INTERVIEW
WWFジャパン

仕事にも、持続可能性を――ビジネスの最前線を経て、環境保全NGO『WWF』で働く彼女の選択

掲載日:2024/02/16更新日:2024/02/16
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100カ国以上、地球規模の環境保全に対して幅広いアプローチを行う国際NGO『WWF』。その日本拠点「WWFジャパン」にてコーポレートパートナーシップ担当として働く齋藤紗代子さんを取材した。新卒で総合広告会社に入社し、ITプラットフォーム企業、農業ベンチャー企業勤務を経て、2020年にWWFジャパンの一員に。そのキャリア選択の裏側にあった思いとは――。

▼ WWF(WorldWideFundforNature/世界自然保護基金)について
1961年にスイスで設立された世界最大規模の環境保全NGO。もともと絶滅のおそれのある野生生物の保護活動からスタートし、現在は、急激に失われつつある「生物多様性の豊かさの回復」「地球温暖化防止のための脱炭素社会の実現」の二大目標に向けた、希少な野生生物の保全、持続可能な生産と消費の促進など、多様な環境問題へのアプローチを行う。人と自然が調和して生きられる未来をめざし、100カ国以上で活動。サステナブルな社会の実現を推し進めており、その活動は世界500万人以上の支援(寄付、会費など)によって支えられている。

自分の価値を見失わず、健全に働き続けていくために

まずはWWFジャパン入局の決め手から伺ってもよろしいでしょうか。

WWFであれば自分の価値を見失わず、心身ともに健全に働き続けられると感じ、入局を決めました。それまでの仕事ももちろん充実していましたし、さまざまな産業のビジネスに触れ、とても刺激的な日々を過ごしてきたと思っています。ただ、子どもが生まれ、ライフステージが変化していくなかで、働き方としても、マインドとしても「持続性のある仕事がしたい」と考えるようになりました。子どもにも「お母さんはこういう仕事をしているよ」と胸を張って話がしたい。自信を持って推進できるものに力を注ぎたい。そういった時に出会ったのが、WWFジャパンの募集でした。

さまざまなNGOや機関がありますが、その中でも、特にWWFジャパンに惹かれた部分があれば教えてください。

「WWFの環境問題に対するアプローチ」に一番惹かれたように思います。WWFでは、人と自然の調和を目指し、科学的知見に基づいて、世界中のさまざまなステークホルダーと協力しながら大きなインパクトにつなげるように活動しています。どうしてもメディアやSNSで注目を集めるのは、センセーショナルな環境保全活動や抗議活動だったりもして。そういった印象から、どこか環境保全団体は「自分とは遠い世界の話」という気持ちがあったというのが正直なところでした。ただ、WWFジャパンの選考を通じ、環境保全活動の理解を深めていくなかで「こんなロジカルなアプローチがあったのか」という驚きがありました。また、もともと個人的にも「食」や「農業」に関心があったのですが、水田や河川など生物多様性の高い「人の生活の隣にある自然」にもWWFとしてアプローチしていることを知り、より身近に感じられたのも大きな魅力に映りました。

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新卒で総合広告会社に入り、11年間アカウントエグゼクティブ職を経験。その後、ITプラットフォーム企業(マーケター職)、農業系ベンチャー企業(広報職)を経験後、2020年にWWFジャパンに入局した齋藤さん。「WWFジャパンには多様なバックグラウンドを持つ人たちが在籍しています。なので、業界や職種経験に関わらず、ぜひご関心持った方に応募いただきたいですね。また、環境保全というテーマを扱うので、自然環境への熱い想いがある方は大歓迎です。国際会議・学会での決議や政治的発表など、情報は常にアップデートされます。日々勉強が求められますが、そうしたことを楽しめる方は早期に活躍いただけると思います。」

コーポレートパートナーシップの役割

続いて、WWFジャパンでの仕事内容について伺ってもよろしいでしょうか。

職種としては「コーポレートパートナーシップ担当」になるのですが、わかりやすくお伝えすると「さまざまな企業からWWFに資金支援/協力をいただく役割」となります。現在、約50社を担当し、日々コミュニケーションを取り、ご提案や事務手続きなどの対応をしています。

民間企業における「営業」に近い役割でしょうか。

「企業との窓口になる」という意味では似ているかもしれません。ただ、根本的な考え方や存在意義は大きく異なるようにも思います。WWFの環境保全のアプローチには「企業のビジネスが与える環境負荷」をウォッチし、その低減を促すことも含まれます。企業への改善の働きかけを行う立場上、その客観性や中立性を保たねばなりません。ですので、支援をいただく企業側の事業特性や方針によっては、せっかくの申し出もお受けできないことがあります。

支援にはハードルがあるからこそ「社会的信頼の証」になると。

そうです。例えば、「ある会社が、自社製品の原材料調達が森林破壊を引き起こしていることには何ら手を打たず、WWFへの寄付をもって環境貢献をPRする」ということがもし起きてしまえば、それは社会からグリーンウォッシュ(※)と捉えられ、その企業およびWWF双方の信頼が損なわれるリスクがあります。そのため、事前の入念な確認を通じてご寄付の受け入れ可否を判断することは、WWFが首尾一貫して活動しつづけられるよう、信頼を守るために非常に重要なことと考えています。そのようなプロセスを経ての寄付という行為に、価値を感じていただけていると嬉しいです。ただ、当然、WWFの活動のためには支援が不可欠です。コーポレートパートナーシップ担当は、常時複数の企業との対話を繰り返し、ご支援の成立までに長い時間をかけています。

(※)グリーンウォッシュ…環境への配慮が行き届いているかのような見せ方をしながら、実際にはそうでない企業等の活動

もし、寄付できる基準に満たなかった企業の場合、どのような対応をしていくのでしょうか。

すぐにはご寄付をお受けできないという判断になった場合でも、お返事をする際にはWWFの観点から、このような条件を満たしていただきたいというご提示をします。それは世界のビジネス潮流や、同業界内でのスタンダードを鑑みて、企業価値を高めるためにはこのような行動をされてはいかがか、といったご提案でもあります。具体的には、信頼に足る第三者認証を取得されることや、調達方針を作成・公開されることなどをお勧めしています。必要な場合はWWFの専門家を交えて、継続的に情報提供などのサポートをさせていただくこともあります。

まずは自社の事業面で、環境への負の影響を最大限減らしていただくことが最優先です。その取り組みの道筋をつけたうえで、自社ではカバーできないこと、例えば森林再生や、野生生物の頭数回復といった、WWFの保全プロジェクトなどに、資金支援を託していたただきたい、というのが私共の期待です。産業のもたらすインパクトというのはやはり非常に大きいですから、真摯に取り組みを進められて、かつ我々の後押しもしてくださる企業の皆さまは大切なパートナーです。

そのように、真にサステナブルとは何かを押さえられている企業・商品が、金融機関・投資家からはもちろん、消費者、従業員からも選ばれる時代になってきています。この流れはWWFにとって追い風です。同じ志のもと、ご一緒できる企業も増えており、今後もさらに増やしたい考えです。

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「企業側のカウンターパートとしては、呼称は様々ですが「サステナビリティ推進部」様などが多いです。従来型のCSRやその広報といった一面だけでなく、調達や事業により近い立ち位置で、会社全体のサステナビリティを俯瞰する役割を担われているのだと思います。」と齋藤さん。「企業の方がWWFに関心を持ってくださる目的としては、事業面での改善相談、NGOの客観性に基づく各種評価のご希望、講演や社内勉強会のご希望、寄付を通じた税控除、CSRレポートでの報告、お客様への説明責任・PR効果への期待など様々。それらのご要望をヒアリングしながら、どうしたらWWFのご支援社になっていただけるかを考えて関係構築していきます。」

国境を超え、環境保全の「成果」を喜び合えるやりがい

仕事のなかで感じる「やりがい」があれば教えてください。

WWFは世界100以上の国で活動している、ネットワークです。WWFジャパンが関わる保全プロジェクトの多くも、その現場は海外にあり、現地のWWFスタッフ、協力NGOなどのスタッフ、地域住民や地主さんなど多くの関係者が存在します。コーポレートパートナーシップ担当としては、直接個々の保全プロジェクトに関与しているわけではありませんが、プロジェクト支援を企業から募ること、また支援企業への定期的な進捗報告を通じて、後押しができればと思っています。プロジェクトに進捗があり、成果が出たときなどは、世界の同僚たちと、また支援企業の皆さまとも、皆でともに喜び合えるのが大変嬉しいことだと感じます。

最近では、海外の現場を保全プロジェクト担当とともに視察できる機会も増えています。昨年は、南米の大西洋沿岸に位置する「アトランティックフォレスト」の森林再生現場を訪れました。大航海時代から続く開発の歴史を経て元の姿の12%ほどまで減ってしまった森を、今は官民一体となって再生すべく、強く推し進めている地域です。熱意を持って仕事にあたっているWWFブラジルのスタッフからは非常に刺激を受けました。また、WWFや現地NPOの支援を受けて、自分の農園の土壌が改善して満足している農園主さんやそのご家族などとお会いし、生の声に触れたことも感動的でした。

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入局前に知っておいた方がいい厳しさについて「少数精鋭で多くのプロジェクトを走らせていること」を挙げてくれた齋藤さん。「個々人の裁量が大きいのが特徴。裏を返せば案件や業務が属人化しやすい傾向もあると思います。大企業のようにマニュアルが整備されていたり、OJTや研修が充実していたりするといったこともありません。なので、どんどん周りに聞きにいくスタンスは大切。自立性やコミュニケーション力が求められる場面は多いと思います。ただ、聞けば何でも教えてくれるやさしい職員ばかりで各分野のプロフェッショナルが揃っています。なので、自分の動き方によって、仕事の理解度と習熟度を一気にアップさせていけるイメージだと思います。」

「サステナブルなビジネス」を当たり前に

今後、仕事で実現したいことがあれば教えてください。

サステナブルなビジネスが当たり前な社会に向けて、この組織でできることをやっていきたいと思っています。先程お話したように、すでにその変化は急速に起こりつつあって、企業が選ばれるため、生き残るためには、自らのビジネスの持続性を見据えた取り組みが必須になっています。そのような変化のときにはますます、科学的見地に立ち、中立的な意見を企業や行政に言うことのできる、NGOならではの役割が重要になってくるのではないかと思っています。

最後に、齋藤さんにとっての「仕事」とは何か、伺わせてください。

私にとって仕事とは「自分を変化させてくれるもの」だと思います。転職はまさにそうですが、仕事が変われば、学べること、得られる知識が変わりますよね。何よりも出会う人たちが変わる。そうすることで自分も変化させてもらえる。これは飽き性な私にとってとてもありがたいことです。

それは「成長」とはまた違うものなのでしょうか?

そうですね、「成長」とは違うニュアンスかもしれません。私の場合「成長しなきゃ」と思うと仕事を楽しめなくなってしまうように思います。なので、どのような変化でもいいので、何かしら変わり続け、それをおもしろがりながら仕事していきたい。そうすることで、きっと長く働き続けていける。同じことを続けていると自分に飽きてしまうので、これからも仕事を通じ、どんどん変わっていく自分との出会いを楽しんでいければと思います。

齋藤さんに聞く「WWFジャパン」での働き方について
「コロナ禍以降、出社と在宅のハイブリッドワークで勤務をしています。特に局内メンバーとのコミュニケーションはチャットが中心。企業様とのやり取りでは訪問もありますが、一部リモートで実施することもあります。また、WWFジャパンには子育て世代が多いのも特徴です。子どもの送り迎え・急病への対応なども共感してもらえますし、助け合いながら働くことができています。柔軟な働き方ができる環境ですので、働き方に不安を抱えている方も、ぜひご応募いただければと思います。」

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