掲載日:2025/08/28更新日:2025/08/28
安心・安全な生活、豊かで円滑な経済を支えていく――国土交通省(以下、国交省)が、2025年の総合職(課長補佐級・係長級)中途採用を実施する。今回の募集にあたり、外資EVメーカー勤務を経て、同省にて働く山道 哲也さん(都市局都市環境課 都市環境推進官)を取材した。なぜ彼は次なるキャリアとして国交省を選んだのか。そこには「“国”というフィールドで社会基盤構築と新しい市場創出に関わっていきたい」という思いがあった――。
外資EVメーカー勤務を経て、国交省へ
前職、外資EVメーカーの日本市場進出に携わっていたという山道さん。当時の仕事内容と転職のきっかけから話を聞くことができた。
もともと学生時代から「新しい市場、文化を生み出し、広めていく仕事に携わりたい」という思いがありました。新卒では大手通信企業に入社したのですが、その後、2018年に偶然出会ったのが「EV分野」でした。世界的に市場として拡大しており、まさに日本でも「これから」というタイミング。いかに世界トップクラスの製品を日本で展開していくか。そういった挑戦に惹かれ、外資EVメーカーの日本支社で働くことにしました。
世界では「EV販売台数世界一」を競うメーカーだったのですが、日本支社はまだまだ小規模。事務系職種を担う日本人も私と副社長だけという環境でした。そのため、営業戦略の立案・実行から、ホームページの立ち上げ、新車のプレスイベント開催などの広報業務まで、幅広く担当していましたね。難易度は非常に高かったですが、さまざまなパートナー企業を見つけ、市場そのものを創り出していくやりがいはとても大きかったです。特に印象に残っているのが「上野動物園の東園と西園を結ぶ連絡バス」に自社のEVバスを導入いただいたことです。じつは日本での自治体入札では初の採用であり、日本の市場にまた一段深く入ることができたという実感がありました。日本ではまだまだ存在感の無いメーカーでしたが、当時の副社長とよく「EVバス普及に向けて日系大手を突き動かすような存在になっていこう」と話をしており、そういった挑戦に意義も感じていました。
前職時代も仕事にやりがい、意義を感じていたと話す山道さん。そこからなぜ国交省への転職を決めたのか。
2020年のコロナ禍が大きなきっかけになりました。まず、市場環境が急激に悪化し、私が担当していたEVバス事業は日本展開がとても困難に。そもそもバス輸送の需要が激減。新たなバス導入を検討するなど、当時は全く考えられないような状況でした。
また、働きながら感じていたのが、民間企業1社にできることには限界があるということ。そもそも「EVバス」そのものを世の中にどう普及させていくか。最も重要且つ効果的なアプローチは法律・制度を整え、「国」として推進していくことです。市場、そして社会を大きく動かすためには「国」というフィールドで挑戦すべきではないか。また、外資系企業では、どれだけ事業を大きくできたとしても、日本に還元される利益はその一部です。そういった葛藤もあり、国交省への入省を決めました。
山道 哲也(都市局都市環境課 都市環境推進官)
2012年に大学を卒業し、大手通信企業に入社。中小企業向けの法人営業、営業企画、新規事業等を担当。その後、2018年に外資EVメーカーに転職。2021年、国土交通省に入省。入省後は航空局航空ネットワーク部航空事業課 企画調整官、交通管制部交通管制企画課 総括課長補佐を経て、2025年に都市局都市環境課 都市環境推進官に着任。新設されて1年と間もない都市環境課では、カーボンニュートラルな都市政策の推進や、まちなかの緑化の推進といった「まちづくりGX」を進めていくミッションを担う。
「羽田空港 航空機衝突事故」を踏まえた安全対策で担った重要ミッション
こうして2021年に国交省へと入省した山道さん。これまでで特に印象に残っているプロジェクトについて振り返ってくれた。
2024年1月2日、羽田空港で起きた航空機衝突事故(※1)は記憶に新しいと思うのですが、その直後の対応と、事故を踏まえた安全対策にあたった業務が非常に印象に残っています。事故発生時、まさに航空局 交通管制部 交通管制企画課(※2)に在籍しており、総括課長補佐として6班約30人のチームをまとめる役割を担っていました。
(※1)羽田空港航空機衝突事故について
2024年1月2日、羽田空港のC滑走路上で、日本航空(JAL)516便と海上保安庁所属のJA722Aが衝突し、両機は炎上。JAL機の乗員乗客379名全員が脱出・生存した一方で、海保機の乗員6名中5名が死亡し、1名が重傷を負った。国交省は事故直後から、航空の安全安心確保に向けた緊急対策や羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会の設置など、迅速に安全対策を進め、管制官の緊急増員や管制官とパイロットに対する注意喚起システムの強化などを実施。その後、2025年5月30日に「航空法等の一部を改正する法律案」が成立し、頻繁に離着陸が行われる空港で運航するパイロットを対象に、通信等のタスク管理能力の向上を目的とした「クルー・リソース・マネジメント(CRM)」訓練の義務化、空港における航空機や車両の滑走路誤進入を防止するための安全対策の強化などが盛り込まれた。
(参考)国土交通省(事故概要・安全対策)
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001750485.pdf
「航空法等の一部を改正する法律案」閣議決定 令和7年3月14日(2025年3月14日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku01_hh_000134.html
「改正航空法」可決・成立 令和7年5月30日
https://sp.m.jiji.com/article/show/3528611?free=1
(※2)航空局交通管制部 交通管制企画課について
「航空局交通管制部」は、航空交通管制に関する政策立案・運用管理・人員配置計画・施設整備計画を所掌し、全国約4,000人規模の管制関連職員の業務体制を統括する中枢組織。その中でも「交通管制企画課」は羽田空港での衝突事故を受け、危機に対する初動的な対応策の取りまとめ・公表に際し、国交省内部での連絡・調整窓口として重要な役割を果たした。特に、安全対策の構成や関係機関との調整、施策の方向性づくりに携わった中核的な部署である。
事故発生後、段階的な対策を進めていったという。具体的にはどういった対応にあたったのか、詳細について聞くことができた。
2024年1月2日、事故が起きた直後は、事態を把握・整理することに注力しました。ここで把握・整理した情報を基に局内、省内で議論を行い、1週間後となる1月9日には、緊急対策として、管制官による監視体制の強化、パイロットによる外部監視の徹底など、速やかに実施可能な対策をスピーディに策定し、大臣に発信していただきました。その後は、同様の事故を二度と起こさないようにするため、検討委員会を立ち上げ、網羅的な安全対策の検討に移りました。この委員会は2024年1月中旬に始まり、大学教授、危機管理の専門家、航空分野の研究者…と多方面の有識者から構成されており、精力的な議論を重ね、2024年6月末には中間取りまとめの公表に至りました。さらに、この取りまとめを基に省内・省外の関係者と何度も何度も議論を重ね、管制官とパイロットに対する注意喚起システムの強化等の予算や定員配置で措置できる安全対策を着実に実行してきました。このような場面では、課長補佐が前面に立って説明・調整を行う立場となります。関係者とともに、「少しでも速く安全対策を進める」という気持ちで取り組んできたことをよく覚えています。加えて、安全対策を制度化するため、法案準備室の室長として、法律案の作成から国会審議・成立まで、チームで力を合わせて取り組んできました。
こういった取り組みを経て、事故から約1年半。航空の安全を確保するため、非常に速いスピードで法律改正に至ったという。
もちろん私一人の力ではなく、多くの関係者の協力があってこそ。まさに安全対策は航空業界全体、そして国が一丸となって取り組むべきものでもあります。一連の経験を通じ、国全体の安全確保に貢献していく、そういった大きな意義を感じることができました。
2025年に「航空局 交通管制部 交通管制企画課」から「都市局 都市環境課」へ異動となった山道さん。「航空等の交通分野から都市環境等のインフラまで、多様な経験を積むことができるのも国交省ならではの特徴だと思います。」と語る。
人々の役に立つ「新しいチャレンジ」を
最後に、山道さん自身が「仕事を通じて実現していきたいこと」とは――。
入省動機と重なる部分でもありますが、どういった領域であっても能力を最大値発揮し、新しい取り組み、挑戦を続けていければと考えています。
これまで「EVを普及させたい」「空港での痛ましい事故を二度と起こさないようにしたい」これからで言えば「都市環境をより良くしていきたい」と、それぞれの思いで仕事に向き合ってきました。もちろん、その時々のタイミング、求められるフィールドで、取り組むテーマは変わるかもしれません。ただ、これまでの人生を改めて振り返ってみても常に「新しい挑戦」に惹かれてきたように思います。その結果、携わったこと、ものが世の中に広まり、多くの人々の役に立っていく。そういった「変化」に立ち会うことに意義、やりがいを見出してきました。あとは自分、会社、業界、社会、そして国…どのレイヤーで「変化」を起こしていくか。やるからには最も大きな「国」というフィールドで「変化」を起こしたい。そのような国交省でこそできる挑戦を今後もしていければと思います。