2021年7月、農林水産省において約10年ぶりとなる新局「輸出・国際局」が設立された。その初期メンバーともなる「国際担当」「輸出担当」「知的財産担当」3ポジションの公募が実施される。そもそも「輸出・国際局」とはどのような局なのか。なぜ、このタイミングでの新設だったのか。農林水産省 輸出・国際局総務課総括課長補佐の氷熊光太郎さんにお話を伺った。
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2021年7月に誕生、輸出・国際局
2021年7月――農林水産省で新たに「輸出・国際局」が新設された。
7つの課*から構成され、食品水産物・食品の輸出施策や、農林水産省の国際関係の施策の舵取り役・実行を担っていく。その新メンバー採用にあたり、初の公募プロジェクトが開始された。求めるのは、この3ポジションだ。
・国際担当
・輸出担当
・知的財産担当
そもそもなぜ、同局が立ち上がったのか。そして求められる人材像とは。農林水産省 輸出・国際局総務課総括課長補佐の氷熊光太郎さんに伺った。
7つの課の主なミッション
● 輸出企画課(輸出促進に関する政策立案、農林水産物・食品のプロモーション実施)
● 輸出支援課(輸出関係の国内事業者の支援)
● 国際地域課(農林水産分野に関する二国間の交渉や技術協力)
● 国際経済課(経済連携協定の交渉)
● 国際戦略グループ(大型の経済連携(WTO、APEC、G7、G20、FAO、OECDなどの「国際機関」)における会議の準備)
● 知的財産課(農林水産分野の知的財産の保護・活用)
● 上記を総括する総務課
氷熊光太郎
1983年生まれ。新卒で2006年に農林水産省へ入省。入省後、留学のほか、外務省や内閣官房、内閣府にも出向するなど、様々な部署を経験。2022年6月現在、農林水産省 輸出・国際局総務課総括課長補佐を務める。
2030年、農林水産物・食品の輸出額5兆円を目指して
まず伺えたのが、「輸出・国際局」が誕生した経緯について。
「わが国の農林水産業は、農林漁業者の減少・高齢化などを背景に厳しい現状があります。食料自給率もカロリーベースで約4割となっております。一方、世界に目を向けると、人口増などを背景に、今後も食市場の拡大が期待されます。「農は国の基(もとい)」という言葉もあるように、日本の農林水産業を将来にわたって、持続可能なものとするためには、広がる世界の市場も開拓しつつ、いざという時には、国内需要を賄うことができることも視野に入れ、国内農林水産業の生産基盤を強化する必要があります。このような認識の下、農林水産物・食品の輸出は、農林水産業のポテンシャルを伸ばす重要な政策ツールの一つであり、国内的にも、国際的にも、農林水産物・食品について司令塔となることができるよう「輸出・国際局」が設置されました。また、政府全体で、農林水産物・食品の輸出額を2025年に2兆円、2030年に5兆円にしていく目標を掲げました。こうした目標を実現するためにも、輸出に際して障害となりうる事項については積極的に交渉すべきであることから、「輸出・国際局」において農林水産省が関係する国際関係(EPA、WTO、APECなど)も併せて担当しています。」
さらに今、ウクライナ情勢を経て、様々な農林水産物・食品の価格は高騰。「食料安全保障」に、かつてない注目が集まる。
「海外からの食料輸入に依存しているわが国として、ウクライナ情勢などを踏まえ、食料の安定供給をどのように図っていくかは重要な課題であると考えています。小麦など穀物の需給動向分析はもちろん、透明性のある形で国際貿易を円滑に行う仕組みなど、農林水産省としても、食料安全保障についてもアンテナを高く情報収集・分析を行っています。」
「輸出」と「国際交渉」の両輪を回していく
世界情勢が激変していく今、「輸出・国際局」に求められる役割について、氷熊さんはこう語る。
「現下の世界情勢の下、「輸出・国際局」に求められるミッションの一つは、農林水産物・食品の輸出を通じて、農林水産業の将来像を展望し、その実現に向けて前向き、かつ、力強く施策を推進していくことだと考えています。具体的には、農林水産物・食品の輸出促進を図るためには、生産段階の対応はもちろんのこと、流通、通関手続、現地でのロジスティクスなど、関係者が一体となって取り組む必要があり、輸出・国際局はその中心にあるべきです。鮮度保持が必要な農林水産物・食品の輸出は、一般的な工業製品とは異なる苦労も多いです。ある時は商社のように、ある時は物流会社のように、ある時は輸出促進の障害となる規制緩和に向けた交渉役として、マルチに活動することが求められます。農林水産物・食品の輸出に関する施策は行政分野としては比較的新しいものであるからこそ、柔軟な発想に立って取り組む必要があると考えています。」
他にも、長期的な観点で捉えていくことも重要だという。
「農林水産物・食品の輸出を継続的に行うためには、一定の品質のものを、定期的、かつ、安定的に輸出できるようにする必要があります。これらにより、商社、インポーターをはじめとして、諸外国の関係者の理解を得ることができます。「商流」と言うは易く、行うは難しですが、関係者の信頼構築に向けて中長期的な視点で取り組む必要があります。その際、ODAなどを通じて発展途上国の生産性向上を図ることや、国・地域の農業・食関係のビジネス展開を支援することなどを通じて二国間関係の強化を図ることも、中長期的なミッションであると考えています。」
まさに、国をまたいだ交渉なども行っていく輸出・国際局。実際、どういった業務を行っているのか。その一例を紹介してくれた。
「分かりやすくいえば、輸出と国際交渉を一体的に実施し、輸出をもっと前に進めていくのが、輸出・国際局の仕事です。例えば、輸出・国際局では、現在、「輸出支援プラットフォーム」というものをシンガポール、タイ、アメリカなど主要輸出先国・地域に設立しています。このプラットフォームは、大使館や総領事館、ジェトロなどを主要構成員とし、現地に進出している食品関連企業などにも参画いただいて、現地発で、輸出障害となりうる規制情報の収集・分析などを行うこととしています。現地で得られた情報は、本省(東京)にも還元し、輸出施策の検討に活かすほか、相手国政府に申し入れるような事項があれば、関係する政府機関に申し入れを行うなど、課題に適切に対応するための施策を検討することとしています。このように、輸出と国際交渉は、表裏一体の関係にあります。これらを輸出・国際局が一体的に行っていきます。」
氷熊さんが所属する総務課では、他6つの課の役割を把握し、輸出・国際局としての大きなミッションをスムーズに実現していくための総合調整を担う。「例えばある国に誰かが出張する場合。自分の課のミッションで進めるのではなく、他の課のミッションも合わせて進められるとスムーズなのでは?とアドバイスをする。交渉の対処方針の検討で行き詰ったなら、あの課と協力して進めるとよさそう、といったように、各課を結び付けミッションの実現に向けて最適化していきます。そのためには、各課の業務の把握はもちろん、世界や日本の情勢、役所内において何がホットトピックか、アンテナを高くしておくことが非常に重要です。」
農業関連に携わってきた民間人材も多く活躍
今回は民間出身者も採用の対象となる。民間で働いた経験を活かせるチャンスも多いにある、と氷熊さんは語る。
「特に輸出・国際局は、農林水産省の中でも、民間の方とのお付き合いが多い部署です。例えば、農林水産物・食品の輸出に挑戦したい民間事業者の方に個別にアプローチし、支援を行っていく業務があります。すでに輸出の経験がある方もいれば、まだやったことがないけれど今後挑戦したいという方もいて、その熟度に合わせて提案を行っていく。民間で働いた経験がある方であれば、顧客の気持ち、現場感を想像しやすい、という意味で経験が活かしやすいのではないかと考えています。」
実際、現場では民間出身の方も数多く活躍している。
「輸出・国際局は、民間から出向されている方も多いのが特長。食品メーカー、小売、航空関係の方もいらっしゃいます。それも踏まえると、業界問わず経験を活かしていただけるのではないかと思います。」
また、民間出身の方に求めることについても伺った。
「1つは、これまで民間企業の現場で働かれてきたなかで磨かれてきた「現場感覚」や「知見」を共有いただきたいです。役所における様々な政策は、現場でワークしなければ意味がない。例えば、施策が実際のビジネス関係者にどう受け止められそうか、語っていただけると私たちにとって非常に勉強になります。もう1つ、業務の進め方などにおいて、「おかしい」と感じたことは率直に伝えて欲しいです。役所特有の業務の進め方もあり、また、一般に霞が関では過去の経験などをベースにものごとを考えがちです。近年、役所でも働き方改革を進めていますが、役所の「当たり前」が民間の方から見て「非常識」とならないよう、フレッシュな視点で業務改善の提案を頂きたいと思います。」
農林水産省の中だけでなく、外務省や内閣官房、内閣府にも出向するなど様々な立場で公務に関わってきた氷熊さん。働くなかで大切にしている点を、こう語る。「大切にしているのは、理想を描くだけでなく、その施策は「現場でワークするか」という観点を持つこと。政策は現場がついてこなければ意味がない。また、できるだけ多くの関係者の理解を得る努力をすることも大切です。公務員は、国民の皆様からいただいている税金を原資として、政策立案や、民間事業者の経済活動のお手伝いをする仕事。そうである以上、自分の仕事が少なからず、生産者、事業者の方々にポジティブにもネガティブにも影響しうるということを常に意識し、期待とプレッシャー、両方を持っておく必要があると思います。」
「政策」を通し、日本の農林水産業を発展させていく
続いて、氷熊さんご自身について伺った。そもそもどういった経緯で農林水産省でのキャリアを志したのか。
「「衣食足りて礼節を知る」という言葉があるとおり、「食」は私たちの生活に最も欠かせないものです。中でも、日本食や、日本の農林水産物は世界に誇るべきものであり、「食」をはじめとして、日本の良いところを国内外にPRする仕事をしたいと学生時代から考えていました。食品表示、食品ロスを含め、私たちの生活に直結する「食」に関する政策を、生産・流通・消費の各段階で一貫して検討できるのは農林水産省であると考え、入省を決めました。」
最後に伺えたのは、仕事とどう向き合っていくかについて。
「例えば農業に従事されている方の平均年齢は67歳と高齢化が進み、 地方では農業従事者が減少するなど、農林水産業をめぐる情勢は厳しいものがあります。一方、どのような状況であっても、「食」の重要性が変わることはありません。美味しい農林水産物、美しい農村風景などを将来にしっかりと受け継いでいくため、輸出・国際局で取り組んでいる、農林水産物・食品の輸出を含め、農林水産業のポテンシャルを伸ばしていくことが重要であると考えています。その上で、私の働き方として重視しているのは、例えば、「失敗をおそれずにまずはやってみる」、「表面的な現象ではなく、根本原因は何なのかを探求する」、「オケージョンに応じて、スピード、内容など重点を変える」、「自分ごととして主体的に仕事に取り組む」などの点です。限られた時間の中で最大限のパフォーマンスを実現するためには、チームの能力を最大限活かす必要があります。自分でやること、上司の判断を仰ぐこと、部下・同僚に依頼することなど適切にタスキングした上で、組織として最適解が得られるように常に意識しています。自分の仕事が、多くの方に影響しているという矜持を胸に、今後ともしっかりと業務の取り組みたいと考えています。」