日本郵船は、日本における海上輸送・国際海運の中枢を担う存在といっていい。2008年からは海洋資源の開発に関連する事業にも着手。事業基盤を強化している。今回お話を伺ったのが、同社に28歳で中途入社した中村勇太さん(32)。もともとは金融業界でファンドマネージャーとして6年半働いてきた経験の持ち主。全くの異業界、大きなキャリアチェンジだ。彼の決断、その裏側にあったのは「多くの人々の生活に欠かせない事業に携わりたい」という思いだったー。
1885年創業、売上規模2兆円超。
日本郵船は日本最大手(*)の海運企業だ。日本における輸出入の99%以上は海上輸送が占めるなか、経済活動の根幹を担うリーダーといっていいだろう。
強固な事業基盤と同時に、もう一つの強みといえるのが「人」だ。例えば、若手社員たちを積極的に重要プロジェクトに抜擢。外国企業との調整や交渉、プロジェクト遂行に向けた業務など、成長機会を豊富に与えている。
今回お話を伺えたのも、28歳で日本郵船に入社し、活躍している中村勇太さん(32)。入社後まもなく、海底に眠る石油や天然ガスの調査に関連する新規プロジェクトに抜擢。その推進役を担ってきた。政府と協力して進める資源開発事業は、いわば国益にもつながる重要ミッション。彼は当時をこう振り返る。
「海外企業と連携しながら案件を進めていく貴重な経験ができました。グローバルなプロジェクトだったので、英語が活かせる場面も多くありましたね」
じつは彼、物流や海運、国際事業とは全く違う世界でキャリアを築いてきた人物。大手信託銀行にてファンドマネージャーとして顧客の資産運用と日々向き合ってきた。
なぜ、彼は次なるキャリアとして海運業界、特に『日本郵船』を選んだのだろう。そこにあったのは、多くの人達の生活を支える立役者として働きたいという思いだったー。
もともと、大手信託銀行でファンドマネージャーとして働いていた中村さん。専門性も高く、キャリアとしても申し分ないものだったはず。ただ、ずっと金融の世界で生きていく選択肢はなかったそうだ。
金融業界での仕事にもやりがいはあったという中村さん。ただ、一人で完結することが多く、マーケットという見えない競争相手と対峙する日々。
「ファンドマネージャーとしての仕事は、基本的には一人で完結するもの。ディスプレイに向き合い、毎日数字と格闘をしていく。少しずつ"社会とつながっている実感”が薄れていくような感覚がありました」
こうして20代後半に差し掛かる頃、転職を意識しはじめたという中村さん。彼は転職の軸をこう定めていった。
「より多くの人と協力し、社会や人々の生活を豊かにしていきたい」
そのなかでも『日本郵船』を選んだ理由とは。幼少期を振り返り、”国境を越えてモノが運ばれてくる”という原体験がそこにはあったそうだ。
「小さい頃は海外で暮らしていました。海外に住んでいると、日本から船便で運ばれてくる荷物が待ち遠しく感じるもの。生活に関わるあらゆるモノが、船によってつながっている。生活に欠かせない事業だと考えていました」
また同社が行なっていたのは、過去の業界経験を問わない、いわばポテンシャル採用。そこにチャンスがあると考えた。
「30歳になってしまったら、異業界への転身は難しいかもしれない。そのような時に日本郵船の求人募集について知り、これが最後のチャンスだと思いました」
こうして日本郵船への入社を決めた中村さん。入社後に配属されたのは、海底の石油・天然ガス開発に関連する事業。日本郵船の新規事業だ。彼のような新人、20代にも挑戦の機会が平等にある。そこにはいい意味での驚きがあった。
「グローバルな環境で、多くの関係者と仕事を進めていく。プロジェクトが少しずつ形になっていくことに非常に大きなやりがいを感じることができました」
共に働く人たちもさまざまな国の人たち。当然、商習慣や仕事に対する価値観も異なるもの。それらも彼にとっては刺激的な経験だったようだ。
「当初、海外の方々とのコミュニケーションに戸惑うことも多くありました。ただ、信頼関係が構築できると、仕事も円滑に進むもの。一見、ビジネスライクだと思っていた方と業務後にビジネスだけでなく様々な話を一緒にする中で、親交が深まった経験もさせていただくことができました」
特にグローバルでのやり取りが多い『日本郵船』では、年齢や役職に関わらず、"自身の意見を持つこと”が良しとされる風土があると感じているという。
「日本郵船には、私と同年代でも、自分の意見を持っている人が多いですね。どのような立場の人間でも、フラットに意見を言い合える環境もあります」
若手人材に発言と、成長の機会を多く与えていく。これも同社の特徴なのかもしれない。
「特にキャリアが浅いうちは豊富な経験を積むために、一定期間でのジョブローテションが行なわれています。そうすることで多岐に渡る領域の知識や知見を蓄積していくことができる。こうした制度や考え方も人の成長を促している部分だと感じています」
そして取材は終盤へ。
彼の仕事観について伺うことができた。改めて金融業界から海運業界に転身した彼。ここから何を目指していくのだろう。
「利益という観点で、会社の事業に大きく貢献できる人材になっていきたいと考えています。経験も浅く、大きな実績が出せているとはいえません。まだまだ私は"与えてもらっている側”だと捉えています」
そこにより大きな成果を、携わったプロジェクトで残したい、といった強い意志が滲む。
「自分が入社したからこその価値をつくりたい」
そこには、彼なりの"日本郵船の未来”に対する思いがある。
「私は日本郵船の伝統、文化を含め、会社そのものが好きなのだと思います。チャンスをいただいた恩もある。私が挑戦させていただけたように、これからも若手がチャレンジできる環境を引き継いでいきたい。日本郵船は伝統的な海運事業のみならず、新たな事業にも積極的に乗り出していくはずです。海洋資源開発に関連する事業はその一つ。自分自身、さらに成長し、知見を活かしながら、新たな収益の柱をつくっていきたいですね」
伝統を守りながら、新たな価値を創っていく。まっすぐなまなざしで未来について語ってくれた中村さんの表情が印象的だったー。
(*)日本経済新聞 - 海運業界:企業一覧
https://www.nikkei.com/nkd/industry/complist/?n_m_code=133