INTERVIEW
神戸市 イノベーション専門官|入社後活躍ストーリー

神戸市に「スタートアップ創出」の土壌をつくる――入庁から3年、イノベーション専門官の活躍ストーリー

アンビ(AMBI)での転職を経て、現在進行系での「活躍」に迫る今特集――。お話を伺ったのは神戸市発のスタートアップ支援・創出をミッションに活躍する「イノベーション専門官」の織田尭さん(2021年7月 神戸市 新産業創造課 入庁)。入庁から3年、彼が現在に至るまでにぶつかった壁、活躍に至る軌跡、そして未来への「志」を追った。

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神戸市 新産業創造課にて「イノベーション専門官」として働く織田さん。はじめに伺ったのは、2021年7月の入庁から半年間について。はじめの3ヶ月間は戸惑いもありつつ、徐々に「自分らしさ」が発揮できる動き方を掴んでいったという。

入庁してすぐの頃は、行政の予算が、議会の議決を経て年度ごとに組まれていくことなど含め、行政における基本的な仕組みさえ理解していませんでした。「市民の方々から頂いた税金を使う」ということなど含め、民間で働いていた頃とは違う考え方をする必要があり、最初は少し戸惑いました。

また、入庁した際、専任のプロジェクトが公募期間中でタスクが少ないタイミングだったこともあり、はじめの3ヶ月くらいは、「何に取り組めばいいのだろう」という迷いもありました。ただ、上司である課長から、課で持っている様々なプログラムのミーティングに参加するよう勧められ、その中で「できることがあればどんどんやってほしい」と声をかけてもらえたことをきっかけに、自分らしい動きができるようになっていったように思います。

私自身が、前職時代の経験から、起業家支援・コミュニティ運営を得意としていたこともあり、はじめはエンジニア創出事業の中でエンジニアと教育機関などが一堂に会するイベントの企画や、コロナ禍で「起業に興味がある学生たちが集まる場がない」という学生からの声を拾い、「学生たちが起業家と直接会えるプログラム」を企画するなどをして、徐々に肌感覚をつかんでいきました。また、トライする中で、自治体という立場が、学生、エンジニア、起業家、教育関係者、民間企業など、多方面から参加者や協力者をフラットに募っていけるニュートラルな立場であるということも体感として理解できました。

その他、1年目は、既に前任が行なっていた、スタートアップと神戸市役所内の他の部署との間で行う実証実験プログラム「Urban Innovation Kobe」も担当させていただいたりする中で、徐々に部署外の知り合いも増え、空気感や進め方をつかんでいけました。

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入庁から半年、取り組みの全体像を把握しつつ、織田さんは自身が主導する事業への挑戦をスタートさせていくことに。特に目を向けたのは「若者たち」だ。

入庁から半年くらいが経ち、事業全体の企画立案から担当したのが『KOBEワカモノ起業コミュニティ』でした。「起業家が身近なまち」をコンセプトに、学生たちを中心とする若者たちが起業家や近い関心の仲間と出会えたり、スタートアップでインターンができたりと、学校単体ではなかなかサポートしづらい起業という領域で、学校や学生と起業家がつながる仕組みを作り、幅広いキャリア選択のきっかけを街としてサポートしたい、という思いを込めました。

神戸市は全国的に見ても大学の多い自治体ですし、特色のある高校も多い。そんな中、なかには起業やスタートアップに関心を持つ学生たちもいますが、開業支援センターなどの相談窓口は、「起業に関心がある」フェーズの学生たちには敷居が高く、相談を受ける側の職員も学生向けの説明に慣れていないことも多いです。神戸市役所としてこれまで提供していた学生対象のシリコンバレー渡航プログラムなども、良いプログラムではあるものの、単発のプログラムだったため、サポート期間や機会が限定的である、という課題などもありました。こういった課題を鑑みて、学生を中心とした年間を通して、街の様々なプレイヤーで学生の起業をサポートできる支援、起業家創出の環境を構築したいと考えました。

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こういった新たな事業はどのようなプロセスで実施されていくのか。多くはチームでのディスカッション・ブレストを経て企画されることが多いと言う。

『KOBEワカモノ起業コミュニティ』の場合は、神戸が特色ある高校や多くの大学がある街であり、「若者に選ばれる街」を目指すという前提がある中で、市長からも「若者たちと地元企業・スタートアップのつながりを広げる事業を検討したい」という意向があり、プログラム化しました。ただ、他の事業を企画・立案する際は、チーム内では常に「スタートアップ支援・創出に向けて、いま何が足りないか。何をやらなければならないか」「行政としてできることは何か」「民間とどのように連動していくべきか」などと、日々ブレストベースで検討を重ねており、事業が開始した後も、互いの事業について、そもそもその事業が必要であるか、という点も含めて対話をしながら作っていきます。

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こうしてスタートした『KOBEワカモノ起業コミュニティ』だが、教育機関、地元企業など、さまざまな連携を深め、さらに広がりを見せていくことになる。

『KOBEワカモノ起業コミュニティ』は、学生や、各大学や高校などの学校関係者のみなさんからもすごく好意的に受け入れてもらえました。教育現場で「探究型学習」や「アントレプレナーシップ教育」への関心が高まる中、その延長で起業に関心を持つ学生もいるのですが、起業への挑戦については、学校関係者だけでサポートが難しいなど、学校によって支援にムラがありました。そこで、どの学校の学生も活用できる起業コミュニティがあることで、学校のサポート度合いに関係なく、学生が起業というものの理解を深めて挑戦でき、かつ、その学生と接点を持ちたい地元企業やスタートアップにとってもメリットがある仕組みになりました。起業家、VC、事業会社、教育関係者、学生、それぞれと接し、それぞれのニーズを理解することで、行政としてニュートラルな立場として、それぞれの間に転がっているニーズをくみ取り、解決する。そのイメージを持てるようになったのは大きかったと思います。

また、これに限らず、自身でプログラムなどを企画する際に学んだのは、「小さくスタートさせる」「予算がつく前段階でも提供できる価値がある」ということでした。我々の活動費は、大切な税金から賄われている以上、その使い方は慎重であるべき、というのが私の持論です。同時に、「この領域は伸びそうだ」という事業の「種」があれば、その年に予算がなくとも、関係する各所に連絡をしてヒアリングをさせてもらい、情報収集をしながら事業の手前段階で事業の構想ができるし、場合によってはスタートアップとVCをつなげたり、事業会社同士の連携を図ったりすることで、予算がなくても、できることはたくさんあります。税金を使わずに価値を高められる方法はないか、という視点で考えられるようになったのは大きな学びでした。そう感じられたのが2022年の後半頃だったと思います。

『KOBEワカモノ起業コミュニティ』から生まれた「種」は、2024年現在、着実に芽吹いてきている。

『KOBEワカモノ起業コミュニティ』は、今ではオンライン上でいえば、約400名の学生がコミュニティに参加してくれています。また、35名ほどの学生たちが起業をし、という報告もあり、年間で30~40人はスタートアップや起業家のもとでインターンを行っています。

いくつか事例をご紹介すると、神戸のヘルスケアスタートアップにて、学生がインターンとして参加し、展示会の運営など積極的に参加していたり、海外と日本をつなぐ神戸市内の事業会社の元でインターンした学生が、そのインターン内でオーストラリアに渡航してプログラムを実施したり、教育業界に関心がある学生が教育機関の現場でインターンしたり。学生が起業というものや自身の関心領域に関する解像度が高まることに繋がるインターン活動が実現してきました。また、インターンだけでなく、大学を越えた学生同士でチームを組んで起業をする事例や、高校生のビジネスプラングランプリから起業家を目指すためにコミュニティの相談会に通ってくれる事例など、このコミュニティがつなぎ役、架け橋として、多様なステークホルダー同士を繋げ、WINWINになるような環境を作っていけると感じています。

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新産業創造課で働くイノベーション専門官・職員たち

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こうして運営が軌道に乗った『KOBEワカモノ起業コミュニティ』。2023年から織田さんは、その知見・ノウハウを別プログラムにも展開していったという。

2023年からは私自身、女性起業家向け、エンジニア向け、それぞれの事業も担当することなり、『KOBEワカモノ起業コミュニティ』で得た知見を他の事業にも展開していきました。

小規模でイベントを開催し、人を集めていき、そこからコミュニティ化していく、という「ハードではなくソフトから作る」ことや、神戸市内の他の部署でサポートプログラムや民間企業による支援サービスがある中、私たちが税金を使って同じことをしてしまわないように、関西内や神戸市内でまずどういったサービスや支援があるか全体を把握し、「あるものは一緒に届け、足りないものは新たに作り出す」という発想で事業を構築する、など、事業を作っていく上での構築のプロセスを、女性起業家向け事業とエンジニア事業でも横展開していきました。

こうして複数の事業を見ていくなか、織田さん自身、行政としてどの領域に取り組むべきか、見極めの重要性を感じるようになったと振り返る。

部署全体について議論をする際や、他の事業でも、行政として取り組むべき領域か、民間企業に渡すべき領域か、そのタイミングはいつが良いか、などの見極めがすごく大切であると感じています。スタートアップや起業家の支援の中で、金銭的に利益を生む領域は、できるだけ民間企業に任せていきたいのですが、それを運営したいと思っていただける企業がこのタイミングでいるかどうかなども判断が必要です。また、長期的には意味や価値があり、インパクトを生む可能性があるが、なかなか収益を見込むことがむずかしい領域は私たちが入っていきたいが、その際にも良い税金の使い方をしているのかどうかを鑑みることなども意識しています。こういったことを自然と考えられるようになったのが、2023年ころだったと感じます。

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組織変革・新たなイノベーション専門官の入庁などもあり、織田さんにとって「2023年後半」は「新たな問い」と向き合う時期だったと振り返る。

2023年に所属していた部署自体が「経済観光局」という、神戸の経済発展をミッションとした局に移ったことにより、これまでとは異なる視点で考えるようになりました。また、神戸市のスタートアップ施策も年数を重ねていくなかで、単にそれぞれの事業で、個別に施策を打つだけでなく、いかに各事業で連携し、神戸の未来を包括的に見据え、未来の神戸経済にどういうインパクトを残すか、考えることが増え、自分の視野も広がった時期でした。

そういった流れもあり、部署としてはこれまでもスタートアップのグローバル展開サポートや、海外のスタートアップを日本の事業会社に繋ぐなどのグローバル事業はしてきましたが、この領域がさらに重要になってくると捉え、現在は、それらをより積極的に取り組みはじめようとしています

こういった部署の戦略や立ち位置などの「そもそも」を考え、部署としてどういった戦略をとるのかについても、多様なバックグラウンドを持った専門官とプロパー行政職員のみんなで対話しながら構築しています。それぞれの特徴・強みを活かしながらも、いわゆる個人商店化しすぎずに、チームとして、市役所として、より大きなインパクトにつなげていくことができるか。そこが我々神戸市として、最も意識すべき点であると考えていますし、そのために、その人なりの哲学や信念を持ちながら事業に取り組むことができれば、とても楽しく仕事ができる環境があると感じます。

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そして2024年現在――取材終盤で伺えたのは、神戸市のイノベーション専門官として働くことで得られたもの、そして今後の目標、「志」について。

前の項目でお話しした点とも関係してきますが、「やらない選択肢を持つ」という点をとても大事にしています。民間企業との違いとして、行政という組織は、企業のように売上や利益といった共通指標がないため、その行政担当者の成果が測りづらい構造にあります。

そういった構造上、どうしても行政担当者の一個人としても、「何をやるか」に目がいきがちですが、実はやらなくても同じ効果が出たり、もっと効率の良いやり方があったり、といったことは多々あります。だからこそ、常にニュートラルに、かつ外部人材として他の組織を経験してきた専門官が特に「やらない選択肢」「より良い方法を常に考えるマインド」を持つことが大事だと感じています。

逆に指標で表せないような社会的なことに取り組めるのも行政の良いところでもあると感じており、その反面、同じく予算は有限なので、わかりづらい指標においても、大きなインパクトを生み出すことは常に意識していきたいです。

他にも、ここ最近、「自分の組織や事業をどの立場として定義するか」という点も重要視しています。行政には、人々の生活のセーフティーネットを担う「守り」の施策もあれば、未来の神戸を築くための「攻め」の施策もありますが、それぞれで考え方がかなり異なると感じています。「守り」については特に神戸市のような県庁所在地であれば、その県の中で最も人口が多く、かつ機能の多い街として、限られた税金の中でも可能な限り、網羅的インフラを整備する必要がありますが、「攻め」の場合は、時には「県の中の県庁所在地」という視点以外ではなく、「国の中での神戸」や「グローバルの中での神戸」「アジアの中の神戸」という立ち位置など、どの立場として定義するかによって、練られる戦略がかなり変わってくると感じています。こういった発想の転換により、他の都市にない魅力や、尖った施策が打てると感じており、これらが、未来の神戸や、「神戸ならでは」を作っていくと考えています。

どの視点に立つか、何をやるべきで、何をやらないか。さまざまなステークホルダーと対話を深め、常に最適化を図り、時に尖って攻める。税金で事業を行う以上、その使い道で本当に神戸のためになるのか、真摯に向き合っていければと思いますし、神戸という街に住み、神戸が好きだからこそ、20年、30年後も、神戸、そして日本が世界に貢献できる街/国でありたいと思い、それに繋がる仕事ができればと思います。

▼神戸市 イノベーション専門官 織田尭さんの【第一弾】記事はこちら

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