INTERVIEW
株式会社Eco-Pork|代表取締役 神林 隆

2050年には食卓から豚肉が消える!? そんな未来をテクノロジーで変える「Eco-Pork」の挑戦

掲載日:2022/10/24更新日:2022/10/25
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しょうが焼き、角煮、サムギョプサル…こうした豚肉料理が近い将来、食べられなくなるかもしれないーー「世界の人口増加、新興国の経済発展に伴い肉の消費が増えておりミートショックが起きると予測されています。近い将来、豚肉も先進国では食べられなくなるかもしれない」こう語るのが、株式会社Eco-Pork代表の神林 隆さん。畜産業のなかでも養豚に着目し、テクノロジーの導入によって採算効率や資源効率の向上、ひいては食肉文化が尊重される未来の創出に挑む。世界規模の課題解決に挑む、彼らの挑戦に迫った。

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「肉を食べる文化」が尊重される未来の選択肢を創るために

「豚肉が食べられなくなるかも」というのは非常にショッキングでした。まずは、食肉を取り巻く現状から伺いたいです。

今、世界的に人口が増えており、2050年には約100億人規模になると言われています。かつ、中国や東南アジアなどの新興国では、経済発展に伴って肉の消費が増えている。需要の拡大に、供給が追いついていない状況です。

さらに、SDGsの観点で言えば、豚をはじめとした家畜は環境負荷が高い生き物と言われています。実際、豚の場合、全世界の米生産量の1.3倍もの穀物(トウモロコシなど)を食べています。人口が増えれば、肉はおろか、穀物の量も賄えなくなっていってしまいます。

そのため、2040年には従来の畜産はマイナーになり、大豆肉や培養肉などに取って代わられていくといった見方が強い。とくに先進国から、こうした動きが進んでいくと言われています。最近では、昆虫食なども注目を集めていますよね。

こうしたトレンドがあるなかで、Eco-Porkではどういったスタンスで臨んでいるのでしょう?

大豆肉や培養肉など、「肉を食べない文化」はもちろん尊重されるべきですが、僕らとしては、同時に「肉を食べる文化」も尊重される未来があっていいのではないか、と考えています。

大豆肉、培養肉が主流の世界になっていけば、極端に言えば「肉を食べるなんて野蛮なこと」といった価値観が近い将来、メインストリームになっていくとも考えられます。でも、それは文化としての余白がないし、豊かさに欠けると思っていて。2050年も「肉を食べたい」と堂々と言い続けられる未来をつくりたくて、この会社を立ち上げました。

エコポーク代表01

代表取締役 神林 隆
東京理科大学工学部でサーチエンジン(AI)開発を学ぶ。国際協力NGOに所属し環境問題や食糧問題に取り組んだ。卒業後、約10年コンサルタント会社(Capgemini Ernst & Young Consulting)に勤務したのち、米ミシガン大学でMBA取得。2014年に2社目となるコンサルタント会社に入社。通信や自動車、製造業の領域において統計解析・AIを活用した新規ソリューションの開発に従事。2017年(平成29年)11月29日(ニクイイニクの日)にEco-Porkを創業。

市場規模は世界40兆円。「養豚」に見出したビジネスチャンス

畜産領域のなかでも「養豚」に注目された背景について伺いたいです。

まず、なぜ畜産領域だったかで言えば、野菜や魚などの肉以外の食料は生産がアップデートされてきましたが、畜産の領域には生産プラットフォームがなかったからです。

野菜なら、どういう風に葉緑素に光を与えたらいいか、最適なCO2濃度はどれくらいか、どういった温度なら成長するか…こうしたことを1つひとつ科学していった結果、「植物工場」という生産プラットフォームができました。魚に関しても同様で、本来魚は海の中で育つところを、人間が科学した結果「陸上養殖」ができるようになりました。

一方、畜産の領域は、長年農家さんたちの経験によって成り立ってきており、植物工場や陸上養殖ほどの生産プラットフォームがなかったんです。

なかでも特にテクノロジーの導入が難しかったのが、「養豚」の現場です。

牛の場合は、2000年代に発生した狂牛病問題を機に、トレーサビリティが重視されデジタル管理の義務化により多くのスタートアップが参入しています。また、一般的に一人の農家さんが数頭~数十頭を育てていることが多く、頭数が少ないため個体管理ができる範囲内なんですよね。鳥に関しても、数百羽を1グループとして管理するため、牛と同じく個体管理に近い考え方でデジタル化が進んできました。

しかし、豚の場合は、1つの農家さんで、数百頭~数千頭を管理していることが多い。個体管理しようと思えばできるけれど実行するには骨が折れる、という絶妙な頭数。そのため、デジタル化することが難しく、導入が遅れている領域になっていたのだと思います。

実際、養豚をアップデートすると、どれくらいのインパクトが見込まれるのでしょうか?

実は養豚市場は、米や小麦をおさえて「農業で一番大きい産業」です。その市場規模は、世界で40兆円、ハムやソーセージなどの加工肉を含めれば100兆円規模になります。

僕らは、養豚の現場にDXの概念を持ち込むことで、40兆円産業を持続可能なものにしたい。これは、経済的にも大きな意味があります。また、テクノロジーでメスを入れることで、いまよりも生産効率が上がるので、ミートショックを回避できる。さらに、データで管理できるようになれば豚が食べる餌の量も減らすことができ、養豚に使っている穀物の30%を人間の食料にまわすことができるようになります。

世界規模の大きな課題を解決していくと同時に、大きなビジネスチャンスにもなると考えています。

エコポーク工場

年率7%売上アップ!養豚経営システム「Porker」

具体的にどうやって解決していくのでしょう?

養豚農家さんに対して、ICT、AI、IoTの技術を駆使したサービスを提供することによって、生産性や資源効率のアップに貢献していきます。

例えば、養豚経営システム『Porker』を使えば、畜産の既存プロセスをICTでデータ化し、餌・水・温度などの飼育環境データをIoT機器で取得できる。さらに、蓄積したデータをAIで分析し、最適な生産体制を構築できます。

僕らは、養豚の未来のためなら、なんでもつくろうというスタンス。アプリから、IoT機器、ロボットまで、あらゆる製品を自社で開発しています。

養豚の領域で、ICT、AI、IoTを三位一体で連動させて解決していくアプローチをとっているのは、当社ぐらいのもの。

2022年4月に約6億円を調達したのですが、まさに世界の畜産課題に挑むダイナミックさ、課題解決のためなら何でもつくるという姿勢、実際にやり抜くだけの技術力を持っていること。ここが投資家の方々にも期待を寄せてもらっている理由にもなっています。

エコポーク(豚データ)

ICTで豚の体重データを把握できれば、給仕の量、タイミングなども管理でき「科学」できるようになる。「養豚とは、いわばたった1kgで生まれた豚を180日で120キロまでボディビルする産業です。世界で年間15億~18億頭が生まれていて、一頭一頭、豚の状況に応じて餌水環境とか整えるのは不可能。ただ、人間と同じように、パーソナルトレーナーがつけば、無駄なものは食べなくなり、筋肉は増える。これは豚でも証明されています。簡単にいえば、僕らはパーソナルAIトレーナーと、豚の樹夫興を監視・餌・水・温度などを制御する自動化パッケージを開発しています」と神林さん。

農家の方々の高齢化問題もよく耳にします。新しい技術に抵抗がある方も多いのではないかと推測するのですが、実際、現場のみなさんの反応はいかがですか?

結論から言うと、一度導入いただけると、案外幅広い年齢の方々に活用いただけています。

息子さん・娘さんの世代に代替わりされている農家さんは最初からスムーズに導入いただけるのですが、養豚農家さんの平均年齢は60歳前後。ITリテラシーが高い方ばかりではないので、60代~70代の社長のなかには「タブレットの使い方なんてわからない」とおっしゃる方もいます。

ただ、最初は「俺は使わないけど、若手には使わせます」と導入いただいた農家さんも、3ヵ月後に訪問してみると、案外社長も使っていてくれたりします。『Porker』は、手書きで数字をデータで読み込むことができるので、タブレットやスマホを使ったことがないといった人でも使いやすいんです。

また、反響でいえば、「年率7%売上があがった」という声もいただいています。 養豚農家の平均売上高が2億円くらいなので、毎年約1400万円の売上げが上がっている計算になります。お陰様で、口コミを中心にシェアをとっていくことができています。

エコポークグラフ

Eco-Porkは、農林水産省が主催するスマート農業実証プロジェクト「データ活用型スマート養豚モデルの実証」に実証開始当初から参画している。2022年7月には、生産頭数13.8%(売上換算7,980万円)の向上を支援した。「国からのお墨付きがあることも、農家さんに興味をお持ちいただける理由の1つです。今後も実証実験には参加していきます」と神林さん。

豚肉の未来について、社会に問いたい。

今後、サービスとしてはどういった展開を考えているのでしょうか?

まず一丁目一番地としては、2023年を目途に、養豚に必要な全ての機能を統合、パッケージ化して、提供していく。植物⼯場畜産版「DX豚舎」を構築し、⽣産性、資源効率、持続可能性を⾼めていこうと考えています。

現状の単体販売をする場合、農家さん自身が「どこに温湿度センサーをつけようか」「どこで餌管理をしようか」と迷われてしまうことも多いと思います。そのため、全てのサービスを丸っとパッケージ化し、管理画面さえチェックしておけば全て管理できる状態にする。ここを実現することが、キャズムを超え、サービスをもっと普及させていくための試金石になると考えています。

さらにその先には資源循環型の養豚農業全体を作っていこうと構想しています。

そのためには、そもそも一般の人々に「豚肉が食べられなくなるかもしれない」という認知を持ってもらうことも重要そうですね。

はい。まだ多くの人が「豚肉が食べられなくなる」とは思っていないのが現状だと思います。我々としても、投資家だけでなく一般の方々にも危機感を共有していくことは、社会課題を解決するスタートアップとしての使命でもあると考えています。

世の中に対して、「培養肉などしか食べない未来、培養肉も食べるし肉も食べる未来、どちらを選びますか?」「畜産も社会課題が解決できる形で残していくなら、残してみる選択肢も悪くはないと思いませんか?」と問いかけていきたいんです。

もちろん、僕らは植物肉を100%にしたい、という人たちを否定する気は全くありません。ただ、食肉文化を残す未来を求めるならば、少なくとも僕らの存在を認知してほしいという思いです。

エコポーク代表2

前人未踏の挑戦。「小さな世界一」を毎日積み上げる喜び

もともと、神林さんご自身はコンサル2社を経験されたと伺いました。起業の道を選ばれたきっかけは?

技術を「人類の豊かさ」のために使いたいと思ったのがきっかけです。

前職時代、AIの新規ソリューション開発に携わるなかで、ほとんどの事例が、人工知能を最適化社会のために、人間の業務効率化のために使っていると気付いたんです。

もちろんそれも必要なんですが、「全ての業務が効率化した世界で、人類は何したくなるのか」と考えたとき、おそらく人生を豊かにするためにテクノロジーを使っていく方向にシフトすると考えました。

さらに、人生を豊かにするものとは何か、と考えたとき、自然社会、農業社会などの領域に技術を使うと良さそうだな、と。

僕自身、そのときまで養豚への興味・関心はなかったのですが、調べれば調べるほど一生かけてもいいと思えるくらい面白く奥深い領域だと思いました。加えて、丁度子供が生まれ、食肉文化を未来に残してあげたいという想いも芽生えました。

誰もやったことのない領域が目の前にあり、かつ自分には技術への知見もある。やらないで後悔するよりやって後悔しよう、と起業しました。

ニッチな領域で難易度の高い挑戦をしていくなかでは、壁にぶつかることもあると思います。神林さんご自身は、そういったときどう仕事に向き合っているか、最後に伺わせてください。

働いていれば、当然困難な場面はあります。ただ、僕自身はあまり苦労とは感じていないです。

世界で誰もやったことがない領域に、日々取り組めている楽しさの方が勝っているから。「小さな世界一」を毎日積み上げていくようなワクワク感があります。

また、冗談のように聞こえるかもしれませんが、僕の場合、たとえ悩みがあっても、美味しい豚しゃぶ食べているうちに気付けばすっかり元気になっている、ということはあって(笑)。この記事を読んでくれている方のなかにも、美味しい肉を食べたとき、「あぁ幸せ」「よし、明日も頑張ろう」と思ったことがある方はきっといるのではないでしょうか。

僕は、肉にはリフレッシュできる力があると本気で思っているし、力をもらう度に、「このために頑張ってるんだもんな」と感じます。こうした幸せが未来にも続くように、走り続けていきたいですね。

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