2020年度の国家公務員「民間人材公募プロジェクト」が始まった。中央官庁で政策の立案・実行を担う「係長級(事務)」ポジションで公募が行われる。幅広い主要12省庁での採用を予定。募集要項・試験の概要・選考時のポイントについて、内閣官房 内閣人事局 内閣参事官の鈴木毅氏に伺った。
募集対象省庁・採用予定数について
会計検査院:1名
内閣府:3名
金融庁:3名
公安調査庁:1名
外務省:1名
財務省本省:2名
文部科学省:1名
厚生労働省:3名
農林水産省:1名
経済産業省:5名
国土交通省:3名
環境省:1名
※採用予定数は、2020年7月1日現在のものであり、変動する場合もあります。
「国家公務員」にも、民間企業などでの社会経験を重視した「経験者採用試験」という中途採用があることはご存知だろうか。
2020年度は、8月3日より募集が開始される。採用のポジションは、中央省庁で政策立案、法案作成、予算編成などに携わり、国家の仕組みづくりを担当する「係長級(事務)」。いわゆる官僚・キャリアと称される国家公務員だ。
この中途採用の広報プロジェクトを管轄する内閣官房 内閣人事局 内閣参事官の鈴木毅氏は、
「国家公務員は大学・大学院卒業時のいわゆる新卒一括採用のイメージが強いと思いますが、民間企業などで社会人経験を積んだ方々を対象とする「経験者採用」も強化しています」
と、語る。
「変化の激しい今の時代、行政の役割は複雑化、多様化しています。そのような中で、私たちは多様な経験や専門的なスキルを持つ人材を求めています。こうした方々に、新しい時代の公務員として働いてもらいたいと思いますし、その機会を創出していきたいと考えています」(鈴木氏)
鈴木 毅 | 内閣官房 内閣人事局 内閣参事官
1997年、建設省(現国土交通省)に入省。道路公団民営化の法律改正、水害や土砂災害などの危険性を考慮した都市計画制度の検討などを手掛ける。現在は内閣官房 内閣人事局 内閣参事官として、国家公務員の任用・人事評価などの制度づくりに従事。
■人事院による経験者採用試験・概要について
受付期間:2020年8月3日(月)9:00~8月21日(金)受信有効
1次試験日:10月4日(日)
合格者発表日:10月28日(水)9:00
2次試験日:11月7日(土) 又は 11月8日(日)で指定する1日
最終合格者発表日:11月20日(金)9:00
※最終合格者は、希望する省庁に訪問。各省庁で面接が行われ、採用となる。
国家公務員の採用は、公開平等の競争試験によって行われることが原則であり、中途採用も基本的に試験をもとに行われる。民間企業などで培ったスキルを活かすことを目的とした「経験者採用試験」についても、毎年度、公正・公平な採用試験を人事院(※)が実施している。試験の概要と選考のポイントについて見ていこう。
(※)国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関 として、内閣所轄の下に設けられた機関
【1次試験】筆記試験・経験論文試験
まず、1次試験では、公務員としての基礎的な能力を問うマークシート式の筆記試験に加え、職務経験を通じた志望動機などを問う「経験論文試験」が実施されることがポイント。
「「経験論文試験」では、民間企業などでどのような経験をしてきたか、それをどう活かして公務の世界で活躍したいかを論文形式で存分に語っていただけるようになっています」(鈴木氏)
自分の経験や知見はどの省庁で活かせるか、どういった仕事で活躍したいと考えているかが、アピールのポイントになるはずだ。
【2次試験】人物試験・政策課題討議試験
2次試験では、人柄・対人的能力などをみるための個別面接を行う「人物試験」と、特定の政策テーマについてグループで討議を行う「政策課題討議試験」が行われる。
特に「政策課題討議試験」では、自分の意見を述べるだけではなく、他者の意見も受け止められるか、プレゼンテーション能力とコミュニケーション能力が共に試される試験となっている。
「国家公務員の仕事は、上司や同僚、地方自治体や業界、専門家など、多岐にわたる関係者と議論しながら答えを見出だしていくプロセスが多くあります。自分の考えを主張し、相手の意見も受け止め、関係者の理解を得て、課題の解決に導いていかなければなりません。政策課題討議は、そういった資質を見させていただくものですので、ぜひ民間企業などこれまでの経験で培われた能力を大いにアピールしていただきたいと思います」(鈴木氏)
さらに今年度からは、「就職氷河期世代」を対象とした中途採用の選考試験(係員級)が新たにスタートする。就職氷河期世代とは、厳しい就職環境にさらされた、30代半ばから50代半ばの年代を指す。職業経験にとらわれず、この世代の幅広い経験や能力を持つ人物を採用することを目指している。
「就職氷河期世代には、他の世代が経験してないような様々な経験をされてきた方も多いと思います。こうした経験やそこから得られた考え方を活かして、ぜひ公務で活躍してもらいたいですね」(鈴木氏)
政府として推進している「働き方改革」。国家公務員も例外ではない。
「国家公務員は夜遅くまで長時間の残業、というイメージがあるかもしれませんが、働き方はここ数年で大きく変わっています。かつてに比べれば、残業も随分少なくなってきたと思います。これまでフレックスタイムやテレワークなど、柔軟な働き方の導入も進めていましたが、新型コロナウィルス対策をきっかけに一気に普及しました」(鈴木氏)
長く働くための環境整備として、出産・育児制度の拡充も進む。
「女性職員の採用・登用を積極的に進めるとともに、育児休業を充実するなど、仕事と生活の調和に心を配っています。近年では、男性の育児に伴う休暇・休業取得も推奨しています」(鈴木氏)
今回募集される経験者採用試験では、直ちに係長級に登用となり、特定の政策分野やプロジェクトを担当。自身の裁量で政策立案・実行を担う。
スケジュールを組む、段取りを考える、提言ペーパーを作成するなど、様々な業務があるが、実力次第で自分の仕事の幅が広げられる環境がある。
「担当分野の実務に最も詳しい者として、幹部に意見を求められることも少なくありません。上意下達の組織に見えるかもしれませんが、若手も臆せず提案することが認められます。幹部職員が業界などとトップクラスの交渉をする際にも戦略を考えたりと、国の意思決定に重要な役割を担っていきます」(鈴木氏)
民間などの経験を経て、国家公務員になった中途入省者は前職経験をどのように活かし、活躍しているのか。
「例えば、外資系のコンサルティングファーム出身の方が、英語力や交渉能力を活かして、航空交渉の仕事をしたり、企業での広報の経験を活かして、官庁の政策PRに知恵を絞っている方がいらっしゃいますね。そこまではっきりとしていなくても、民間出身の方は企業がどうしたら動くかという「ツボ」をよく分かっているので、企業の海外進出支援や、共同プロジェクトなどの分野でスムーズにいい仕事をしている方もいらっしゃいます」(鈴木氏)
国家公務員として働くことは、そのキャリアの幅も魅力の一つだと言えるだろう。
「国家公務員には、海外留学のチャンスも多くあります。霞が関での政策づくりだけでなく、海外の大使館での勤務や地方機関の幹部職員など、さまざまなポストもあります。いろいろな仕事を経験しながらキャリアアップできることも、この仕事の魅力だと思います」(鈴木氏)
政策の立案と実行を担い、社会にある課題を解決していく。国の仕組みづくりを通じて、人々の生活をより良いものにしていく。そのために困難な状況の中でも知恵を出してやり遂げられるか。ここは重要な資質となる。
「どんな政策にも関わる人は多く、何かを変えることで影響を受ける人が必ず出てきます。時には反対に直面することもあります。工夫をこらしてアイデアを練り、こうした人たちの理解を得て、仕組みを作る。実際に「国として動かす」ところまで担っていきます。努力を積み重ねた先に少しずつ社会が良くなっていく実感を得られることが、この仕事の醍醐味だと思います」(鈴木氏)
自身も高速道路や安全なまちづくりに関する法案や政策づくりに携わってきた、鈴木さん。その経験を踏まえ、最後に国家公務員という仕事への「思い」について語ってくれた。
「あるべき社会や政策について、多くの方が考え、議論されています。しかしその想いを吸い上げ、実際に法律や予算の仕組みという「形」につくり上げていく実務は私たちにしかできない仕事です。だからこそ私たちには、より多くの人が幸せに暮らせる社会をつくる責任とやりがいがあります。ぜひ高い「志」を持った方々と一緒に、このような社会を目指していければと思います」(鈴木氏)