掲載日:2025/10/16更新日:2025/10/16
国土交通省(以下、国交省)における総合職(課長補佐級・係長級)中途採用にあたり、特別インタビューをお届けする。今回取材したのは、国交省 大臣官房 参事官(イノベーション)グループ 施工企画室 計画係長として働く大野慎也さん。もともと大手建設会社で勤務していた彼は、なぜ、国交省でのキャリアを選択したのか。そこには「現場経験・視点を活かし、新たな技術普及と業界全体の課題解決に貢献したい」という思いがあった――。
「国」の立場で向き合う、業界全体の課題解決
もともと「大規模なモノづくりに携わりたい」という思いから、大手建設会社に新卒入社した大野さん。はじめに前職の仕事内容、そして転職に至った経緯から話を聞くことができた。
前職では、はじめの約3年弱の間、高層ビル建設の機械・電気担当として現場管理を行ないました。その後、約3年にわたり施工技術の研究開発に携わっていました。
たとえば、建設現場では担い手不足や高齢化が進んでおり、高所作業などに伴う労働災害のリスクは看過できない課題となっています。そういった課題が解決につながるように「安全な場所から機械を遠隔操作できるシステム・装置」の技術開発に取り組みました。実際、開発したシステム・装置は複数の現場で使われ、好意的な感想も。現場課題の解決の一助となれた、そう感じられ、非常にうれしかったですね。また、その機械における知識はもちろん、施工、通信技術、電気など関連分野の知見を得ることもできました。何よりも、業界横断のプロジェクトだったため、さまざまな建設会社の優秀な方々と出会い、業界全体に関係する共通の課題解決に向けて活動をすることが非常に楽しく、刺激を受けました。横断的に業界全体で課題に取り組む意義を強く感じましたし、「公の仕事」に興味を持ったきっかけにもなったように思います。
また、そのプロジェクトに携わり、やりがいと同時に感じたのが、新しい技術を全体に広めていく上での「壁」でもありました。せっかく良い技術であっても、決まりや慣習、コスト…などが障壁となり、なかなかその技術が業界全体に浸透しないケースもあり、もどかしさがありました。私が携わった技術に限らず、どうすれば業界全体で新たな技術を普及させ、課題解決に貢献できるのか。国が旗振り役になれば、導入の流れを生み出すことができるかもしれない。そう考えた時に浮かんだのが、ICT施工をはじめ、新技術の普及、ルールの策定を行なう国交省への転職でした。建設現場のことを深く理解し、建設業を所掌する国交省であれば、これまでの自分のスキル、経験が活かせるはず。そう考え、国交省への入省を決意しました。
大野慎也|国交省 大臣官房 参事官(イノベーション)グループ 施工企画室 計画係長
2016年3月に大学(工学部)卒業後、2016年4月に大手建設会社に新卒入社し、本社等関連部門(施工技術開発・施工技術管理)を経て、高層ビル建築プロジェクト(現場管理) や建築関連の施工技術開発に従事。2023年、国土交通省(大臣官房 技術調査課)に入省。国立研究開発法人 土木研究所 、2024年4月には国土交通省 技術調査課 施工企画室 施工企画係長を経て、2025年4月より現職。
「建設現場全体の課題」に正面から取り組んでいくやりがい
こうして2023年に国交省に入省した大野さん。入省後まもなく、まさに建設現場の生産性向上のための取組、自動施工・遠隔施工に関連する政策に携わることができたと振り返る。
昨年、1年間担当した「施工企画係長」としての仕事は、まさに前職時代に感じていた課題、「建設技術普及」に関するものでした。
国交省では建設機械の自動化、遠隔化、ICT技術の活用、さらに環境対策といったより「広い範囲の技術普及」に取り組んでいます。たとえば、ICT技術の活用によって建設現場の生産性向上を掲げ、2016年度より「i-Construction(*)」という施策が進められてきたのですが、「i-Construction 2.0」として建設現場のオートメーション化を目指し、さらなる生産性向上の取り組みを打ち出しました。そのタイミングで国交省本省に着任し、その施策の3本柱の一つである「施工のオートメーション化」の自動・遠隔施工技術の普及を担当しました。
着任時、策定されたばかりの技術導入のロードマップをもとに、初年度の推進に携わり、それらをいかに実行していくかに注力しました。たとえば、現場で自動施工技術を導入する際、一番の前提となる「安全確保」のために、実際に自動・遠隔施工を導入している現場に足を運び、関係者とのヒアリングを踏まえ、“安全ルール”の検証を行なっていく。そして、今後の技術の普及を見据え、技術を開発する側・技術を現場で使う側に関する記述の見直しなどを手掛けました。
特に自動施工技術は、大手建設会社や建設機械メーカー、建機レンタル会社、ベンチャー企業等さまざまなプレイヤーが技術開発・実装を進めている分野です。そこで自動化技術に関する協議会を運営し、「産官学」におけるさまざまな立場の方に参画いただき、自動施工技術等の効果的な導入のあり方やルールについて、意見を頂戴しながら、議論を進めることができました。当然ですが、既存のさまざまな関係法令や決まり等は「人が作業すること」を前提としており、自律的に機械が動く場合を想定していません。こうした話題は、私が前職時代に解決したいと思っていた課題意識の出発点。国等がこうしたルール策定や方向性を示していくことで、それぞれのプレイヤーの「取り組む理由やキッカケ」になっていく。入省して改めてそういった役割の重要性を実感することができました。
そういった国交省での「仕事のやりがい」について大野さんはこう補足をする。
仕事を通し、間接的ではなく直接的に「建設現場における技術普及の課題」に正面から取り組んでいける。それ自体が大きなやりがいですし、「国交省を選んで間違っていなかった」と実感しています。もちろん、前職の建設現場の施工管理や研究開発は「作ったものが形になる」「日の目を見る」というわかりやすい手応えがあり、国交省での仕事ではそういったものは感じづらい場合もあるかもしれません。一方で、政策実行のためのプロセスを省内外の関係者との協力や調整を経て着実に進めていく仕事は、複雑なパズルを一つひとつ解いていくようで、そのやりがいは非常に大きいです。また、「国」という組織は、自身の専門外の分野も含め、さまざまな情報が集まり、触れる機会が豊富にあります。まるで分厚い図鑑を読んでいるような知的なおもしろさがありますね。さらに得た多様な知識が、いつかどこかでつながり、活きてくるかもしれない。そういった期待感も大きなモチベーションにつながるように思います。
(*)国土交通省におけるi-Constructionの取組について
2016年度より、ICT施工をはじめ、建設現場の生産性向上に向けた「i-Construction」の取組を推進してきた国交省。今後さらなる人口減少が予測されるなか、持続的に国民生活や経済活動の基盤となるインフラの整備・維持、管理していく上で、それらの取組をさらに進めた「i-Construction 2.0」をとりまとめ、打ち出している。「i-Construction 2.0」は、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1.5倍向上を目指すもの。その柱は「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」の3本。それらを通じて「建設現場で働く一人ひとりが生み出す価値を向上し、少ない人数で、安全に、快適な環境で働く生産性の高い建設現場の実現」を目指す。
(参考)
『i-Construction』https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/index.html
『i-Construction 2.0』https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001085.html

現在は、施工企画室にて計画係長として建設機械施工に関係する政策の調整業務を中心的に担う大野さん。各種政策において建設機械のICT技術、自動・遠隔施工の導入促進など重要な施策の視点を加えるなどの調整も担っているという。現在の仕事について「係長であっても異動したその日から政策分野の中心人物と見なされます。自分たちの取り組みの内容が業界紙の一面に載ったりすることもあり、非常にやりがいを感じます。また、やりがいの裏返しでもありますが、自分の仕事が直接的に社会の変化につながっていく責任の重さを感じます。」と話をしてくれた。そして入省にあたって必要となる心がけについても補足をしてくれた。「異動が多いのが特徴で、1~2年スパンで全く違う業務に取り組むこともあります。目まぐるしいスピードで進む業務に対応しながら過ごすと、1年はあっという間で、慣れた頃にはまた次のポストへ。その際、新しい仕事で最新の技術・知見にキャッチアップしていくことが重要です。もちろん周囲のサポート、研修は充実していますので不安を感じる必要はありません。異動を”新たな経験を得る機会”として捉えられるかどうかが国交省職員として活躍するためには重要だと思います。」
「建設業における課題を解決する技術」世に送り出すために
そして取材後半、大野さん自身の「目標」についても聞くことができた。
「建設業における課題を解決する技術」を世に送り出す、これが私の目標です。以前自分がいた建設現場、そして建設業界全体に対し、当時に抱いた「もっと効率的な技術があれば」「もっと安全な方法があったら」という思いを、未来への希望に変えていければと思っています。
正直に言えば、現場管理担当として働いていた当時、私は決して優秀な社員ではありませんでした。むしろ足手まといだったと思います。右も左もわからず、段取り不足で現場に迷惑をかけてしまったことも一度や二度ではありません。そういった私の失敗をいつもカバーしてくれたのが、現場で働く職人のみなさんでした。今でもその感謝の気持ちが強くあり、今後も決して忘れることはありません。だからこそ、勝手ながら、今度は私が役に立つ番だと思っていますし、恩返しがしたい。現場で働く方々は、豊富な知識を持つ、まさにものづくりのプロフェッショナルです。そうした方々により活躍いただくためにも、より良い環境を作っていきたいです。それは、誰もが「ものを作る楽しさ」を体感できる産業にしていくということ。そして建設業を「選ばれる仕事」にしていく。そういった思いを、国交省での仕事を通じて実現していければと思います。
最後に、大野さん自身が仕事において大切にしていることとは――。
私が仕事で大切にしてきたのは「自分ならではの視点を活かす」ということです。もともと就職活動でも「機械・電気にバックグラウンドを持ちながら、建設会社に入社する」という選択をしました。また、国交省でも中途採用の職員は増えていますが、まだまだ少数派です。つまり、そういった「王道ではないキャリア」でこそ得た視点が私の強みでもあります。現在所属する組織は、参事官(イノベーション)グループにあり、その名のとおりイノベーションを起こすことが求められています。上司の一人はよく「特別な才能を持ち合わせなくともイノベーションを起こすことはできる」と言っており、非常に共感しています。何もないところから画期的なものを生み出すことだけがイノベーションではなく、既存のものを「結合」させていくこともまたイノベーションへのプロセスです。「国」という組織は、さまざまな情報や知見が集まる場所でもあります。さまざまな異なる領域、知見、それこそ人材を「結合」することで私のような凡人でも社会にインパクトを与えられる、そういったイノベーションに関われるはず。そういった可能性を信じ、「自分ならではの視点」を活かした成果が一つでも残せるように取り組んでいければと思います。