コロナ禍による経営のピンチをチャンスに。愛知県岡崎市が運営する無料の経営相談所「岡崎ビジネスサポートセンター(通称:オカビズ)」が、地域企業の救世主として注目を集める。同センターは2021年10月より9期目を迎え、さらなるサポート体制強化のため、ビジネスコンサルタント(相談員)を募集する。前センター長・現チーフコーディネーター、秋元祥治さんにオカビズ独自の経営支援・事例について、そして働くことで得られるやりがい・キャリアについて伺った。
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相談殺到。“ 行列が絶えない経営相談所 ”「オカビズ」
“ 行列が絶えない経営相談所 ”
こう称されるのが、愛知県岡崎市が運営する「岡崎ビジネスサポートセンター(通称:オカビズ)」だ。
2013年にf-bizをモデルに開設されたオカビズは、2021年10月より9期目を迎える。この8年で約3000社・2万件以上の相談に応えてきた。現在も、月250件~300件ほどの経営相談が殺到する。
その経営支援・サポートにおける特徴について、チーフコーディネーターの秋元祥治さんはこう語る。
「問題点や課題の指摘ではなく、その会社やお店の良いところを探すんです。そしてそれを生かして売上アップに直結するサポートを行ないます。しかも相談者さんたちはヒト・モノ・カネに課題を抱える中小事業者。お金はかけず、アイデアと戦略で勝負していく。2020年はコロナ禍の影響で、資金繰り・補助金に関するご相談が多くありました。ただ、2021年になってからは“いかに売上をもとに戻せるか”、“この先、どう事業を持続させていくか”というご相談が多くなっています」
起業、持続可能な経営、デジタルの活用、人材採用、事業承継…ビジネスに関するあらゆることが相談できるオカビズ。サポートを行うのは、第一線で活躍するコンサルタント、デザイナー、コピーライター、中小企業診断士などプロフェッショナルたちだ。
2021年、コロナ禍においてビジネスをとりまく環境が大きく変わるなか、同センターでは、さらなるサポート体制強化のため、新たなビジネスコンサルタントを募集する。
今回の募集にあたり、チーフコーディネーターの秋元祥治さんにオカビズ独自の経営支援の概要、事例、そして働くやりがいについて詳細を伺った。
オカビズでは、デザイナー、コピーライター、中小企業診断士など専門分野のプロフェッショナルなアドバイザーたちもチームメンバーとして、地域の経営者・事業者に無料でアドバイス・サポートを行なう。
求められているのは「分析」ではなく「具体策」
そもそも、なぜ、オカビズには相談が殺到するのか。秋元さんはこう解説してくれた。
「これまでも、全国各地に中小企業向けの公的な相談窓口はありました。たとえば、補助金・助成金の申請を支援したり、資金繰り・融資、そして共済保険などの相談ができたり。ただ、これらは経営におけるいわゆる“守り”ですよね。リアルなビジネスでどう売上をアップさせられるか。利益が出せるか。具体的なアドバイス、サポートをしてもらえる場所がなかった。そこをオカビズが提供しています」
日本における企業の約85%が「小規模事業者」と言われているなか、財務診断やフレームワークを用いた経営分析などしても、実際に売上が立たなければ廃業してしまう。さらにそういった事業者たちは潤沢な資金があるわけではない。
「お金をかけずに、アイデアをつかって売上アップをお手伝いしていきます。そのときに大切になるのが、良いところ探しをすること。前提として、事業者さんの真の魅力の代弁者になること。じっくりお話を聞かせていただき、セールスポイントを見つけ、そこを起点に具体的な提案して成果が出るまで伴走していきます」
とはいえ、とくに中小企業・小規模事業者となると、ビジネスでの差別化は難しい。
「よく、“自分たちには良いところがない。どうしたらいいですか?”と聞かれるんですが、私はこう考えます。良いところがない会社なんて一社もない、と。これまで競合と比べて顧客に選ばれてきたから事業が継続できているわけですよね。ただ、自分たちでは気づいていない良さ、業界の常識にとらわれて見えていない魅力が必ずある。それを信じてお話を聞いていきます」
売上低迷の老舗和菓子屋で起きた「コロナ禍の売り上げV字回復」
売上アップの事例にはどんなものがあるのか。とある和菓子屋のケースを伺うことができた。
「岡崎市は城下町なので、昔ながらの和菓子屋さんが多くあって。そのうちの一つ、老舗の「小野玉川堂」さんの事例があります。まず、ご本人たちは「普通にやっているだけ」とおっしゃっていたのですが、仕事についてじっくり伺うと「薪を使って釜であんこを焚いている」と言うんですよ。これ、じつは本人たちは気がついていないセールスポイントでした。一般的にはガスで煮るか、なかには出来合いのものを仕入れているお店もあると。店主さんとしては、代々、大正時代から当たり前だと思ってやってきたこと。「薪で焚いたほうがやさしくておいしい味になる」とおっしゃっていた。ただ、そこを打ち出したことはなかったので、そこを打ち出していきましょうとアドバイスしました」
オカビズのアドバイス・支援により、ホームページも「薪で焚いた餡」を打ち出すカタチにリニューアルされた「小野玉川堂」のHP
さらに、その和菓子屋では、コロナ禍にあっても売上を伸ばしたという。コロナによってギフトやイベントに関連した発注がなくなり、売上が4割もダウン。ご近所さんがステイホームで買いに来てくれるといっても限界があるといった状況だった。
「その時に提案したのは、“あんこ”と“焼き皮”を分けて販売し、“手作りどら焼きセット”として販売すること。お好み焼き粉、ホットケーキミックスがスーパーマーケットから消えていた時期。ステイホームで家族で過ごす時間が増え、手作り需要が高まっていました。こうした動向を背景に“手作りどら焼きセット”として販売することで新たなシーンを提案、大ヒットにつながりました。さらに若い世代の方も買いに来てくれるようになり、「ついで買い」も増えた。気づいたらコロナ前より売上がアップしたんですよね。これはテレビでも「コロナ禍の奇跡」と紹介いただけた。お金を使わず、小さなお店でもできることをお手伝いする。ご本人たちに思いもよらない気づきがあり、ありがとうと言ってもらえるのは本当にうれしいですね」
岡崎の伝統産業のひとつは、石材加工。墓石製造が主力の(有)稲垣石材店のご相談は、端材を利用して石の皿などを作りフリマアプリで販売したりしているが、これを活性化させたいというもの。オカビズでは「墓石の端材を利用したもの」ではなく、最高級の御影石を利用し熟練の職人が手掛けた上質な食器だと再定義。オーダーメイドの石食器「INASE」としてブランディングをサポート。大都市部のミシュラン星付きのレストランでも採用され、注文は続々と。事業者の持つセールスポイントを見つけて、その効果的な活かし方を一緒になって取り組むのがオカビズのサポートだ。「現在、受注は6ヶ月待ちとなり、中期的には会社売上の30%を占める中核事業に育てたいと意気込んでおられます」と秋元さん。
「地域活性化」に直結するコンサルティングを
アイデア・戦略で中小企業・小規模事業者の売上アップを支援していく。その仕事に対し、秋元さんは「やりがいしかない」と語ってくれた。
「やっていることとして、広義にいえば経営コンサルティングなのですが、分析的・フレームワーク的なものでは解決できない課題ばかり。予算も、人手もかけられない。そこに対して、具体的なアイデアを現場のど真ん中で試すことができます。地域活性化に直結するので、やりがいしかないですね」
その根底にあるのは、「誰かを応援し、感謝される」という手触り感だという。
「誰か応援する仕事は、すごくやりがいがあると思います。自分の人生は、自分ひとりでしか生きられないですが、応援をすることで、多くの人の人生を少し体験させてもらえて、共に歩んでいける。だからこそ責任も重い。経営者さん、事業者さん、そこで働く従業員のみなさん、ご家族の人生をお預かりし、左右する仕事でもある。だからこそ成功させる。使命感は必要ですし、そのプレッシャーはありますね」
そして、あらゆる業種・業態のビジネスに触れられるのも、貴重な機会に。今回募集するビジネスアドバイザーに求められる資質と併せて伺った。
「あらゆる業態の方々と出会うことができるのも、最高におもしろいと思います。町工場や飲食店、美容室などはもちろん、石材屋さんや福祉作業所、農家の方々もいますね。既存のビジネスにおける売上アップはもちろん、起業したい、という方々のご相談も増えています。どうすればそのビジネスを成功させられるか。ここを面白がれる人にはすごく向いている。コンサルタントの経験も問いません。Facebook、Twitter、Instagram、TikTokを使ってもいいですし、BASEやSTORESでショップ開設を支援してもいい。CAMPFIREなどでのクラウドファンディングも必要になるかもしれない。自分でやったことがなかったとしても、情報感度が高く、どんどん活用していける人はきっと活躍できるはずです。そして相手に興味、関心を持ち、耳を傾けて、誠実に向き合えるか。コロナ禍で奮闘する企業・店舗を応援していけるか。ここに共感し、使命感を持って向き合っていただける方にぜひ応募いただきたいですね」
プロフィール 秋元祥治
2001年より、人材をテーマにした地域活性に取り組むG-netを創業し03年法人化。15年8ヶ月にわたる代表理事を16年5月末日で退任し、現在理事。また、2013年・33歳で「売上アップ」に焦点を当てた岡崎市の公的産業支援機関「オカビズ」センター長に就任。2021年10月よりチーフコーディネーターに。受賞歴に、内閣府「女性のチャレンジ支援賞」、「ニッポン新事業創出大賞」支援部門特別賞ほか。内閣府「地域活性化伝道師」・中小企業庁よろず支援拠点事業全国本部アドバイザリーボード等、公職も多数。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部客員教授、早稲田大学社会連携研究所招聘研究員、慶応義塾大学SFC研究所所員。
地方が元気にならなければ、日本は元気にならない
そして取材の最後に伺えたのが、秋元さん自身の仕事観について。秋元さんにとっての「仕事」とは――。
「私にとって仕事とは、まさに使命感を持って取り組めることではないかと思います。目の前に困っている方々がいて、あるべき姿、目指す姿をイメージしながら、応援していく。地方が元気にならなければ、日本は元気にならない。お金のためという以上に、誰かの役に立つ喜び、その手触り感のある「意味報酬」のために働いているのかもしれません。むしろ金銭報酬だけでやるには、大変な仕事。ずっと仕事のことを考えてしまいますし、白髪もここ最近さらに増えました(笑)ただ、まだまだ満足できない。最高に仕事が好きなのだと思います」
秋元さんがそこまでの思いを持って、地域企業・事業主と向き合えるのはなぜなのか。そこには地元岐阜での原体験がある。
「地元は岐阜県なのですが、20歳の夏休みに実家に帰ったら、小さい頃からよく遊びにいっていた百貨店が無くなり、更地になっていたんですよね。いつも見ていた景色から百貨店が無くなり、青い空が広がっていた。すごくショックでした。よく鬼ごっこしていた場所がなくなってしまって。なぜ、無くなってしまったのか。親戚や、同級生の親に聞くと、みんなが「役所が悪い」「駐車場がないのが悪い」と文句ばかりだったんですよね。すごくかっこ悪いと思って、そのことを自分も知人に愚痴っていた。ただ、自分でも気づいてしまったんです。人のせいにして文句ばっかり言っている自分もすごくかっこ悪いなと。だから自分でやろうと思ったのが最初でした」
そこには秋元さん自身が大切にする考え方、言葉がある。
「僕が学生時代に出会った慶應義塾大学助教授(当時)の鈴木寛さんの言葉で、「うだうだ言って何もしない人よりも、うだうだ言われてでも何かしている人のほうがずっと偉い」に感銘を受けて。今でも最も大切にする考え方の一つ。地域の企業の本当の悩みは補助金や助成金、資金繰りでもなく、どう売上をあげるのか。そこに応えている人がいないなら自分でやるしかない。これも先輩からの受け売りとなる言葉なのですが、「自分がやらなきゃ誰がやる。今やらなきゃいつやる」と。もちろん、自分がやらなきゃ誰がやる、というのは自惚れや勘違いなのかもしれない。だったとしても、そう実感できる仕事をさせてもらえるのは、本当にありがたいですね」