「TikTokは歴史と伝統がない世界。あらゆる業界を変えるような伝説を生み出せるチャンスがある」こう語ってくれたのが、2023年3月に著書『動画大全』を出版し、「動画の教祖」の異名を持つ明石ガクトさん。AMBI初登場となる明石さんが語ってくれたのは、TikTokをはじめとするショート動画のトレンドと、それをとりまくビジネスの未来について。自身が経営するワンメディアの採用強化のタイミングに、明石さん自身の動画ビジネスにかける思いも含めて伺った。
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2014年に動画制作事業会社として創業。コンテンツの企画制作を手掛け1500本以上の制作実績を持つワンメディア。
SNS クリエイターとのコラボレーションによる動画プロデュース事業にシフト。2022年からはTikTok に注力し、クリエイターと国内大手ブランドをつなぎ、動画マーケティングを支援している。
「 TikTokは歴史と伝統がない世界。今この新しい領域に飛び込むことで、あらゆる業界を変えるような伝説を生み出せるチャンスがある」
こう語ってくれたのが、代表である明石ガクトさんだ。その真意、そして動画ビジネスに携わり続ける裏にある想いとは。特別インタビューをお届けする。
企業の多くは、初めてTikTokを始める状態だったという。 ネット広告市場のなかでも目覚ましい成果を出し、事業開始から約7ヵ月で「TikTok for Business Japan Agency Awards 2023」の「Rising Star」部門でブロンズアワードを受賞。
ワンメディアについて伺う前に、そもそも動画の世界で何が起こっているのか。そこには大きなパラダイムシフトが起こっていると明石さんは語る。
テキストの世界だったものは写真になり、動画になり、動画を起点にいろんな流行が生まれています。ここは多くの人が実感しているところかと思います。
さらに2021年に「TikTok売れ」という言葉が日経トレンディの流行語に選ばれたように、2023年現在、TikTokから流行が生まれ、そこで新たな購買体験が生まれています。
少し前までは、ブロガーの記事やツイートを見て物を買ったり、インスタのハッシュタグで調べたりしていましたが、今はTikTokで流行ってるものを探し、購入に至るケースが圧倒的に増えています。ファッション領域で言えば、「#shein購入品」は約13億回も再生されていることからも明らかですよね。
特にTikTokがユニークなのは、スマホ1台で撮影・編集・アップができること。要するに、テレビやYouTubeと比べても動画の「作り手」と「受け手」の境界線が限りなく曖昧になっているわけです。
事実、TikTokユーザーの55%が自らも動画を投稿*しており、映像、テレビ、映画業界で働いていた人が度肝を抜かれていて。
さらに独自のカルチャーとして、人気者が動画を投稿すると、二次創作で音楽やハッシュタグを真似し、不特定多数のユーザーが投稿し、現象化する。こうして一大ムーブメントが生まれています。
さらに明石さんは「クリエイター」の概念が劇的に変わっていくことにも言及する。
TikTokに限らずですが、すでに「クリエイター」という言葉の概念は変わりつつありますよね。象徴的なのは、Adobeが2022年に発表したクリエイターエコノミーに関するレポートです。その中で「クリエイターとは自らのプレゼンスを高めるために月1回以上、SNSに作品を投稿する人だ」と明文化されています。
SNSが生まれるずっと前から世界中のクリエイターの表現を支えてきた会社が定義したのは非常に衝撃的でした。
加えて、 ChatGPTが話題ですが、Adobeも2023年3月に画像生成AI「Adobe Firefly」をリリースしています。
これはいわば、非常に有能な職人アシスタントが、業種問わずビジネスパーソンの横に居るようなもの。Excelをまとめたり、いい感じのメールを書いてくれたり、リサーチしてくれたり、動画のテロップを書き起こしてくれたり。業務の職人的な行程は、AIがやってくれるようになります。
つまり、誰もが簡単に動画をつくれる時代はすぐそこまでやってきています。TikTokでいえば、半数以上が投稿しているので、彼女/彼らをクリエイターだとすると、グローバルに8.7億人のクリエイターがいることになります。
もはや、従来の動画制作会社で単にかっこいい動画をつくるだけの人は、クリエイターとは言えない。TikTokをはじめとするクリエイターとタッグを組み、一人でも多くクリエイターを増やしていく。そういった方向にシフトした方が新しい世界を見ることができるはずです。
クリエイターが増えた先にはどんな未来が待っているのか。明石さんはこう語る。
これからの未来を創る世代にとって、「こういうものが面白い」と思うもの、人生の選択肢が広がるきっかけは、明らかにヴィジュアルを伴う制作物になっています。実際、ヴィジュアル一発で心がひっくり返ることはよくあって。例えば、スターバックスのフラペチーノは誰が撮っても映えて、インスタに載せやすく、すぐに売り切れます。リゾート地である「モルディブ」にしても、多くの人がインスタで見る「水上ヴィラ」のヴィジュアルに憧れを抱く。ほとんどの人がモルディブの場所や文化について知らないと思いますが、新婚旅行先として人気なわけです。
心を揺さぶるヴィジュアルを生み出すクリエイターが一人でも増えれば、人々の感動が増えることはもちろん、経済活動の面においても活性化されていくはず。世の中はいい方向に向かうようになると信じています。
もちろん、僕個人としては小説も好きですし感動もしますが、今、悲しいぐらい長い文章が読んでもらえない時代。今の子供たちをみれば、明らかに短くて濃厚なコンテンツの方を選ぶのがわかります。
今後は、まだヴィジュアルが伝え切れていない、埋もれているものの掘り起こしが起きていくいはず。例えば、自動車をはじめ、高価格帯の商品においても、ショート動画が増えていく可能性が高いと言われています。こうした従来の広告とは違う切り口で、新たなヴィジュアルを掘り起こすクリエイターが増えれば、興味から一気に購入につながる「TikTok売れ」が起こる可能性は大いにあると思っています。
TIkTokを中心としたクリエイター支援事業を行なうワンメディア。その介在価値について、こう語る。
今ワンメディアに求められているのは、動画において主役となっているスマホとSNSという武器を駆使して人気者となっているクリエイターたちとコラボレーションし、彼女/彼らを企業とつなぐこと。そして、どういう風にすればビジネスがうまく回るのか、どういう企画にすればクライアントの目標を達成できるのか、フレームワークをつくり言語化していくことです。
これだけショート動画が席巻している状況なので、私の肌感としても、多くの企業の担当者の方々は、TIkTokを始めなければならないという危機感は持たれている。ただ、多くのクライアントが二の足を踏むのは、YouTubeとTikTokでは、情報の伝わり方が異なるため「勝ち筋」も違うからです。
我々のビジネスディベロップメントチームでは、クライアントに向けて勉強会という形で、勝ち筋の違いなどを理解していただきながら、その上で一緒にTikTokを始めていきませんか?と提案させていただいています。
ちなみに、現在これらをメインで動かしているのは、僕ではなく、平均年齢28歳のチーム。明石ガクトに依存する時代はとっくに終わっています。
様々な人にクリエイターになってもらう装置を構築することもワンメディアの重要なミッションの1つ。その中では、多くのユーザーを巻き込むために、どういったアプローチをすれば企業ブランドの一番言いたいことが伝わるかを考えることがポイントだという。「テレビCMの時代は、企業は自分たちの枠を買って一方的に何か伝えたいことを伝えていましたが、SNSの時代は、その『場』自体が当然ユーザーのものであり、各々がそこで既に楽しく遊んでいる状態です。例えば化粧品を買って欲しい場合、メイクというジャンルですでにコミュニティが作られている。そこに突然、メーカーの担当者がきて、新発売のファンデーション明日からドラッグストアで1980円で買えます、と叫んでもおそらくほとんど振り向いてもらえない。コミュニティの輪に入っていくためには、みんなが楽しくなるお土産が必要です。例えばエフェクトでみんな楽しく動画を投稿できるようにする。あるいは商品のサンプリングを行いまずは使ってもらうなど。ユーザーの動向をリサーチしながら、ベストな仕掛けを模索していきます」
2023年現在、ビジネスプロデューサー、事業開発、代理店とアライアンスを組んでいく営業マネージャー、企業とクリエイターと一緒にプロジェクトを考えていくプランナーなどの募集をしている。ずばり、今ワンメディアに入社する魅力とは?
1つは、TikTokはテレビなどと違い歴史や伝統がない新しい領域であるため、まだまだ1人の能力によって与えられる影響範囲が非常に大きいことです。言い換えれば、「自分の力で、これだけ業界が変わった」という伝説を今なら生み出せる可能性がある。チャレンジできる環境を求める人には、ぜひ飛び込んで欲しいです。
もう1つは、ビジネスプロデューサー、事業開発といった企画側の仕事は、クライアントやクリエイターとの人間関係を構築がキモとなる仕事のため、 AIがこの先さらに進化しても人間に残される、数少ない聖域の一つだという点です。
よく「AIで淘汰される仕事・されない仕事」といった話が取り沙汰されますが、これからの時代、今まで多くの人が「安定している」と思っている職場・業種ほど、僕は危ないと思っていて。
実際、クリエイティブ業界においても、数年前から広告配信・運用はロボットが行なうようになっていますし、今まではCGクリエイターが3日かかってようやくつくっていたクリエイティブが、ぽちっとクリックすればAIがつくってくれる時代になりつつある。プログラミングも、これからはChatGPTが早く正確に書いてくれてしまう。会計士の、過去何年分もの蓄積したデータをチェックするといった業務も、簡単にAI化されていくでしょう。
このように、いわゆるホワイトカラーと言われていた領域で、今後ものすごい変化が起きていくと予想される。 このように、AIによって労働集約から解放されていく中で人間のやるべきことは、浮いた時間を「人間関係の構築」に充てることだと思うんです。
現に、今人々が注目して再生しているのは、生身の人間が喋り、魂や熱意が宿るコンテンツですよね。人がタッチポイントになっている以上、ワンメディアにおいては、クリエイターとの人間関係、クライアントとの人間関係を築いていくことに力を入れていきたいと考えています。ある種、「人と向き合う」という本来の仕事にフォーカスできる時代が来ているとも言えます。
裏を返せば、人間関係の構築の部分ができなければ、これからのビジネスパーソン及び企業は生き抜いていくことが難しい。そのため、今回採用を行う上では、人間関係構築をできる人を採用し、育てていきたいと考えています。
今、これを読んでくれている人のなかに、「人間ではなくパソコンの中ばかり見ているな」とか「自分の将来はどうなるんだろう」と思う人がいるかもしれない。もしあなたがそうならば、一度そのパソコンの画面から顔をあげてもらって、我々のような会社の方に目を向けてくれると、新しいチャンスが生まれるかもしれません。
仮に、大企業でキャリアを積んでいるような方であれば、僕のようなロン毛の男が社長のショート動画を手がける会社に転職するというのは、非常に変化量が大きい。相当なチャレンジだと思うんです。
ただ、そういった大きな変化を、AIの変化よりも先に自分で起こしてしまえば、世の中がどんなに変化して不安定でも対応できると思うんですよね。しがみついているから、ちょっとした世の中の変化=揺れでも「やばい、揺れてる」と感じるのであって。世の中が不安定でグラグラに揺れているなら、自分も同じくらいグラグラと揺れていれば、多少の変化にもドンと構えられるようになる。気にならないと思うんです(笑)
「気付いてない人もいるかもしれませんが、ほとんどの業種において、『AIの時代にいかに淘汰されないスキルをいかに身につけていくか』に向き合わなければならない局面にあると思います」
コロナ禍に、経営者として事業転換という大きな決断を下した明石さん。決断のきっかけ、そして当時の心境についても伺えた。
直接のきっかけはコロナショックでした。
コロナ前から、世の中の流れは、AIの波がくる、個人のクリエイターが増えていくとは言われていて。私自身も、緩やかに今のような事業形態にシフトチェンジしていくのかな、と心のどこかで思ってはいました。ただ、そうは言っても昔からやっている事業を変える決断はなかなかできませんでした。
それが、コロナ禍になって、従来の大人数が密に集まって制作すること自体ができなくなってしまった。そんな中でもTikTokerをはじめとしたクリエイターたちが発信を続けているのを目の当たりにして。
自分自身の会社を含め、僕自身も「もうクリエイターじゃない」と突きつけられたような感覚。非常に大変なことでした。ショックだったんですが、ショックがあると人間は変われるものみたいで。事業を転換するというのは正直泣きながら決めたのですが、その急激な変化をきちんと受け止められたのは、ある意味、コロナショックのおかげなのかなと思っています。
少し話はそれますが、コロナショックの直前に丁度、週1回コーチングを受け始めていて。コーチングを受けている真っ只中にコロナショックが起きたんです。
あの時期の自分の心境の変化は、今も克明に覚えていて。コロナショック後、誰もいない中目黒のオフィスへ目黒川沿いを歩きながらZoomでコーチングを受けたんです。そうしたら、コーチングの先生と話しながら泣けてきてしまって。
なぜ30代後半の一番起業家として脂が乗っている時期に、従来の仕事が全部止まってしまうんだ。あと2年早く色々できていたら。あるいは、この一番脂が乗る時期が3年後だったら。と、たらればを嘆いていたら先生が、「明石さん、逆になぜ明石さんが一番いい時期に、こんな一番つらい状態になったのか。これにどういう意味があったのか?未来の明石さんがどう振り返るか考えてみてください」と言われたんですね。
未来の自分が2020年の自分に対してどう思うのかを考えた結果、「今まで偉そうに映像と動画の違いなど言ってきたものの、今のままでは映像制作会社の延長線ではないか。もう1つ変わらなきゃいけない。その変わるタイミングがコロナショックだった」と、おそらく2~3年後、自分は言っているだろうと思ったんです。ちょうど今そうなりました(笑)
最後に、明石さんの仕事との向き合い方についても伺えた。
前提として、せっかく働くなら好きなことを仕事にしたい。新卒で入社した会社で社長から「色々あると思うけど、人生の半分は働いている。働いてる時間を嫌々やるか、主体的にやるか次第で人生の質、最後死ぬ前の満足度が変わるんだ」と言われて。この言葉が心の中にずっと残っていて、今も1つの軸になっています。
その上で、どういうものに一番ワクワクするかで言えば、「新しい挑戦をすること」だと思います。 2023年の時代を生きる我々にとっての役割とは、もはや新しいことをやる以外にないとも思っているんです。
昔からの伝統を守ることに全て価値がないとは言いませんが、全く古いままやっているのでは、価値を積み上げ広げていくことができない。そういう会社はおそらく歴史があるだけで沈んでいくと思うんです。
実際、うまくいっている老舗企業は、歴史と伝統もありつつも常にその中にも新しさを見つけているもの。 かつ、そういった環境で働いている人は、みんな生き生きとしているし楽しそうなんですよね。
僕で言えば、ヴィジュアル一発で人の感情が動く事業が好き。そこをブレない軸として、その中で、想いを共にできる仲間と常に新しい挑戦を続けていきたい。究極、10年後も僕がショート動画に携わっているとは思っていなくて。今はその「ヴィジュアル」がYouTubeの動画やTikTokのショート動画ですが、この先はメタバースなどあらゆる表現につながっていくと思う。革新的なヴィジュアルプラットフォームが現れる度に、「どうやって人の感情を揺さぶるか」について、僕は向き合い続けていくのではないかなと思います。