経済産業省(以下、経産省)が民間出身者の採用を強化している。今回は、2025年5月に同省へ入省し、現在資源エネルギー庁で働く佐々木晴基さん(取材当時28歳)にお話を伺った。前職のITベンチャーでコンサルタントや新規事業責任者などを務めていた彼は、なぜ次のステージに経産省を選んだのか。そこには、「世の中の本質的な課題解決に向き合いたい」という知的好奇心、そして「あらゆる政策の原資となる国富を稼ぐことに貢献したい」という強い思いがあった。
※画像内は転職時の年齢となります。


大学で経営マネジメントを専攻し、「はやくマネジメント経験を積みたい」との思いから新卒でITベンチャーに入社した佐々木さん。デジタルマーケティング領域のコンサルタントを経験した後、2年目からは新規事業のマネージャーに抜擢され、事業開発・組織マネジメントに携わった。そんな彼が、転職を考えるようになった背景には何があったのか。
1社目のSaaSベンチャーでは、コンサルタントとしての基礎スキルを身につけられただけでなく、新規事業の責任者として、営業からエンジニアとのプロダクト開発まで幅広い経験を積むことができました。若手のうちから裁量を持たせてもらい、1社1社の課題に深く寄り添いながら、成果創出に伴走する仕事にはやりがいを感じていました。
一方で、次第に「業界や社会全体に共通する構造的な課題」へと意識が向くようになったんです。個別企業の支援にとどまらず、より根本的な課題の解決に挑みたい。産業構造の変革や規制設計の側から社会にアプローチしてみたいと考えるようになりました。
また、将来のキャリアを見据えた際にも、ミクロな課題へ専門性を絞っていくより、向き合う課題の抽象度を高め、仕事のスケールを拡張していきたいという思いもありました。
それらが実現できる環境を模索した結果、行き着いたのが「国家公務員」という選択肢でした。そこで、経産省を含む、いくつかの省庁に応募しました。
複数の省庁を受けるなかで、最終的に「経産省」を選んだ経緯とは。
複数の省庁を検討するにあたり、自分が取り組みたい政策をいくつか洗い出していったところ、「どのような政策を推進していくとしても、その原資を創り出す経済基盤が不可欠である」という結論に至りました。
もちろん、ルールや枠組みをつくる仕事にも大きな意義があります。ただ、自分としては、まずあらゆる政策の原資となる「国富を増やす」ことに寄与したかった。日本全体の経済成長に主導的な立場で取り組めるのは、まさに「経産省」でした。そこで、前職での新規事業開発の経験を活かし、新たな技術を産業化して「国富を稼ぐ」ことに貢献できないかと考えたんです。
加えて、選考プロセスにおける対話が非常に濃密だったことも、志望度がさらに高まったポイントでした。
面接は奇をてらわないオーソドックスな形式で、志望動機や過去の意思決定の背景を深く掘り下げていくものでした。その対話を通じて、「自分は昔から根本的な課題解決を好む思考タイプなのだ」と自己理解がさらに深まる時間にもなりました。面接官との議論を通じてカルチャーフィットも強く実感でき、「行くなら経産省だ」という確信へと変わっていきました。

ベンチャーからキャリアチェンジをするにあたり「門前払いされるのではないかという不安もありましたが、どうしても経産省に入省したかったので徹底的に準備を重ねました」と佐々木さん。「まずは経産省が掲げるミッション・ビジョン・バリューズ(MVV)を深く理解し、自身の思いや経験をその文脈に沿って語れるよう意識しました。加えて、AMBIのインタビュー記事を読み込んだり、知人を介して経産省で働く民間出身者を紹介してもらい、実際のリアルな話を伺ったりもしました」
資源エネルギー庁 新エネルギー課 風力政策室について
2021年7月に設置され、日本のエネルギー政策において風力発電に関する施策を主導する部署。なかでも注力しているのが、「洋上風力発電」の産業化だ。平地面積が限られる日本において、海上に風車を設置する洋上風力は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札として大きな期待を集めている。洋上風力は産業の裾野が広く、1本の風車に1万点を超える部品が使われているとされる。さらに風車やケーブルを施工する建設事業者や、維持管理に係る電気保安事業者など、大きな雇用効果・経済波及効果も期待される。先行する欧州と比較して、いまだ黎明期にある日本での洋上風力産業立ち上げのため、同室には、18名が在籍し(2026年10月現在)、主に以下の5班体制で業務を分担している。
総括班:国会対応、省内外との調整、室全体のマネジメント
公募班:公募制度の運用
地域班:発電事業エリアにおける自治体・利害関係者等との調整
法令班:法令の制定、改正、運用
技術班:サプライチェーンや人材育成、技術開発の支援を通じた産業基盤構築
こうして2025年5月に入省した佐々木さん。「新しい技術に関われる部署で働きたい」と希望した結果、資源エネルギー庁新エネルギー課 風力政策室の技術班へと配属された。まずは、現在のミッションと、その意義について伺った。
最大のミッションは、洋上風力発電におけるサプライチェーンを構築することです。
そもそも、洋上風力のサプライチェーンは数多くの部品を組み合わせて風車を製造する風車メーカーをはじめ、そこに部品を供給する多様な部品サプライヤー、風車を支える基礎やケーブルのメーカー、洋上風力専用の特殊船舶を作る造船所など多種多様なプレイヤーによって形成されています。
残念ながら日本には10MWを超える大型風車を製造できる国内メーカーが存在せず、風車内の部品を供給するサプライチェーンの形成において大きな課題になっています。そのため、グローバルのトップメーカーとの連携なくして、サプライチェーンの構築自体が立ち行かないという状況があります。
また、1つの海域で風力発電所を建設・運営するには、数千億円から1兆円規模の投資が必要とされます。部品1つ1つも高額かつ大型で、サプライヤーが参入するには専用の設備導入が必要となり、市場自体が黎明期にある現状では民間企業単独でリスクやコストを抱え込むのは困難です。
本来、設備調達は民間企業同士の直接交渉が基本ですが、国(経産省)としても、風車を支える基礎構造物・部材などを製造する国内サプライヤーへの設備投資支援や技術開発支援などを通じ、産業基盤の立ち上げを多角的に後押ししています。
そうした仕事のなかでも、特に印象深かったプロジェクトとして、佐々木さんはある実績を挙げてくれた。
最も印象深いのは、2026年3月に、世界の大手風車メーカー、ベスタス社(デンマーク)との間で、サプライチェーンに関する協力覚書を締結したことです。国内サプライチェーン構築における大きな一歩となり、個人としても強い達成感とやりがいを実感しました。
国とグローバル企業がこのような連携枠組みを結ぶ事例は極めて稀であり、両者にとって実現したい姿をすり合わせながら、手探りで調整を重ねていきました。前例のない挑戦でしたが、最終的に双方がWin-Winとなる合意形成に漕ぎ着けることができました。
その後も、同社の北九州市における投資計画が経産省の補助金に採択されるなど、プロジェクトは着実に前進しており、大きな手応えを感じています。
正直なところ、想像以上に難題ばかりで日々タフな調整が続きます。ただ、これこそがまさに自分が挑戦したかった仕事です。サプライチェーンの構築という、洋上風力発電の最も本質的な課題に、最前線で向き合えている充実感を噛みしめています。

経産省が進めているのは、べスタス社との覚書だけにとどまらない。「経産省としては、公平・公正な市場環境を整備する立場でもあります。特定の1社のみに依存する構造は決して健全とは言えません。そのため、風車製造で世界をリードする欧米のその他の主要企業と覚書を締結し、各社の強みに応じた連携を進めています。サプライチェーン構築以外にも各国政府機関との調整なども担当しており、海外の政府機関やグローバル企業と直接交渉する、ある種、『外交官』のような側面もある、非常に刺激的な仕事だなと思います。産業全体を捉えるためには、国内の動向だけでなく、世界で何が起きているかを常にアップデートし続けなければならない。国内の主要メディアはもちろん、洋上風力の先進国であるイギリスなど海外のメディアも日常的にチェックするようになりました」
取材の終盤、今後、経産省で経験してみたいことや描いているビジョンについて伺った。
私が取り組みたいのは、新しい技術を事業化・産業化へと導き、それらを通じて、日本として国富を稼げる構造をつくることです。今後は、さらに多様な領域の先端技術にも関わっていきたいと考えています。
たとえば、洋上風力領域のなかでも、危険な潜水作業を減らすための海洋ロボットの活用といった新領域にも関心があります。また全く異なる分野でいえば、私の地元である北海道・十勝エリアは宇宙開発に力を入れている大樹町が立地するため、宇宙分野にも強く惹かれます。さらに、現在のサプライチェーン構築だけでなく、近い将来はルールメイキングなどの領域にも挑戦し、できることの幅を広げていきたいです。
そして、より中長期的なキャリアとしては、マネジメントにも挑戦したいと考えています。自身が社会に及ぼせるインパクトの範囲を広げていくためにも、組織を牽引できるポジションを目指して力を尽くしていきたいです。
最後に、佐々木さんを突き動かす「仕事の原動力」について伺った。
一番の原動力は、自分が「本質的な課題に向き合えている」という実感です。前職で培ったコンサルタントとしてのスキルを基盤に、社会のために自分の力を使えているという確かな手応えが、日々の大きなモチベーションにつながっています。
また、そうした手応えを得られているのは、挑戦を後押ししてくれる組織や周囲の環境があってこそです。室長をはじめとする方々が、「挑戦したい」という思いをくみ取り、適切にサポートしてくださるからこそ、自分の力を最大限に発揮できていると感じています。
日本の未来を支える産業を興し、国富を稼ぐ。そのミッションに向けて、これからも目の前の課題に全力で向き合い、挑戦を続けていきたいです。



