外務省が社会人経験者採用試験(総合職相当・専門職相当) を強化。外務省は、令和5年度に人事院の教養試験を経ずに履歴書や小論文、面接等を経て採用する試験を開始。同試験を経て採用された山口 栞さんを取材した(南部アジア部 南東アジア第一課 主査 ※取材当時)。もともと外資IT企業で働いていた山口さん。なぜ、次なるキャリアに外務省を選んだのか。そこには「世界での日本のプレゼンスを向上させていきたい」という思いがあった――。
2024年4月、外務省に入省をした山口さん。前職では、外資IT企業の営業戦略部署にてデータ分析などを通じ、戦略立案・支援業務を担ってきたという。そもそもなぜ転職を考えるようになったのか。
世界における「日本のプレゼンス」を向上させていきたい、そういった思いがあり、転職を考えるようになりました。前職時代、外資系のIT企業に勤務していたのですが、「日本支社の存在感をいかに高めていけるか」といった点も重要なテーマとなっていました。とはいえ、そもそも日本のマーケット、顧客となる日本企業の存在感があまり無いといった現状でもありました。日本には優れたブランドや技術があり、ポテンシャルも十分にあるはず。工夫次第で、世界でも正当な評価を得られるのではないか。自然とそういった課題意識を持つようになっていきました。
まさにそういったタイミングで出会ったのが、外務省の経験者採用だったと振り返る。
より日本全体が世界で注目されるにはどうしたらいいのか、そう考えていたタイミングで偶然目にしたのが、外務省における経験者採用でした。正直にお伝えすると、国際関係について学んだり、海外での国際課題解決に関する活動を行ったりした経験は全くありませんでした。当然、世の中には私よりも遥かに国際関係分野に詳しく、積極的に活動している方々が多くいます。一方で、そういった方々を応援したり、支援したり、活躍できる基盤づくりには、これまでの自らの経験を活かしながら、貢献ができるかもしれない。例えば、国際公務員をはじめ、国際舞台で活躍するような日本人を増やしていきたい。タイプ的にも、自らが前に出ていくより、仕組みや基盤づくりを通じ、誰かをサポートしていく側として働くほうが向くのではないか。そういった仕事に挑戦していきたいと考え、外務省を志望し、入省を決めました。
大学時代、オーストラリアへの留学経験を持つという山口さん。「様々な人種・国籍の学生と生活し、そこで初めて“自分は日本人なのだ”という実感が得られました。」と話す。「当時の経験もあり、日本人であることがアイデンティティの一つに感じられるようになったのかもしれません。また、改めて仕事でも様々な国の人たちと関わり、働いていきたいと思うようになりました。多様な考え方、価値観に触れ、自分には無い視点を得たい。そして、人生は一度きり。キャリアを通じて日本のためにできることがしたいと考え、外務省を志望しました。」
続いて聞けたのが、現在の業務概要と、そのやりがいについて。
現在「南東アジア第一課」という課に在籍しており、「メコン地域(ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、ラオス)」全体を担当しています。業務は多岐にわたるのですが、例えば、2024年7月に採択された『日メコン協力戦略2024』にも携わっていました。その採択に向けて各省庁、関連機関と連携し、進捗状況の確認を行いつつ、「どのような点を日本として打ち出していくのか」といった検討、調整などを進めていきました。もちろん、全てを一人で担当したわけではなく、チームで進めていくのですが、国際社会における日本の立ち位置、メコン地域の各国、さらに諸外国との関係性、外交的な駆け引き、戦略など様々な側面から政策を検討するプロセスに携わりました。その他の業務としては、要人の訪日や外国訪問がある場合には、課全体で準備や調整を行ったり、日々の国会関連業務に対応したりといったことが挙げられます。
特にやりがいだと感じるのは、面接の際にも感じたのですが、仕事に対して誇り、志、ビジョンを持ち、問題解決に対し、真剣に向き合っていく職員のみなさんと働けることです。もちろん時には意見が対立し、議論が白熱することもあります。ただ、根底で「日本のことを真剣に考えている」という点が共通しており、良い着地につながることが多いです。
また、最終的にスケールの大きな施策や政策につながっていくため、組織全体での連携は非常に重要です。例えば、2025年4月末には石破総理のベトナム外遊がありましたが、課全員が関わり、無事に実施することができました。もしも、一人でも欠けていたら成り立っていなかったかもしれません。そういった一人ひとりの貢献や成果の集積により、10年後、20年後、もっと先の未来において、地球規模での影響力を発揮し、各国にとってプラスとなる枠組み、基盤づくりに貢献ができる。ここは外務省で働く大きな醍醐味だと思います。
裏を返すと、あくまでも「総合職」での話ですが、チームの目的達成に貢献していくことが求められる仕事でもあります。また、国同士、1対1の関係だけでは見えない部分まで捉えていくことが、外交を続けていく上では重要となります。例えば、東南アジアを担当するにあたり、日本外交全体のバランスを考え、第三国との関係性も視野に入れることで、より広い視点、違った切り口の政策立案につながることもあります。自身が特に関心の高い特定の国・地域や特定のテーマについて、専門性を高めようとする姿勢・努力は歓迎されますが、それと同時に、「総合職」において言えば、まさに総合的な外交を担うという視点が重要かもしれません。私の場合、特定の国・地域、テーマに対するこだわりがないからこそ、多様な業務を担当するにあたり、人事異動含め「どういった経験ができるのだろう」と、とてもポジティブに捉えられているように思います。
もう一点、事前に知っておくといい点について「民間企業での業務の進め方、コミュニケーションにおける感覚の違いに初めは戸惑う部分もあるかもしれません。」と話をしてくれた山口さん。「民間企業、特に外資では特に役職を持たないプレイヤーであっても上位役職者、時にはトップに直接電話する等して、意見ができます。ただ、どこの省でも共通するかもしれませんが、霞が関ではそれぞれに連絡ルートや手順、段取りなどがあります。もちろん、担当レベルからの提案は歓迎されますが、それぞれの所管領域、責任範囲、見えている景色が異なりますし、非常に複雑でもあるため、コミュニケーションの取り方も特殊な部分があるのかもしれません。民間から来た場合、そういった進め方にも一定の慣れが必要だと思います。」
そして取材後半に聞けたのが、山口さん自身が「仕事で実現したいこと」について。
まず、私自身が中途入省した経験を活かし、今後の中途採用者の育成の仕組み、スムーズに業務に慣れていけるような基盤づくりに携わっていきたい思いがあります。というのも、新卒採用に比べ、中途採用はまだまだこれからの取り組みでもあるので、受け入れ体制を整えていくことも必要になるはず。「背中を見て学ぶ」ではなく、ほしい情報がほしいタイミングでキャッチアップでき、仕事を引き継ぐ側の負担も軽減され、即戦力として立ち上がっていける。そういったマネジメントの仕組み化、文化醸成にも貢献していければと思います。
もう少し長い視点でいえば、やはりどこかの地域で目に見える形の変化に貢献していきたいです。例えば、東南アジアでは長年、環境汚染の問題を抱えてきましたが、地域自体もその解決を望んでいますし、私たちも解決に向けた協力を行っています。一方で、相手国の意識やマインドセットを含め、すぐに変わることはできません。交渉、提案などを行っても、なかなか取り合ってもらえないこともあります。それでも粘り強く、やり取りを重ねていく。そういった中で同じ方向を向けた時、小さくても一歩でも前進が感じられた瞬間はうれしいです。そういった積み重ねを経て、いつか、例えば「東南アジア地域でいつも澄んだ空が見える」などの変化につなげられたらいいなと思っています。
そして、国際情勢全体について言えば、非常に難しいかもしれませんが、世界中のどこにも戦争がなく、安定している、そういった時代を見てみたいです。健康で安心して暮らしていける、そういった世界であれば、様々な困難があったとしても、希望を持って生活ができるはず。欲をいえば、そういった平和な世界の中で、日本のことを全く知らなかった国も含め「日本ブーム」を起こしていけるといいなと思います。
最後に、山口さんが「仕事で大切にしていること」とは――。
どのような仕事であっても「楽しむこと」が、私自身は大切だと思っています。楽しむことで、学びも増え、自分が成長できますし、様々な人たちに協力してもらいやすくなると考えています。仕事は長い時間を費やすものでもあるので、できるだけ前向きな時間にしていきたいんですよね。例えば、目的が不透明であったり、意義を見出しづらい仕事でも、取り組み方で工夫をしたり、人との出会いにつなげたり、何かしらプラスを探していく。少し考え方を変えるだけで「楽しむ」ということはできるはず。そういった姿勢を大切にしつつ、改めてですが、日本のプレゼンス向上に貢献できるよう、今後も仕事と向き合っていければと思います。