INTERVIEW
日本農業 特別インタビュー|代表取締役CEO 内藤 祥平

なぜ、海外で「青森のりんご」が大ヒット?売上57億円「日本農業」マッキンゼー出身CEOが挑む農業革命

掲載日:2025/01/14更新日:2025/01/17
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今、アジア各国にて青森県産をはじめ「日本のりんご」が人気を集めていることはご存知だろうか。その火付け役にもなっているのが、農業ベンチャー「日本農業」だ。日本で生産した果物・野菜を独自ルートで海外に輸出、大規模なグローバル展開を狙う。市場の追い風を受け、売上高57億円規模へ。そして2027年のIPOを目指していくという。その挑戦の裏側に迫るべく、マッキンゼーを経て日本農業を創業、CEOを務める内藤祥平さん(32)を取材した。

日本農業の事業内容・強みについて
・「日本の農業で、世界を驚かす」をミッションに掲げる農業ベンチャー(2016年11月設立)
・2024年5月、約42億円の資金調達を実施し、累計調達額は約66億円へ
・農産物の生産から流通、販売までを一貫して手掛け、2024年度は売上高57億円規模に成長
・特にアジア各国への日本産青果物の輸出を主軸に、独自ルートで世界各国へ農産物を届けている


▼「生産」「流通」「輸出」3領域に改革を 
「日本農業」として特にユニークなのは「耕作放棄地」を活用した大規模園地の運営を自社でも手掛けていること。さらに国内外の新たな生産技術の導入、データ解析に基づく生産技術の改善・開発を推進。日本初となる「大型果樹選果機」を導入し、1秒間に約8個のりんごを自動で選別を実現するなど、外観検査の自動化と選果作業の効率化が強みとなっている。また、アジア各国への日本産青果物の輸出を行い、独自のルートで世界各国へ農産物を展開、自社ブランド「ESSENCE」を立ち上げ、海外でのブランディング活動も強化へ。「生産」「流通」「輸出」3領域における農業改革を推し進めている。

日本の果物・野菜で「世界」を狙う

「青森県産のりんご」をはじめ、台湾や東南アジア各国への輸出ビジネスが好調な日本農業。まずはその背景から内藤さんに聞くことができた。

もともとアジアを中心に「日本の果物や野菜は質が高い」といった前提がありますが、ここ数年、たとえば、同じ「りんご」を食べるにしても、色の違い、味の違いを楽しみたい層、いいものを食べたい層が増えている感覚はありますね。もちろん、まだまだ日本のりんごの割高感は否めませんが、「ふじりんご」をはじめ、日本ならではの蜜が入っているりんごの人気がとても高いです。「ふじ」はネーミングに日本らしさがありますし、日本というブランドの下駄を履かせてもらいつつ、海外需要を取り込みながら順調に事業が拡大している状況です。驚いたのは、海外現地で「トキりんごはふじりんごと王林りんごからできたもので…」というところまで知ってくれている熱心な方もいて、人気の高まりを感じています。

そもそも、なぜ「りんごの輸出」から事業展開を拡大させていったのだろう。そこには明確な意図があったと内藤さんは話す。

りんごはマーケットがある程度大きく、約1年は貯蔵ができるなど日持ちがします。つまり通年で商売ができますし、輸出がしやすい。品質面でも差別化がしやすく、勝算があると考えました。そしてりんごの生産、流通、輸出のバリューチェーン統合による基盤を構築し、さまざまな品目に拡張していく。現在、まさに主力であるりんごに加え、サツマイモ、ぶどう、キウイ、いちご、なしなどの展開も開始しており、それぞれの輸出を推し進めています。

りんごの輸出事業で築いた基盤は、他の品目にも活きる部分はあるのだろうか。

まず海外の販路についてはそのまま活きる部分はあります。また、どの品目も一貫しているのは「品質で差別化を図る」というところ。一方で品目によって「差別化の仕方」は異なる部分です。たとえば、「りんご」で言えば先ほどお話したような「蜜の入ったシャキシャキした甘いりんご」が人気で、台湾での展開が主軸となっています。「サツマイモ」でいうと、海外にはあまりない「紅はるか」など“ねっとり”とした品種が人気で、タイやシンガポールでの展開がメインになっています。

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代表取締役CEO 内藤 祥平
慶應義塾大学法学部在学中に米国・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校農業経営学部に留学。その後、鹿児島とブラジルで農業法人の修行を経験する。大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの日本支社にて農業関連企業の経営戦略の立案・実行などの業務に従事。2016年11月に株式会社日本農業を設立し、代表取締役CEOに就任。

「儲かる農業」へのパラダイムシフトを

「日本で作った果物・野菜を海外で売る」一見するとシンプルだが、その難易度は決して低くはない。なぜ、彼らは同事業を軌道に乗せ、さらなる飛躍が期待されるまでに成長ができているのか。

まず前提として、これまでの日本の農業は「農家」と「資本」が分断されてきた産業だと捉えており、そこが結びつくことでポジティブなサイクルが産業全体で回るのではないか?といった考えがありました。なので、生産、流通、輸出、それぞれに大規模な投資をし、一気通貫で統合したバリューチェーンを構築し、ビジネスのスケールを実行してきました。

また、「タイミング」も事業成長のドライバーになっているように思います。今後、日本の農業が生き残るためには、先細る国内需要ではなく、海外需要を取り込み、市場を獲得していくことが欠かせません。どの産業でも外貨の獲得が重要であることは自明ですが、その時に重要になるのが「タイミング」です。

たとえば、戦後から振り返った時に、私たちが手掛ける農業ビジネスは「今」だからこそできるし、伸びていく領域でもあります。高度経済成長期からバブル期にかけ、当時「日本の農業でバリューチェーンを統合し、外貨を獲得していこう」としても、なかなかうまくいかなかったはず。というのも、日本の農産物は価格が高すぎて、輸出をしても誰も買ってくれず、マーケットがありませんでした。

また、その当時、ガンガン自動車産業や製造業が成長しているなかで「農業に大規模な投資をしよう」とはならないですし、農業界に人材も集まらなかったはず。正直、私自身もその時代に生きていたら農業はやっていなかったと思います。

そういったなかでも、国内供給を支え、耐えて続けてきたのが、多くの農家さん、研究機関だったわけですよね。なかなか資本が入ってこないなかでも、品種の開発などに力を入れ、日本独自のおいしい果物や野菜を生み出し続けてきた。それが今まさに海外で注目されている「日本ブランド」につながっています。

つまり「海外産とどれだけ差別化ができているか?」といった度合いでいえば、今は頂点に達しているレベル。さらに人口が増えているアジア各国のマーケットが伸びている。こういったタイミングで、大規模な資金調達をさせていただき、勝ち筋のあるところに投資し、実績を出し、優秀な人材を採用していく。実際、手前味噌ですが、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材が日本農業には集まってきてくれています。また、輸出販路を強固に築いており、投資の余力もある。時代の変化やタイミングが噛み合ってきている今、どれだけアクセルを踏めるか、ここからが勝負だと思っています。

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「生産」でも改革を進める日本農業。国内最大級規模の自社運営のりんご農園を所有。自社でも大規模な「高密植栽培」を行うことで、農家としての収益性を上げつつ、供給が足りない全国の状況を是正していくといった挑戦にも向き合っている。「もともと私がコンサル出身ということもありますが、「こうすれば儲かる」というロジックや考えはありました。ただ、机上の空論、口で説明するだけでは誰もやらないし、企業も参入しない。そこで国内最大級の規模で自社農園を運営し、儲かることを証明しようと考えました。いわば自社農園をショーケース・実験台にしようと。その実例から、たとえば、当社に出荷してくれている農家さんから「うちでも高密植栽培をやりたい」となれば、ノウハウやデータが提供できます。資本力がある企業が参入したり、投資をしてくれるとなったりした時にも説得力があります。そんな風にして農家さん、参入企業、その他の事業者さん、ステークホルダーと良い関係性を築き、一緒に農業の未来を作っていければと考えています。」

オランダGREEFA社製の大規模選果機を初導入したという日本農業。その搬入の様子が動画で公開されている。

業界構造を変え、世の中にインパクトを

そして聞けたのが、ここからの「日本農業」で働くやりがいについて。

業界構造を変え、世の中に大きな波及効果を与えていく。そして日本、世界にインパクトを与えていく。その手応え、実感は、大きなやりがいになると思います。何よりも「日本の農業の未来のために働く」という大義があります。

正直、果物や野菜は有形のものですし、そもそも生産から販売まで時間がかかります。傷んでしまうリスクがあったり、気候や情勢に左右されたり、事業としての難易度は高いです。さらに物流の複雑性を考慮しながら意思決定を行います。ただ、だからこそミッションとする「日本の農業で、世界を驚かす」が実現できれば達成感もより大きなものに。もっと言うと複雑な問題解決、交渉、海外とのやり取り含め「総合戦」が経験できる。裁量と責任が大きく、挑戦ができる環境がある。ここは自信を持ってお伝えできるところです。

目の前の仕事でいえば、新しい農園が開園したり、耕作放棄地だったところが大きな畑になっていったり、そこでおいしい果物・野菜が作れたり、五感で感じられる「うれしい瞬間」に多く立ち会える仕事です。農家さんから「生産を増やすことができた」「単価が上がった」など直接うれしい声をいただくことも。顔が見えますし、ビジネスに手触り感がある。ここはオンラインやオフィスだけで完結するビジネスとの大きな違いでもあると思います。

私自身のエピソードでいえば、台湾のプロ野球リーグの試合で「始球式」させてもらったのですが、それはすごく印象に残っていますね。より多くの台湾の人たちに日本のりんごを知ってもらうプロ野球チームとのコラボ企画の一貫だったのですが、球場でプレゼントキャンペーンをしたり、スポンサーをさせてもらったり。もちろん私が「野球が好き」ということもあって(笑)

今でこそ、私たちは青森最大級の輸出事業者ですが、じつは数年前に台湾に営業に行った時、どこに行っても門前払いでした。机上の空論で作った資料を見せても誰にも響かず、「そもそもあなたたちは一体何者なんですか」と。そこから日本のりんごのさらなる需要開拓に向け、こういった新たな大規模な取り組みが実現でき、感慨深いものがありましたね。

台湾セブン-イレブンにて日本農業の葉とらずりんごブランド「葉乃果」が取り扱い開始へ。そのキャンペーンやコラボの一貫として、台湾プロ野球の台湾シリーズ「統一ライオンズ対中信兄弟」第3節(2024年10月22日)にて始球式に参加した内藤さん。

2027年にはIPOを。そして「日本の農業」を世界へ

そして聞けたのが、内藤さん自身の仕事に対する向き合い方について。なぜ、彼は決して簡単とは言えない「日本の農業で、世界を驚かす」というミッションに挑むのか。

シンプルに、日本の農業を、産業として良くしていきたい。ただそれだけです。ある種、硬直化している日本の農産業において、業界構造の転換を進めていく。そのためには局所的にでも突破していく、とにかく攻めて変えていく私たちのような存在も必要だと考えています。もちろん会社を成功させたい。ただ、それは手段でしかなく、産業構造の転換を進め、日本の農業を良くしたい。おそらくそこに取り組むこと自体がおもしろいし、私がやっていきたいことなのだと思います。

もう一つ、これも純粋に「日本の農業は良いのにもったいない」という思いもあります。りんご一つとっても、農家さんや研究者さんが非常に強いこだわりを持って生産や開発に取り組んでいます。それらが凝縮されたりんごが目の前にあり、食べたら本当においしいわけですよね。価値のあるものなのに、まだまだ世に出ていない。それを広めることができれば、台湾人でも、タイ人でも、インドネシア人でも、地元の人たちが食べて「こんなにおいしいものはない」と驚いてくれる。そしてたくさん買ってもらえれば、農家さんが儲かり、投資もでき、耕作放棄地だったところが輸出向けの大規模な「かっこいい畑」になり、日本中にできていく。そういったことになればすごくおもしろいなと思っています。

そして最後に聞けたのは、今後の目標について――。

まずは2025年7月期の売上高85億円を目指し、さらに2027年のIPOを目指します。これまで、りんごの選果機への投資、新規開発への投資、さらには他の品目の拡充などを進める「投資フェーズ」でもありました。その結果、一定の生産量を確保できるようになり、粗利率も年々向上しているところ。ですので、ここからは利益を追求していくフェーズだと捉えています。

その時、大きな指標になるのは、自社の利益はもちろんですが、ずっと右肩下がりで推移している「青森県のりんごの生産量における統計」において、V字回復のグラフを見てみたいんですよね。

大きな課題は、耕作地が減り、供給が減っていること。つまり供給基盤が弱体化していることにあると考えています。ひとつ150円だったりんごがもう300円弱くらいになっていたりするのもそういった要因が大きい。2030年までに、このまま行くと果樹の面積は3分の1ぐらいが無くなってしまうという試算もあります。本当にりんご1個500円とか600円が当たり前になる。りんごを例にしましたが、他の農作物でも同じようなことが言えますし、食料安全保障が担保されない状況がやってくる。大袈裟に言うと飢えてくださいという状況にどう立ち向かっていけるか。

やはりそのためには、統計上の数字として示されることが「産業構造転換が変わった」という証明になると考えています。はじめは、日本における農業全体でいえば青森県の1品目に過ぎないかもしれません。ですが、ここのタイミングで右肩上がりに転じることには、大きな意味があります。生産が増え、海外への輸出・販売が増え、投資が増え、生産地が増える…こういったポジティブサイクルが生まれれば、間違いなく青森のりんご産業は伸びていく。そして東北の地で生まれたロールモデルとして全国にどんどん波及していくはずです。そんな風に日本の農業全体のためにやるべきことをやっていく。いかに「日本の農業」を良い方向へと持っていくことができるか。そのために「日本農業」という会社を成功させていければと思います。

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内藤さんに聞く、活躍人材・求める人物像について

▼「業界初」に取り組むからこそ活きる、多様なバックグラウンド
日本農業では、これまで農業界でやってこなかったことに挑戦していきます。ですので、異業界・異職種の経験・知見が活きる部分が非常に多くあります。たとえば、エネルギー・製造業界から転職してきたメンバーは、りんごの高密植栽培の生産責任者としてチームをまとめ、地域でも関係性を築き、組織を統括する立場で活躍してくれています。その他にも、コンサルファーム、金融、医療など多様な業界の出身者が活躍しています。同時に農業界の専門家も多く参画しており、それらの経験・知見の融合が強みになっています。ですので、ぜひ経験業界に問わず、事業内容やビジョンに共感くださる方、責任感があり、挑戦が好きな方、問題解決能力により磨きをかけたい方など、積極的にご応募いただければと思います。

日本農業 代表取締役CEO 内藤 祥平

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