。「西伊豆町には養殖に関するノウハウが少ないため、我々でゼロから土地選び、作る魚の選定、設備の建設からご支援をしていくことになりました。伊豆一帯はかつてアワビの産地として観光も賑わっていたエリアです。今はとれなくなってしまったため、ホテルや旅館でも、外国産のアワビをわざわざ輸入して宿泊客に振る舞っている。そのため、アワビの養殖は有望な選択肢の一つです。失われた町の観光資源を養殖で作る、といったことも養殖にできることの1つです」と原さん。

2025年、世界で勝ちに行く

続いて、今後のビジョンを伺わせてください。

今後、日本人の人口が大きく増えないため、マーケットの広がりには限界がある。そこで、プラットフォームをつくりきり、システムをまるごと海外に展開していきます。連携企業も含め、全員で海外に進出し、全員で世界で勝ちに行く。

例えば、中東やアフリカのような食料自給率や生産環境に課題がある地域で陸上で魚を作りたいとなった時、丸っと“さかなファーム連合”が依頼を受ける。提携している企業と連携して、世界中で養殖のプラントを作っていく。こうしたことを描いています。

現状、日本では、世界と比べてリードしていると言える産業が少なくなってきていますが、「養殖」は日本が世界をリードしていける可能性がある、数少ない領域だと考えています。

なぜなら、管理された環境下で、小さな改善を積み重ね美味しい魚を作っていく「陸上養殖」は、日本人が古来から得意としてきた「ものづくり」と通ずるものがあるからです。

日本人のこれまでの魚食文化と、改善していくことが上手である点を組み合わせれば、世界をリードしていける産業となる。可能性は十分にあると考えています。

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現在、コンサルタント、エンジニア、デザイナーが在籍。バックグラウンドは、大手からスタートアップまで様々。生き物好きな点は共通しているという。「本当に何も無いところから命を生み出し、それが最後、人間の食べ物として届け、循環させていく。ここに携わることに興味をもてる方には、究極的に面白い仕事だと思います。ここは、すでにあるものを基盤に、デジタルでどう便利にしていくか、効率化していくか、といった二次産業、三次産業と大きく違う部分です。現在、従業員は5名ですが、22年末のタイミングで25名前後まで拡大していきます。さらに、マイルストーンにしている2025年までには、60~70名規模の組織にしていきたいと考えています」と原さん。

コンサルを経て起業。「地球のため」になる仕事に、脂の乗った時期を捧げたい

コンサルを経て起業したと伺っています。起業の背景には何があったのでしょうか?

1つは、もともとコンサルファームの経験が長く、様々な産業をみてきましたが、「魚」というマーケットには、可能性とやる意義しか感じなかったんです。

今後、AIが進化して働かなくてもいい時代がきた時にも、人間は食べることはきっとやめない。美味しいものの価値、美味しいものを作れる人の価値はどんどん高まると考えており、一次産業にはかねてから注目していました。かつ、水産業は農業などと比べると、テクノロジー導入の度合いなど、産業のステージが手前である。まだまだ立ち上がっていくタイミング。新しいプレーヤーが参入していっても、十分に闘える余地があり、ビジネスサイドの感覚としても有望だと感じました。

もう1つ、自分の手がける事業が、世の中のため、それこそ地球環境のためになる点です。こうした地球規模の課題に挑んでいけるフィールドは、そう多くはないはずです。

少し脱線するかもしれないですが、この仕事の意義は、子どもにも伝わります。私には12歳と6歳の子どもがおり、下の子は今幼稚園なのですが、「海の魚が減っちゃうから、パパはお魚育てているんでしょ」と、子どもなりに理解してくれているんです。

子どももわかる意義のシンプルさ、大きさ、共感が得られるという感覚は、なかなか他の産業や事業を作ってきたなかでは得られなかったもの。特別だなと感じ、仕事人生の脂ののっている期間を捧げるものとして「間違いない」、そう確信しました。

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美味しくて安心安全でサステナブルである。この3つが揃っているものこそ、今後100年、海を考えていくときに選ばれる魚である、というのが同社の考え。こだわり抜いてつくった魚を、自社ECブランド「クラフトフィッシュ」にて販売している。

最後に、原さんにとって原動力となっているものについて伺わせてください。

壮大とも言えるビジョンを掲げていますが、日々の原動力なり喜びで言うと、「目の前の魚がどう美味しく育ったか、それがどう高く評価してもらえたか」に尽きます。

養殖は人間の努力次第でいくらでもよくしていくことができます。それこそ、1年前にはシェフから厳しい評価を頂いていた魚が、1年間、生産者と共に作っていくと、ミシュラン2つ星のお店のシェフから「今まで食べてきたものの中で一番美味しい」と言われるようになった。こうしたミラクルを起こせたときは、本当に嬉しい。もちろん、大部分頑張っているのは生産者自身なのですが、多少でもそこに貢献できたということが嬉しいんです。広げている風呂敷は大きいので、1つひとつ積み重ねて、実態が伴うように成長していかなければ、という思いです。

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