INTERVIEW
AVITA|代表取締役CEO 石黒 浩

ロボット学者 石黒浩が企てる「アバターの社会実装」、その先に描く人類の未来

掲載日:2023/05/30更新日:2023/05/30
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実世界と仮想世界のメリットを融合させ、誰もがCGアバターで働ける社会を。大阪大学教授でロボット工学の世界的権威として知られる石黒浩氏が描くのは、障害や制約に囚われない社会、そして人類の可能性の拡張だ。自身の研究と並行し、2021年にはCGアバター制作・ビジネス活用を行うAVITA(アビータ) 社を設立。石黒氏が同社で「アバターの社会実装」に取り組む理由、そして、その先に描く人類の未来に迫った。

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アバターは社会に浸透し、世の中を変えていく

2007年には「世界の100人の生きている天才」に選出されるなど、ロボット工学の第一人者として知られる石黒氏。彼はなぜAVITA社を設立し、アバターの社会実装に取り組むのか。「今後アバターは広く浸透し、大きく世の中を変えていく」と語る。

まずアバターをとりまく状況からお話しすると、コロナ禍により、人類のアバター利用は図らずも加速することとなりました。コロナ禍以前から、多くの企業が「リモートで働くことができたならば」と、何度もアバター、テレビ会議システム活用を模索しましたが、浸透には至りませんでした。なぜか「やはり顔を突き合わせなければならない」「むしろ効率が悪い」と考える人々が多く、社会に取り入れられることはありませんでした。

しかしながらコロナ禍が到来し、実際にリモートワークをやってみたら非常に便利だということを人々が認識した。報告だけの会議であればリモートの方が効率が良い上、いつでも時間を調整して会うことができる。実際、コロナ禍が収束しつつある現在も、リモートワークを残す動きもみられるわけです。

コロナ禍は辛い期間でした。しかしリモートで働くことの可能性を人々が認識できるようになった点は良かった。アバター利用の下地ができたと捉えています。

AVITA(万博)

©FUTURE OF LIFE / EXPO2025
石黒氏もプロデューサーとして関わる2025年開幕の大阪・関西万博では、アバターにより世界中全ての人が参加することが可能。「再びコロナ禍のような状況に陥ったとしても、誰もが参加できるということが重要です」と語る。

実世界と仮想世界のメリットを融合させていくーーそれを石黒氏は「仮想化実世界」と表現する。実世界で働きつつ、アバターによって匿名性を担保。さまざまな「自分」で働けるようにする。そのためのCGアバターを制作し、実装していくのがAVITAだ。

アバターとは、わかりやすく表現するならば「リアルで会う」と「Zoomで話す」の中間の方法。両方の良い要素を持っていると言えます。具体的に言えば、視線を合わせて同じ世界にいるかのような感覚で人と話せるのは「リアルで会う」ことの良さです。一方、対面で話すことが苦手な人は実はすごく多い。それこそ自閉症の子や認知症の高齢者の方などは、そもそもアバターでないと話ができない人が多いと思います。また健常者に関しても、初対面のアバターと初対面の人間なら、アバターのほうが心を打ち明けやすいことが我々の実験でも分かっています。

例えば大学で学生にジョブカウンセリングを行う際、アバターを使った方が学生は心を開きやすい。生身の人間と話すときは「この人は一体何を考えているのだろう」「本当に分かっているのだろうか」と、色々な疑いが生じることが多いのですが、アバターだとそういった疑いが非常に少ないからです。

今後、アバターはもっと広く世の中に浸透し、大きく世の中を変えていくと思います。たとえば、身体的なハンディキャップがある人、子育てや介護で外出がしづらい人も、アバターがあれば自由に働ける。さらに、性別や肌の色、声も変えることができる。自分の好きな姿・形で社会活動に参加していくことが可能です。

AVITA01

マツコ・デラックスさんを模したアンドロイド「マツコロイド」でも広く知られることになった石黒氏。現在、国が掲げるムーンショット型研究開発(*)におけるプロジェクトマネージャーの1人として、「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」という目標に挑む。2025年の大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサーとしてシグネチャーパビリオン「いのちの未来」のプロデュースを手掛けるほか、「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」を掲げて2021年には大阪大学発スタートアップ「AVITA」を設立。少子高齢化による労働力不足が懸念されるなか、様々な背景や価値観を持つ人が、自らのライフスタイルに応じて多様な活動に参画できる社会を実現していくことが喫緊の課題となるなか、アバターの社会実装、人類の可能性の拡張に取り組む。
(*)内閣府主導のもと日本の科学界で進められている挑戦的な研究開発。日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究が進められている。

保険のコンサルタント、指名率1位はアバター

大阪ガス、サイバーエージェントをはじめ主に5社が出資するAVITA社。 すでにアバターのビジネス活用を進めているという。

アバター利用は、世の中全体でいえば、ごく一部。アバターで働けるカフェなども登場していますが、まだ実験的な取り組みでビジネスとして確立されていくのはこれからというフェーズだと思います。

AVITAとしても既にビジネスとしての活用に乗り出していて、アバターオンライン接客サービス「AVACOM」を提供しています。

リアル店舗での事例でいえばコンビニエンスストアでの活用です。ローソンと協業しており、一部の店舗でCGアバターによる接客を実施しています。アバターのオペレーター公募では、主婦の方・ローソン経験者・Vtuber・身体的な理由から接客業を諦めていた方など、10代~60代の幅広い年代で約400名から応募があり、「給料より、未来を感じる職場で働きたい」「アバターなら自分たちも働ける」という声をいただきました。

実際、スタッフの中には車椅子ユーザーの方も活躍しています。このように、様々な背景を持つ人がアバターを使って自由に働けることを世の中に見せていくことで、「アバターを通して働く」という選択肢を広めていければと考えています。

AVITA(ローソン)

ローソンは、アバターによるリモート接客で人の温かみを感じられる店舗づくりの実現を目指し、AVACOMを導入。具体的な活用方法としては、レジ横のアバターが、レジ操作のサポート。店舗入口のアバターが来店、退店の挨拶を担当。商品陳列棚のアバターが陳列商品を推薦するなど。

またWebにおいても、保険の領域では非常に結果が出ています。電話接客と比較して、アバター対話のコンバージョンは2倍以上になっていますし、人間ではなくアバターが指名率1位のコンサルタントになったこともあります。これは、対面で生身の人から保険の営業を受けるときと比べ、アバターによる接客のほうが圧力やプレッシャーなどを感じにくいためではないかと思います。

他にもリモートでできることは、ほとんどすべてアバターに置き換えられる可能性がある。特に相性が良いのは、対話サービスの領域です。

世の中にある一般的な対話サービスの多くは、人に寄り添ったサービスを提供しようと思うと、健康の問題、財産のことなど、通常他人には明かさないようなプライベートな情報を聞き出す必要がある。そういった問題は、人間よりもアバターの方が話しやすいため、活用は進みやすいはずです。既に、病院でのカウンセリングなどを行う場面では実験的に使ってもらっていますし、薬局などでもすぐに活用できるのではないかと考えています。

また、金融機関などとも相性は良いはずです。銀行の支店は年々閉鎖されていますが、全てを無くすわけにはいかない。そのため、コンビニと同じように、自動化を進めつつ足りない部分をアバターで補っていく可能性は高いと思います。

足元では、まずはAVITAに出資いただいている企業や問い合わせをいただいている企業に対し、それぞれどういったアバターを求めているのかニーズをヒアリングしながら提供していきます。その中で「もっとこんなアバターがあった方が良いのでは」とアイデアが広がっていくこともある。そういったことを積み重ねながら、アバターのマーケットを自分たちで創造しつつ、アバターのバリエーションも増やしていければと思います。

大阪ガスと開発した、オペレーターの表情や動きをリアルタイムに反映するアバター。AVITAの強みは、石黒氏が発明してきた80件以上の特許の実施権を保有し、技術に圧倒的な競合優位性があること。アバターならではのインタラクションのノウハウも豊富にある。自社内に、アバターを開発するアートチーム、システムを開発するエンジニアチーム、AI開発を行うR&Dチームを抱え、内製でクオリティの高いサービスを作ることが可能だ。

その先には「差別のない世界」がある

新しい技術を広めることは、差別のない世界の実現へと繋がっていくとも語る。

アバターが普及した先に待っているのは「人間の進化」だと思います。

人間は、技術によって能力を拡張してきました。他の動物と違い、遺伝子、生物的な進化の方法だけでなく、テクノロジーという進化の方法を持つのが人間です。アバターは、人間の能力を拡張する一つの手段。人間はアバターをはじめ、機械やAIなど様々なものと融合し、ロボットの技術を自らの活動の中に取り入れて進化させていくでしょう。

同時に、価値観もアップデートされていくと思います。アバターが普及することで、男性が女性になることも、女性が男性になることも、肌の色を変えることも、自由にできるようになる。生身の体をアバターに置き換えることで、これまで起きていた「差別」の問題を解決できる可能性は高い。根本的に全ての差別がなくなるかどうかは別問題ですが、少なくとも良い方向に価値観はアップデートされていくはずです。

新しい技術を取り込むことで、新しい人間のあり方、新しい人間のいのちの形が作られていく。私はそう考えています。

AVITA03

「昔は心臓が止まったら亡くなったとみなしていましたが、今は心臓が止まっても脳さえ生きていれば、まだその人間を再生できる可能性がある。つまり、新しい技術によって「いのち」の定義が広がる。それは「新しいいのちの形」と言えるのではないでしょうか」

ルールは、後から作ればいい

アバターの普及には「まず使ってみてから考える」というスタンスが重要という。

日本は特にルールのない状況において、国や社会にお伺いを立ててからでないと前に進めない、ルールにないことはやってはいけないと思う人が多いように感じています。新しい技術を手に入れたなら、まず、その技術で何ができるかを皆で確かめる。それが社会に必要な行動だと私は思います。

まずは技術でどんどん生活を良くし、差別をなくしていく。そういったことを積極的に進めて「アバターは便利なものである」と多くの人が認識している状態を作ることが第一歩です。ルールは、後から作ればいい。

例えばインターネットにだって当初は、使いすぎるのは良くない、悪用されると危険だという声が大いにあったわけです。しかし、インターネットという技術は人間の可能性を大きく広げた。これは間違いないでしょう。

技術というのは、良い使い方も悪い使い方もできます。だから難しい。しかし「少しでも悪用されそうなものは使わない」というスタンスでは、新しい技術は何一つ使えません。まずは良い使い方ができるように全力を尽くし、悪用されないように後からルールを作る。この順番が大事だと考えています。

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AVITA社の求める人物像について、石黒氏はこう語る。「アバターという技術で世の中を変えていく。我々のビジョンに共感し、プロ意識と熱量を持って仕事に取り組める。新しいことに積極的に挑戦できる。そういう方に来てもらえればと思っています」

ただ精一杯、毎日を生きる

最後に、石黒氏の「仕事」との向き合い方について伺った。

私は、仕事をしているつもりはありません。仕事も趣味も区別はない。何が仕事で、何が仕事じゃない、と区別するような生き方はしたくない。嫌々やるような仕事はしていないつもりですし、全てやりたいからやっている。

ただ単に、精一杯毎日を生きる、というだけです。働くことは目的ではなく、生きることが目的です。「働く」も「遊ぶ」も区別は必要なく、とにかく「精一杯生きる」ことを大切にしたいと考えています。

働くのが嫌ならば、働かなくても今の時代は生きていけます。それゆえに「自分は何のために生きているのか」を、常に問い続ける必要がある。働くことを、生きるための言い訳にしてはいけない。仕事の時間も遊びの時間も、自分の存在価値をかけて、ただ精一杯生きていく。それだけです。

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