「デザイン都市・神戸」や、スタートアップ × 自治体「Urban Innovation JAPAN」など、先進的な取り組みで注目される神戸市。そういった同市で初となる「コピーライター&映像クリエイター」公募プロジェクトが始動した。なぜ、神戸市職員としてクリエイターを採用するのか。そこには行政サービスをクリエイティブの力で「わかりやすいもの」へと進化させていく狙いがあった――。
全国さまざまな自治体を見ても、コピーライターや映像クリエイターを職員として採用するケースはほとんどない。
なぜ、神戸市はいわゆる「クリエイティブ」を重視するのか。そこには、神戸市の久元喜造市長の考えも大きく反映されている。
「そのサービスは、ちゃんと使われるか。伝わっているか。市民生活が本当に良くなっているか。久元市長としても「行政としてのサービスは、使われるところまでが大切」といつも話をしています。ワクチン大規模接種会場の看板ひとつとっても、市長をはじめ、洗練されたものになるよう、職員みんなでこだわって創っていきました。結果、会場からは“いつものうち(神戸市)とは違うな”との声をたくさんいただきました」
こう語ってくれたのが、神戸市 広報戦略部課長の本田亙さん。
「食やものづくりなどの産業などは“デザイン”との相性もよく、PR・広報においてクオリティを上げてきた部分かと思います。そこに加え、医療、福祉、子育て、防災…など、より身近な暮らしを支える行政サービスも、よりわかりやすく、使いやすいものにできるよう、“デザイン”や“クリエイティブ”を強化していく考えです」
それはグラフィックデザインに限らず、わかりやすい言葉、動画表現でも共通する部分だ。今回募集を行うコピーライターと映像クリエイターには何が期待されるのか。そもそも、なぜ、神戸市は「クリエイティブ」に力を入れるのか。詳細について伺った。
「BE KOBE」は、阪神・淡路大震災から20年をきっかけに生まれた、「神戸の魅力は人である」という思いを集約したシビックプライド・メッセージ。新しいことに挑もうとする人や気持ちを愛する、そんな神戸を誇りに思うメッセージとして広めていくもの。設置したモニュメントは、SNS映えするフォトスポットとなっており、神戸の新たな観光名所となるとともに、「BE KOBE」のメッセージを発信していく。
・デザイン都市・神戸
・スタートアップ × 自治体「Urban Innovation JAPAN」
・CO+CREATION KOBE Project
・「食都神戸」推進
・「ノエビアスタジアム神戸」ワクチン接種 × ピッチサイド散策
など、先進的な取り組みが注目される神戸市。そういったなか、同市初となる副業クリエイターの一般公募プロジェクトが始動する。
そもそも、チラシにせよ、ホームページにせよ、なぜ行政サービスの説明はわかりにくく、使いづらいものが多いのか。そこにはいくつかの要因がある。
「たとえば、補助金などの制度について伝える時、どういった方が対象になるのか、どの期間が対象になるのか、どういった手続きが必要か、正しい情報を伝えなければなりません。一方で、全て詳しく記載すると、どうしても網羅的で複雑なものになってしまう傾向があります」
こういった課題を「“伝える技術”に長けたプロフェッショナルと解決していきたい」と本田さんは語る。
「手続きのやり方であったり、まちのルールであったり、ホームページはもちろん、チラシ、広報物、動画、イベント・催し等で伝えていくのですが、よりわかりやすく、使いやすいPRツール、コンテンツにしたいと考えています。一方で、職員たちは「伝えること」のプロではありません。現在、各局の職員が属人的に取り組んでおり、ガイドラインもない状態。ぜひこのあたりを入庁される方と一緒に進めていければと考えています」
もうひとつ、「映像」での発信も注力領域だ。現在、11万人以上が登録するYouTubeチャンネル「kobecitychannel」を運営しているが、それに留まらない表現、アプローチを模索する。
「いろいろな部局から“行政手続きを説明するのに手間がかかるため、動画でやり方を説明したい”などの要望も挙がってきていて。また、YouTubeに限らず、さまざまな映像メディアでの表現も試していきたい。映像を活用し、市民とのコミュニケーションにどう役立てられるか、さまざまな挑戦をしていきたいと考えています。このあたりを一緒に進めていただける方を求めています」
神戸市 広報戦略部課長の本田亙さん。なぜ、クリエイターを登用していくのか?その理由として「制作のスピード」「市役所の業務理解」「職員たちとのコミュニケーション」をあげてくれた本田さん。「外部の方に委託をすると、職員はデザインに関する知識がないため、クリエイターに対し「壁」をつくってしまうこともあります。そういった「壁」を無くし、できるだけ職員たちの近くで働いていただき、行政という少し特殊な仕事、文化風土を理解してもらった上で制作を共に進められえばと考えています。また、外部に発注するとしても「橋渡し役」として細かいニュアンスまで伝えていただける役割に期待しています」
いかに正しく、わかりやすい情報が伝えられるか。今回募集するのはコピーライター&映像クリエイターだが、期待されるのは、広義の「デザイン」能力ともいえる。
「広い意味でのデザインは“共感を生む力”だと私は考えています。「ちょっとカッコいいから使ってみよう」「便利そうだからやってみたい」「簡単そうだ」など。言ってみれば、市民との“コミュニケーションデザイン”と言ってもいいかもしれません」
ツールやコンテンツや通じたコミュニケーションデザインは、職員全員の能力としてもベースアップしていきたい、と本田さんは語ってくれた。
「私自身の体験として、市のワークショップの参加者の方々に “神戸市さん、そんなにいろいろな制度があったんですか。全然知らなかったです”と言われて悔しい思いをしました(笑)じつは神戸市の市役所全体でいえば、本当に素晴らしい取り組み、施策はたくさんあるのに、あまり知られていない。これを知ってもらえるだけでも、職員の自信につながっていくはずです」
やっていることがきっちり伝わり、評価してもらえるようにしたい。これは本田さんの思いでもある。
「たとえば、それぞれの課や局から広報戦略部に相談に来てもらって、一緒に制作物をつくる。そのプロセス、成功体験を通じて「伝える技術」を職員みんなで磨き、政策立案にも活かしてもらえるとすごくいいなと思っています。当然、神戸市全体としてまだまだ途上の部分。こういった全体のベースアップは、今回入庁いただく方と一緒に挑戦していくので、醍醐味と呼べる部分かもしれません」
2021年8月30日に公開された、マルチエンディング・ムービー『風水害24 MOVIE』。大雨・洪水・土砂災害が全国的に発生し、警報や避難指示が連日発令されるなど、風水害への関心が日々高まりつつある昨今。風水害対策についての知識や避難行動を楽しく学べるように制作された。超巨大台風が目前に迫るなか、どのような選択をするか、視聴者が登場人物の行動を選択すると、イベントが発生して物語が進行する。全115通りのシナリオが用意されており、視聴者の選択次第では登場人物に生命の危険が及ぶ。この動画で避難行動のシミュレートをおこなうことで、風水害対策を考えるきっかけとなることが期待される。
そして最後に伺えたのが、本田さん自身の考え方について。今回入庁する方の上司にもなる人物だ。
「どうしても行政での仕事は、その特性上「◯◯しなければいけない」となるケースは多いと思います。ただ、時には「◯◯したい」に発想を変えていく。ここはすごく大切にしているところです」
そのように考えるようになった原体験として、とある防災イベントがあった。
「以前、神戸市で企画した「イザ!カエルキャラバン!」という防災イベントがありました。家族や友だちと楽しみながら、防災知識を身につけることができる、新しいかたちの防災イベントでした。しかも、地域のバザー企画と連動していて、子どもたちは無料でおもちゃがもらえる、という企画。当時、3歳だった私の子どもは、おもちゃ欲しさに参加したのですが、担架で“かえる”を運びながら、「けっこう重かったから運べなかった。すごく大変だった」と言っていたんです。これは、いざ地震などが起こり、一人で誰かを運ぼうとしても難しく、運び方を工夫しないといけない、という体験を通じた学びでもある。すごく大切なことが、楽しく学べた。これは、まさにデザイン、クリエイティブの力だなと実感した経験でした」
そこから本田さんのモットーは「やるなら、楽しく」になったと振り返る。
「行政は「おかみ」という言い方があるように、何か押し付けよう、やらせようとしているイメージがあります。もちろん、やらなきゃいけないところはある。ですが、どうせやるなら楽しくやれたほうがいい。ついやりたくなる、思わず手にとりたくなる。私も、職員も、市民のみなさんにも、そう感じてもらえるほうがいい。みんながそう思えるような環境づくり、仕組みをこれからも常に考え続けたいですね」