INTERVIEW
ストリーモ

ホンダ発ベンチャーが起こす「地域移動」革命。キックしない三輪マイクロモビリティ「ストリーモ」誕生の裏側

掲載日:2024/02/09更新日:2024/02/09
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なぜ、ホンダ発ベンチャーは「立ったまま乗れる三輪モビリティ」を開発する?そして、さまざまな先端モビリティが登場するなか、彼らが開発した「ストリーモ」はどう戦っていくのか。同社を率いる森庸太朗さんにお話を伺った。もともとホンダでバイク開発に携わってきた森さん。起業の裏側には「より多くの人の生活や暮らしを変えるものに携わりたい」という想いがあった。

誰もが快適だと思えるマイクロモビリティをつくりたい

まずは「ストリーモ」の概要について伺ってもよろしいでしょうか。

わかりやすく言うと、ストリーモは「1人乗り三輪モビリティ」です。歩く程度から自転車ほどのスピードまで調整が可能なのですが、三輪である理由は、ふらつきにくく、バランスを取りやすくするため。独自のバランスアシストシステムを採用しており、転びにくく安定した走行ができるのが大きな特徴です。さらにキックボードのような「止まるたびに足を落とし、またキックする」といった動作は必要ありません。足をつくことなく止まれるので、膝や腰などへの負担が少ない。こういった点も支持いただいているところです。

そもそも、なぜ「ストリーモ」を作ろうと思われたのでしょうか。

より多くの人の生活や暮らしを変えるものに携わってみたい。人の生活に寄り添うマイクロモビリティこそ世界を変えられる。そう強く思ったことが、開発のきっかけでした。

前職はホンダで働いていたのですが、たまたま海外出張でモビリティのスタートアップなどを見て回る機会があって。多くの人々が電動キックボードのシェアリングサービスを利用している光景を目の当たりにしました。

マイクロモビリティの需要の大きさに触れることができたと同時に、問題点も見えてきて。たとえば、実際に電動キックボードのシェアリングサービスを利用してみると、フラフラとしていて不安定だし、常に路面に気を遣っていないと走れない。足は疲労でパンパンになってしまう。あまり良い移動体験とは言えませんでした。

その要因について考えてみると、そもそも当時の電動キックボードにおけるシェアリングサービスの始まりは、おもちゃのような電動キックボードに安価なGPS機器を取り付けたこと。乗り物としては昔からあるものを使っているに過ぎなかったわけです。

ならば、乗り物の開発経験を活かして「心から誰もが快適だと思えるマイクロモビリティ」をつくろう、と考えました。ホンダ内の新規事業創出プログラム「イグニッション」からスタートし、事業を作り、2022年にスピンアウトして独立しました。

2023年9月に一般発売開始した「ストリーモ」。代表であり技術責任者でもある森さんは、前職はホンダでレース用のバイク開発にも携わってきた人物。ホンダ仕込みの現場力で、ソフトウェア開発と同じくらいの開発スピードを実現できる点も同社ならではの特長だ。事業企画がキャッチアップしてきた「大きな荷物を牽引する台車をつけたい」「フロントにタブレットを置けるホルダーがほしい」といった顧客の声をクイックに反映し、車両の改良を重ねている。

街でも、限界集落でも、テーマパークでも。

ストリーモは公道を走れるものと伺いました。電動キックボードのシェアリングサービスとの違いとは?

よく比較されるのですが、じつはまったく別のアプローチをとる製品だと考えています。まず僕らはシェアリング事業者ではなくモビリティを開発・販売する事業者。なので、ビジネスモデル自体が異なります。その目的にしても、日本をはじめとした様々な国が直面している「地域の移動課題」を解決すること。そのためには、年配の方も含め「誰もが自分のペースで移動できること」や「安心感」を念頭に置いたモビリティが必要だ。こういったところに根ざしており、ターゲットや目指しているところは、異なると考えています。

実際どんな人たちに使われているのでしょう?

一般の方々にむけては、2022年に抽選申込を受けつけ、2023年からデリバリーを開始しました。様々なお客様にご購入いただきましたが、特に「まったく歩けないわけではないけれども、長距離を歩くのは難しい」というニーズにも応えることができています。実際、ストリーモのユーザーの半数以上が50代以上の方々。今街中を走っているキックボードのユーザーは若者が中心であることを考えると、ユーザー層の幅広さはストリーモならではだと思います。

もちろん、足腰への負担を少なくするという面だけで言えば「電動車いす」という選択肢もあります。ただ、本人が歩けないわけではない場合、車いすに乗るまでではないと考える人もおり、結果として活動範囲が狭まってしまうことがあります。また、街の風景は基本的に歩行者の目線の高さでできているので、その目線のほうが街を散策する楽しさも感じやすいのではないか。僕としては「移動する楽しさ」はそのままに、誰しもが靴を履いて出かけるように、自然体で動き出せる、気軽に使ってもらえる普段使いのモビリティにしたかった。初号機で立ち乗りモデルを採用したのも、そういう理由からです。

たとえば、いつも一緒にお散歩していた年配カップルがいたとして、どちらか片方がもし膝を痛めて長距離歩くのが大変になってしまったなら、1人はストリーモに乗って1人は歩く。今までとほぼ変わらない目線で話しながら、一緒に散策や普段の買い物を楽しめる。そういった風景もあたりまえの一つになったらな、と。実際、そのように使ってもらえている声が届くと、本当に嬉しいですね。

ストリーモ03

「ちなみに、新しい取り組みとして一部の自治体、法人との連携もスタートしています」と語ってくれた森さん。「たとえば、公共交通が揃ってないような地域では高齢の方々は移動手段としてシニアカーを共用で利用しているものの、スピードが時速6㎞までしか出せず行動範囲が狭くなってしまう。さらには非常に重たいため田舎道で脱輪してしまうと 高齢の方だと自力で戻すのは大変…などさまざまな課題を抱えています。また、坂が多いエリアに住む方々もいます。こうした地域ごとの課題にあわせて、最適化したソリューションを提供していこうと考えています。現状、立ち乗りモデルですが、移動距離が長くなるような地域では座れるモデルがいいかもしれないですし、屋根もついていたほうがいいかもしれない。既存の機体にこだわらず、新たな形も検討しています。法人で言えば、すでに物流倉庫など企業の敷地内で導入いただいており、従業員さんの負荷軽減、業務効率化につながっています。また、テーマパークでも導入を進めており、スタッフの移動はもちろん、ゲストも乗れるような、いわゆるBtoBtoCの事業モデルも検討しているところです。一般のお客様、法人、自治体と提案先の幅が広く、それぞれ課題やニーズはさまざま。その都度、どういったストリーモが最適なのか、常に考え続けていく。ストリーモの可能性を追求し続けられるおもしろさがあると思います」

2025年、フランス進出へ

続いて中長期のビジョンについて伺わせてください。

まずは、今ある成功事例を元に、これまで対応しきれていなかった法人、自治体との協業を積極的に進め、導入事例を増やしていきたいと考えています。

すでに1社の導入をきっかけに「そういう使い方があるならうちもやってみたい」と思っていただける企業様が一定数いらっしゃいます。新しい乗り物なので、ファーストユーザーになることには難色を示されるケースがありますが、まずは試乗してもらいながら安心感を持って使っていただける乗り物であることを啓もうし、事例を作る。その事例を通じて開拓していく。1つ1つ積み重ねていくことが重要かなと思っています。

また、2025年にはフランスでの展開も見据えています。というのも、フランスでは自動車道を潰して自転車レーンにする“脱クルマ”を政府が推進しており、マイクロモビリティがまったくストレスなく走れる道路環境が整備されているんです。2023年にはパリで、ゴミやマナーの問題からシェアリングサービスが禁止になったニュースは記憶に新しいですが、一度マイクロモビリティが便利さを知ってしまった人々の中には「次は所有したい」と考える人も多く、1年間に100万台近く個人所有のマイクロモビリティが売れていると言われています。また、フランス人は環境に対する意識が高く、良いモノを買って長く使いたいと考える人も多い。そういった意味で、ストリーモとの親和性が非常に高いマーケットだと捉えています。

そして、いつになるかは分かりませんが、ストリーモを街に実装していくことにも挑戦していきたいと考えています。欧州をはじめとした様々な都市で、車がなくても生活ができ、自転車道と歩行者の道が整備されている、いわゆる「スモールタウン」をつくっていく動きがあって。その中で、スタンダードなモビリティの1つとしてストリーモを使ってもらいたい。それまでに、ストリーモが暮らしを変えるモビリティであるという認知を獲得していければと思います。

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現状、日本におけるマイクロモビリティの普及についてさまざまな意見があるが、森さんは自身の考えをこう語る。「正直、現在のマイクロモビリティが日本においてどのように定着していくかはわかりません。ただ、私たちは新しい技術をもって普及させていきたいと考えていますし、その可能性は充分にあると考えています。具体的に言えば、地方では人口減少などによって採算がとれないために公共交通が衰退してきており、移動難民は増加している。特に高齢の方は免許返納などによって、より移動が難しくなっている。こうした課題は今後も増えていくことを考えると、誰もが簡単に操作でき、安全に乗ることができる1人乗りのマイクロモビリティの需要は高まっていくと考えています。国としてもこうした移動課題を解決するための手段として、多様なモビリティで解決をしていこうとしており、2023年7月には道路交通法が改正されました。これにより、僕らが提供しているストリーモをはじめとする『特定小型原動機付自転車』は、16歳以上であればヘルメットなし、免許なしで乗れるように。まさに、追い風だと捉えています」

マイクロモビリティ界の「一番星」に

最後に、森さんご自身の事業にかける思いについて伺わせてください。

今までないモビリティをつくる会社として、僕らの乗り物が存在することで幸せになる人を増やしたい。いうなれば、マイクロモビリティ界の一番星になり、社会の変革をリードしていく。そういった存在になりたいですね。

もう1つ、僕個人としては、「移動の楽しさ」をもっと伝えていきたい。僕は昔から旅行をはじめ移動が好きなんですが、強い思い出として心に残っているのは、予定調和ではなく、予期しない出来事・人やモノとの出会いがあったときなんですよね。つまり、変化や刺激こそ、「豊かな移動体験」につながると考えています。

たとえば、日常の買い物に行くにしても、自動運転の車の中でスマホでゲームができ目的地に着いて買い物を済ませるのも快適かもしれないですが、その途中に予期せぬ出来事は起こりません。その点、ストリーモのようなモビリティであれば、移動の途中で知り合いに会ったり、ウィンドウショッピングで面白いものを見つけたり、道端に咲く草花から季節を感じたり、いろいろな発見があると思うんです。そういった体験を1人でも多くの人に提供したい。日々の暮らし・生活を楽しく刺激があるものにしていく一助になっていきたい。そういった思いに共感してもらえる方がいたら、ぜひ一緒に働けると嬉しいです。

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【今ストリーモで働く魅力】
・生活に身近なプロダクトなので、仕事の意義を感じやすい。
自らも体験できる身近なプロダクトゆえ、課題を自分ごととして捉えながら働けると思います。ユーザーの喜ぶ姿・暮らしがよくなって感動している姿を実際に見ることができるのも、ハードウェアの会社ならではの魅力です。

・企画から関われるチャレンジングな環境
まさにこれから、市場を開拓していくフェーズ。世の中にないものを広めていこうとしているので、 売り方のテンプレートのようなものはありません。入社いただいた方にもどんどんアイデアを出していただき、意見交換しながら一緒に売り方・ソリューションの勝ちパターンを見つけていきたいと考えています。ここからの「急成長」を一緒につくり、喜びを分かち合えるのを楽しみにしています。

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