掲載日:2026/07/17NEW更新日:2026/07/17
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外務省が社会人経験者採用試験(総合職相当・専門職相当)を強化している。今回は、商社勤務を経て、2023年に入省した松尾圭悟さんを取材した。本省での南東アジア第二課、中東第一課の主査を経て、現在は在マレーシア大使館で二等書記官として働く彼は「常に新しいテーマや国・地域に向き合う中では緊迫した局面にも直面します」と語る。彼のストーリーから、外務省で得られる多様な経験に迫る。
世界の多様なテーマに挑む、ジェネラリストを目指して
前職の総合商社では人事部に所属していた松尾さん。転職を考えるに至った経緯から伺った。
商社では労務管理を中心とする人事業務に携わりました。人事の仕事は非常に奥深く、「人こそ組織の力の源泉である」と学べたことは、今でも私にとって大きな財産です。
同時に、幼少期に英国で6年、中国で3年を過ごしたこともあり、物心ついた頃から、海外を舞台に、現地の人々の様々な価値観に触れられる仕事に就きたいという思いを持っていました。
当時は、ロシアによるウクライナ侵略など、国際情勢が大きく動いていた時期でもありました。世界の動向に関心を持つ中で、幼い頃から抱いていた国際的な舞台で働きたいという思いが自分の中に残っていることに気づきました。そうした中で、外務省の社会人経験者採用を知り、挑戦してみたいと考えました。
他の民間企業ではなく、なぜ外務省を選んだのだろうか。
大きな決め手となったのは、外務省の仕事や働き方を知る中で、幅広い分野に向き合いながら国際関係に携わることができることに魅力を感じたことです。
外務省には本省に加え、世界156か国に設置されている234の在外公館があり、2、3年おきに異動があります。多様なテーマや、さまざまな国・地域に深く関われる環境は、非常に魅力的でした。
また、外交官への理解を深めようと、著名な外交関連の書籍を読み漁るなかで、「理想的な外交官の資質」として挙げられている7つの要素(誠実、正確、平静、良い機嫌、忍耐、謙虚、忠誠※)を知り、自分の目指す価値観との親和性を感じました。特に、外交官は黒子に徹する場面も多くありますが、「謙虚」「忠誠」が理想的な資質であるとされる世界に、不思議な魅力を感じたことを覚えています。この7つの要素は、入省後に尊敬する上司から送られた言葉でもあり、今後も大切にしていきたいです。
※イギリスの外交官ハロルド・ニコルソン『外交』より
松尾圭悟
新卒で総合商社に入社後、2023年4月に外務省入省。南東アジア第二課 主査、中東第一課 主査を経て、2025年1月より在マレーシア大使館 二等書記官に。現在、総務儀典部と広報文化部を兼任している。
外交政策を支える、「本省」の最前線
入省後は、まずは「本省」でキャリアをスタートさせた松尾さん。本省での仕事はどのようなものなのか。特に中東第一課時代のエピソードを例に解説してくれた。
端的に言うと、本省の役割は外交政策の企画や立案、調整を行うことです。その中での主査としての自分の役割は、主に相手国政府との窓口として情報を受け止め、関係省庁や外務省内の各局に伝達すること。そして、正式な外交上の回答を調整し、国同士のやり取りが円滑に進むよう支援することです。
これには、担当地域の知識だけでなく、安全保障、経済協力、国際法、領事、広報など、さまざまな観点が関わってきます。当然一人では完結できない仕事ですので、周囲のさまざまな関係者と連携しながら進めていく必要があります。
中東情勢に大きな動きがあった際には、関係する在外公館や省内の各部署と速やかに連携し、情勢を迅速に把握した上で対応を検討することが求められます。その際、中東各国や同志国など、世界各地に所在する在外公館から、現地情勢や各国政府の立場などに関する報告が集まります。夕方に発出した依頼に対し、時差を利用して、翌朝には世界中から状況を報告する回答が集まっていることも常です。
集約した情報をもとに、在外公館と連携しつつ、日本としてどのような立場を示すべきか、どのような表現であれば相手国や国際社会に正確に伝わるのかを議論していきます。
アラビア語・ヘブライ語などの語学や地域への造詣が深いプロフェッショナルとの議論はもちろんのこと、総合外交政策、経済、国際協力、国際法、領事、広報文化などを担当する省内のさまざまな部署とも協議を重ねた上で、日本としての立場や見解を整理していきます。
非常に骨の折れる作業ですが、資料や考え方が議論を通じて磨かれるプロセス、省内ひいては全世界の省員の知見が結集していく様子を間近で体験できるのは、この仕事の醍醐味です。最終的に外交上のメッセージや対応として世に出る瞬間には、言葉では言い表せないほどの達成感があります。
外務大臣や政務二役(副大臣・政務官)、中東和平担当特使の海外出張に同行する機会にも恵まれました。短い日程で延べ20か国以上を訪問し、相手国のカウンターパートをはじめとするさまざまなプロフェッショナルたちとの対話や調整の現場に触れることができたことは、大きな学びとなりました。目まぐるしく変化する国際情勢の中で、外交の現場に没入できたことは、貴重な経験の日々でした。
在マレーシア大使館、一丸で臨む「外交の現場」
2025年1月からは在マレーシア日本国大使館で勤務している松尾さん。大使館での仕事には、「要人往来の対応など、本省で政策を企画・調整していくのとは、また違った醍醐味がある」と語る。
総務儀典部では、館内の全体調整を中心に、国家元首や閣僚をはじめとする要人の往来、式典、会談、各種行事が円滑に進むよう、国際プロトコル(外交儀礼)を踏まえた準備や調整を行っています。
2025年10月には、ASEAN関連首脳会議に出席するため、高市総理がマレーシアを訪問されました。総理就任からわずか4日後の訪問ということもあり、大きな注目を集める中で、大使館全体で全力を尽くして準備に当たりました。
具体的には、要人の控室の準備や当日の動線確認をはじめ、席次、記念撮影時の立ち位置の調整など多岐にわたります。さらには、会議・行事への出席者のお祈りの場所の確保や、ハラールに配慮した食事の手配など、相手の宗教や文化を尊重し、入念な準備を進めていきます。
こうした準備は、外務省の職員だけで進めるわけではありません。大使館でともに働く他省庁出身者、地方自治体や民間企業からの出向者、専門調査員、現地職員などを含め、多様なバックグラウンドを持つ人々が、それぞれの専門性を持ち寄って一つの現場をつくり上げています。首脳同士が実際に会談に臨む瞬間には、それまで積み重ねてきた準備が一つの形になる重みを感じます。
2026年に入ってからも、1月の新年祝賀会を皮切りに、2月は天皇誕生日レセプション、3月は新日馬(日本・マレーシア)産業協力セミナー、6月のアンワル首相の訪日など、大型行事が立て続けにありました。いずれの行事も、多くの関係者の協力によって成り立っており、日々、二国間関係が前に進む重要な現場に関わっていることを実感しています。
マレーシアの伝統衣装で、正装としても用いられるバティックを着用する松尾さん。 「マレーシアは、日本にとって政治・経済・人的交流のいずれの面でも非常に重要な国です。1982年に始まった『東方政策(ルックイースト政策)』のもと、これまで約2万8000人の留学生・研修生が日本で学び、帰国後は政府機関、大学、民間企業などさまざまな分野で活躍している方も多く、日マレーシア関係を支える大きな基盤になっています。また経済面でも、右肩上がりの成長を続け、約1,600社の日系企業が進出しており、製造業、サービス、エネルギー、先端技術など幅広い分野で協力が進んでいます。エネルギー、重要鉱物、サプライチェーン強靱化といった経済安全保障の観点からも、日本にとって重要なパートナーです。」
また、大使館に身を置きながらも、本省の政策検討に貢献できる場面もあるという。
在外公館の重要なミッションの1つに、現場で得た情報や知見を本省に報告することがあります。
現地の政府関係者、企業、研究者、市民社会など、さまざまな方々との対話を通じて得られる情報には、現場の感覚が含まれています。そうした情報が、霞ヶ関での政策検討の材料となり、結果として政策の方向性に反映されることがあります。現地からの報告が検討材料となるときには、大きな手応えがあります。
本省の中東第一課時代に関わっていた政策課題について、昨年ここマレーシアで実現に向けて相手国政府と調整する機会にも恵まれました。また、2026年6月のアンワル首相訪日の際には、日馬共同声明の発出にあたり、微力ながらも大使館の一員として調整に携わりました。
本省では毎日様々な政策決定を短期間で行っており、現地からこれに貢献することは、なかなか容易ではありません。だからこそ、本省が今何を考え、どのような課題意識を持ち、どういった情報を必要としているかを念頭に置きつつ、情報収集を行う姿勢が重要です。
総務儀典部に加え、広報文化部も兼任している松尾さん。「学術、教育、スポーツ、文化、様々なことを扱っており、特に科学技術、青少年交流、対外発信に従事しています。」写真は、日本の大学生が在マレーシア大使館へ表敬訪問した際の様子。
外交官としての幅を広げていく
取材終盤、今後の意気込みについて伺った。
外務省で働く中で強く感じるのは、日本の国益と国際社会への貢献という大きな目的のもとで、日々の一つ一つの業務に誠実に向き合うことの大切さです。
外務省では、深刻な地政学的緊張や人道危機など、重い責任を伴う課題に向き合う場面があります。そうした局面では、感情に流されるのではなく、限られた時間の中で必要な情報を把握し、関係者と連携しながら、冷静かつ誠実に対応することが強く求められます。
困難な課題であるほど、自分一人でできることは限られています。それでも、チームの一員として状況の改善に少しでも貢献できるよう、目の前の業務に真摯に取り組むことが大事です。
外務省員は、日本の国益や国際社会への貢献という大義のために、揺るぎない使命感を抱いて働いています。そうした尊敬できる先輩や同僚たちから刺激を受け、学びながら共に働ける環境は、私にとって何よりの原動力です。まだまだ未熟ではありますが、日々の経験を通じて、外交官としての視野を広げていきたいです。
最後に、松尾さんの「外交官という仕事」への考え方を尋ねた。
私自身、偉そうなことを言えるような立場では決してありませんが、やはり目の前の「誰か」に貢献すること。そこに尽きるのではないかと思っています。
入省してから、これまでに担当した相手国のカウンターパートから、直接感謝の言葉をかけてもらう機会が何度かありました。
それはもちろん、日本政府や関係者全体に対する言葉です。それでも、直接そうした言葉をいただくと、日々の仕事が相手に届いていたのだと感じ、胸が熱くなります。
外交というと、どうしても「国と国」の大きな話に思われがちですが、その実態は「人と人」の血の通ったやりとりです。だからこそ、誠実に相手と向き合い、正確に情報を把握し、冷静に判断するという、人間同士の信頼関係を築くための基本が、何よりも重要だと感じています。
これからも、そうした原点を大切にしながら、日本と国際社会との関係強化に少しでも貢献できるよう、日々精進していきたいです。