INTERVIEW
JICA(独立行政法人国際協力機構)|総合職 ※採用予定人数10名
地球の課題解決のために、できることを。シンクタンクからJICAへ、パナマ事務所 所員の志
JICA(独立行政法人国際協力機構)による「総合職」募集が開始した。同募集に伴い、パナマ事務所 所員として働く小暮倫子さんを取材した。もともとシンクタンクにて勤務していた彼女は、なぜ、次なるキャリアにJICAを選んだのか。そこには「美しい自然や地球のために、今、自分にできることをやっていきたい」という想いがあった――。
いつか国際協力を仕事に。社会人経験の先に掴んだ、JICAで働く機会
前職、シンクタンクにて、官公庁向けコンサルティングやリサーチを担ってきた小暮さん。JICA入構のきっかけから伺うことができた。
前職は、シンクタンクで勤務しており、まちづくり・官民連携(PPP/PFI)政策にかかわる調査やコンサルティングなどに携わっていました。仕事はとても楽しかったですね。マネージャーにもなり、プロジェクトを任せてもらえるようなっていましたし、やりがいも大きかったです。
ただ、心の片隅にずっと「いつか国際協力の仕事がしたい」「国際的な仕事に携わっていきたい」という思いがありました。まさにそういったタイミングで知ったのが、JICAの求人募集でした。たまたま友人がJICAの嘱託社員として働いており、今回の総合職募集とは異なりますが、海外投融資の部門(*)の求人があることを教えてくれて。私のこれまでの経験や知識を活かせるフィールドがあればいいなという思いで、応募をしました。
(*)海外投融資…JICAでは(1)開発効果が高い(2)一般的な金融機関では対応が困難といった場合において、開発途上国で事業展開する民間企業に対して「出資」と「融資」の2つで資金面から支えていく海外投融資を実施している。民間企業が開発途上国でさまざまな事業を行なうこと、地域経済の活発化・雇用創出が期待できる。また、外貨獲得、技術移転などの効果も期待ができ、人々の生活向上に貢献していく。開発途上国での事業は高いリスク、低い収益見込みなどの障壁があり、一般の金融機関からの融資が受けにくい状況があるが、開発効果といったインパクトも考慮し、JICAとしての投融資を実施している。
小暮さんは「JICAで働くことは学生時代からの夢だった」と語る――。
中学生くらいまでは「なんとなく将来は海外で働きたいな」「英語が活かせる仕事がしたいな」くらいにしか思っていませんでした。ただ、後にJICAの理事長にもなった緒方貞子さんのドキュメンタリーを見て、「国際協力の仕事ってこんなにもかっこいいんだ」と衝撃を受けて。高校生の頃には、当時の学校の先生やボランティアをしていたNGOの方にもサポートしてもらって、世界の子どもたちが国連本部に招待されるイベントに参加させてもらったりもしていました。開催はニューヨーク。まさに世界同時多発テロとタイミングと重なったことで開催時期は変更となりましたが、「なぜ戦争は起こるのか」「どうすれば解決していけるのか」と、より国際問題に関心を持つきっかけになりました。そして「世界的な問題解決に協力できる人間になりたい」というのが私の夢になり、具体的な目標の一つが「JICAで働くこと」でした。
小暮 倫子|パナマ事務所 所員(広域海外投融資担当)慶応義塾大学 法学部政治学科卒業。大学では国際政治と地域政治を専攻。大学卒業後、新生銀行に就職し、法人営業として商社・電力・海運分野の融資業務を担当。2008年のリーマンショックを経て、イギリスの大学院に留学し、国際開発学やインパクト評価について学んだ。大学院卒業後は帰国し、財務分析・金融知識を活かし、日本総合研究所に入社。政府や自治体向けのリサーチ・コンサルティング業務に携わる。その後、2018年5月にJICAに入構した。入構時の面接について小暮さんは「職員のみなさん、自分がどういう仕事をしているか、どういうプロジェクトがあるか、どんな夢を自分は持っているか、とても熱く語ってくれて。非常に楽しそうにJICAで働いていることを魅力に感じましたし、その一員として働けることにワクワクしました。」と語ってくれた。
一人ひとつの「熱」が、プロジェクトの原動力になる
そして2018年5月よりJICAで働きはじめた小暮さん。中南米エリアを中心に、海外投融資や円借款事業を担当してきた。はじめての海外赴任先のエクアドルでは、エネルギー、環境保全、生物多様性分野など多岐にわたる案件を担ってきた。JICAでの仕事でやりがいを感じる瞬間、エピソードとは――。
私が担当している投資融資事業でいえば、現地のみなさんとのやりとりも多いのですが、真剣に貧困問題、環境保全、女性の社会的地位向上などに取り組んでいる方ばかり。つい最近も現地である女性がマイクロファイナンスを活用して小さい事業を自ら起こしている話を聞き、とても感動して。そういった現地の人ががんばっている姿に私のほうが元気をもらえますし、応援したい気持ちがさらに強くなっていきます。もちろん、すぐにわかりやすい成果が出るプロジェクトばかりではありません。むしろ数年、数十年と時間がかかり、ようやく実を結ぶものもあります。それでも未来を信じて仕事をしていく。次の担当者や世代にバトンをつないでいく。そういった意義のある仕事に携われるのも、JICAならではだと思います。
新規案件候補の現地視察の様子。マイクロファイナンスで小さな事業を起こした女性を訪問して話を聞いた。(2024年、ペルー・アレキパ州で撮影)
また、これはいい意味でのギャップでもあったのですが、想像していたよりも、自ら考えた企画や提案をプロジェクトに落とし込んでいるところもやりがいに感じています。もちろん、目的やインパクトは重視されますが、思いがあれば新しい案件・プロジェクトを立ち上げることも可能です。
たとえば、15年ほど前にJICAが技術協力プロジェクトの一環で建設協力をしたガラパゴス諸島の環境教育施設があるのですが、とても老朽化していて。その建物の改修工事案も、私が立案し、正式な事業として本部にて採用されたものでした。
じつは、ガラパゴス諸島には仕事・プライベートで何度も足を運んでいて、個人的にも大好きな島で(笑)。固有生物の宝庫として有名ですし、ありのままの自然と触れ合える場所です。「この素晴らしい環境のために、私に何かできることはないか」と考えていたところ、先ほどの環境教育施設の存在を偶然知りました。
2023年度よりJICAのフォローアップ協力として同施設の改修工事を行ない、2024年7月、ガラパゴス国立公園65周年記念式典のタイミングで、無事に地域住民向けの環境教育施設として引渡すことができました。
私自身、竣工前に異動となってしまったのですが、後任の職員たちが引き継いでくれたおかげで無事にお披露目でき、改修前の施設にはなかった「JICAのロゴ」もちゃんと付けることができましたし(笑)感無量でしたね。
私は改修後の施設を見ることはできていないのですが、現地のみなさんから「ありがとう、ぜひまた来てほしい」と言われており、訪問するのが今から楽しみです。こんな風に自分の「やりたい」も形にできるし、現地政府やカウンターパートにも感謝をしてもらえる。もちろん全てがそういった仕事ではないですが、自分自身の思いを形にできるのも、JICAで働くおもしろさの一つだと思います。
ガラパゴス諸島の環境教育施設改修について「もともとJICAの技術協力プロジェクトで働いていた現地の方との偶然の出会いからはじまったものでした。」と振り返ってくれた小暮さん。「その現地の方から、昔みんなでつくった施設だが、今でも大事に使っている、といった話を聞き、現地の人たちにきちんと知ってもらえていたのだと胸がいっぱいになりましたね。私が島に遊びにいった時も、たくさんの人たちが“JICAの人がきた”と会いに来てくれる。現地でJICAが愛されていると感じられたし、少しでも何かできればと考えていたので、改修が実現でき、本当に良かったなと思っています。」
海外投融資を通じ、現地の経済成長や貧困削減に貢献を
そして現在、小暮さんはパナマ事務所に駐在し、中南米エリアの投融資を担う。じつは2023年11月に設置されたポジションであり、JICAとしての新たな挑戦でもある――。
海外投融資業務は、これまで東京の本部が案件形成から案件監理までのオペレーションを担ってきましたが、中南米のハブ拠点であるパナマ事務所に拠点を置き、中南米すべての国で海外投融資の案件を開拓していくという新しいミッションにチャレンジしているところです。民間企業でいうところの営業隊長のような役割といえばいいでしょうか(笑)さまざまな国際機関、企業、政府とネットワークを築き、どういうセクターで、どういった案件をつくっていくか、JICAとしての新たな投融資のチャンスを探していきます。
たとえば、あくまで一例ですが、現地の民間企業への投融資でいえば、農業系の事業者に対して倉庫拡張、収穫のための機材購入、港湾設備の整備などに資金を活用してもらい、農業生産性を向上させていくなどが挙げられます。その他にも、現地の金融機関に融資を行なうことで、マイクロファイナンス事業を支援していくといった取り組みも考えられます。その先にある、現地の経済成長や貧困削減を目指していくのが大きなミッションです。
とてもおもしろいのは、公共性や社会的インパクトを重要視し、投融資を行なっていけるところです。たとえば、どれだけ温室効果ガスを削減したか、どれだけの雇用が現地で生まれたか、どれだけの女性が新たに事業を起こすための資金を手にすることができたか。[MK5] インパクトを評価し、重要な指標として見ていく。ただ、JICAだからといって収益性を考えなくていいわけではありません。寄付ではなく、投融資なので、お金が還ってこないことには事業として成立しない。そこが難しさでもあり、おもしろさです。
ここ最近、民間の金融機関でも「サステナブルファイナンス」や「インパクト投資」といった言葉が話題になっていますが、まさにそういった役割を政府機関であるJICAとしても強めているところ。中南米地域は民間のプレーヤーも活発で、民間と公共の連携の可能性は無限大。現地に拠点を置き、より現地のニーズに根差した案件形成を進めるというこの取り組みがモデルになれば、他の地域・エリアでも展開していけるかもしれません。本部としても、ゆくゆくはこうした動きが世界に広がっていくことを期待しており、その責務を担うプレッシャーはありますが、失敗を恐れず、さまざまなことに挑戦していきたいと思います。
JICAで働く上でミスマッチしないためにも知っておくべきことについても話をしてくれた小暮さん。「海外転勤、出張が多く、さまざまなところを飛びまわるので、家族の理解は本当に必要だと思います。私でいえば、今週はコスタリカ、ホンジュラス、翌週はエクアドル、その後はブラジル…といったスケジュール。夫からも「一体いつ帰ってくるの?」と言われたり(笑)。仕事量は少ないとは言えないですし、民間企業に比べても給与も高いとは言えません。もちろんJICA全体で制度や働き方のアップデートは進んでいますが、民間企業とはやはり違いはあると思います。ただ、国際協力を志す方であれば、やりがい、成長はどこよりも得られる環境ですので、何を優先するのか。この視点は長く働き続けるためにも重要だと思います。」
仕事は、人生そのもの
取材後半に伺えたのは、これからの仕事人生で実現していきたいことについて。
私自身、中南米エリアで仕事をするようになり、アンデス山脈やガラパゴス諸島などの大自然に圧倒されたんですよね。そこからより地球全体の環境問題に関心を持つようになりました。いかにしてこの自然を守り、次の世代に人や生き物に地球を残していけるか。最近では民間セクターのインパクト投資の世界でも、気候変動対策や生物多様性の保護などが重点テーマになっていますが、そういったサステナブルな社会を作るための投融資事業にもぜひ挑戦していければと考えています。
最後に、小暮さんにとっての「仕事」とは一体どういったものなのだろう――。
少し大げさかもしれませんが、「人生そのもの」だと思います。社会へのインパクトを考えながら、人生の目標にも向かっていける。まさにJICAでの仕事は人生と一体となっている感覚です。自分の思いを形にしながら、世の中にも貢献していきたい。そういった仕事ができていることに、とても感謝しています。あとはこの地球に生き、世界に存在している以上、少しでも世の中に役立っていきたい。仕事でその思いを形にしていければと思います。