農林水産省による2024年度「総合職」募集が実施へ。公募にあたり、今回お話を伺ったのは、銀行勤務、テーマパーク運営企業を経て、2024年に入省した井上俊輔さん(輸出・国際局 輸出企画課係長 ※取材当時)。そのキャリア選択の裏側には「食」の楽しさを通じ、社会の課題解決に貢献したいという志があった――。
もともとテーマパーク運営企業で働いてきた井上さん。直近はフード部門にて顧客満足度向上のための調査・分析・マーケティングを担当してきたという。なぜ、転職を考えるようになったのか、そのきっかけから聞くことができた。
前職、テーマパーク運営企業では10年ほど勤務してきたのですが、昔から憧れの企業でもあり、毎日ゲスト(お客様)と向き合いながら仕事をできることに、大変やりがいを持って働くことができました。変わりゆく内外環境を捉えながら、消費者が体験したいと感じる仕掛けや空間づくりに努め、「誰かの笑顔に貢献できている」と実感した時の喜びは今でも鮮明に覚えています。
一方で「10年」という区切りのタイミングもあり、この先をどのように過ごしていくか、これまで積み上げてきた経験が活かせるような、全く違うフィールドに挑戦してみたい気持ちも生まれてきました。
年齢も30代半ばを過ぎ、次が最後の転職となるかもしれない。一度きりの人生、やるなら今しかないと転職を決めました。
井上俊輔/輸出・国際局 輸出企画課 総括係長
2010年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、(株)三井住友銀行に入社。法人営業担当として埼玉、茨城で中小企業や東証プライム市場上場企業、国立大学法人等、幅広い顧客層を担当。2014年に同社を退職後、(株)オリエンタルランドに入社。銀行での経験を活かし、経理部で資金繰り管理、資金運用、決済業務効率化プロジェクト等に従事した後、2017年フード本部に異動し、約6年に渡りパーク内飲食における顧客ニーズ把握や満足度向上に向けた調査・分析業務の主担当として従事。2024年1月に農林水産省輸出・国際局輸出企画課に入省。
そういった中でも、なぜ「農林水産省」を転職先に選んだのだろう。
もともと「まさか自分が国家公務員として働けるとは思ってもみなかった」というのが正直なところでした。いわゆる「国の仕事」は遠い世界の話でしたし、自分に務まるわけはないと。ただ、AMBI(アンビ)の「興味あり」をクリックしたことをきっかけにご連絡をいただき、お話を聞くなかで非常に関心が高まっていきました。
いかに国が抱える「食」の課題を解決していくか。農林水産業は、高齢化による担い手不足、経営の難しさ、給与の低さなど、さまざまな課題のある領域でもあります。特に関心を持ったのが「なぜ、農業は儲からないのか。儲かっているケースはないのか」という部分でした。調べてみると、ビジネスのノウハウによって成功している農家さんがいたり、データやテクノロジーの活用により業務効率化を進めている農家さんがいたり、とてもユニークな事例も。たとえば、どの季節に、どういった地域で、どういった野菜が売れるか、データを駆使し、消費者ニーズをキャッチできれば「売れる野菜」から逆算した効率的な生産もできるかもしれない。今まで私がやってきた「食領域のマーケティング」に近いところで解決できる課題もあるのではないかと思いました。
また、私自身、前職時代にとてもおもしろいと感じたのが「食事の満足度」は味やボリュームだけでは決まらないということ。誰と、どういったシチュエーションで食べるか。前後にどういった過ごし方をしたか、こういったところでも顧客満足度は大きく変わります。つまり「新しい体験」と共に「食」を提案することで付加価値を生むことができる。こういった前職での視点、テーマパーク運営で培ったスキルを活かし、「食」の課題解決に貢献したいと農林水産省への入省を決めました。
前職時代に得られた経験について「自分が手がけたものが、お客様にどう感じてもらえたか、フィードバックを受け取り、反応を見て、また次に活かしていく。そのようなプロセスを通じ、自分の仕事が人々の心に響く実感を得ました。」と話す井上さん。「どのような時期にどういったものが求められているのか分析し、適切なタイミングで商品を提供する。こういったマーケットインの発想はもちろん、お客様が気付いていない潜在的なニーズを探り、想像を超えた「新たな体験」として提供する、マーケットインとプロダクトアウトの間にある究極的な視点も磨かれたように思います。」
こうして2024年1月に農林水産省に入省した井上さん。現在の仕事内容とそのやりがいについて聞いた。
現在、所属している輸出企画課は、主に日本産の農林水産物・食品の輸出促進に関する総合的な政策の企画・立案を担当する課です。そのなかの総務班の一員として、各班の力を引き出しつつ、課全体の政策立案や業務が円滑に進むよう、他部署との連携や調整を図る役割を担っています。
総務班の役割としては、担当として直接案件の手を動かすこともありますが、同時に案件の全体的な管理、いわばマネジメントを担う立場でもあります。そのため、俯瞰した視点で業務に取り組むやりがいがあります。あくまでも一例ですが、昨今、国内で水揚げされたホタテの輸出において、新たなマーケット開拓をしていく取り組みがあり、ニュースで取り上げられた時はやはり嬉しかったですね。自分のチームの仕事が日本の漁業者、そして日本経済への貢献につながっていく。よりスケールの大きい事業、課題解決に組織の一員として貢献できている実感があります。
また、キャリア的な側面からすると、農林水産省に限らずですが、2~3年ほどのスパンで異動や出向があり、さまざまな経験を積むことができます。部署が変われば、携わる領域や仕事も大きく変わっていきます。現在の業務で視点を広げつつ、多様な領域で経験を積んでいける部分も官公庁で働く魅力だと思います。
やりがいの一方で、ミスマッチをしないためにも事前に知っておくといい農林水産省での仕事内容について話をしてくれた井上さん。「私が総務班にいることも関係していると思いますが、民間時代と比べ、日々触れる情報量は圧倒的に多いですね。その処理や対応にはスピードと正確性が求められると思います。わかりやすいところだと1日に100通以上のメールに目を通すことも。必ずしも全てが自分に重要な情報ではないので選別し、対応していきます。複数のタスクが同時に降りてくるなか、いかに優先順位をつけて動いていけるかは重要です。全体像を把握した上での行動など、私自身もまだまだ勉強しながら日々業務に向き合っているところです。」
そして聞けたのが、これからの仕事人生において実現していきたいことについて。
就職活動をしていた時から自分の軸としては変わっていないのですが、多様性を認め合っていくことができるような「社会の仕組みづくり」に携わっていきたいです。今はまさに多様性の時代と言われ、さまざまな人の価値観の尊重が求められています。一方で、社会の仕組みやルール、システムとしては追いついていないところも多い。国での仕事は、いわば「すべての国民がユーザー」となるもの。だからこそ、誰も取りこぼすことなく、多様な人たちが少しでも生きやすくなるよう、これからの時代にあった仕組みづくりが求められますし、そういった仕事を手掛けていきたいです。
なぜ、「多様な人が、より生きやすくなる仕組みづくり」に携わりたいと考えるようになったのか。そこには井上さん自身の体験も大きく影響しているという。
自分の人生を振り返ってみると、私自身、母子家庭で育ったのですが、あらためて社会の制度に支えられて「今」があるのだと思っています。また、学生時代には障害者施設でのボランティアを経験したのですが、さまざまな条件や環境のなかで暮らす人たちに出会うことができました。社会に出て働くなかでも、人にはそれぞれ得意・不得意があり、それらの特性を活かしながら協調して働く大切さを学ぶことができました。社会には多様な人たちがおり、中には「生きづらさ」を感じている人もいる。こういった体験から、あらゆる人たちが生きがいを感じ、生きやすい社会に近づくといいなといった思いにつながったのかもしれません。私自身もこれまで多くの人たちに支えられ、特性や可能性を引き出してもらえた。それらをまた社会へと還元し、貢献していけるような仕事をしていければと思います。