INTERVIEW
クラスター|代表取締役CEO 加藤 直人

累計67億円調達、メタバースプラットフォームclusterが世界進出へ。加藤直人が語るグローバル戦略

「日本が世界で勝負できる“最後の砦”こそ、メタバースだと思っています」クラスター社代表 加藤直人さんが語る真意とはーー。累計調達額67億円、海外展開・採用強化を本格化させるクラスター社はメタバースの「覇者」となれるか。加藤さん自身が描く世界、壮大なビジョンに迫った。

『cluster』
誰もがバーチャル上で音楽ライブ、カンファレンスなどのイベントに参加したり、友達と常設ワールドやゲームで遊ぶことのできるメタバースプラットフォームを展開。スマホやPC、VRといった好きなデバイスから数万人が同時に接続することができ、これにより大規模イベントの開催や人気IPコンテンツの常設化を可能にしている。世界初VR音楽ライブ「輝夜 月 LIVE@Zepp VR」や世界初eSports専用バーチャル施設「V-RAGE」、渋谷区公認の「バーチャル渋谷」、ポケモンのバーチャル遊園地「ポケモンバーチャルフェスト」の制作運営など、メタバースを実現し、全く新しいエンタメと熱狂体験を提供し続けている。

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人類の創造力=クリエイティビティを加速させる

まずはクラスター社が掲げるビジョン、どういったことを実現したいと考えているのか、そこから伺ってもよろしいでしょうか。

よく「メタバース企業」と言われるのですが、メタバースはあくまでも手段だと捉えています。僕らがやりたいのは、ビジョンにもある「人類の創造力を加速」させることです。例えば、誰しも「こんな世界になっていてほしい」「こんなものがあったらいいのに」というイマジネーションはありますよね。ただ、実装のハードルが高い。手をパッと開いても、僕は炎を出せない。この現実を悲しいとさえ感じます。オンラインでのミーティングにしても「まるで同じ空間にいるようだ」という体験とは程遠い。モヤモヤが拭えないわけです。

肉体、 空間、物理法則に縛られている。そんなものはテクノロジーで書き換えてしまえ。そして、全人類、一人ひとりの「創造」が当たり前の形にできる世界をつくろう。これがクラスターの発想です。

人類の「こんなことができたらいいのに」が叶う世界はすごいですね。ただ、正直、多くの人がVRゴーグルをつけ、仮想空間で生活していくような未来は想像しづらい部分があります。

僕は別に、人類全員がVRゴーグルを装着しているようなものを想像しているわけではありません。VRゴーグル、メガネ型デバイス、スマホ…方法は問わず、日常生活に3DCGが溢れた世界は当たり前になっていく。人と人がつながる上でハードルであった「身体」「空間」は取り払われていくと考えています。「人間の身体に紐づいた帰属意識」と表現しているのですが、それらは確実に薄まっていくでしょう。

わかりやすいところでいえば、服、メイク、髪…ファッションによる自己表現、アイデンティティがバーチャル上にも移行していく。そして生活空間、友達と話す場所も自分たちでつくり、新たな友達、コミュニティ、生活圏が生まれていく。

物理に紐づく「身体」や「空間」が、硬くて動かしにくい「ソリッドなもの」とするなら、メタバースは、液体のように何にでも形を変えられる「リキッドなもの」。溶け込みながらどんどん適応し、絶えず形を変化させていく。こうしたメタバース時代の人間は、ソーシャルを中心に、何らかのクリエイティビティに勤しむ「リキッドな存在」になると考えています。

クラスター05

© Cluster, Inc. 
「最も敷居の低いメタバース」を目指してつくられた『cluster』は、 VR機器がなくてもスマホ・PCでメタバースを始められる。アプリのダウンロード数は、2022年7月には100万ダウンロード。累計動員数は2,000万人を突破した。ユーザーは3Dアバターを選んでバーチャル空間に入り、公開されているワールドを散策したり、自身でワールドをつくったりすることも可能。「Hello Cluster」は公式イベントで、画像はユーザーがつくったワールドにて撮られた集合写真。

日本が世界で勝つ「最後の砦」こそメタバース

いかに描かれるビジョンに到達していくか。事業の持続可能性、収益性も重要な観点ですが、ビジネスモデル、事業概要・展望についても伺ってよろしいでしょうか。

現状のビジネスモデルでいえば「エンタープライズ事業」が稼ぎ頭となっています。そこでの収益を「プラットフォーム事業」に投下し、アップデートをしているところです。

足下でいえば、エンタープライズ事業は非常に好調です。バーチャル空間を活用したい法人に対してサービス・機能を提供しており、すでに案件数の実績は年間260件以上となりました。独自のリサーチですが、世界的に見ても100件以上を手掛けている企業はほとんど存在していません。規模的にも、システム的にも、世界一を自負しています。

なぜ、クラスター社は先駆けて法人ニーズを捕らえ、応えることができたのでしょうか。

まず「メタバース」という言葉が脚光を浴びる前、2015年に創業し、市場を作ってきたのは大きいと思います。もう一つ、日本のカルチャーとのマッチ度が非常に高かったことも要因のひとつ。日本人の多くは物心ついた時から漫画、アニメ、ゲームに親しみながら育ちますよね。こうしたバックグラウンドと、3DCGで描かれたメタバースの世界はすごく相性がいい。もっと言えば、日本人は「デフォルメされたカルチャー」に慣れていて、いい例えかわかりませんが、「へのへのもへじ」と描いたら顔に見えるのも日本人ならではですよね。漫画的・イラスト的なものを受け入れられる下地があったからこそ、クラスターはここまでのスピードで発展できたのだと思います。

また、日本はアニメ、漫画、ゲーム等の「IP」が非常に豊富な国です。クラスターは『ポケモン』をはじめ『ソードアート・オンライン』『鬼滅の刃』ともコラボしてきました。海外のスタートアップではまず難しいこと。『フォートナイト』規模であれば話は別かもしれませんが、そうでない限りは門前払いですよね。その点、日本発である点はアドバンテージですし、共に「日本勢」として海外に打って出ていける。日本のIP産業全体にも貢献できると考えています。

今後のエンタープライズ事業の展開についても伺わせてください。

海外を攻めていく、ここに尽きると思います。私たちが目指しているのは、世界的なプラットフォームのポジションです。正直、AI、ロボット、自動運転…先端領域で存在感を示しているのは海外勢ばかり。世界的なアプリといえば?と問われ、日本発のアプリ名はあがらない。では、これからも日本発のプラットフォームは生まれないのか。僕は、メタバースこそ、世界を獲るチャンスがあると考えています。唯一と言ってもいい、勝ち得る「最後の砦」。ここは絶対に逃してはいけない。日本代表として優秀な人材を集め、世界に出ていかなければならない。そういった使命感を持っています。

その上で鍵を握るのが「IT業界のインターネットカルチャー」と「ゲーム業界の技術」の融合だと考えています。メタバースのベースは、ゲーム業界で発展してきた3DCG技術です。ただ、インターネットのインタラクティブなカルチャー、薄い繋がり・マッチング、ソーシャルグラフと混ざり合うことなく発展してきた領域。その2つが融合したものこそ「メタバース」だと捉えています。

実際、クラスターには約200名ほどの社員がおり、ゲーム業界出身者と、インターネット業界出身者が、半分ずつくらいの割合で在籍しています。この記事を読んでくれている人に声を大にして言いたいのですが、「メタバース」と聞くと新しい技術のように思うかもしれませんが「既存の技術のハイブリッド」です。Webアプリの開発などに関わってきた方もスキルを活かせるし、ゲーム業界の方も技術も活用できる。ぜひその可能性を知って欲しいです。

クラスター02

提供写真(カメラマン:藤本和史)
加藤さんは、今回の採用に際して、こう語ってくれた。「特に採用を注力しているのがエンタープライズ事業部。既に、国内の案件だけでも、納品が追いつかないほど引き合いがある状況です。今後海外向けに制作していくにあたっては、グローバルなコミュニケーションも求められていくため、プランナーやディレクターといったポジションでは英語力を活かせるシーンも増えていくと思います。プラットフォーム事業は、エンジニアをはじめ100名ほどが在籍しています。世界の企業を見渡せば500~1,000名規模の人員でMAU1億~10億人規模のプラットフォームを動かしている。こうした企業に勝っていかなければならないため、こちらもまだまだ人材を求めています」

ビッグテックも勝負をかける「今」が一番おもしろい

資金調達を行い、まさに拡大フェーズにあると思うのですが、今クラスター社に入る魅力、得られる経験について伺わせてください。

率直に言って「今が一番面白いフェーズ」だと思います。

映画「マトリックス(1999年)」、「レディ・プレイヤー1(2018年)」、日本では「サマーウォーズ(2009年)」「竜とそばかすの姫(2021年)」などで描かれたような世界は、すぐそこまで来ています。

ただ、イメージが共有され、発展が約束された業界であるにも関わらず、まだ誰もその未来を実現できていない。2021年にはFacebookはMetaに社名変更しメタバースに約1.5兆円投資を宣言し、2023年6月にはAppleの『Apple Vision Pro』発表も話題となりました。ビッグテックがこぞって巨額投資を行っている。つまり市場がこれから生まれていく可能性が高い、ということ。

そういったなか、クラスターでも資金調達を行い、いよいよアクセルを踏んでいくフェーズです。一定数、ユーザーの獲得に成功しており、エンタープライズ事業も回り始めているところ。日本発のプラットフォームとして世界を相手に戦っていく。IT産業で大きく化ける可能性がある。 楽しくないわけがないですよね。正直、5年前は立ち上げフェーズでカオスでしたし、おそらく10年後には決着がついているでしょう。そういった観点でも、クラスターに入社するなら間違いなく「今」です。

クラスター04

提供写真(カメラマン:藤本和史)

目指すは「不老不死」の実現。仕事ではなく、探求。

最後に、加藤さんが描くメタバースにおける究極の理想があれば教えてください。

端的に言えば「不老不死」の実現です。今、人間は肉体に基づいているがゆえに、心臓が止まると死んでしまう。でも、叶うならば死にたくない。仮に脳の情報だけをインターネットにアップロードし、バーチャル空間で生き続けられるなら、もうそれは不老不死です。最終的には、五感の一部のみを書き換えるAR(アグメンティッド・リアリティ)ではなく、五感全てをコンピューターによって 書き換えた完全にデジタルで構成された世界に意識を飛ばす。これが私が目指す不老不死です。

非常に壮大な話ですが、なぜ、加藤さんは「究極の夢」を追うのか。仕事に対する原動力はどこにあるのか。伺わせてください。

僕自身は「仕事をしている」という感覚はないんです。ただただ面白いし、知的好奇心が満たされる。また、「世の中がこうなっててほしい」あるいは「こうなっているべきである」という理想像が自分のなかにあるだけです。現実世界とのギャップに強烈な怒りを感じているといってもいい。「なぜ手を広げた時に自分の手からは炎が出てこないんだろう」ともどかしい。ただの中二病ですね(笑)ただ、それをテクノロジーで解消していくのが本当に楽しいんです。しかも、個人ではなく、メンバーを集めて大規模に進めていくことがさらに楽しい。それが、僕の原動力ですね。

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