東京都のDX推進を担う「東京都 デジタルサービス局」。2026年度「ICT職」の民間人材公募に伴い、特別インタビューをお届けする。今回取材したのは、2023年、当時27歳で東京都に入庁した菅野 純平さん(30)。前職では大手SIerに勤務し、システムエンジニアとしての経験を積んできた。なぜ、菅野さんは東京都庁でのキャリアを選んだのか。そこには「ユーザーに寄り添い、上流の企画・提案工程に挑戦したい」という思いがあった――。
※画像内は、転職時の年齢となります。
前職は、従業員数1万人を超えるSIerで働いていた菅野さん。はじめに、転職を考えるようになったきっかけから話を聞くことができた。
前職は、大手SIerにてシステムエンジニアとして働いていました。携わっていたのはEC通販の基盤を扱う事業で、システムパッケージをカスタマイズし、お客様に提供していくプロジェクトに参加していました。
もともと文系出身の新卒入社だったこともあり、ITエンジニアとしての基礎力を養うため、プログラミングやテスト、あるいは導入後の操作説明などを手掛けていました。もちろん、いずれも基礎を身につける上では重要な業務だったのですが、「企画・要件定義など、いわゆる上流工程に携わりたい」という強い思いがありました。ただ、なかなか先々のキャリアが描けないままだった、というのが正直なところでした。
また、当時は業務で十分な成果を出すことができず、どこかに焦りがあったのかもしれません。どうしても上司や先輩に対して萎縮してしまい、気兼ねなく報告や相談ができていませんでした。そして業務が遅延してしまう。プログラミングや開発への苦手意識をさらに持ってしまう。こういった悪循環から抜け出したい。もっとユーザーに寄り添いたい。事業の仕組みづくりそのものに関与したい。そのためにも上流の企画・提案工程に携われる場所で挑戦しようと考え、転職への決意を固めました。
こうして当時27歳で転職をした菅野さん。転職先としてさまざまな選択肢がある中でなぜ「東京都庁」だったのだろうか。
大学時代、歴史サークルに所属していたのですが、もともと政治、社会科全般に興味があり、比較的近い領域である「行政」についても魅力を感じていたのだと思います。また、社会人1年目の頃、「都庁においてICT職が新設される」という新聞記事を目にし、そのことはずっと頭の片隅にありました。
何よりも惹かれたのは、行政分野は、まだデジタル化による改善の余地が大きく残されている点です。そして、ITの専門知識を持つ人材が必ずしも多く在籍しているわけではありません。だからこそ、今から飛び込めば第一人者を目指せるのではないか。「デジタル化における最後のフロンティア(未開の地)」と言えるのではないか。自分のやりたいこと、将来のキャリアの方向性にも一致し、強みを生かして貢献できる。これ以上に理想的な職場はないと確信し、東京都庁への入庁を決めました。

菅野 純平|一般財団法人GovTech東京 DX協働本部 共同化グループ 運用ライン (デジタルサービス局 総務部総務課 課務担当付派遣) ※2026年8月時点都庁には大学時代の友人や先輩も働いており、人柄の良い方が非常に多い印象を持っていました。働く環境や一緒に働く人への信頼感は、転職先を選ぶ上でも非常に重要な要素でした。」と話す菅野さん。
こうして2023年に東京都庁に入庁した菅野さん。続いて、現在の仕事内容について話を聞いた。
現在は東京都庁の政策連携団体である「一般財団法人GovTech東京」の共同化グループに出向中で、「共同調達」事業に携わっています。
「共同調達」とは、都内にある62の区市町村がデジタルツール等(*)を共同で調達するものです。そうすることで調達及び契約事務にかかるコストや負担の軽減といったメリットが得られます。その中でも私が担当しているのが、共同調達への参加を希望・検討する自治体との調整、事業者との調整、そして契約に関するとりまとめ対応などです。
(*)自治体職員が業務改善やDXを推進するために活用するツール。具体例としては、「パソコン」、「AI議事録」及び職員研修等に活用できる「eラーニング」など。
ITの活用度合い、担当者のスキル・知見、抱えている課題は自治体によってさまざま。足並みを揃えることは重要でありながらも一筋縄ではいかない。そこには調整の難しさと同時に大きなやりがいがあるという。
自治体ごとに求める機能、条件は異なるのですが、それぞれの要望や課題を丁寧にヒアリングし、最大公約数を見極め、最適なツールを提供していくことが求められます。単に安価に調達するだけでなく、いかに満足度の高い共同調達を実現するか。導入後も自治体同士が知見を共有し、DXを推進できる環境を作るか。それらが私たちのミッションです。
もちろん一筋縄ではいかないのですが、デジタルツールを導入しやすい環境を整え、各自治体の困りごとに対応していく部分には大きなやりがいがあります。たとえば、抽象的な困りごとも言語化し、事業者と交渉していきます。専門用語は自治体職員が理解しやすい言葉へと翻訳していく。この「誰かと誰かの架け橋となること」こそ、ICT職として私が大切にしていることですし、仕事の醍醐味でもあります。
また、導入自治体向けに「情報交換会」を企画・運営していまして、コスト削減だけでなく、他自治体の活用事例を参考にしてもらうなど、無形の価値を提供できる点も大きなやりがいです。まさに「東京都庁」の行政力や調整力、そして技術面を支える「GovTech東京」の高い専門性が互いに噛み合い、プロジェクトに大きな推進力が生まれていく。その手応えと魅力は、ここでの仕事でしか得られないものだと思います。
また、「共同調達」事業に携わる以前、東京都総務局に在籍していた際の「仕事のやりがい」についても菅野さんはこう語る。
以前在籍していた総務局企画計理課でも、局内のさまざまな部署から相談をもらったり、困りごとを解決したり、多くの経験を積むことができました。単に依頼されたシステムを構築するのではなく、現場の業務をよく観察し、課題を整理していく。業務改善ツールの開発から導入、操作説明、そしてリリース後の定着までの一連のプロセスを担い、具体的な改善案を提案していくことができました。
たとえば、局内で「Microsoft 365 Copilot」が導入された当初、現場には「使い方がよくわからない」といった戸惑いの声もありました。一方で、マニュアル作成や勉強会にはコストと時間がかかりすぎてしまう。そこで「手軽に見られるショート動画を作ってはどうか」という上司の助言を受け、解説動画を作成し、公開しました。それがとても好評で、自らのアウトプットが組織で使われ、役に立っていく実感があり、とても嬉しかったことを今でも覚えています。その他にもさまざまな施策を通じ、「業務が楽になった」と感謝の声を直接もらう場面も少なくありません。領域や事業は変わりましたが、まさに現在携わっている「共同調達」事業でも「ユーザーに寄り添い、困りごとを解決していきたい」という自身の思いが叶っていると思います。

やりがいの一方で、知っておくべき厳しさについて「一番知っておいていただきたいのは、ICT職とシステムエンジニアは必ずしもイコールではない、ということです」と話してくれた菅野さん。「入庁前は自ら開発を担うイメージもありましたが、それよりも本質は、行政課題をデジタルでどう解決していくか。仕様書や契約書のレビューなど、いわゆる公務員としての知識を一から学ぶ必要があり、デジタル知識にも行政知識にも精通している公務員になる、という意識の方が実態に近いかもしれません。一方で、一般的に言われるような行政のルールや文化に関する戸惑いはほとんどありませんでした。民間出身者も多く、気軽に相談できる風通しの良さもあります。既存のルールや組織文化を尊重・理解したうえで、どうすればより良く改善できるか、主体的に考え、動ける人にとっては非常に働きやすい職場だと思います。」
そして、取材後半に聞いたのは「仕事を通じて実現していきたいこと」について。
日々向き合うべき課題は山積みです。まずは一つひとつの課題に向き合っていきたいです。以前いた総務局でも、今の共同調達の業務でも、毎日のようにたくさんの相談をいただきます。これだけ多くの声があるということは、それだけ「改善の余地が尽きない領域」だということ。入庁の動機にもなった「最後のフロンティア」を、自らの手で耕し、開拓していく。そのプロセスに楽しみながら向き合っていければと思います。
また、できるだけ長く都庁で働き、自分の生きた証というと大げさですが、その中で何かしら「確かな爪痕」を残していきたいですね。たとえば、以前いた総務局でも、私が構築したシステムやマクロが、今も動き続けていると思います。同じように「自分が関わった」と胸を張って言えるような爪痕を、数多く刻んでいきたいです。
そして、先輩方から過去のプロジェクトの話やエピソードを聞くのが好きなのですが、聞く側の立場から、近い将来、後輩に語り継ぐ立場になっていきたいです。テクノロジーを受け継ぎ、それをさらに良くしてバトンを渡していく。そのためにも誠実で価値のある仕事を積み重ね、実績を残していければと思います。
最後に、菅野さん自身にとっての「仕事」とは一体どういったものなのだろう。
私にとって仕事は「人生そのものを豊かにしてくれる一要素」だと思います。仕事は、人生の多くの時間を費やすもの。それであれば、心から興味を持ててやりがいを感じられることをやりたい。そして、仕事で得たエネルギーをプライベートに還元し、人生を豊かに彩っていく。そしてプライベートで得たことも、良い仕事に反映させていく。そういった循環を生みたいと思っています。
そういった意味では、仕事でも、プライベートでも「みんなを巻き込む仕組みをつくり、課題を解決していくこと」を楽しいと感じるのですが、そこに大きな違いはないのかもしれません。昔から文化祭の出し物の準備や、イベントの幹事に積極的に取り組んでいますが、何かを企て、作り上げる役割が好きだからだと思います。まさに今も、自分が旗を振り、さまざまなプロフェッショナルと共にユニークなアイデアを形にしていくことが仕事になっています。チーム全員で強みを持ち寄り、難しい課題に挑んでいく。このプロセスそのものが好きなのかもしれません。
ただ、「アイデア先行」で突っ走ると、周囲を置き去りにした自己満足に陥る危うさもあります。だからこそ、自分の方向性が独りよがりでないか確かめるブレーキとして、「人からの感謝の声」が大切です。「あなたの提案で現場が良くなりました」と言われて初めて、自分の存在意義を実感できるのだと思います。行政の仕事は、この役に立っている実感をダイレクトに得られる環境です。職員や自治体の方々、そして都民の力になっていく。そういった実感を原動力に、これからも都庁のICT職として走り続けていければと思います。

【応募を考えている方へのメッセージ】
今回の募集と私が受けた選考では概要が異なるため、参考にならない部分もあるかもしれませんが、一つの体験談として振り返ると、この転職活動は人生で最も勉強に打ち込んだ濃密な時間でした。本選考までの約3~4カ月間、平日は業務終わりに1~2時間、土日は朝から晩までカフェで机に向かって学習をしました。「自分の人生を変えるための挑戦」という強い思いがありましたし、専門知識のインプットもどこか謎解きゲームのようで面白く、短期集中で楽しみながらやり抜くことができたと感じています。後悔しないためにも、こういった準備、学習をしておくに越したことはないと思います。
また、できるだけ機会を設け、都庁で働く方々に話を聞いてみることもおすすめします。私自身、先輩や友人に話を聞き、デジタルサービス局を立ち上げて新しい施策を次々と打ち出している、都政の前向きな取り組みを知ることができました。実際に現場のリアルな様子を具体的に把握できた経験は、面接で「都庁で何をやりたいか」を論理的に語るための確かな材料になりました。何より、生き生きと働く先輩方の姿に触れる中で、「本当に都庁へ行きたい」という熱意が自然と形作られていったのを覚えています。
現場で働く職員と対話し、自分が働く姿を具体的にイメージできると、志望動機や熱意の深まり方も大きく変わってくるはずです。しっかり事前準備や情報収集をしておくことで、納得感を持って試験にも臨めると思います。最後に、この記事を読んでくださった方が、「都庁で挑戦してみたい」という思いを一歩前に進めてくださったら、一人の先輩職員としてこれ以上嬉しいことはありません。共に働くことができる日を楽しみにしております。(菅野 純平)