キーエンスが、"データ活用の民主化"を掲げた新規事業「データアナリティクス事業」にて採用強化を図る。求めるのは「コンサルティングセールス」と「データサイエンティスト」だ。なぜキーエンスがデータアナリティクス事業を展開するのか。データ活用における企業の課題とは。新規事業の狙い、ビジョンについて事業責任者である井上泰平さんにお話を伺った。
自動車、半導体、電子・電気機器等、あらゆる領域のモノづくりを支えるキーエンス。ファクトリーオートメーション業界のグローバルリーディングカンパニーであり、営業利益率50%超の高収益企業としてもその存在が知られる。
1974年の会社設立以来、掲げてきたのが「付加価値の創造」による社会への貢献。その一環として新たに「データアナリティクス事業」が立ち上がった。
キーエンス、その社名の由来である「Key of Science」が表すように、企業活動をデータで科学的に捉え、合理的な判断をしていく。まさにその体現となるのが、データアナリティクス事業といえる。
そもそもなぜキーエンスがデータアナリティクス事業を展開するのか。同事業が解決する企業の課題とは。そして目指すビジョンとは。事業責任者である井上泰平さんに伺った。
井上泰平│ データアナリティクス事業責任者
キーエンス社内のデータ活用、データ主導の事業推進を加速する「データ分析プロジェクト」を組織化。顧客のデータ活用や、データを主導とした生産性向上、組織づくりを支援する新規事業を事業化。2018年4月より現職。
キーエンスについて
1974年の会社設立以来、ファクトリー・オートメーション(FA)の総合メーカーとしてFA用センサーなど検出・計測制御機器を扱う。強みの1つと言われるのが「製品開発力」の高さ。付加価値の創造によって社会に貢献するという考えのもと、今まで世の中になかった商品の提供を通じて、新しい価値を生み出し続けることにこだわり、新製品の約7割が「世界初」「業界初」と言われている。2022年3月期には売上高、営業利益、純利益いずれも過去最高を記録し(*)、躍進を続ける。
(*)売上高7552億円(前年比40.3%増)、営業利益4180億円(同51.1%増)、純利益3034億円(同53.8%増)
ファクトリー・オートメーション(FA)の総合メーカーとして知られるキーエンス社。そもそもなぜ、同社でデータアナリティクス事業立ち上げに至ったのか。その背景から伺うことができた。
「私たちが大切にしていることとして、企業活動をデータで科学的に捉え、合理的な判断をしよう、という考えがあります。データを正しく捉え、ビジネスの改善に繋げていくにはどうすべきか、組織全体でそれを実現するにはどうすべきか。データアナリティクス事業は、当社が試行錯誤を繰り返し培ってきた経験をもとにクライアント企業の組織的なデータ活用、データ分析の民主化に伴走させていただく事業です」
こうして生まれた「データアナリティクス事業」。具体的なプロダクトとして、データアナリティクス プラットフォーム「KIシリーズ」を提供。キリンビールやローソン、SMBC⽇興証券、清水建設といった名だたる企業が導入をする。ただ、テクノロジーは手段に過ぎないと井上さんは補足する。
「ツールや技術の導入は1つの手段でしかありません。また、データを分析するだけでは、価値は生まれません。ビジネス理解をもとに分析結果を正しく解釈し、適切なアクションをとることで、初めて価値を生み出すサイクルが回り出します。そのサイクルを大きく、速く回していくには、組織の変化や人材育成も必要です。事業で大切にしていることは、お客様自身にこうしたデータ活用の考え方、自走する力を身につけていただくこと。プラットフォームと組織改革、この両面でデータ活用を支援します」
つまりデータ活用の「伴走役」となっていく、ということ。
「私たちは、クライアントにおけるデータ活用プロセスをレビューし、進むべき道を照らす伴走役。あくまでドメインナレッジを持っているのは、お客様ご自身。だからこそ、私たちはお客様がPDCAを回す「支援」を行ないます。最初は小さくともこのサイクルがしっかりと回り始めれば、それは組織にどんどん染み出し、全社でデータ主導の事業推進ができる状態に近づけると考えています」
多くの企業は、データ活用においてどのような課題を抱えているのだろうか。
「"データは21世紀の石油"と表現されるように、データ活用が企業の競争力を大きく左右するとされています。クラウドなどの技術革新によりデータを貯めるコストは大きく下がり、データの質や量が増加の一途をたどる今、分析にはより高度な知識が求められるようになっており、その専門人材も不足しています。結果、日本はデータ後進国とまでいわれる状況です。保有するデータを100%活用できている企業はそう多くないと言えるでしょう。
意思決定をしていく上での組織の課題に直面するケースも少なくありません。少数の専門チームが企業全体の分析を担う形をとる企業は多くありますが、ビジネス現場と分析チームではドメイン知識の差があります。専門人材の分析が、現場にとっては「押さえたいポイントとずれている」と受けとめられ、活かされないケースも少なくありませんし、分析者のバイアスにより客観的、定量的な意思決定につながらないといった課題もあります。
さらには、例えば、分析結果をもとに営業部門のアクションを変化させる必要がある場合、従来の営業のやり方を理解したうえで、納得するかたちで施策に落としていく必要があります。施策の徹底度や効果測定のはかり方などプロジェクトの進め方にもいくつものポイントがあります。」
こういった課題を解決していくと井上さんは語る。掲げるのは、「データ活用の民主化」だ。
「一部の専門家による分析や、ビジネス現場での経験と勘、時には度胸に頼った施策立案。こうした多く見られるシーンを変えるために目指すのは、データ活用の民主化です。データに基づいた意思決定を少しでも多くの企業にしてもらいたい。組織全体でデータを活用できる状態をつくり、さらにそれを一過性ではなく、習慣化してもらう。そのために私たちが伴走していきます。"データを使って事業を、組織を良くしたい" そう思う人であれば、必ず変化させられると思います」
データアナリティクス プラットフォーム「KIシリーズ」
キーエンスにおける「データ活用のノウハウ」を具現化したプロダクト。ビジネスユーザ向けの実践的データ分析ソフトウェアであり、機械学習を活用したサブスクリプションサービス。データ主導による生産性向上、競争力強化など、顧客のデータ活用を推進する。膨大なデータから有効な切り口を自動で見つけ、的確かつスピーディーに最も効果的な施策を打つことが可能に。現在は銀行、証券会社、飲料メーカー、不動産管理会社など業界問わず導入されている。マーケティング部門・営業部門、バックオフィスなど導入部門も様々だ。
単にツール導入を推し進めるのではなく、今回の採用で求めるのも"データに基づいた合理的な意思決定"を支援する伴走者だ。
「クライアント企業のデータ活用へ向けて、私たちはチームで伴走していきます。コンサルティングセールスは、データの力で会社を変えたいと本気で考える人を探し、課題や進むべき方向性、1年後、2年後のクライアント組織の理想像を描きます。そこに、コンサルティングデータサイエンティストが伴走し、顧客の自走化を目指します。また、開発チームも課題解決の現場に向き合い、チーム全体でサービスをより良くしていきます。難易度は決して低くないですが、ここに挑める方にとっては非常にエキサイティングな仕事だと思います」
このフェーズで同事業に携わるやりがい、得られる経験も貴重なものになるはずだ。
「導入いただく企業様は多種多様。さまざまな事業ドメイン、組織における課題に最上流から向き合っていくことになります。決まりきった解がある仕事ではありません。サービスはどんどんアップデートされ、見えてくる世界も変わっていきます。そのなかで、顧客にとっての新しい価値に寄与することであれば職種・役割に関係なく、提案し、チームやお客様と議論や試行錯誤を重ねながら、新たな解を作りだしていく。そこに面白さがあり、他では得られない経験になるはずです」
さらに、データアナリティクス事業が見据えるのはその先だ。
「私たちの取り組みは、今後日本の産業全体のデータ活用につながっていく。そういったインパクトの大きいものだと信じています。私たちが担うのは、奥行きの深い壮大なテーマ。奥行きが深いからこそ事業の広がりもある。非常に意義のあることだし、そこに大きな魅力がある。ぜひここに共鳴してくださる方と共にこの事業をより影響力のあるものに成長させていければと思います」