INTERVIEW
グリラス|代表取締役社長  渡邉 崇人

食用コオロギで、世界の飢餓や栄養不足を解決へ。徳島大学発スタートアップ「グリラス」の挑戦

タンパク質危機、食品ロス…こうした世界の食料問題に、食用コオロギで挑むのが、グリラス。コオロギ研究において世界トップレベルである徳島大学発のスタートアップだ。同社は、新たなタンパク源としてコオロギに着目し、食用コオロギの一般化に挑む。食用コオロギの可能性、ビジョンについて、代表の渡邉崇人さんに伺った。

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2025年、世界の昆虫食市場は1,000億円規模に。

「今後30年で世界人口は20億人の増加が見込まれ、急激な人口増加に伴う飢餓や栄養不足などの食料問題が予想されています。特に「タンパク質危機」と言われる動物性タンパク質不足が深刻です。一方で食料が足りないといいながらも食料を廃棄している食品ロス問題という矛盾も起きています」

こう語るのが、グリラスの代表の渡邉 崇人さん。

渡邉さんは、コオロギ研究において世界トップレベルと言われる徳島大学にて、現役で大学講師、研究者として働きながら、2019年にグリラスを設立した。

「僕はコオロギの研究をして今17年目。ラボとしてはコオロギの研究を30年しています。もともとは、生物学的にどうやってコオロギの形が出来てくるのかを遺伝子に着目して研究していたのですが、研究するなかで、コオロギをもっと社会に役立てられるのではないかと考えるようになって。2013年にFAO(国連食糧農業機構)が、昆虫を食用としたり、家畜の飼料にしたりすることを推奨する報告書を公表したことで、「昆虫食」が世界的に注目されてきたタイミング。これまで研究してきたコオロギを食用として、新たなタンパク源として捉えていく方向にシフトしました。我々は、コオロギを使って、タンパク質危機、それから食品ロスの問題解決に挑んでいきます」

2025年、世界の昆虫食市場は1,000億円規模(*)へーーこうしたなか、コオロギの研究・生産・加工までを一気通貫で行なうグリラス。同社が挑む、コオロギを使ったビジネスの可能性、事業ビジョンに迫った。

(*)世界の昆虫食市場 2025 年に 1,000 億円規模に |日本能率協会総合研究所
http://search01.jmar.co.jp/static/mdbds/user/pdf/release_20201221.pdf

グリラス02

代表取締役社⻑ 渡邉 崇⼈
徳島県生まれ。2013年に徳島大学大学院博士後期課程修了後、徳島大学農工商連携センター特任助教などを経て現在は徳島大学バイオイノベーション研究所 講師としてグリラスと二足の草鞋を履く。2019年にグリラスを創業。社名「グリラス」は、フタホシコオロギの学術名である「Gryllus bimaculatus」に由来。学術研究を基盤に、常にコオロギのイノベーターであり続けるという強い決意が込められている。

グリラス(図)

【コオロギに秘められたポテンシャル】

※一般的な家畜の代表例である牛と比較

◆少ない量の餌で効率的に育てられる
1kgの可食部をつくろうとしたとき、牛であれば約25kgの餌が要るが、コオロギの場合は大体1.7kgの餌で済むため、効率よく育てることが可能。

◆温室効果ガスの排出量が少ない
牛のような反芻動物は、消化の過程で胃のなかで発酵させる工程があり、多くのメタンガスを排出する。牛が吐き出すげっぷに含まれるメタンガスは、全世界の温室効果ガスの約18%を占めるとも言われている。コオロギは、消化の際に発酵などを経ないため、温室効果ガスの排出量が少なく、環境負荷が低いと言われている。

◆人間が食べなかった食料ロスを餌に育ち、人の食料になる「サーキュラーフード」
牛の餌は、小麦、トウモロコシ、大豆など、人間の食料と拮抗している。つまり、人の食料を食べた牛を人間が食べることでタンパク質をとる、非効率な構図になる。一方で、グリラスでは人間が食べられなかった農業残渣(例えば、玄米を白米にするときにでる削りカス、小麦粉をつくるときにでる削りカス、油をとったあとの絞りカス、大豆を収穫する際人が食べない葉や茎など)のみをコオロギの餌にして育て、そのコオロギを人の食料にしていく。他の昆虫と違い、コオロギが「雑食」であるからこそ、実現できる。

良品計画と共同開発。広まりつつある、サーキュラーフードとしてのコオロギ

コオロギは地球環境にやさしい新たなタンパク源。とはいえ、いざ食べるとなるとまだ抵抗ある人も多いだろう。果たして、グリラスでは、どのように一般化を進めようとしているのか。

「まず、一番大事なのは、絶対的に高品質なものをつくることです。罰ゲームとかネタではなく、たまたま食べた人が隣の人に思わず薦めたくなるような美味しい商品をつくらなければならない。

僕個人の意見ですが、とくに食の領域は信頼できる人・組織のレコメンドが非常に重要な領域だと思っています。たとえば、ナマコやタラの白子など、一見グロテスクな食べ物も、多くの人は好んで食べますよね。なぜ食べるようになるかというと、親や先輩など、信頼できる人から、「騙されたと思って食べてみなよ」などと薦められて食べたら美味しかったからだと思うんです。そういった意味では、食用コオロギを一般化していくための具体的なアプローチとして、信頼度のある料理人にレコメンドしてもらったり共同開発をしていく。企業とのコラボをして商品をつくっていく、といったことが挙げられると思います」

その一つの示唆になる事例として、同社が2019年に良品計画と共同開発して話題となった「コオロギせんべい」をあげてくれた。

「良品計画さんはもともと「サステナブルな暮らし」という考えを大切にされている企業。「地球のことを考えて、コオロギで食品を作りたい」とオファーをいただき、2019年の創業当初に共同開発させてもらいました。これを機に、爆発的な反響をいただき、大きく風向きが変わりました。

あらゆる企業が新規参入してマーケットとして盛り上がってきているということに加え、世間の人々のなかでのコオロギに対するネガティブなイメージが和らいできたと感じています。

僕はコオロギの業界に長いこといますので、それまでコオロギの基礎研究を行なうなかでは「うわっ、コオロギの研究してるの…?」という反応はたくさんありましたし、「コオロギを食用にする」と宣言した際も「何考えてるの?」という反応を常々いただいてきた。そういった批判的なムードしかなかったんです。ただ、無印良品でコオロギパウダーを使った食品が販売されたとなると、人々のなかで「これからくる次世代の素材なんだな」という認識が生まれつつあるんです。このように、信頼されている企業などとの共同開発などを繰り返していくことで、一般の方々にリーチしていけるのではないかと考えています。

もう1つ、自社でも商品を開発・販売しています。直接消費者に届けて、その動向、嗜好性を見ています。こうしたデータは、btobのメーカー、食品メーカーの人たちへの営業資料にもなるはずです」

グリラス(無印)

無印良品で販売されている、「コオロギせんべい」と「コオロギチョコ」。グリラスで製造するコオロギパウダーを使用している。

グリラス(自社ブランド)

”食用コオロギ”のパウダーを使用した、自社開発の食品ブランド。

そして、今後、大量生産に向けた投資を加速させていく。

「現状、食用コオロギ自体、まだ流通量も少なく、希少で高価な食材です。これでは、まず手に取ってもらうハードルが高いと考えています。そこで、当面は赤字になったとしても、まずは大量生産を行なう部分に投資し、先に値段を下げてマーケットを拡大させていくことが大事だと考えています。利益は後から回収していく。リスクをとってでも先行投資を行なっていくことが、急成長につながると考えています」

高い山を超えていく、そのうえで重要になるのがチームビルディングだ。

「大量生産における品種改良など、課題はたくさんありますが、何より今重要だと思っているのは、チームビルディングです。あらゆる課題は、仲間が集まってくれば突破できると思っています」

グリラス03

2021年は3人だった組織は、2022年5月現在24名まで拡大。さらなる事業拡大に向け、コーポレートをはじめ、マーケティング、生産管理などを募集している。コオロギを扱うマーケティング、生産管理の仕事について渡邉さんはこう語る。「マーケティングでいえば、そもそもネガティブなイメージからのスタート。非常に難しい挑戦にはなると思いますが、ある意味、コオロギを売れたらなんでも売れるようになるはず。生産管理についても進めるなかでは当然コオロギに特化していくポイントはあると思います。とはいえ、いずれも根本の考え方から新しくしないといけないわけではない。これまで蓄積した知見を活かし、コオロギを扱ううえでベストな方法をご自身のなかで探して落とし込んでいただければと思っています」

世界の飢餓地域に、サステナブルなタンパク源を届ける

続いて伺えたのは、中長期的なビジョンについて。

「日本だけで広めて終わりではありません。我々が目指すのは、世界の飢餓地域にタンパク源を届けること。我々の持つ、コオロギの生産パッケージを輸出していきます。そこにコミットできなければ、究極、この事業を行なう意味はないと思っています。そもそも、タンパク質危機とは言われますが、日本ではせいぜい肉類などの値段が上がる程度だと思っていて。当然、買えない人が出てくる可能性があるというのは問題ではあるのですが、本当の危機に陥るのは世界の途上国です。現状でも飢餓に苦しんでいる地域はある。そこに対して、新たなタンパク源としてコオロギを届けていく。これこそが、グリラスの使命であり、大学講師としての使命でもあります」

既に、海外での調査は開始しているという。

「途上国は、インフラ整備が不十分であるために食料が腐ってしまう等の食品ロスが非常に多い。コオロギの餌となるものは豊富にあるはずです。我々自身がファームを運営するかもしれないし、現地のパートナーと共にファームを構築していくかもしれない。具体的な方法を決めていくのはこれからですが、近いうちに実行に移していきます。また、途上国は飢餓地域に距離的にも近いケースが多いので、途上国にファームをつくり、そこを起点に困っているエリアに送り届けるといったことにも取り組めればと構想をたてています」

「コオロギは社会の役に立つ」と証明したい

取材は終盤へ。伺えたのは、渡邉さん自身について。コオロギに関心を持ち、現在に至るまでの経緯とは?

「よく昔から昆虫博士だったと思われがちですが、実はそうではないんです。きっかけは、大学4年生で研究室を選ぶとき。7つの選択肢があったなかで、当時の僕は、「様々なところで行なわれていそうな研究じゃ面白くない、尖った研究をしているところに入ろう」と思ったのが始まりでした。生物学的にコオロギの研究をしていくのは楽しく、大学院に進み、博士号も取得しました。ただ、研究を進めるなかでは、一般の方々だけでなく研究者仲間からも「その研究は何の役に立つの?」と言われ続けていました。予算を獲得できなければ研究を続けていくことすらできない。そうなったときに、社会に役立てる方法として、新たなタンパク源として一般化させていこうと思ったんです。もともと実家が飲食事業を経営していたこともあり、会社経営が僕の中で遠い話ではなかったので、起業しようと思いました」

最後に、渡邉さんにとって仕事とは?

「遊びであり、趣味に近い。日々、本気で遊んでいる感覚です。もちろん、事業を進めていくなかではいくつもの壁にぶちあたり、きついことは多い。でも、そのきつさすらも楽しいんです。部活も、やりたいからやってるけど練習はきついですよね。それと似ているかもしれません。これからも本気で遊んでいきたいし、学術研究を基盤に、常にコオロギのイノベーターであり続けたい。

今後は、IPOも見据えています。サイエンスに対するリスペクトがある方、ロジカルで語れる方、一見無理と思えそうなことにも果敢に挑戦していける方、サステナブルな観点で物事を考えられる方。そういった方と、ぜひ事業をつくっていけると嬉しいですね」

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