INTERVIEW
京都フュージョニアリング

フュージョンエネルギー界のインフラに。日本の叡智で世界に挑む、Google出身者の「次なる舞台」

掲載日:2026/07/02NEW更新日:2026/07/02
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地上の太陽、そして脱炭素の切り札とも呼ばれる「フュージョンエネルギー」。その実現を目指し、フュージョンプラント向け機器の開発・提供を行なうのが、京都大学発スタートアップ「京都フュージョニアリング(以下、KF)」だ。今回お話を伺ったのは、同社で事業開発担当として働く川本 宗千力さん(27)。前職はGoogleで営業や事業企画を経験した彼は、なぜ次の挑戦の場としてKFを選んだのか。そこには「日本の世界最高レベルの研究基盤と技術を、世界に展開していきたい」という熱い志があった。

フュージョンエネルギーとは
太陽が光や熱を生む仕組みである「核融合」を、地上で再現して得られる次世代のエネルギー。燃料は海水からほぼ無尽蔵に採取でき、発電時に二酸化炭素も排出しない。一方、発生時には超高温などの極限環境が必要なため、かつては実現困難な「夢のエネルギー」と呼ばれてきた。しかし、技術革新が進んだ近年、世界規模で開発競争が加速。米国では民間企業、中国では国家が主導し、巨額の予算と最新技術を投じている。日本を含む各国で「2030年代の発電実証」、そして「2040年代の実用化」を目指し、国を挙げた総力戦で挑んでいる。

「AIの次は、エネルギーがくる」25歳で新天地へ

新卒でGoogleに入社し、営業や事業企画に携わっていた川本さん。仕事の枠を超え、もともと興味のあった再生可能エネルギーや先端技術について調べるなかで、たまたまKFの存在を知ったという。当時を振り返り、その出会いにおける率直な心境から語ってもらった。

エネルギーに興味があったとはいえ、フュージョンエネルギーに関しては、その原理すら全く知らないというのが正直なところでした。そうした中、知り合いの紹介で、転職とは関係なくKFのCOOの話を聞く機会を得ました。聞けば聞くほど「日本にこんなすごい会社があったのか」と衝撃を受けました。

まず、驚いたのは、市場規模の圧倒的な大きさです。フュージョンエネルギー市場は、2030年には60兆円、2040年には118兆円規模にまで急拡大すると予測されています。これは、AI市場の成長をも凌ぐほどの巨大さです。

そして、この領域の多くのスタートアップがフュージョンエネルギーによる「発電」を目指すなか、KFは発電プラントに必要な高性能な部品や機器を開発・提供するという、独自のビジネスモデルを確立している点です。しかも、国内外の発電を目指すスタートアップや政府系研究機関からすでに受注しており、単なる「夢物語」ではないのだなと感じました。

さらに、日本は世界屈指のフュージョンエネルギーの研究基盤や技術を持つ国であることも知りました。日本では、フュージョンエネルギー研究の歴史が長く、特定の分野では日本人研究者が世界の第一人者であることも珍しくありません。日本に本社を置く企業として、その圧倒的な地の利を活かしてグローバルに勝負できることは、非常に大きな魅力に映りました。

あらゆる観点で見ても、直観的に「これは面白そうだ」と思ったことを覚えています。

その後、最初の出会いから1年半ほどはGoogleでの仕事を続けていたのですが、世の中でAIが急速に普及するのと同時に、電力需要も爆発的に高まっていくのを肌で感じていました。AIが伸びていくということはエネルギー業界も必ず伸びていく。それならば、今このタイミングでエネルギー分野でのイノベーションに身を投じることが、これからのキャリアとして最もワクワクする選択ではないか――。そう確信し、1年半越しにKFの門を叩き、ご縁をいただき入社に至りました。

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Googleを去ることに、迷いはなかったのかを聞くと「ほとんどありませんでした」と川本さん。「もちろん、GoogleはまさにAIの最先端を牽引している会社でしたから、世の中を変えているという実感もあり、非常に刺激的な日々でした。ただ、未来を創る新しい技術はAIだけではありません。世界には、多様な技術があり、その中で私は、心から興味の持てるエネルギー分野の新技術に賭けてみたかった。当時、まだ25歳。何かを失うリスクも少なく、フットワーク軽く挑戦できる今のうちに、未知の環境に飛び込んでみようと思いました」

世界中のプレイヤーから狙われる、日本の技術力

改めて、同社が推進する事業の「現在地」について伺った。

現在、すでに世界中の複数のスタートアップや研究機関が、2030年代にフュージョンエネルギーの発電プラントを建設すると表明していますが、私たちはほぼすべてのプレイヤーと強固な関係を築けている状態です。現状、プラントエンジニアリング(炉工学)に特化している会社はKFくらいなので、「プラントの設計やエンジニアリングを、丸ごと任せたい」と委ねていただくケースも珍しくありません。

特に、フュージョンエネルギーの研究開発の歴史がある日本に根差した企業だからこそ、海外のあらゆる企業や研究所からの問い合わせは多いです。「日本発の優れた部品や機器を調達したい」といった相談は、日常的に寄せられています。日本の技術を世界に展開していく上で日本語を話すことができ、日本のサプライチェーンや商習慣にアクセスできるのは、私たちにとって大きなアドバンテージです。それと同時に、この領域において、日本は想像以上に世界から注目されており、その高い技術力が世界のプレイヤーから、良い意味で「狙われている」と日々、肌で感じています。

このように確固たるポジションを確立できているからこそ、今後私たちに求められるのは、2030年代にプラントの建設ラッシュが本格化するタイミングを見据え、滞りなく各社に機器を納入できるよう、供給体制を万全に整えておくことです。

とはいえ、数十億~数百億円規模にのぼるプラントの完成には相応の時間を要するため、私たちはすでに、一部の機器や実験設備などの開発は完了させ、実際の販売・納品も開始しています。

KF合成差し替え

核融合炉開発スタートアップの多くがプラズマ物理学の研究者を中心に構成されている一方で、KFは日本が得意とする工業領域で先回りして技術を開発。取引先が気づいていない課題まで主体的に提案・リードすることで、絶大な信頼を獲得している。

日本の“ものづくり魂”に火をつけ、共に挑む「味方」を増やす

こうした中、プラントテクノロジーの事業開発担当として働く川本さん。自身の「ミッション」と、「仕事のやりがい」をこう語る。

私のミッションは、技術主導のこの分野において、ビジネスとして成立させていくことです。具体的には、国内外のフュージョン関連研究機関やスタートアップへのエンジニアリングソリューション提案をはじめ、協力企業や機関との共同研究・開発の推進、法務チームと連携した契約締結交渉など、幅広い業務を担っています。

なかでも、KFのビジョンに賛同し、協力してくれる企業が増えていくプロセス、つまり「新たに人を巻き込んでいける瞬間」に、特に大きなやりがいを感じています。

KFは基本的にはファブレス企業であるため、設計は自社で行ないますが、実際の製造は日本各地の優れた企業と連携して進めています。そのため、事業開発担当としては、大手重工業・プラント企業や素材メーカーから精密加工を得意とする中小企業まで、さまざまな企業を「味方」につけていく必要があります。

ただ、まだ世の中に認知されていない新しい市場ですから、まずは「フュージョンエネルギーとは何か」から丁寧にお伝えし、今から参入するメリットやビジネスチャンスを粘り強くプレゼンします。その上で、「これをできるのは御社の技術しかないので、ぜひ一緒にやりましょう」と熱意を伝えていく。

日本のものづくりの分野では、既存市場の縮小に伴い、新たな活路を模索している企業も少なくありません。そのため、有難いことに「ぜひ一緒に挑戦したい。まさか自社の技術が、そんな未来の分野に活きるなんて」と、非常に前向きな反応をいただくことが多いです。そして、共感してくれた先方の担当者様が、「これは面白い、会社として取り組むべきだ」と社内を説得し、決裁に向けて自ら動いてくださる。

そうしたプロセスを目の当たりにすると、自分たちの思いが届いたと深く実感しますし、同じ熱量で伴走してくれる仲間が増えていくことは、純粋にとても嬉しいですね。

こうして強力なパートナーとなっていただき、私たちはすでに幾つもの機器を共同開発してきました。ついに形になった研究成果や機器を、当社のエンジニアや協力会社の方々が誇らしげに嬉しそうに見つめている姿を見ると、私もこみ上げるものがあり、胸が熱くなります。

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もう1つのやりがいとして、「お客様の目標の実現をサポートできたと感じられた時」を挙げてくれた。「お客様によって『フュージョンエネルギーで、こんな研究をしたいから、◎年までにこの目標を達成したい』、『◎年までにこれを成し遂げて、次の資金調達につなげたい』などさまざまな目標があります。こうしたニーズに対し、KFの製品や技術が見事にフィットし、お客様の挑戦が具現化へと近づく事例が次々と生まれています。エネルギーインフラを支える立場として、確かな手応えを感じる瞬間です。前例がないからこそ、他と比較されることもない。これほど自由な領域はないと思うんです。その自由さを全力で楽しんでいきたいですし、仕事のことを考えない日はないほど、この挑戦に夢中になっています」

「標準解」なき挑戦。自ら決断する重圧

一方で、入社するうえでは覚悟しておいたほうがいい、スタートアップならではの「厳しさ」についても率直に触れてくれた。

誰もやったことがないビジネスを手がけているため、ここには「標準解」が存在しません。そのため、仕事の進め方そのものを自ら設計し、決断を下し続けなければならない。大企業のように、上司が手取り足取りやり方を指示してくれる環境ではないため、最初のうちは不安はありましたし、一定のプレッシャーを感じたのも事実です。

ただ、事業開発のポジションは、あらゆる業務に関わるため、否応なしに決断の場数を踏んでいくことができます。まだ私も完全に「慣れた」とは言えないですが、入社当初と比べれば、確実に自ら判断して進められるようになったと思います。

もう1つ、壁があるとすれば、専門知識です。私自身は文系出身で、フュージョンエネルギーや、プラントエンジニアリングの知見は完全にゼロの状態で入社しました。そのため、社内では聞いたこともない高度な技術用語が日常的に飛び交います。周囲がその都度説明してくれるわけではないので、わからない単語が出てくるたびに自分で調べ、自律的にキャッチアップしていかなければなりません。

私の場合、前職のGoogle時代から、「数週間単位でアップデートされる本社からのプロダクト情報に追いつかなければならない」という日々を送っていたため、キャッチアップしていく癖がついていたので、そこまで大きな抵抗感はありませんでした。ただ、人によってはタフな環境だと感じるかもしれません。

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現在、同社の従業員数は約160名(業務委託契約を含み、グローバルでは190名程度)。その大半がエンジニアであり、ビジネス職は数十名ほど。そのため、川本さんの業務範囲はメインミッションの枠を超えて極めて多岐にわたっている。「ビジネス職の人数が限られているからこそ、発注や在庫管理、ロジスティクスの契約書類作成、ジョイントベンチャー設立時の登記手続き、採用活動にまで関わっています。おかげで、ビジネスパーソンとしての総合的なスキルは日々鍛えられている実感がありますし、会社経営そのものに対する解像度も、以前に比べて格段に高くなりました」

「KFが歴史を10年早めた」そう世界に評される未来へ

取材の終盤、川本さんの今後の目標について伺った。

まさにここから数年が勝負だと思っています。1件あたり数十億円、数百億円にのぼる巨大なプロジェクトを確実に形にするだけの対応力を組織としてつけていくためには、まだまだクリアすべき課題がたくさんあります。

たとえば、圧倒的な人材不足が挙げられます。優秀な技術者を確保することはもちろんですが、技術主導の分野だからこそ、それを市場に適合させてビジネスとして成立させる事業開発の機能の強化が極めて重要です。現状、この変革を牽引できる優秀なビジネス人材がまだまだ不足しているので、もっと仲間を増やしていきたい

また、プラント建設を具体的に進める上では、厳しい安全規制や地域住民の理解を得ることが不可欠であり、これらが一つでも欠ければ計画は前へ進みません。こうした多面的なハードルを乗り越えるためにも、今後さらに多様な協力会社を味方につけ、パートナーシップを広げていく必要もあるでしょう。

さまざまな壁がありますが、それらをビジネスの力で突破し、リードしていきたい。KFが掲げる野心的な中期経営戦略の達成に向け、高い視座と広い視野を持って貢献していきたいです。いつかフュージョンエネルギーが実用化したときに、「KFが、フュージョンエネルギーの実現を 10~20 年早めた」と世界から評価される未来を目指して、これからも挑戦を続けていきます。

最後に、川本さんが思い描く「フュージョンエネルギーが実現した未来」について伺った。

フュージョンエネルギーが実現した未来では、燃料はほぼ無尽蔵にあるわけなので、エネルギー不足の心配からは解放されているはずです。

たとえば現在、日本はエネルギー資源の多くを海外に依存せざるを得ず、地政学的な不安定さを抱えている。そうした制約からは解放されるでしょう。むしろ、フュージョンエネルギーのコア技術を持つ国々がエネルギーの自給自足を実現し、主導権を握る世界へとシフトしていくはずです。これは、優れた技術基盤を持つ日本にとって、非常にポジティブな未来だと思います。

また、グローバルな視点で見ても、急増するAIの電力需要問題がクリアされれば、あらゆるテクノロジーの進化はさらに加速していくと思います。

すでに民間企業が宇宙へロケットを打ち上げ、火星を目指す時代です。フュージョンエネルギーが実用化されれば、私たちの想像を遥かに超えることが起きていくのではないかと思います。実は、ドラえもんやガンダムも「フュージョンエネルギーで動いている」という設定なんです。まさに、かつてのSFの世界が現実になろうとしている。

その未来がいつ到来するかは誰にも分かりませんが、KFではそんな自分の興味のある方向へ向かっていく手段として仕事に携われている実感がある。この感覚はこれからも大切にして、働いていきたいです。

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