2023年度、農林水産省における中途採用・公募にあたり、民間からの中途入省者の特別インタビューをお届けする。今回取材したのは、航空会社でのカウンター勤務を経て、2022年10月に「農林水産省 輸出・国際局国際地域課」に入省した廣川結花さん。なぜ、航空業界から農林水産省を選んだのか。そこでこそ得ることができている経験とは――。
農林水産省「輸出・国際局」について
農林水産省における「輸出・国際局」は、2021年7月に新設された局。7つの課で構成され、農林水産物・食品の輸出促進や農林水産省の国際関係の舵取り役・実行を担う役割を持っている。政府は2030年、農林水産物・食品の輸出額を2020年比3倍超となる5兆円への引き上げを目標に掲げており、その上で重要なのが、生産段階から物流、通関手続き、ロジスティクスなど輸出課題の解決。さらに各国との信頼関係を構築すること。そのため輸出・国際局では、輸出促進の施策とともに、国際関係(EPA、WTO、APECなど)にも関与。ODAや二国間関係の強化も中長期的なミッションと掲げている。特にいまウクライナ情勢を経て、農林水産物・食品の価格が高騰し、「食料安全保障」にも注目が集まるなか、食料の安定供給や国際貿易の円滑化など、輸出・国際局に求められる役割は拡大している。
もともと航空会社のカウンター業務、関連企業でのコールセンター・SV(スーパーバイザー)などの経験を積んできたという廣川さん。なぜ、彼女は次なるキャリアに「農林水産省」を選んだのか。その理由から伺うことができた。
30代に差し掛かるなか、「新たなキャリアにチャレンジしたい」という思いがあり、転職を考えるようになったのですが、その時に見つけたのが農林水産省 輸出・国際局での募集でした。特に惹かれたのが、“輸出・国際関連の業務に携われる”といった部分です。もともと前職時代、発券カウンターなどで外国人観光客の方と接点を持ったり、インドに短期出向したり、海外の方と関わる機会もあり、何かしら国際関係の仕事で働きたいといった考えがありました。また、個人的にさまざまな地域の美味しいものを食べることも好き。「食」に対する関心もありましたし、何よりもそういった関心のある領域で、社会に貢献していく仕事ができる。そう考え、農林水産省を志望し、入省を決めました。
「キャリアの可能性を広げたい、長い視点でも活躍し続けられるような経験を積みたいと考え、転職を決めました」こう語ってくれた廣川さん。「前職時代、コロナ禍によって職場環境、仕事内容も変わるなか、仕事に対する考え方にも変化がありました。30代に差し掛かるなか、カウンターでの接客業務、SV(スーパーバイザー)といった仕事以外の選択肢、可能性をもっと広げたいと考えました」
そして2022年10月、農林水産省に入省し、輸出・国際局国際地域課に配属された廣川さん。彼女が現在担っている役割、仕事内容について伺った。
私自身の仕事内容でいうと「輸出支援プラットフォーム」に関わる、事務関連業務をメインに担当しています。
(※)輸出支援プラットフォームについて
日本産農林水産物・食品の有望な輸出先国・地域に人材を派遣し、現地から輸出事業者を支援する取り組み。在外公館、JETRO海外事務所、JFOODO海外駐在員を主な構成員として、現地事業者との連携強化や新たな商流の開拓などを行なっている。
具体的には、委託先にて予算が正しく執行されているか、確認・照合作業や、来年度の予算要求のための資料づくり、契約書の確認や契約締結のための準備手続きなどを担当しています。特に輸出・国際局は2021年7月に設立されたばかりの新しい局でもあり、前例があまりないなか、業務を通じて学びつつ、日々の仕事に向き合っています。
仕事のやり甲斐でいうと、関わる仕事のスケールの大きさに尽きると思います。例えば、これは「輸出支援プラットフォーム」に関わる仕事ではありませんが、2023年4月に開催されたG7広島サミット、関係閣僚会合の一つ「農業大臣会合」に関わる業務にも携わることができました。現地入りし、海外の農業大臣を会合や視察などに案内する「リエゾン」の役割を果たしました。テレビやネットで報じられた当日の映像を見ると「私もこの中にいたんだ」という実感がありました。これは省庁で働いているからこそできる経験だと思います。
前職経験が活きていると感じる場面について「さまざまな立場、考えの人と円滑にコミュニケーションを図り、仕事を進めていくといった部分は共通しますし、活きていると感じています」と語ってくれた廣川さん(写真中央)。「さまざまなステークホルダーがいるなかで、どのように伝えれば、気持ちよく相手に動いていただけるか。もちろんスムーズにいくことばかりではありませんが、このあたりは現職でも気をつけている部分です」
農林水産省に入省し、得られている経験も大きいと彼女が語る。
農林水産省で働くようになり、大きく変化したのは、自分の住む世界が広がったという感覚があること。先ほどお話したG7など、世界的な会合にまさか自分が関わるとは、前職時代は夢にも思いませんでした。また、国がどのように動いているか、どのようにして予算が組まれているのか、そういった流れを知ることができ、日々勉強になっています。今まで知らなかった世界に触れ、人に出会うことで、視野が広がったと感じます。こうして日々自分の成長を実感できるのは、喜びや楽しさがあります。また、省庁ではジョブローテーションもあり、2、3年でポジションが変わることが一般的。多様な経験をしながら、キャリアを築いていけるのも、省庁ならではの特徴かもしれません。
続いて伺えたのが、民間企業出身ならではの視点から感じる前職との違いについて。そこには気をつけるべきポイントもあるという。
公務員と聞くと定型業務を着々とこなすイメージ、業務量も少ない印象を持つ方がいるかもしれませんが、少なくとも私が現在担当している業務では、そこには多少のギャップがあるかもしれません。まだ新しい局ということもありますが、一人あたりが担当している業務量でいえば、前職よりも確実に多いです(笑)また、一人一人が異なる業務を担当しているため、自分の仕事は、自分で責任を持って完結することも大切。裁量の大きさとともに、責任とプレッシャーが伴う仕事だと感じています。
今後、農林水産省で挑戦してみたいことについて「輸出に関わる事業者の方々や農水省として関りのある農家の方々をはじめとする現場の方々のお話を直接伺い、その課題を解決していけるような仕事に挑戦してみたいです」と語ってくれた廣川さん。「ゆくゆくは、日本の食の素晴らしさを、世界に伝えていく貢献ができればと考えています。幼い頃、海外に住んでいた経験があり、行ったお店が良くなかっただけかもしれませんが、現地の日本食はあまり美味しく感じられなくて。おいしい日本食を日本のクオリティのまま届け、多くの海外の方に知っていただきたい。」
そして取材の最後には、彼女自身の仕事観についても伺うことができた。彼女にとって「仕事」とはどのようなものだろう。
仕事は、人生の多くの時間で関わるもの。だからこそ、多少なりとも、自分が関心を持てること、好きなことに携わっていくことは大切だと考えています。そしてその「好きなこと」で誰かに貢献ができれば、より幸せだと思います。やはり自分のためだけに仕事を頑張り続けていくのは難しいこと。「人のためになっている」と感じられることで、仕事のモチベーションにもつながっていくように思います。
まだまだ「国民皆様のために」といえるほど、私自身はスキルも経験もありませんが、少なくとも一緒に働く周りの人たちにより良い価値を与えられる仕事をしていきたい。少しずつその価値を広げながら、国家公務員として世の中に良いインパクトを届けていく貢献ができればと思います。