INTERVIEW
QPS研究所|代表取締役社長 CEO 大西俊輔

36機の人工衛星で準リアルタイムなデータ取得を。前人未踏、九州大学発宇宙ベンチャー「QPS研究所」の挑戦

掲載日:2022/08/26更新日:2022/08/26
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2022年8月現在までの資金調達額は累計約82.5億円、日本国内のみならず、世界からも注目される九州大学発宇宙ベンチャー「株式会社QPS研究所」。今後、36機の小型SAR(合成開口レーダー)衛星を打ち上げ、2025年以降には任意のエリアの準リアルタイム観測データの取得を目指す。この挑戦は前人未踏、世界でもまだ類がなく、地球観測の新たな可能性として期待される。いかにしてその未来を現実のものにしていくのか。代表である大西俊輔さんの志に迫った。

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世界中ほぼどこでも任意の場所を10分間隔で観測。QPS研究所の小型SAR衛星がもたらすインパクト

「今地表で何が起きているのか、必要な時に全てを見ることができる世界になれば様々な問題が解決できるようになるのではないか」

こう語るのが、九州大学発宇宙開発ベンチャーQPS研究所の代表取締役社長 CEOである大西俊輔さんだ。

同社は、独自に開発したパラボラアンテナを搭載した小型SAR衛星を36機打上げ、地球を取り囲むように配置することで、地球のほぼどこでも任意の場所を平均10分間隔で観測データを提供できる「準リアルタイムデータ提供サービス」のプロジェクトを進めている。

※SAR衛星とは
Synthetic Aperture Radar=マイクロ波を使用して地表の画像を取得する、合成開口レーダー。雲や噴煙を透過し、昼夜を問わずに観測することができる。

このプロジェクトが実現すれば、好きなところを約10分以内に、もしくは10分間隔で定点観測ができるようになる。

これにより期待されるのが、

・災害時には即時に状況を確認し、早期の被害把握ができ、対策立案、人命救助の対応を迅速にできるようになる
・リアルタイムに道路の情報を取得することで、完全な自動運転に近づく
・道路の混雑状況を把握でき、既存のマップサービスなどとデータを掛け合わせることでサービスの利便性が向上する

など。

今までにない、高頻度での広域の観測を可能とするSAR画像データサービスへの注目度は高まっており、その取引先には、九州電力などのインフラ企業、保険会社、データ解析ビジネスを行う企業をはじめ、様々な企業が名を連ねる。

2019年に1号機、2021年に2号機を打ち上げ、実証フェーズを終えた同社。

「いよいよ2022年度内に36機のうち一つ目となる3号機から、そして年度内に6号機まで、4機のSAR衛星を打ち上げ、データ販売事業を本格的にスタートしていきます。ここからが本当の勝負です」

同社の挑戦に迫った。

QPS研究所03

代表取締役社長 CEO 大西俊輔
九州大学大学院航空宇宙工学専攻博士課程修了。大学在籍時の2008年5月から現在まで、十件超の小型人工衛星開発プロジェクトに従事してきた小型衛星開発の第一人者。

小型SAR衛星の持つポテンシャル

36機もの小型SAR衛星を打ち上げ地球を取り囲むーーそのユニークなアイデアの背景には、これまでの観測衛星が直面してきた、大きく2つの課題がある。

1つは、現在主流の「光学衛星」は、いつでも好きな時に確実に地表を観測することは難しいという点だ。

「光学レンズを用いて撮る光学衛星は、光のない夜間や雲がかかる天候不良時には地表を観測することができません。実際、2016年の熊本地震は夜間に発生したため、地表の観測は朝になるのを待たなければなりませんでした。しかし、SAR衛星なら、時間や天候に左右されず、常に地表のデータを観測できる。もし夜中に地震が起きたとしても、どこの道が通れて、どこが通れないか、といったデータをもっと早く取得することができる。人命救助にも役立てられるはずです」

もう1つの課題が、“データ観測頻度の低さ”だ。

「データ取得したいタイミングに、その場所の上空に衛星がなければ、観測することはできないんです。実際、データを解析している方々に聞くと、これまでは衛星データが届くのはおよそ2週間に1回、多くても1週間に1回。こうした頻度でしか取得できないデータでは、他のデータと組み合わせて将来予測や解析することが難しい。そのため、衛星による観測データの活用はあまり進んでこなかったんです。しかし、地球を取り囲むように36機の衛星を配置できれば、地球上のあらゆる場所を10分間隔で、つまり準リアルタイムで観測できるようになる。ひいては、色々な場面での衛星データの活用を飛躍的に拡張できると考えています」

QPS

SAR衛星は、世界でも数が少ない。特に100kg台の小型レーダー衛星を開発し、宇宙に打ち上げ、データを取得・販売している民間企業は世界でも同社を含め4社のみ。同社の小型SAR衛星を使った、前人未踏のプロジェクトは、世界から注目されている。

「軽量」かつ「70cm分解能」を実現する技術力

とはいえ、36機もの衛星を打上げるとなれば、気になるのがコストだ。

「SAR衛星は、普通にカメラで撮るのと違い非常に多くの電力を使うため、これまでは大きくならざるを得ませんでした。大型だとどうしても開発コストがかかり、ロケットで打上げる費用もかさむため、1機あたり数百億円はかかります。まして、30機以上つくろうと思えば、それだけで数兆円規模のお金が必要になってしまう。これは現実的ではありません」

同社は、こうした課題を技術力によって突破した。

「QPS研究所で小型SAR衛星をつくるためにかかるコストは、数億円です。従来の大型と比べて20分の1の100kg台まで小型化することで、大型SAR衛星の価格の約100分の1でつくることができます。つまりQPS研究所の小型SAR衛星であれば、大型SAR衛星を1機つくる予算があれば、およそ100機の衛星をつくることが可能。コストを抑えることで、大量生産を可能にしました」

さらに驚くべきは、その性能の高さ。同社のSAR衛星は、宇宙からにも関わらず、地表のわずか70cm四方のものまで判別できるという。

「2021年5月、小型SAR衛星(2号機)により分解能70cmでの画像取得に成功しました。分解能70cmとは、1ピクセル70cm四方単位で画像化したもの。SAR衛星で100kg級、常時分解能1mレベルの開発を実現できたのは、世界の宇宙業界にも大きなインパクトを与えました。SAR衛星は、大型のものでも有償では分解能1mのものもありましたが、無償では分解能5m、10mのものが使われてきました。そのため、これまではSAR衛星のデータの活用方法は、写真のように画像化して見るというよりは、なにかモノがここにあるかないかといったことがわかる程度の活用に留まってきました。そうした中、QPS研究所のSAR衛星であれば、なにがどこにあるかまで視覚的にもわかるようになってきます。これは大きな進歩であり、実際投資家の方々からも評価いただいているポイントでもあります」

QPSパートナー企業

そして、こうした同社の技術力を支えているのが、北九州を中心とした全国25社以上のパートナー企業だ。

「衛星をつくるうえでつくづく感じるのですが、つくりたいと考えているものと最後につくるものは別物なんです。衛星をつくるうえでは、理想ばかりいうのではなく、現実的に実現できるものにしなければなりません。そこで大きな力を発揮していただいているのが、地場企業の方々です」

その関係性は、単なる“発注元と受注先”ではない。

「QPS研究所の開発方法の大きな特長として、設計段階からパートナー企業と共に議論しながら進めていきます。議論の中で、こういった問題があるから、改善しないといけないと話すと、こうじゃないとつくれない、こうすればできるんじゃないかなどアイデアをその場で色々いただけます。そして、つくりたいと考えているモノに対し、本当にできるモノが見えてくる。結果として手戻りが少なく、短期間に開発することができます」

実際、2019年~2021年には実証フェーズで1号機、2号機を打ち上げたが、開発から打上げまでのスピードは、業界関係者も驚く速さだったという。

QPS研究所01

今後、市場のニーズに応えていくためには、衛星開発はもちろん、データの販売、会社経営に至るまでさまざまな分野が必要不可欠。経営企画、PR、品質管理、機械設計エンジニアなど多様なポジションで採用を強化している。新メンバーに求めるのは、「この分野では絶対に他に負けない」という強みを持つ方。決して宇宙分野のバックグラウンドが必要ではない。実際、現在働くメンバーも、大手電機メーカー、自動車メーカー、アパレルなど、多様な業界の出身者が活躍している。

九州から、宇宙の可能性を広げ人類の発展に貢献したい

実証フェーズを経て、2022年度中に3~6号機の打上げ、そして2025年以降には36機を使って観測できる状態を目指す同社。その先には、どういったことを見据えているのか。

「目指しているのは、新しいもの、誰もやったことがないことをやりながら、宇宙の可能性を広げていくこと。結果として、人類の発展に貢献していくことです。小型SAR衛星を複数機打上げ、リアルタイムの観測をつくっていくことは、あくまでそのなかの一例に過ぎません。もちろんこのプロジェクトを成功させることに全力を注ぎますが、その先に重要になるのは、新たな発想をつくっていくこと。それは、SAR衛星自体を発展させていく道もありますし、果ては宇宙エレベーターの開発に着手する道もあるかもしれない。縛りはないので、入社される方には、やりたいことがあれば新しい発想をどんどん出してほしいと思っています」

取材終盤、代表の大西さんのこれまでのキャリア、そして志について伺えた。

「もともと九州大学で航空宇宙工学を学んでいました。そこで教鞭をとっていた恩師であり、現名誉教授であり、QPS研究所の創業者である八坂 哲雄先生と出会ったのが始まりです。日本のロケット開発の黎明期から宇宙業界に携わっている八坂先生は、宇宙産業においての九州のポテンシャルの高さをもともと感じていました。「九州には、内之浦や種子島など射場がある。宇宙工学を教える大学も複数あり人材も育っている。よいモノづくりをしている企業もある。なのになぜ、実際にそこで打ち上げるロケットや衛星は、九州以外の地で作られているのか、九州の地でも宇宙のものづくりができるのではないか」と。そこで、もっと九州に宇宙産業を根付かせたい、九州を世界の中でも宇宙産業の集積地にしたい、という想いでQPS研究所を立ち上げたんです。2000年初頭から、地場の製造業の会社をまわり、パートナー企業を増やしていきました。私はその意志を引き継ぎたいと思い、大学院を卒業後に入社し、2014年4月に代表取締役社長に就任しました。だから、私としても、今取り組んでいる、複数のSAR衛星によるデータ提供ビジネスは、社会に貢献するのはもちろん、九州で宇宙産業のサイクルをつくる1つの試金石にしたい。そして、これからも、九州に宇宙産業を根付かせるようなプロジェクトを生み出していきたいと思っています」

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