メディアを起点に、新たな時代をつくっていくーー2022年7月に5億円を調達、次世代ビジネスメディア『PIVOT』が事業強化のアクセルを踏む。プロダクトマネージャー、映像プロデューサー、セールス、編集など全方位で採用を強化する。同社を率いるのはNewsPicks創刊編集長・佐々木紀彦さんだ。『PIVOT』における勝算、そしてそこに込められた「志」とは。(撮影:竹井俊晴)
はじめに、どのようなことに『PIVOT』では挑戦していくのか。NewsPicks時代との違いを含めて伺ってもよろしいでしょうか。
NewsPicksとの決定的な違いは「映像ファースト」でやっていく、ということだと思います。『PIVOT』でも一部活字のコンテンツはありますが、主従関係でいえば「映像」が「主」です。
NewsPicks時代も映像に挑戦しましたが、やはりコメントにせよ、キュレーションにせよ、活字中心でした。何よりコンテンツを作るメンバーの多くが活字出身。その点『PIVOT』は映像クリエイター、テレビプロデューサーなど映像業界の出身者が集まっていますし、これからも積極的に採用したい考えです。
数年前から「映像の時代」と言われて来ましたが、ビジネスコンテンツに限っていえば、まだまだ限定的だったように思います。それがコロナ禍、この2年で一気に広まっていきました。いわゆるアナログでも、新聞などの「活字」から始まり、ラジオなどの「音声」ができ、戦後にテレビなど「映像」にシフトしてきた歴史があります。デジタル空間でもきっと同じことが起こるはずですし、すでに起き始めています。通信インフラが整い、スマホでも、テレビでも、どこでも快適にネット動画を見ることができます。そもそも映像の方が親しみやすく、情報量も多い。倍速視聴や「ながら聞き」ができるため、効率よく情報が得られるのも特徴です。これだけ環境が整ってきている。大きな流れに乗っていければと考えています。
『PIVOT』を拝見し、いずれも内容が濃いものばかりだと感じました。どういった部分を重視し、作られているのでしょうか。
私たちはビジョンに「コンテンツの力で、経済と人を動かす」を掲げているのですが、まさに現実を動かせるか、行動してもらえるか。「ああ、勉強になったな」で終わらず、アクションにつながるコンテンツ作りを重視しています。
たとえば、大企業を辞めた「キャリアピボット」に迫る『Pivotter』という番組があるのですが、実際「あれを見て転職しました」という人の話も聞くようになってきました。活字と比較してもやはり映像の方がリアリティがあり、その人に背中を押す力が大きいのかもしれません。
人を動かす強いコンテンツ、それらはどう生み出されるのでしょうか。
私たちは「スキルセット」と「マインドセット」をキーワードにしています。まず「スキルセット」ですが、一般論ばかりでは行動には移せないですよね。なので、最前線で活躍する「実務家の人たち」に登場いただき、実践的な話をしてもらう。ノウハウを伝えてもらう。その上で「専門性」は一つポイントだと思っています。そして「マインドセット」は、どう生きるか。その人の生き様まで感じられるコンテンツは、深く人の心に刺さっていく。
今の世の中って「総評論家時代」だと思うんですよね。行動せずに、ああでもない、こうでもないと評論ばかりしている。そうではなく、ちゃんと行動している人、実践している人たちにフォーカスをする。新たな挑戦によって自身がPIVOTしていたり、企業や業界をPIVOTさせていたり。社会、企業、個人の生き方に対し新しい方向性を照らし出す人たちの言葉は重くて深い。それらを上手く伝えたい。そのためには、好奇心が刺激されるような、面白さも必要だと考えています。人間は、新たな学びを得た時、何かを知った時にこそ、喜びを感じる生き物。だからこそ、深くて面白い、学びになるコンテンツをたくさん世の中に出すことを目指しています。
トップランナーとのトークや対談はもちろん、ドキュメンタリー、1on1で学ぶコンテンツ、本田圭佑さんをはじめとする投資家たちにプレゼンして投資をしてもらうリアリティショーなど多様な番組が楽しめる『PIVOT』。「立ち上げ当初は何が当たるかわからなかったので、かなり幅広く展開していたのですが、最近ではキャリア、投資やお金の話、スタートアップの話など、新しい時代を生み出していくような内容に絞られてきたかなと思います」 と佐々木さんは語る。「ある意味、NewsPicksは有料でもあったので狭く濃かった。『PIVOT』に関して、濃い内容をいかに多くの方々ににどう届けるか、ここを意識したいと思っています」
今後のマネタイズについてはどのように考えていますか?
ユーザー数、視聴者数が順調に伸びているので、今後、さまざまな選択肢があると思っています。そのなかでも、今、伸びているのが「企業とのタイアップ動画」です。実はすでに何本も手掛けており、ニーズの高さを感じています。これまで「活字のタイアップ記事」は当たり前にありましたが、ビジネスにおけるタイアップ動画はそれほど多くありませんでした。軽くなりすぎず、好奇心が刺激されるといった意味での面白さがある。そして高品質で映像を仕上げられるところに、引き合いをいただいている状態です。
さまざまな企業が自社PRのためのYouTubeやTikTokを活用するシーンは今後さらに広まっていくでしょう。当然、企業がただ単に自分たちのことを紹介しても見てもらえません。面白いコンテンツにし、上手く自分たちのサービスや会社について知ってもらう。こうして『PIVOT』としてつくったタイアップ動画は、多いもので10万PV以上も見られており、いい意味で驚きましたし、すごくポテンシャルを感じています。つまらないものにせず、視聴者の方が見たいものにできるか。そこに対してフィーを払っていただけているので、ここは腕の見せどころかなと思います。
(撮影:竹井俊晴)
組織としても拡大中だと伺いました。どういった前職経験を持った方々が集まっているのでしょうか。
組織全体でいえば多様ですが、映像関係でいうと、NHKやTBSなどから来てくれた仲間もいます。前職でも評価されていて、楽しく働いていた人ばかり。そういったなかでの入社理由はすごくシンプルで「新しいことに挑戦したい」がほとんどです。
私も『東洋経済』で働いていたのでわかるのですが、日本のメディア企業はまだまだ年功序列がベースになっているんですよね。さらに会社のメインプレイヤー層が高齢化していることもあり、会社によっては30代でも大したチャレンジができません。そんな状態ですので、一部を除き、伝統的なメディアは色褪せ、どんどん衰退していっていますよね。
これからの時代、遅くても30代で大きな経験、挑戦をしておかなければ生き残っていけない。そう考えた時、YouTubeやTikTokなどでも勝負してみたい、通用する力をつけたいと考えるのは、健全な危機感。さらに予算規模は大手ほどではないにしても、自ら企画し、代表作と言えるものを作りたいと思う人もいる。『PIVOT』だと、そこにどんどん挑戦できますし、キャリアの価値も上げていける環境があります。
日本は今、経済が低迷しており、さらに厳しくなる見通しですよね。そういった時代が来れば来るほど「もっとビジネスのことを学びたい」という人たちの需要は高まっていきます。ビジネスを学んでいるかどうかで、人生の充実度が明らかに変わってくるわけです。そういった意味でも「ビジネスコンテンツ」は成長セクターであり、採用面でも興味を持ってもらえていると思います。
今、このフェーズの『PIVOT』にフィットする人材について「0→1、1→10を楽しめる人」と答えてくれた佐々木さん。「今は本当に初期段階。営業でいえば、新たな商品をつくっていく段階で、プロダクト側もまさに理想の顧客体験をつくっているところ。まさに種を植える0→1が好きな人、新しく生まれた種をうまく進化させ、広げていく1→10をやりたい方に向いていると思いますし、そういった方にはすごくおもしろいフェーズだと思います」(撮影:竹井俊晴)
最後に『PIVOT』で何を実現していきたいか、その志について伺わせてください。
メディアを起点に新しい時代を早く作っていく。日本のPIVOTに貢献したい。それを2020年代にやり尽くしたいと考えています。
日本は、これまで明治維新があり、敗戦があり、70~80年ごとに大きく変わる国だと言われてきました。敗戦からまもなく80年ですが、まさにコロナによるパンデミックが起きたり、超円安が起きたり、転換期を迎えています。このままズルズル、ただ落ちて崩壊していくのか、新たな上昇気流に乗れるのか。この2020年代が勝負だと思っています。
こういった環境において、メディアが果たす役割は非常に大きいもの。旧来のメディアが、古い価値観のまま情報を出していたら、どんどん変化のスピードが遅れてしまう。シンプルにそれが嫌なんですよね。メディアの古い構造をいち早く変えていきたい。
新しい時代の情報を流していくことで、人々のマインドセットが変わっていくはず。そして知恵を伝えられれば、人のスキルセットも変わっていく。過去の延長戦上の日本ではなく、新しい時代を見据えながら、ぜひ一緒にPIVOTを実現していきましょう。