長崎県が「デジタルコーディネーター」を初公募へ。副業・兼業可の募集となり、「移住支援」「観光」「県産品PR」各領域のアップデートを担う。全国に先駆けて県内のデータ基盤構築を進める長崎県。今回の公募における背景、そして民間人材に期待することとは――。長崎県企画部 政策監(デジタル戦略担当)三上建治さんにお話を伺った。
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デジタルの力で「長崎」をアップデート
2019年、産学金官による「ながさきSociety5.0推進プラットフォーム」を始動――地域課題の明示化、デジタル活用を推進する長崎県。
そこには少子高齢化など社会課題への危機感がある。そして「長崎県」のポテンシャルを引き出し、新たな時代に向けたアップデートを図っていく。
「長崎県は2025年には老年人口のピークを迎えると予測されています。2040年には生産年齢人口が5割を切る見込み。国全体と比較しても早いペースです。労働力不足、地域コミュニティの衰退など、顕在化する課題から決して目を背けず、着実に対応していく考えです。その鍵を握るのが、データをはじめとするデジタルの活用だと捉えています」
こう語ってくれたのが、長崎県企画部 政策監(デジタル戦略担当)の三上建治さんだ。そして今回の公募で求めるのは、戦略をDX施策へと落とし込み、実行していく「デジタルコーディネーター」。初の公募となる今回、民間人材に期待すること、そして得られるキャリア、やりがいとは。三上さんに伺った。
三上建治/長崎県企画部 政策監(デジタル戦略担当)兼 産業労働部 政策監(新産業振興担当)
1971年生まれ。名古屋大学大学院 航空宇宙工学専攻(宇宙推進システム)、ボストン大学大学院修士課程(経営管理工学・MOT)修了。1996年、通商産業省(当時)入省。大臣官房、防衛省、内閣府、経済産業省・日本貿易機構(JETRO)出向などを経て、経済産業省 製造産業局にてデジタル戦略官に着任(製造産業技術戦略室長併任)。2019年より長崎県に出向(産業労働部 政策監)し、企画部 政策監(次世代情報化推進担当)を兼務。2022年4月より企画部 政策監の担当分野を(デジタル戦略担当)に改正、現在に至る。現在、家族で長崎市に在住。趣味はスポーツジムでのトレーニング、ストリート・ピアノ等
全国に先駆け、県内全21市町「データ連携基盤」構築を
はじめに伺えたのが、長崎県におけるデジタル戦略の現状について。
長崎県は、594もの島を有し、多様で豊かな自然、歴史・文化を持つ日本随一の離島県だ。こういった地理的に条件不利な環境により、高速インターネット整備、行政・民間の有するデータを集積・共有などの課題もあった。今まさにそういった課題の解決を加速させていると三上さんは語る。
「より地域に即した解決策を、民間の方々とも連携して進めたいと考えています。そのためにまずはデータを全体に共有できる基盤をつくり、解決策を持つ方が手を挙げられる仕組みづくりが必要に。ある意味でオープンイノベーションに近い思想、コミュニティ型のデジタルを活用した解決スキームを構築しているところです」
こうして県内全21市町「データ連携基盤」構築が今まさに進んでいる。県市町が一体となった連携基盤が構築され、データが集積・共有されれば、データに基づく政策立案、実行が可能となる。例えば、広域における防災情報が可視化されれば迅速な避難の支援にもつながるだろう。そして住民サービスの充実、民間における新たなビジネス展開につながる可能性もある。
「今後、IoTやセンサーをはじめ、データ流通量の拡大が見込まれています。ぜひ、「デジタルコーディネーター」の方にはデータを活用し、各部局の現場でトライアルも含め、実行、そして現場でのコーチングを担っていただければと考えています」
2022年9月には九州新幹線西九州ルート開業も控え、県内各地への様々な波及効果が期待される。その際にもデジタル活用は重要なテーマとなっていくはずだ。
「移住支援」「観光」「県産品PR」のアップデートを
今回の公募で求めるのは「デジタルコーディネーター」。具体的には「移住支援」「観光」「県産品PR」各領域のアップデートを担う人材だ。
「いずれも多くのリアルタイムデータが活用できる領域となります。うまく集積・活用し、新たなビジネス創出につなげていきたい考えです。特に民間企業におけるデータ活用、デジタルプロダクト開発、サービス開発・コンテンツ企画、ブランディング、Webマーケティングなどの知見を活かし、良いサービスに向けた提案を積極的にいただければと考えています」
【1】移住支援
長崎県では移住希望者に向けた『ながさき移住ナビ』を運営しており、同ナビを活用した移住者増を目指す。2021年度は、長崎県では年間で過去最多となる1740名の移住者を記録。2025年度、年間3200名を目標として掲げ、デジタルの側面からその一翼を担うメンバーを求めている。
「長崎に移住したいという方がまず行うのは検索ですよね。SEO対策など含めてまだまだやれることがあると考えています。そもそもサイト分析、アクセス解析なども不十分。まずはそのあたりから手掛けていただく予定です。さらにサイト全体の情報設計、オフラインでの接点につなげていく戦略立案などにも期待しています。共に考え、現場へのコーチングをお願いできればと思います」
『ながさき移住ナビ』
【2】観光
そしてもう一つの重要テーマが「観光DX」だ。様々な観光資源を持つ長崎。その資源を活かしつつ、新たな観光資源の創出を模索。新たな観光施策につなげたい考えだ。
「従来の観光資源にあぐらをかいていては、いつか他に遅れを取ってしまいます。そうならないためにも、データ活用をはじめとしたデジタルマーケティング強化を図っていく考えです。観光専用サイト『長崎観光/旅行ポータルサイト ながさき旅ネット』上のデータの活用や、民間主導で開発・実証が行われているアプリケーションのデータとの連動など、今後検討が必要となってきます。そもそもどういったデータが必要か。どんな活用が考えられか。それらを新たな施策にどうつなげていくか。このあたりを担っていただける方を求めています」
『長崎観光/旅行ポータルサイト ながさき旅ネット』
「サイト改善などはもちろん国内外から観光客を呼び込むためにSNS戦略も強化したい考えです。観光客の滞在時間、消費単価、そういった数値もしっかり見ていく。観光を通じて、長崎県の魅力に触れ、移住などにもつながるかもしれない。そういったら各領域の連携も今後生まれてくるはずです」
【3】県産品PR
そして3つ目の注力テーマが、県産品のPR・ブランディング、店頭及びオンラインでの販売強化だ。
「こちらもそれぞれの施策の効果検証が充分とはいえないのが現状です。Webサイトの企画運営、動画などを活用したPR施策など、いずれもPDCAサイクルを回せるようにしたい考えです。オフラインで行う販売会や物産展にしても、いつ、どこで行うと効果的か。ぜひ深掘りしていければと考えています。長崎県にはカステラ、ちゃんぽんをはじめ、強いブランドが多くあり、安定した収入源になっています。ですが、そこに頼るだけでは、新たなブランドは生まれません。むしろ既存ブランドに頼りすぎている部分がある。次の時代を見据え、新たなブランドをいかに創っていけるか。ここは民間企業の商品開発、マーケティングにも通じる部分だと思いますので、ぜひ知見をお借りできればと思います」
長崎県産品総合情報発信ポータルサイト
『【公式】長崎の食材 ながおし! 長崎は美味しい。自然豊かな長崎で育った食材をご紹介いたします。』
行政の変革に「民間の力」を活かす選択肢
今まさにデジタルを活用した変革を推進する長崎県。今回のタイミングで委嘱されることで得られる経験、キャリアとは。
「デジタルコーディネーターという役職も新設ですし、公募も長崎県庁として初の試みです。各分野にてグランドデザインを描くところ、仕組みをイチから作る稀有な経験が得られると思います。行政で働くことで「公益の増進」といった視点も身につけていただけるはずです」
行政で活躍するポイントについて「連携・協力を図るコミュニケーション力」をあげてくれた三上さん。「行政では何らかの事業を始めるにも、やめるにも、変革には大きなパワーがかかります。民間企業と大きく違うのは、売上が低いからやめよう、とはならないこと。長い視点での成果が追える反面、簡単にはやめられない。ここは厳しさとも言えます」だからこそ、コミュニケーション力を発揮し、周囲の職員やステークホルダーとの連携・協力しながら、変革を目指すことが求められます。正直、難易度は高い。だからこそ、実現したときの達成感や喜びは大きいものがあるはずです。また、行政組織の難しいミッションを成功させた経験は、貴重な実績になるはずです」
そして今回のデジタルコーディネーターに期待することとは――。
「私自身、行政は多くの企業と同様に「サービス業」であると考えています。人々の生活を軸にして考えるならば、行政・民間といった垣根はどんどんなくなってきています。行政サービスも、民間サービスのクオリティレベルを目指すべき。そういった意味でも、ぜひ民間での経験、視点を行政組織にインプットしていただきたい。積極的に提案をいただきたいですし、それを現状の仕組み、組織を見直すきっかけにしていければと思います」
そして最後に伺えたのが、応募を検討している方へのメッセージだ。
「当然、大きな仕事を成し遂げようと考えたら、一人で実現することは非常に困難です。だからこそ、仲間をつくることが不可欠。自分がいま何を見ているか。何を評価しているか。何を問題だと考えているか。共有することで、人が集まり、共創が生まれていく。私自身が大切にしているのも、そういった仕事の姿勢ですし、大きな仕事を実現させていくことです。ぜひ、新しく迎える方とも、そのようにして様々な行政課題の解決に挑んでいきたい。そして長崎に住む多くの県民、そして職員の笑顔を一緒につくっていければと思います」