INTERVIEW
ITER 日本国内機関 特別インタビュー

南フランスで「人類の夢」に挑む。火力発電からフュージョンエネルギー開発の最前線へ

南フランスで建設が進む、核融合実験炉「ITER」。地上に太陽を創る、壮大な国際プロジェクトだ。今回取材したのは、同プロジェクトで活躍する嘉藤 恭平さん。前職では約10年間、世界7カ国で火力発電所の据え付け作業に携わってきた。なぜ彼は、火力発電から「核融合エネルギー(フュージョンエネルギー)」という未知の領域へ飛び込んだのか――。

※画像内は、転職時の年齢となります。

超大型国際プロジェクト「ITER(イーター)」 について下記も併せてご確認ください。
舞台は南フランス、超大型国際プロジェクト「ITER」に挑め
https://en-ambi.com/featured/1628/

「ITER」は10年越しの目標だった。

もともと大手重工メーカーにて、火力発電所建設の現場責任者として約10年間勤務していた嘉藤さん。前職の仕事内容と、ITERへの参加理由から話を聞くことができた。

前職は、火力発電所の据え付け作業における現場責任者として働いていました。具体的には、ガスタービンや蒸気タービン、その周辺機器など、自社が納めた設備の施工状況を管理していく仕事でした。そのほとんどが海外プロジェクトだったのですが、さまざまな経験を積むことができ、大きなやりがいがありました。同時に、もともと学生時代から「核融合エネルギー」に関心があり、タイミングが合えばITERプロジェクトに挑戦してみたいといった思いがあり、常に公募情報はチェックをしていました。

そして2024年9月、ITERでの公募が、嘉藤さんの目に留まることになる。

運が良かったのだと思いますが、まさにITERプロジェクトの核心である組立作業が本格化し、私の経験に合致しそうなポジションの募集を見つけることができました。ちょうど前職で携わっていたプロジェクトが終了を控えていた時期。さらに子どもが4歳で小学校に上がる前、私自身の年齢を鑑みても「このタイミングしかない」と思い、応募をしました。特に魅力に感じたのが、世界初、そして唯一無二を意味する「FOAK(First of a Kind)」製品や作業に携われること。プロジェクトに貢献しながら、現地で直接製品を組み上げていく経験がしたい。そういった思いから、ITERへの参加を決めました。

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嘉藤 恭平|アセンブリ・コーディネーター(Assembly Coordinator)
大手重工メーカーにて約10年間、海外における火力発電所建設プロジェクトにおいて、現地施工業者への機器設置指導員や、機器設置から試運転完了までの指揮を執る現場責任者(Site Manager)として勤務。南アフリカ、ポーランド、台湾、タイ、香港、UAE、韓国等の建設プロジェクトを多数経験してきた。2025年7月よりITERに参加。

誰も挑戦したことのない「施工プロセス」に携わるやりがい

こうして2025年7月にITERに参加した嘉藤さん。そこでの仕事内容とやりがいについて聞いた。

肩書としてはアセンブリ・コーディネーター(Assembly Coordinator) というもので、現在は施工責任者(Construction Manager)としてセクターモジュール(*)の円滑な組立と設置の実現をミッションとしています。具体的には、ITER機構側の技術責任者と施工パートナーの間に立ち、技術的な認識合わせや工程管理を主導していきます。組立プロセスの統括マネジメント・最適化を担っていくと言うと、わかりやすいかもしれません。

(*)セクターモジュールとは、トカマク本体(核融合反応を起こすための装置群全体)を構成する9分割された巨大ユニット。真空容器セクター、トロイダル磁場コイル、サーマルシールドなどを組み合わせた構造で、ITERでは最終的に9つのセクターモジュールをトカマク組立ピットに搬入・設置し、プラズマを閉じ込める真空容器を含む本体構造を組み上げていく。

(参考)
『核融合、小さな太陽を造る壮大な実験』日経クロステック
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03424/120200001/

『ITER建設現場における組立作業の加速と成果』ITER日本国内機関
https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/iter/ITER_Japan_News_153.html

このセクターモジュールの組立・設置がユニークなのは、個別に9基を作り上げ、ピットへ搬入し、最終的に一つのコンポーネント(トカマク本体)を作り上げていく点です。もちろん前職の火力発電所でも現場での組立・接続作業はありましたが、そのプロセスと大きさが異なります。1基あたり高さは10m以上、1,350トンもの大きなコンポーネントを約半年をかけて事前に組み、狭いところだと約2mm間隔にてピット内へ設置していきます。当然、すべてが「人類初」の作業ですし、この作業にはITERでしか携わることができません。

また、「数え切れないほどの技術者たちの努力の結晶が今、目の前にある」と思うと非常に感慨深いです。それぞれ数年単位の長い時間をかけ、世界中で製造されたものを一つひとつ組み上げていく。もちろん重圧も伴いますが、それ以上に、世界中の技術者の方々に対する深い尊敬の念を抱いています。彼らが積み重ねてきた思いをしっかりと形にしていく。その重要な役割を担えることに、大きなやりがいを感じています。

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「文化の壁」を越え、プロジェクトを前進させていく

続いて聞いたのは、前職時代との「共通点」と「違い」について。

入念に準備をして現場作業を進めていく、施工パートナーと共に日々の進捗を管理していく、ブロックポイント(止まる要因)を取り除く、こういった「プロジェクト進行」で求められる本質は前職と共通する部分だと思います。

また、これは大型国際プロジェクトならではの部分として、30カ国以上のITER職員がいて、さらに施工パートナーも数十社と関わります。バックグラウンドが全く違う人たちが集まる環境ですので、やはり調整の難易度は高いですね。当然、業務への姿勢、問題があった時の捉え方、ミーティング一つとっても議論の仕方が日本人の感覚とは全く違います。もちろんそれぞれの文化も違います。それらを汲み取り、意見を受け止め、噛み砕いて全員が共通認識を持てるように調整していく。それは難しさと同時に、物事が前に進んだ時には大きなやりがいにもなっていくものだと思っています。

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幼い頃からエネルギー分野に興味を持っていたという嘉藤さん。「エネルギー関係の仕事に就いたのは、国際的なエネルギー問題に何かしら貢献をしていきたいという思いがあったためです。一方で、核融合エネルギーに関していえば、学生時代にその存在を知り、まさに夢のエネルギーであり、もし実現したら素晴らしいなといった純粋な思いがありました。」

「誇り」を持って淡々と。目指すは着実なプロジェクトの進行

そして取材後半に聞いたのが、今後の目標について。

まずは2027年半ば頃までの「全てのセクターモジュールのピット搬入・設置」の完遂を目指します。また、その後は約3年掛け、セクターモジュール同士を溶接して接続する、非常に重要な工程が待っています。ちょうどITERでの5年という任期の中で、その接続溶接の最終段階まで見ることができる見込みです。また、セクター溶接の間にも、セクターの外側では多くの作業が行なわれていきます。そこまでに可能な限り、新しい知見を吸収していきたいです。そして、この領域に関しては誰よりも深く理解し、問題に直面した場合や、上流・下流での新たな作業が開始される際に、最善の提案ができるようになっていければと思います。その後のキャリアについては、さらにITERで経験を積むのか、あるいは新たに始まるであろう原型炉の計画で経験を活かせる道を探すのか。5年後の状況、タイミング次第だと考えています。いずれにせよ、どのような選択肢にも柔軟に対応できる人材を目指したいです。

最後になりますが、嘉藤さんにとって仕事とは一体どういったものか。その価値観・スタンスについて聞くことができた。

私にとって「仕事」とは、「誇りを持って淡々と進めていくもの」だと捉えています。工程を細部まで理解し、準備を整え、あらゆる事態を想定し、どのような時も浮き沈みなく淡々と進めていく。その積み重ねが良い製品の組立につながると考えています。そもそも私自身「構造を深く理解したい」「その上で発言や行動に移していきたい」といった性格。複雑で、スケールの大きなものが、どのように組み立てられるのか。各作業や組織がどうつながっているのか。全体のつながりを解き明かしていくプロセスそのものに惹かれているのかもしれません。また、それこそ今の仕事でやるべきだと思っています。最後に「誇りを持って」という部分ですが、私の中では扱う製品に関わってきた全ての人たちへの敬意と感謝を持つ、ということとも重なります。世界中の叡智と、それぞれの思いを背負い、責任を持って組み上げていく。そういった「誇り」を持ち、これからも仕事と向き合っていければと思います。

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ITER参加者が語る「選考」と「移住」について

▼ITERでの選考について
多少でも自身の経験と重なる募集がないか、常に公募情報をウォッチしていました。今回は「アセンブリ・コーディネーター(Assembly Coordinator)」という募集に対し、応募をしたのですが、正直に言えば、本当に自身の経験がフィットしているのか、不安もありました。そのため履歴書やカバーレターの作成には時間をかけて取り組みました。自分なりに募集要項を分析し、これまでのプロジェクトで「何を達成したか」「何に力を入れたか」などを言語化していきました。また、ステークホルダーとの調整、スケジュール管理、火力発電所の建設で培った管理手法などもアピールしていきました。そういった意味でも日頃から経歴やキャリアを整理しておくことが役立つと思います。

▼仕事で大切にしているスタンスについて
仕事で大切にしているのは、常に相手の立場に立ち、「今、どんな情報を求めているのか」を先回りして考える姿勢です。マネージャーと接する際は「もし自分がその立場だったらどう動くか」をシミュレーションしています。どうすれば求められている報告内容や、意思決定に必要な判断材料を的確に提供できるか。実際に現場を経験してきた方々の優れた知見を積極的に取り入れ、仕事に活かすよう意識しています。また、現場で動くプレイヤーの視点も忘れないよう意識しています。円滑に作業を進めるための橋渡しをする。双方の視点を行き来し、組織の歯車が円滑に回るように整えていくことを心がけています。

▼南フランスでの生活について
フランス移住にあたり、サポート体制が整っていたこともITERへの転職を決断する上で大きな判断材料となりました。たとえば、現在、職場から車で30分ほどの場所にある「マノスク」という街に住んでいるのですが、この街にはITER職員向けの国際学校があり、子どももそこへ通わせることができています。その手続きについても着任前からITERのサポートチームと密に連絡を取り、相談させてもらいました。現地での暮らしとしては英語が通じるところも多く、簡単なフランス語ができれば日常会話も成り立ちますし、不便を感じることはありません。

ただ、移住という観点でいくと、ケースバイケースだと思いますが、私たちの場合は、どのような物件があるか、実際に自分たちで見てから判断したいと考え、2ヶ月ほどホテルに仮住まいをしました。2025年7月に着任し、9月から子どもの学校が始まる、というタイトなスケジュールだったこともあり、早急に車を手配したり、地理感覚がない中で物件探しをしたり、大変さはありました。このあたりは家庭の事情も踏まえ、前もってサポートチームに相談をしておくといい部分だと思います。

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