ドローンを活用したソフトウェアを主軸に事業展開するテクノロジーベンチャー『CLUE』で働く永井友里奈さん。セールス部門マネージャーを担う彼女だが、「ドローン業界」は初挑戦。サイボウズ、ベルフェイスと、一見するとドローンとは無縁とも思える業種でキャリアを築いてきた。なぜCLUEに転職することを決めたのか。「ドローンには、世の中の当たり前を変えていけるポテンシャルがある。ドローン市場はまだ確立されていないからこそ、自分が営業する意味がある」と語ってくれた。そんな彼女の転職ストーリー、志を追った。
「私はいつも、そのテクノロジーは世の中の当たり前を変えていけるものか。そんな軸で働く場所を選んできました。人生には楽しむ時間も必要。そのためにも、より効率的な働き方を取り入れて時間の使い方を変えていった方がいい。自分の時間も諦めない、それが私の考えなんです」
こう語ってくれたのが、永井友里奈さん(33)。
新卒ではサイボウズへ営業として入社、2社目のベルフェイスではカスタマーサクセスとして企業のインサイドセールス立ち上げを支援。そんな彼女が3社目で選んだのが、「ドローン」という領域だった。現在、CLUE社の主力サービス『DroneRoofer』事業部のセールスマネージャーを務める。
「CLUE社はとくに建築・建設業界といった領域における働き方を変えています。決めた理由はシンプルで、レガシーな建築・建設業界の、新しいスタンダードをつくっていけると思ったから。ドローンが広まっていくことで、人が危険と隣り合わせで進めていた作業が安全に出来るようになるだけでなく、企業の生産性や成約率アップなど、大きなインパクトがある。成果をあげながらも、みんなが楽しく、ラクになればいいなと思っています」
いかにこのサービス、スタートアップで「世の中の当たり前」に挑戦していくのか。彼女の志を追った。
『DroneRoofer』概略
・ドローンを飛ばすことにより空撮で屋根・外壁を点検できる、建築・建設事業者向けのSaaS型アプリケーションサービス
・操作は簡単、iPadのアプリをタップするだけで、誰でも簡単にドローンを飛ばせる
・梯子をかけて人が屋根に登る必要がないため、転落事故をゼロにできる
・点検時間は70%減で、生産性向上
・施主様に写真を確認しながら報告でき、成約率30%アップ
永井友里奈(33)
2009年4月、サイボウズに入社し営業に従事。2016年、フランスに留学。帰国後、2018年10月、ベルフェイスに入社。インサイドセールスのオンボーディングを経験する。2019年8月、CLUEへ。現在、セールスマネージャーを務める。
もともと、ベルフェイスでカスタマーサクセスとして働いていた彼女。転職の理由についてこう語る。
「2018年、ベルフェイスがまだ30名程の組織の頃に参画し、日本でもまだ珍しかったインサイドセールスという働き方をカスタマーサクセス担当として広める経験をしました。ミッションは、WEB商談システムを使って訪問が当たり前だった営業のあり方を変えていくこと。今でこそリモートワークが広まりWeb商談は普及してきましたが、当時はまだ全然で。『Web商談なんてうちの業界では受け入れてもらえないよ』『訪問しないと失礼と思われそう…』といった反応が大半な中、その固定観念を覆していくのは大変ながらやりがいがありました。
ただ組織が細分化されており、私が担当していたオンボーディングチームでは1社に関われるのは導入後立ち上がりの2ヶ月まで。次第に、立ち上げから仕組みを完成させるところまでコミットしたいと思うようになったんです」
こうして彼女は、次のステージを考えるようになる。
ITソリューションの第一線で活躍してきた彼女。引く手あまただったはず。そのなかでもなぜCLUEだったのか?
「一番大きな理由は、「これまでの当たり前を変えられる」ことでした。建築業界については正直全く詳しくなかったのですが、転落事故が毎年の労災事故のうち45%以上を占めていて屋根工事も危険な作業の1つだと知った。ドローンを広めていくことで、現場の方々の働き方を根本から解決していけると思ったんです。かつ、「一緒に変えていきましょうよ」と、パートナーになることができるSaaSのビジネスモデルが好きだった。私が求めるものが揃っていたという感じでした」
また、ドローンという、市場がまだ立ち上がっていない領域。これも彼女には魅力的に映った。
「極端な話、お客さんにオススメして第一声で「ああ、これいいですよね」と言われるサービスには、営業は要らないと思っているんです。ほとんどのサービスはWEBで調べればわかるし、欲しいと思ったものはなんでもWEBでポチれる世の中なので。ただ、市場がまだ出来上がっていない領域では、ある程度営業が必要だと思っていて。「ドローン屋根外装点検ってなに?」と言われるところに対して、お客様がまだ気づいていない価値を広めていく。営業としては難しいけれど、そこにはやる意義があると思いました」
高齢の方も多く、新しいツールに抵抗を持つ方も珍しくない、建築・建設業界。ここにドローンを広めていくのは、決して簡単ではない。
「安全を考慮せずに登り続けたときのリスクを粘り強くお伝えしています。たとえば、転落事故がおきるリスクがある中で社員を働かせるのは企業のコンプライアンスとしてもリスクが高いこと、転落事故がおきたら労災で何百万円も支払わなければならないことなど。ただ、それでもドローンに懐疑的な方もいます。そんなときは全国各地どこでも現地調査に同行して、実際にドローンを飛ばして実際に披露することもあります。屋根に登るよりも簡単に、しかも実務で使い勝手の良い写真を撮ることができることに驚かれます。」
顧客には、それぞれ気づいていない課題がある。そこを、パートナーとして、真摯に向き合っていく。
また、大変ななかにも、ドローンという有形商材を扱う営業ならではの面白さにも気づいたという。それは、顧客のその先のお客様にも喜ばれる「顧客体験」を創出できることだ。
「現地調査に行ってドローンを飛ばすと、点検を依頼した家のオーナー様も喜んでくれるんです。ドローンで家族写真を撮ってあげたりすることもあります。その光景は、私も嬉しいですし、やっぱり企業さまも嬉しそう。すかさず、「ドローンを使わない理由はないですよね」と伝えています(笑)」
物理世界に影響を及ぼすリアルテック領域ゆえの難しさもあるが、個社ごとのソリューションを提案するスタイルはこれまでと変わらないという。
「DroneRooferを導入することで解決したい課題、叶えたい姿はお客様によってそれぞれです。なぜ導入するのかという課題、何を達成したいのか、誰がどのように活用するのか、お客様のサクセスした姿をイメージしながら提案をしています」
そして、彼女が見据える未来について伺えた。
「1年前よりは確実に、ドローン屋根外装点検の効果が世の中に広まってきていると感じています。2~3年後にはもっとドローンが当たり前になって、建築業界の多くの方の働き方が変わっていたら、面白いですよね」
ちなみに、屋根点検業務のドローン活用が広まりつつあることで、建築・建設業界での女性のキャリアも少しずつ変わってきているという。
「先日、現場で働く女性たちに集まってもらって女子会を開催したんですが、仕事の幅にも変化が現れている生の声を聞くことができました。これまで屋根点検って、体力を使うっていう意味でなんとなく“男性の仕事”というイメージがありました。ただ、ドローンの広まりによって誰でも簡単に屋根点検が出来るようになった。これまでにない働き方も増え、少しずつですが人手不足の解消へ向かっていると思います」
2019年12月に開催された、DroneRoofer女子会の様子。建設・建築現場で働く女性パイロットが集まり、情報交換をした(*)。
(*)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000016203.html
そして、取材の最後には、彼女の仕事価値観について伺うことができた。
「仕事はもちろん大事ですが、私は自由な時間を犠牲にしたくはないんですよね。自由な時間を勝ち取るためにも、周りから認められるような成果を出して、満足度の高い仕事をしていきたいと思っています。だからこそ、業務用ツールを広めることで、人々の働き方ももっと自由になればと思っていて。これはサイボウズ、ベルフェイス時代からずっと共通していることですね」
仕事も、自由な時間も諦めない。そんな、しなやかな彼女の生き方がそこにはあった。