INTERVIEW
ITER 日本国内機関 特別インタビュー

南フランス移住で「ITER」に参加。彼女が、地上に「太陽」をつくる、国際プロジェクトに携わるまで

掲載日:2024/07/29NEW更新日:2024/07/29
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「地上の太陽」とも称される、究極のエネルギー源“核融合”――その未来のエネルギー活用を目指すのが、超大型国際プロジェクト「ITER(イーター)」だ。その一員として働く藤野さやかさん(HRパートナー)を取材した。職員約1200名のうち、日本人は約45名。その一人として働く藤野さん。なぜ彼女はITER参加に至ったのか。その舞台裏とプロジェクトに携わるやりがいについて伺った。

南フランス、核融合実験炉「ITER」建設が進行中
日本人職員増に向け、採用強化へ


▼核融合について
核分裂反応と異なり、高レベルの放射性廃棄物を出さず、二酸化炭素も排出しないため、安全性が高く、新たなクリーンエネルギーとして期待る技術。太陽の核融合反応を地上で再現するため、「地上の太陽」とも称されている。

▼ITERについて
・計7極・33ヶ国から約1200名が参加する国際プロジェクト(南フランス) ・人類初の核融合実用化、未来のエネルギー活用を目指す ・ITERはラテン語で「道」を意味し、「核融合実用化への道・地球のための国際協力への道」という願いが込められている ・日本のほかに欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドが参画

▼募集背景について
・日本からは現在約45名が参加、全職員の約4%に留まっている
・一方で昨年は日本人10名が新たに採用され、年間を通じて採用活動を強化へ
・将来的に核融合の知見を国内で持ち帰るためにも多くの日本人職員の参加を目指す
・その先には「国内での核融合エネルギー実用化」という目標がある

▼募集職種について
・エンジニアからアドミニストレーションまで、幅広いポジションを募集
・新卒可の職種もあり、若手のポテンシャル層も対象

▼選考支援・サポートについて
・日本国内機関が応募書類添削や面接トレーニングを提供
・英語の応募書類添削、面接対策サポート
・現地支援デスクによるフランス生活支援も充実

もう一度、海外へ。壮大な国際プロジェクトに惹かれて

2020年まで、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)駐日事務所にて、人事労務・経理・総務などを担う職員として勤務していた藤野さん。仕事内容やキャリアにも大きな不満は無かったというが、なぜ、ITERへの参加に至ったのか。まずはその経緯から伺えた。

仕事は非常に楽しく、充実もしていたのですが、「もう一度、海外に出て、さまざまな経験をしてみたい」という思いがありました。過去には、別機関ではあるのですが、パラオや、バンクーバーなどで働いてきた経験もあったので、次のキャリアを考えていたんですよね。そういったタイミングで知ったのが、ITERの募集でした。

じつはそれまで全く知らない分野、プロジェクトだったのですが、非常にスケールが大きく、社会貢献度が高いと知ることができました。各国からプロフェッショナルが集い、叡智を結集して「人類初」に挑むということそのものが素晴らしいですし、何よりもかっこいいですよね。事務系のバックグラウンドが活かせるポジションもあり「文系の私にもチャンスがあるかもしれない」「もしかしたら私も地球全体の未来に何か少しでも貢献できるかもしれない」と、応募に至りました。

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「日本とは全く違う文化の中で生活したり、大変な目にあったり、やはり海外に住むことで得られる学びも多いですよね。もともとヨーロッパにはあまり興味がなかったのですが、自然災害が少なく、温暖な気候の南仏のイメージにも惹かれました。」と藤野さん。

国内機関が、選考をサポート。日本の代表として背負う期待

こうしてITERへの国内プレエントリーを経て、本エントリーへと進んだ藤野さん。その期間内の準備・プロセスについても伺うことができた。

私が選考を受けた当時の話(2019年~2020年)にはなりますが、プレエントリーから本エントリーまで約1年の期間がありました。その期間内に現地で働く日本人職員が説明会を開いてくださったり、現地で働く人事労務職員の方ともリモートでお話しをさせてもらったり。プロジェクト概要はもちろん、現地での生活などについてもお話いただき、イメージを掴むことができました。また、これまでエネルギー分野には関わってこなかったこともあり、どのお話もすごく新鮮に感じましたね。

また、国内機関のみなさんが手厚くサポートくださったことも強く印象に残っています。たとえば、職務経歴書の添削であったり、面接の練習であったり、熱心に何度もやり取りをいただくことができました。まだまだ日本人のITER職員が圧倒的に少ないなか、「何としても日本から送り出していこう」という強い思いも感じましたし、そういった期待に応えられるよう、真剣に取り組んでいきました。その後、計算系のテスト、面接、リファレンスチェックなど本選考を経て、2020年10月よりITERの職員として働けることになりました。

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ITER職員を支えるHRパートナーとしての役割

こうして2020年10月よりITERの職員として働いている藤野さん。現在どういった業務を担っているのか。やりがいと共に伺った。

HRパートナーというポジションで働いており、約1200名いる職員全員の給与・手当などの計算や処理、労務管理関連の管理・手続きなどを3名のチームで担っています。たとえば、赴任時の銀行・住所情報など登録から、ライフイベント時の必要書類・証明書手続き、契約更新の情報アップデート、退職時の手配や手続きまで、常に寄り添っていく役割と言えます。

やりがいは、職員のみなさんが安心して業務に臨める、その日々が積み上がり、プロジェクトが着実に前に進んでいくことに尽きるのかなと思っています。人事労務関連のサポートは滞りなく行なわれて当然。むしろドラマチックな出来事は無いほうがいいわけです。私たちの存在など全く意識することなく、職員のみなさんが集中して自分たちのミッションに向き合ってもらえること自体が喜びです。

時には契約終了というセンシティブな手続きも担当します。そのような時にはできる限りの時間をかけて説明したり、言葉の選び方に配慮したり、出来る限りのコミュニケーションを取った結果、「ITERには感謝している。最後にいい印象で去ることができるよ。」といった言葉をいただいた時などは胸がいっぱいになりますね。ただ、やはりそういった瞬間のために仕事をしているわけではないのかなと個人的には思っています。あくまでも職員のみなさんが何の問題もなく日々業務に向き合えるように支えていく。それ自体がやりがいになっているように思います。

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特に国際プロジェクトという特殊な環境でもあるITER。職員に求められる資質・能力とは。

自分の価値観や考え方を当たり前だと思わないこと、多様な価値観や考え方を受け止めつつ、その上で業務を遂行していく力が求められるのかなと思います。

たとえば、出生証明書一つとっても国によって言語がバラバラなわけですよね。できれば、私としては国際機関なのだから共通言語である英語に翻訳したもので提出してほしい。ですが「あくまで国際機関なのだから、あらゆる国の言語で受け入れられるべき」という主張もあるわけです。それを聞いた時に「なるほど、そういった考え方もあるのか」と妙に納得したんですよね。もちろん、私のように「英語であるべき」と考える人もいる。一つひとつの「違い」があることを前提に、どう寄りそっていけるか。「ルールに則ってリクエストを却下します」と機械的に回答することは簡単ですが、それだけでは上手くいかないもの。「残念ながら今回は難しいです」「その問題についてはこの部署に連絡してみたら良いアドバイスもらえるかもしれませんよ」などフォローアップしていくような提案も時には大切です。さらに誤解がないように正しく伝え、入力や申請を正確に行っていかなければなりません。そういった柔軟性、対応力、伝える力、もっと言えば「人間力」のようなものもすごく大切になるのかなと思っています。

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「核融合エネルギーが実現すれば、地球規模のエネルギー問題の解決にもつながる可能性もあります。それはきっと国際平和にもつながっていくもの。ですので“新しい角度からの国際平和に対する貢献のアプローチ”としてもぜひITERのことをたくさんの人に知ってもらいたいなと思います。」

未来の誰かの幸せにつながると信じ、できることをやっていきたい

続いて伺えたのが、今後の目標について。

日々施設が建設されている「ワークサイト」を見ながら業務に取り組んでいるのですが、当然、すぐに何かが劇的な変化があったり、生まれたりするわけではありません。そういったなか、私は私の業務に100%集中し、職員のみなさんがメインミッションに集中できる環境を提供し続けていければと考えています。それがプロジェクトへの貢献だと信じていますし、いつの日か巡り巡って成果につながっていけばいいなと思います。将来的には実用化が目標であり、当然、その頃にはプロジェクトに私は関わっていないでしょう。ただ、それでも、今の子どもたちの世代が大人になる頃に実現していれば、素晴らしいこと。未来の誰かの幸せにつながると信じ、私にできることで最大限貢献していきたいと思います。

最後に伺えたのは、彼女自身の仕事と向き合う姿勢について。そこにはこれまで支えてくれた人たちへの感謝と、期待に応えていきたい思いがあるという――。

今の私がここまで来ることができたのは、本当に多くの方々のおかげ。過去に出会った方々が本当にみなさんいい人たちで感謝していますし、本当に運が良かったなと思っています。前職の上司をはじめ、私を育ててくれたり、期待をしてくれたり。そういった人たちの身近で働き、多くを学べたのは、掛け替えのない経験ですし、財産になっています。もちろん国内機関のみなさんにも支えていただき、感謝をしてもしきれないですね。そういった多くのみなさんの思い、期待を背負って今ここにいると思っています。これまでいただいたご恩を返していく意味でも、恥ずかしくない仕事をしていきたい。胸を張って「がんばっている」と言えるよう、もっと成長し、これからも仕事に向き合っていきたいと思います。

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