保険の比較・ロボアドバイザー『DONUTS(ドーナツ)』を開発・運営する、Sasuke Financial Lab(サスケ・ファイナンシャル・ラボ)。2018年4月、他社に先駆けてリリースし、着実に利用者を増やす。誰もが手軽に最適な保険が選べる社会を。彼らの挑戦を追った。
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99%ーーこれは生命保険における「対面販売」の割合だ。
日用品などをはじめ、株などの金融商品でもWebでの購入が一般的となる中、生命保険は特にオンライン化が進んでいない領域だと言っていい。大手やインターネット専門の保険会社が、オンライン契約が可能な生命保険の販売を進めているが、まだまだ一般的とは言えない状況だ。
こうした中、保険におけるオンライン化を前進させる、新たな選択肢として注目されるのが 『DONUTS(ドーナツ)』だ。
7つほどの質問に回答すると自動で最適な保険を提案する、保険の “ロボアドバイザー”とも言えるサービス。自宅にいながら保険の加入・見直しができる手軽さで、利用者を伸ばしている。
「保険は非常に複雑な商品です。保障の種類だったり、保険料はいくらが適切かだったり、どう選べば良いのか一般の人にはわかりづらい。それがオンライン化が進んでこない原因になってきました。私たちは誰もが時間をかけなくても、手軽に最適な保険を選べる仕組みをつくっていきたい」
こう語ってくれたのが、『ドーナツ』の開発を手がける「Sasuke Financial Lab」のデザイナー大橋貴良さん(32)だ。
「とくに今、生命保険は顧客との接点が大きく変化しています。たとえばこれまでは、保険会社や販売代理店の営業職員による対面のコンサルティングを中心に販売されてきました。ただ近年では、必要なタイミングが来れば、自ら当たり前のようにまずインターネットで検索をする。一方で、まだまだそのニーズにきちんと応えられるサービスはそれほど多くはありません。『ドーナツ』に来れば、わかりづらい保険を理解でき、最適な保険を選べる。そういった世界をつくっていきたいと考えています」
デジタルで保険を身近に、多様な選択肢が実現できる社会へ。彼らの挑戦に迫った。
DONUTS(ドーナツ)
2018年4月リリース。7つほどの質問に回答すれば、独自のアルゴリズムによって個人にカスタマイズされた保険が提案される「保険版ロボアドバイザー」。生命保険、医療保険、がん保険、最後が就業不能保険の4つの保険のカテゴリーで提供されている。提案された商品に加え、取り扱う保険商品の中から自由に加入申し込みが可能。
大橋貴良(32)
多摩美術大学大学院でグラフィックデザイン領域修了。フリーのデザイナーとして活動した後、創業時のSasuke Financial Labに入社。保険ロボアドバイザー「ドーナツ」をはじめ、進化系家計簿アプリ「ウェルスケア」のデザインなども担当する。
Web上で多数の保険を比較・検討できる「保険比較サイト」は数多く存在する。こうしたサービスと『ドーナツ』との違いは個人データに基づいたレコメンドにある。
「『ドーナツ』では、今までどんな質問と回答に基づいて保険を提案したか、他にどんな商品を見たのかなど、個人(ユーザー)に紐づいた膨大なデータが蓄積されています。こうした個人データがあるからこそ、個人個人に最適な保険が提案できる。また、利用データを元に提案アルゴリズムも改善しています」
自動で複数の保険商品を横断して提案するサービスは、日本において『ドーナツ』以外にまだ例がないという。
「『ドーナツ』のようなサービスは、保険業法上の厳しい縛りもあり、提供するためには高いハードルがある。たとえば、Web上で掲載する説明文などは一つ一つ保険会社の審査にかける必要があります。こうした審査を全てクリアしないと、商品のレコメンドはできません。ここが他社で提供が進まない部分だと捉えています」
彼らはどのようにクリアしていったのか。
「何か裏技のようなものがあるわけではないんです。時間をかけて、地道に保険会社と交渉して内容を詰めていった。その積み重ねでしかないんです」
続けて伺えたのが、『ドーナツ』の可能性について。
「日本ではおよそ8割の人が生命保険に加入しています。市場規模は40兆円を超える(損保も含めた市場規模は50兆円超)。たとえば、1%でもオンライン化が進めば、その規模は非常に大きい」
さらにこう続ける。
「もちろん、数年でオンライン化が急速に進むとは考えていません。対面でしか契約できない商品もあるし、直接専門家に相談したいというニーズもあります。だからこそ「ドーナツ』では、ファイナンシャルプランナーを紹介するサービスも備えている。まずは手軽に保険について知りたい人のオンラインの窓口になってきたいと考えています」
とくに保険業界では、営業職員によるセールスが縮小、業法改正によって金券配布による集客が禁止されるなど、旧来型のマーケティング手法からの変化が求められている。
「今後は保険に関心がある人の集客をサポートするツールとしても、『ドーナツ』のようなテクノロジーを活用したサービスがより求められていくはずです」
「保険をより身近に」。その挑戦を進める上で、彼らが重視するのがデザインによる顧客体験のアップデート。
「保険は記載しなくてはいけない文章の量が非常に多い。画像の活用はもちろん、見出しを分けて大きい文字・小さい文字に分ける、適切なフォントを使うなど、細かな工夫でいかにユーザーの心理的なハードルを下げるか。ここが重要だと考えています」
こうした彼らが意識するのがECサイトだ。
「一般的にネットで商品を選ぶ際、ECサイトは商品の個別ページや一覧のページをつくるなど、見やすさやわかりやすさを重視したつくりになっています。ただ保険は方法論が確立しているところもあり、他の業界に比べてユーザーや時代を反映したデザインになっていない傾向にある。だからこそ私たちが、保険における新しいデザインのカタチを提案し、変えていきたいと考えています」
そして最後に伺えたのが、彼らの「これから」について。
「保険はオンライン化をはじめ、新しいことがなかなか進んでこなかった業界です。だからこそ、チャレンジできる領域や可能性は大きい。スタートアップである私たちが、保険の新しい価値をつくっていきたいですね」