INTERVIEW
農林水産省|2025年度「総合職」募集

なぜ、弁護士から「農林水産省」職員に? 制度・仕組み面から問題に向き合っていくためのキャリア選択

掲載日:2025/08/22更新日:2025/08/22

農林水産省(以下、農水省)による2025年度「総合職」募集にあたり、農林水産省輸出・国際局 海外需要開拓グループ 課長補佐として働く三原 利教さんを取材した。前職、弁護士という異色の経歴を持つ三原さん。なぜ、農水省に入省したのか。そこには「個別事案だけではなく、より大きな視点から問題に向き合う仕事がしたい」という思いがあった――。

制度・仕組みから問題に向き合うために。弁護士を経て選んだ道

約11年間、弁護士としてのキャリアを着実に築いてきた三原さん。転職を考えたきっかけ、そして農水省への入省理由から話を聞くことができた。

弁護士時代は民事、刑事に関わらず、幅広い案件を担当していました。いずれも「目の前にある問題」の解決に取り組む仕事ですし、結果が見えやすく、特に個人を当事者とする案件では「争い」の過程、結果がその人の人生に大きく影響することもあり、 非常にやりがいのある仕事でした。また、経験を積むほど成長が実感でき、そういった面での面白さも感じていました。

一方で、弁護士は基本的に「個別案件」にしか携わることができません。そこに、もどかしさを感じることもありました。例えば、離婚調停・裁判など「親権を巡る争い」が長期化するケースがあるのですが、その間にも子どもはどんどん成長していくわけですよね。類似の案件を何件担当しても、当然ですが別個の案件なので、一つ一つの案件に長い時間がかかり、その「時間」は取り戻すことができません。既に生じている案件の解決に向けた活動も大切ですが、個別案件を離れ、一般的な手続面の課題に向き合おうと思うと、より大きな視点、制度・仕組みから変えていく方がいいのではないか。そういった視点もあり、「国」での仕事に興味を持ちました。

また、弁護士登録から間もない2011年に起きた東日本大震災・原発事故が、一次産業に興味を持つきっかけになりました。もともとは「誰もが初めて経験する未曾有の大事故について、ベテラン弁護士と同じ視点で、さまざまな事柄に携わる機会になるかもしれない」くらいの考えで、弁護士会の災害対策に関する委員会に参加したのですが、被災地支援の活動を通じ、さまざまな経験ができました。例えば、被災者の方々、自治体の方々、現地で支援を行なうNPOの方々と意見交換をしたり、復興状況を確認したり。被災者の方からの「どうか私たちのことを忘れないでいてほしい」という言葉が胸に残り、毎年2~3回は現地を訪問するようになりました。さらに弁護士との兼業、文部科学省の非常勤職員として、東京電力と被災者間の損害賠償に関する和解仲介の支援に携わっていた期間もあります。農業、漁業に従事していたものの、職を失ってしまった方のお話を聞く機会も多く、改めて農林水産業の重要性を強く意識するようになりました。

こういった経験を経て「より大きな問題に取り組む上で、制度、仕組みから向き合っていく」という視点が生まれ、農水省への入省を決めました。じつは入省前の面談で、たまたま被災地にも足を運ばれたことのある農水省職員の方とお話しする機会があり、「三原さんのこれまでの活動に敬意を表したいです」と言っていただけたことはとても印象に残っています。面談を通じても感じたことでもあるのですが、振り返ってみると「より大きな視点、政策などを通じて人の役立っていくこと」は、もともと興味のある領域だったのかもしれません。

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三原 利教(農林水産省輸出・国際局 海外需要開拓グループ 課長補佐 )
一橋大学法学部卒業、北海道大学法科大学院修了。司法修習終了後、2010年弁護士登録。東京都内の法律事務所で民事事件・刑事事件の交渉・訴訟対応を扱いながら、東日本大震災等の災害復興支援活動に参加し、非常勤公務員として原発事故避難者等と電力会社との間の和解仲介手続にも関与。2021年12月農林水産省入省。水産庁において新制度の施行準備等を担当した後、環境省に出向。2025年4月から現職。

世の中に「影響」を及ぼす責任とやりがい

こうして2021年12月に農水省に入省をした三原さん。水産庁での勤務、環境省への出向を経て、現在は輸出・国際局 海外需要開拓グループに所属する。その仕事内容とは――。

まず前提として日本では人口が減少しており、いわゆる「日本人の胃袋」が減っている現状があります。生産者がせっかく作っても食べてくれる人がいない。そこで、日本の農作物、水産物の輸出が重要テーマとなっています。併せてインバウンド観光で訪れた外国人旅行者に食関連の消費拡大を促していくことができないか。そういった取組に現在は携わっています。まだまだ始まったばかりの取組ですので、議論を深めているところではあるのですが、例えば、観光とセットで「日本の食文化」をアピールしていくなども考えられます。輸出の重点品目でもある「お茶」などがわかりやすいかもしれませんが、観光で生産地を訪れ、「お茶摘み体験」を提供する。実際に飲んでもらい、お土産にも持ち帰ってもらう。そうすることで海外での個人消費につながるかもしれない。もちろん「お茶」だけではなく、さまざまな品目で同じような体験を提供し、輸出増加、生産者への還元という好循環を目指していく。あくまでも一例ですが、こういった施策をさまざまな省庁とも連携しながら検討していけると良いと考えています。

そういった仕事を通じて感じる「仕事のやりがい」について三原さんはこう話す。

入省動機でもありますが、まさに「制度・仕組みづくり」に関わることができます。ここが一番のやりがいですし、面白さを感じる部分です。例えば、入省まもなく水産庁に配属され、違法漁獲物の流通防止を目的とした新制度の準備段階に携わりました。私自身は法律制定後の省令、告示をつくる作業、水産業者のみなさまへの周知活動に携わりました。さらに環境省への出向も経験し、廃棄物処理関連の法令における改正にも関わることができました。

現在は事業者への「支援」を中心とした業務に携わっていますが、特に環境省での仕事は「規制」を中心としたもの。「支援」と「規制」、それぞれ異なるベクトルの仕事を経験できることは非常に面白いですね。いかに両方の視点のバランスが重要か、そういった知見も得られていると思います。いずれにしても、制度・仕組みは良くも悪くも世の中全体に大きく影響を及ぼします。だからこそ、どれだけ現場のニーズを拾えるか、正しいデータや根拠をもとに検討ができるか。それらを重視しながら、影響や責任の大きな仕事に携わることができる。そういったところは農水省で働く大きな醍醐味だと思います。

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一次産業の安定に貢献し、人の役に立つ仕事を

そして、三原さんが「仕事を通じて実現していきたいこと」とは――。

もともと性格的に、自分を含め「特定の人だけが得をする」という状況があまり好きではないんですよね。幼い頃も、何にせよルールを破ったり、自分だけ得しようとする子がいたりすると許せない気持ちのほうが大きかったような気がします(笑)。そういった性格が影響しているのかもしれませんが、月並みではあるものの、できるだけフェアに、さまざまな人の役に立っていきたい気持ちがあるのかもしれません。ですので、その実感が持てるような仕事をこれからも続けていきたいです。もちろん「人の役に立つ」には、さまざまな方法があります。現在の立場でいえば、改めて制度・仕組みを通じ、それを実現していくということが大切だと思っています。特に農水省は、一次産業で大きな割合を占める「食」という人間の根源、生活の基盤を担う省でもあります。同時に、気候の影響などで生産量が思った通りにならない、価格が安定しないなど難しい側面もあります。だからこそ一次産業が安定することの重要性を強く感じていますし、そこに貢献ができるよう、これからも真摯に仕事と向き合っていければと思います。

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